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不愉快な仮面

(痛い。)


 痛みは久々に味わった。


(怖い。)


 それは不可視の攻撃であったから。いや、きっとこれは私の油断だろう。私がオーガを一撃で仕留めなかったから。その隙をさらすことになったのだ。


 ”敵に、背後から襲われる”という愚かな隙を。








「いやー、派手に飛んだね。」


(アレッ……クス……。)


「ああ。いいよ。しゃべろうとしなくても。しゃべれないでしょ?」


 敵の男が、なにかを目の前に広げてきた。


「へへへ、じゃーん。これは"無力化"のスクロール。高かったんだよ~~」


「そして、こっちが魔力が外に漏れない特別な瓶だよ。これはちょっと特殊な伝手で手に入れたんだけどね。これで悟られることなく中に入れたスクロールを使用できるという訳さ」


「さて、本題だ。君を助けるには一つ条件がある。」


「それは、この契約書にサインすることだ」


 ゆっくりと眼球を動かし、契約書に書かれた内容を確認する。


(奴隷契約書か……こいつ、ナメてる)


「僕は愛情に飢えていてね。……ちょうど最近、"恋人"と別れちゃったんだよ。まあ、脱走しようとしたからイライラして殺しちゃったんだけど……ンヒャハハハ」


(……)


 笑っている。彼はこの世界の現実をどこもみていないような、ずっと夢の中の世界を見ているかのような、そんな狂人の目をしていた。


「さて、そろそろいいでしょ。」


 

 そう言って、わたしはすっくと立ちあがると石斧を拾いに歩く。


「待て。待て待て。待て待て待て待て待て! ……お前、なぜ立ち上がれるんだ?」


「無力化のスクロールとやらも万能じゃないわね。対象者の行動にかかる時間を引き延ばし、通常時に身体を動かす感覚とのズレによって相手を無力化する魔法なのだろうけど、それは私がもっとてきぱき行動すればいいだけ」


 そう言って、石斧を振る。オーガは不思議そうに私を見る。


 振り返って、アレックスのほうを見やる。


「ふん。僕との"恋人"契約にサインすることが、君が生き残る唯一のチャンスだったというのに。いくら君が強かろうと……二対一の不利は覆しようがないだろう?」


「もう、一対一だけどね。」


 私の背後でオーガの首がスッと斜めに滑って落ちた。


 ぐしゃり。


「い、いつの間に……」


 アレックスは焦って懐から仮面を取り出して顔に装着した。


「まあいいさ。この手は使いたくなかったんだけどね……! いくよ……うおおお目覚めろ、邪神の仮面……!」


「はははははははは!!!! 遅かったな! これで僕は邪神のしもべとなり、最強の力を……!」


「……」


「……」


「……それで、最強の力というのはいつになったら現れるのかしら。」


「なぜだ……こんなはずでは……」


「その不愉快な仮面ごとたたき割ってあげるわ」


 有言実行。言い終わったか終わらないかぐらいの時には、私の石斧がアレックスの頭部をかち割って仮面ごとぐちゃぐちゃに粉砕した。



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