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オーガ

<<ウェルサの迷宮第一層>>


 そこは洞窟の中を苔が多い、見たこともない植物が繁茂している場所だった。まるでこの世のものとは思えない、初めて見る光景……


「これが、ダンジョン……」


 "ダンジョンの中において、外の世界の常識は通じない"とは聞いていたが、既に未知のことであふれていて想像以上だった。そして近くを歩くC級冒険者の表情からは一切の感情の揺らぎを感じない。どうやら見慣れた光景であるらしかった。


「どうしたんだい、そんなにきょろきょろして。君はC級冒険者だろう。こんな低階層なんて見ても面白いことなんかないだろうに。」


 彼の名はアレックス。どうやら私をC級冒険者と勘違いしているらしく、ギルドを出たところで「一緒に行こう」と声をかけられたのだった。


「普段は南部の街を拠点にしているんだって言ってたね。あっちのほうには、こういうダンジョンはないのかい?」


「さあ。あんまりダンジョンとか行ったことなかったから」


「ふーん、ダンジョンで鍛えたわけではないんだね。どこかの流派の武術でもならっていたのかい?」


「さあね、あんまり武術とかはからっきしだけど」


「ふむ……」


 私は自分で自分を褒めたいと思った。だって、いま、めちゃくちゃコミュニケーション、できてる!


「まあここらへんは初心者でも簡単に狩りが行える場所だ。奥へ行けば、もっとすごい光景があるよ」


「そうなんだ、見てみたい……」


「さて、そんなこんなで、言われた場所に着いたわけだが……どうやら僕たちが一番乗りみたいだね。」


 洞窟の中の開けた大空間を、天井から降り注ぐ光が照らしている。それはこの場所に自生する、光を放つダンジョン苔によるものだと後に知ることになるが、いまはただ、ぼうっとその光景に魅せられていた。


「偉そうにまんなかに陣取っているね」


 大空洞の真ん中。開けた中心部には大量の魔物の死骸の山とそれを玉座代わりに鎮座するオーガの姿があった。


「どうやらチャレンジャーを募集しているようだよ。君が行くかい?」


 とんでもない。私はC級冒険者というのがどんな力量なのか確かめるために来ただけなのだ。戦う気などない。


「っと、どうやら別のルートから先客がきていたみたいだね」


「あの人もC級冒険者なの?」


「彼はさきほどギルドで見た人だね。確かなことは言えないけど、そうなんじゃないかな……おっ、斬りかかった、たしかにあの剣技はC級冒険者なだけはある。」


「あれ……でも……」


 序盤、オーガを背後から強襲したC級冒険者の戦闘は、オーガを圧倒する形で進行した。しかし、その戦闘には言い知れぬ違和感がある。


「なんかこう……あぶなっかしくない?」


「そう……かな……? いや、たしかに言われてみればあのオーガ、さっきから深い傷を受けてない。対して冒険者の方は疲労が溜まってき始めたころなんじゃないだろうか。」


「ねえ、これ大丈夫なの? 助けに行った方が……」


 その時だった。オーガの持つ気配が一瞬、膨れ上がった。


 刹那、オーガが巨大な剛腕を振りかぶると、超高速で冒険者を叩き潰した。


「ああ……」


「なんてことだ……」


「アレックス、あれがC級冒険者なの?」


「そんなことを言うものじゃないよ。彼は頑張った。そして……彼の名誉のために言うが、あれはきっとオーガじゃない。オーガ・ジェネラルだ。わざと弱く振舞うことで油断を狙い。死に際の格下の表情を楽しんでいるんじゃないだろうか。ダンジョンのモンスターらしい、悪辣なことだよ……」


 なにそれ、こわ……


「さて、ギルドに報告に戻ろうか。オーガ・ジェネラルといえばB級冒険者クラスでやっと倒せるモンスターだ。C級二人じゃ荷が重いよ」


 そんなことはない、そう言おうとした時だった。


「なんだこの音は!」


 それが洞窟の天井が壊れる音だと気付いたのは、アレックスに抱きかかえられ、大きな岩の塊から逃げおおせた後だった。


「一体なんでこんな時に……」


「入口が……」


 それは来た時の道に限った話ではなかった。パッと見たところ十個ほどはあるであろう洞窟の入り口が、全てふさがれて土煙を立てている。


 私はたちまちアレックスの腕からするりと抜け、距離を取る。


「このタイミングで洞窟の入り口がすべて閉じるのは怪しい。あなたが私の命を狙っているのだとすれば、あなたにとっては都合のいい状況だわ」


「ちょ、ちょっと待ってくれよ。僕はいま君を助けるために咄嗟に動いたじゃないか。もし君に危害を向けようとするなら、そんなことせずに君が土砂に巻き込まれるのを待つか、咄嗟に逃げて戸惑っているところを攻撃するんじゃないかい?」


「いや、助けることで油断させておいて、より確実に殺せるタイミングにより確実に殺そうという腹積もりなんじゃないの?」


「待てって。大体今はもうそういうことで仲間割れしている場合じゃない。みろ、僕らの声がオーガに聞こえてしまったみたいだ」


 見れば、オーガはのそのそと私たちの方へ歩いてきている。


「仕方ない。いったんあなたへの嫌疑はオーガを処理した後に追求する」


 私はオーガの方へ向かっていく。

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