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「なるほど、人を見る目には自信があったってことね?」


 道中、風の唸り亭の崩壊を受け、さっさと荷物をまとめて街を抜け出していたクソババア、こと亭主の老婆に出会った。何かの縁かと思い、話しかけた私だったが……なかなか会話は弾まない。当たり前だ。老婆からしたら、私は警察にだまし討ちのような形で突き出した子供。ここで当たり前のように会話が出来たら面の皮が厚いにもほどがあるというものだ。


 焚火を前に、腰を並べる。口火を切ったのは婆さんの方だった。


「お嬢ちゃん、悪かった。だが、そもそもあの時は……その……言いにくいんだが、服が」


「服?」


「なんというか、かなり……こう……いや、仮にも女の子じゃの……」


「?」


「のう、話は変わるが、お前さん、わしに何も思うことはないんか……?」


そりゃああったけど、私の方が婆さんに迷惑かけちゃってるんだよなあ。


「そりゃあ、ないことはない。ないけど、もう婆さんは他人のことどうこう言ってられる状況でもないんじゃない?」


「……まあ、そうよのう」


 なんとか誤魔化せた。


「それよりも、おばさんはこれからどこに行くの?」


「のんきに田舎で宿をやってられないらしいのでのう。前の仕事に復帰ってところかのう」


「前の仕事?」


「ドブさらい、といったところじゃのう」


 婆さんは、どこか遠くを見ているような、そんな目で語っていた。


「ドブさらい?」


「ああ。綺麗にしても綺麗にしても汚れが溜まっていく、そんな場所を永遠に掃除し続ける仕事よ」


「永遠に……?」


「そう、永遠に。最近までは若い者たちでなんとかしていると聞いていたが、今しがたはちいと手が足りていないようでのう。手伝いついでにしごいてこようと、まあそんな感じじゃ」


「なんか楽しそう。婆さん、それ手伝ってもいい?」


 婆さんは、少し驚いたような表情をした後、言った。


「ナメるな。誰がお前さんみたいな乳臭い子供の手なんぞ借りるか」


「……ん?」


 このクソババア! なんだ急に!


「おっと、口が悪くなってしまったのう。職業に貴賤はないとは言うが……未来ある若者が好き好んで選ぶ仕事ではない、とわしは思っておる。若い内はとにかく好きな仕事、やりたい仕事を目指して挑戦するのが一番じゃ」


 急に口が悪くなったと思ったら今度はびっくりするくらい優しく教え諭してきた。この婆さん情緒不安定すぎないか?


「……そう。」


 しばしの沈黙。若干気まずい雰囲気だ。


「婆さん、私の目、もう見えないの。」


「……そのようじゃのう…………慰めにはならぬと思うが、この世の中、魔物に命を奪われる者も珍しくない。目や四肢を奪われる者など、世の中にはごまんとおるじゃろう。あまり悲観的になる必要はない」


 冷たいなあ。


「でも、目が見えない子供を雇ってくれるところなんてあるのかな」


 ダメもとで、雇ってくれないか聞いてみよう。聖女様だなんだともてはやされてしまったので、ほとぼりが冷めるまではどこかで身を隠していたいのだ。別に潜伏生活を送る必要はなく、過度に目立たないように生きていけばそれで十分だろう。人のうわさも七十五日。少し経てば私の噂もおさまるに違いないのだから。そもそも噂になっているのかすら知らないが。


 問題はそれだけじゃない。生活をしていくためにはお金が必要だ。この機会を逃したら、私はいつ職に就けるんだ? さんざんコミュ力が終わってるのは分かった。私は今この瞬間に自分のこれからの命運がかかっていることを噛みしめるんだ。本気を出せ!


「婆さん、私、力には自信がある。なんとか婆さんのところで仕事させてもらえないかな。」


「……お前さんみたいな甘ちゃんに務まる"仕事"じゃないよ。」


 厳しいなあ。


「そこをなんとか。私だって、もう子供じゃない。仕事をするっていうのがどういうことか、ちゃんと分かってる。覚悟、出来てる。」


 これでダメだったら諦めよう。


「……」


 おや?


「"覚悟"……と、言ったね。本当にできてるのかい? ……というか、経験は?」


 経験? 経験ってなんだ?


 まあいいや。とりあえずテキトー抜かしておけばよい。


「いや……婆さん、ごめん。さっきから、なんのことだか、やっぱり分からないや。」


 ダメだ。私は、嘘ついて何かを得るのが好きじゃない。


「そうか……」


 婆さんは、そう言って、どこか遠くを見つめていた。焚き木の火がパチパチと音を立てながら揺れる。ときどき自分の両手をしげしげと見ている婆さんの姿は、とても小さく感じた。


 その時、ガサゴソと茂みが揺れた。魔物かな? 戦斧を握る。


「あ、盗賊だ」


 ワラワラと下卑た笑みを浮かべた男たちが6人出てきた。なかなかの大所帯だ。


「お頭、目の見えない女ですぜ。あれは物好きの貴族に売れます。殺さず捕らえま────」



「やれるもんならやってみろ。」


 私がそう言い終わったとき、私の戦斧がひとなぎで3人の頭部を両断した。


 それから残った三人はビビッて動けないようだった。三回分、天に掲げた大斧を地に下ろす。薪を三つ作るようなイメージだったのだが、思いのほかぐちゃぐちゃになってしまった。これでは叩き潰すといった表現になってしまうだろう。


 返り血を浴びながら婆さんの方へ振り返る私。


「……合格。」


 どういう意味だろうか、私は婆さんが一言だけ言ったのを微かに聞き取った。



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