食べ物を探そう2
昨日の調査で地面に生えている植物はあらかた調べ終わってしまった。
…ということで。
「よし、今日はキノコの調査をしよう」
ゲッティローグ近辺の森にはキノコが沢山生えている。多分魔力が濃ゆいのだろう。
「あっ、オドリタケだ。美味しいんだよね」
口に入れてみるとジュワリとエキスが広がる。名前の通り、踊り出してしまいそうなほど美味しいキノコだ。
「こっちはタビビトノコシカケ…すり潰して薬の材料にできる」
味は苦いし、固くて歯が折れてしまう。食べられたものではない。
にしても、腰掛けとして座って休むのには本当に丁度いい。
「キノコは良いわね。沢山あるから、みんなの分も持って帰れそう」
と、そこで気になる物を発見。
「ん?あれはなに…?」
いま、なにか遠くで動くものが見えて…
もっと近づいて見てみよう!
「あれは、キノコ…?」
近づいてみると、木の影にキノコの傘が見えた。
「これは…人面キノコだわ!」
そう気付いたとき、人面キノコとの距離は手を少し伸ばせば届くほどになっていた。
シャアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!
閉じられていた人面キノコの目がくわっと開かれ、その狂喜に彩られた顔面が露わになる。
「まずい、近付きすぎた!!!」
人面キノコは邪悪で醜悪なその顔を愉悦と狂気が混ぜこぜになったような表情に歪めて飛び込んでくる。
いけない、近付いて私の身体に胞子をぶちまける気だ。
人面キノコの胞子を直接浴びせられて、身体中キノコだらけになった姿を想像する。
うう、それは、それだけはイヤだ!
「この、クソキノコがああああああ!!!」
私は人面キノコの顔面めがけて飛び込んだ。クソキノコの表情が驚きに染まる。
よし、このアホの隙をつけた!
まさか真っ正面から近づいてくるとは思わなかったのだろう。
クソキノコの顔面を頭上に腹の下に潜りこみ、両手で衝撃を押し殺して着地する。そして後ろを振り返らずに大地を蹴って颯の如く逃げた。
シャ、シャアアアアアアア!!?…アアアアアアア!!?
キノコは私の行動が理解できなかったのか、一瞬固まっていたが、私が逃げたことを理解してか、我に帰って追ってきた。
「速い…!」
なんて俊敏なキノコだろう。
全速力をもってして、走る。
私の最高速を超えた最高速で、全身全霊で、走る!
「チッ、速すぎる」
キノコは無数の足で地面をムチのように叩きながら進んでいる。それはさながら荒ぶる大海の波の如く、ウネウネと生々しい動きをしている。
「どうしようもなく気持ちが悪いわね」
しかし、どうしましょう。もう少しで追いつかれてしまう。
「この先は、もうすぐ村か」
流石に、村に魔物を呼び込むわけにはいかない。魔物除けの結界があるにしても、直接追われていたらそれもどこまで通じるか分からない。
「クソ、…困った」
…が、私はそこで終わる女ではないのだ。
鬱蒼とした森の中を走る。その先には、光が見えた。森の入り口だ。
そのすぐ先に、村がある。
しかし、それは今はどうでもいい。
私は森の入り口を抜けると、急激に速度を落とす。そして、すぐそばにある切り株に刺さっていたサビついたオノを両手で掴み持ち上げた。
「うがッ…重い…!」
しかし、やるしかない!
猛突進してくる憎たらしいキノコを見据える。キノコは目があまり良くないのか、私が手にしている武器に気付かず、依然として捕食者気取りの薄汚い優越感と弱者を甚振る快楽に酔いしれたような顔で走る速度を緩めない。
キノコの進路上で仁王立ちし、震える腕でオノを構える。
目を閉じる。
一撃にかけて、全神経を集中させる。
…来るッ!
人面キノコの顔面とキスする直前で斜め前に飛ぶ。キノコは私の方向が急に変わったために、走りながらもその顔面を私の方に向けようとした。
ヤツの口が膨らんでいる。人面キノコは口の中から胞子を放出するというが、その前兆だろう。
けれど、遅い。
「あばよ、クソキノコが」
私は既に、振りかぶったオノを地面と並行に構えて走り出しているッ!
グブゥオアアア!!!
オノがキノコの横っ面に食い込み、肉を裂く。
同時に、人面キノコが断末魔の悲鳴を上げる。
ドサリ、と音がした。
顔面を上下に分かたれた人面キノコの亡骸から、胞子が大量に飛び散る。
うぇ…気持ち悪い。ダッシュで離れて様子を見る。ピクリとも動かない。どうやら倒したらしい。
「はぁ…やったわ。身体に胞子がついていないかしら」
…せっかく勝ったのに、翌朝目が覚めたら身体からキノコが生えた、とかになったらイヤだな。
それに、まだ手がジンジンする。うわぁ、筋肉痛になるのもイヤだ。
私は胞子をキノコの骸ごと焼いてもらうために魔術で炎を生み出せる神父さんのもとへと向かいながら、キノコ調査はもうしたくないな、などと考えた。