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 ふわたろうの背にまたがり、道を進む。途中、大きめの道に合流できた。地面も草がはげていて、なかなかの人通りがあることが分かる。


 さらに先を進むと灰色の建物が遠くに見えた。あれは城壁だろうか。


 門は上がったままだ。夜になれば魔物の侵入を防ぐため、あの網目状に組まれた木の柵が下りる。近くには門番が二人。少し魔物の防衛には心もとない人数だが、結界もあることだろうしわざわざそこまでの人数を常時配置する必要もないのだろう。


 懸念がひとつ。このままいくとふわたろうが町の中に入れない。もちろん、そもそもの話魔物と定義される生物を門の中に入れてしまってはせっかくの城壁の意味がないので、ふわたろうを門の中から町に入れてあげることはできないだろう。


 まあ門の中から入れなければいいだけの話だ。いったん隠れてもらって、あとで城壁を飛び越えてもらおう。ふわたろうのジャンプ力ならそれが可能だ。というかこの程度の城壁なら私も飛び越えられる。本当にこの壁が存在している意味があるのか疑問になってくるが、ある程度のモンスターであれば大丈夫か。


「あそこの林で、合図があるまで隠れていて」


 ふわたろうにお願いしたあと、私は門に向かって歩きだした。ゲッティローグとはまた違った雰囲気だけど、なんだか懐かしい感じだ。人の作り出したもの、というのがとても珍しく思えて、この無骨な城壁と門も、まったく新鮮に思えてならない。


「ここはなんという町ですか?」


 門番に尋ねると、いきなりの質問にやや面食らってか、すこしぶっきらぼうに言葉が帰ってきた。


「アレーヌの町だ」


「そうか。ありがとう」


 初めての会話はこんなもんか。私はさっさと町の中に入ることにした。


「嬢ちゃん」


 立ち去ろうとした私を、もう一人の門番が呼び止めた。


「なんですか?」


「いや、なんだ、なんでもない」


 何かを気にしているのか、私の姿を観察しているようだ。


「何か?」


「いや、すまない。ほんとうになんでもないんだ」


 何かひっかかる。私はこのまま会話を続けてこの門番たちから情報を引き出すことにした。

 私がじっと門番の目を見ていると、バツが悪そうに言葉を吐き出してくる。


「……旅はお嬢ちゃん一人だったのかい? 大変だっただろう」


 世間話。ひさしぶりのコミュニケーションだ。自然な会話がどういうものだったかあまり覚えていない。

 一抹の不安を心の奥に押し込めて、返す言葉を探す。


「……」


 見つからない。


 まずい。


 この場合なんて返せばいいんだ?

 久しぶり過ぎてコミュニケーションできない。


 なんということだろう。人と話さな過ぎてコミュ障になってしまっただなんて。これもそれも全部あの邪神のせいだ。私はアイツを一生許さないことに決めた。


「アレーヌで……」


 私は苦し紛れにボソボソと言葉を紡ごうと努力する。が、何も出てこない。


「ええと……なんだって?」


 やめてくれ。催促しないでくれ。焦ってもっと何も言葉が出てこなくなる。


 バチン。


 私は両手で両頬を思い切りひっぱたいた。ショック療法だ。


 よし。気を取り直して……


「アレーヌの町で、何か立ち寄っていくべきというところはありますか?」


 よしよしうまくいったぞ。


「あ、ああ……」


 門番たちはひそひそと会話をし始めた。本人たちは聞かれないぐらいの声で話しているのだろうが、ぜんぜん聞こえる。


「なあ、この子、通していいと思うか……?」


「分からん。変な子だが、さすがに"聖女騎士団"のものではないと思うが……」


「一人旅というのも気になるが……まあとりあえずは、引き留める理由もないし通していいんじゃないか」


 おお、なんてことだ。私は今の少ない会話の中で変な子扱いされて怪しまれていたのか。まったくそんなつもりはなかったのだが……これが人と話さな過ぎた弊害……。


「お嬢ちゃん、特になんにもない辺鄙な町だが、歓迎するよ。もし止まっていくなら、この通りの右側にある風の唸り亭に行くといい。宿泊しなくても、食事ができるところもあるから、泊まらなくても知っておいて損はないはずだ。旅の人はだいたいそこでご飯を食べているしな」


 その後も町についての話を聞いてみる。

 城塞に囲まれたこの町は、小さな教会がある程度で特にこれといった観光名所や娯楽施設があるというわけではないそうだ。


 私は門番たちに礼を言って、風の唸り亭を目指した。小さな町なので、大通りは一本しかない。さらに看板がでかでかと掲げられていればわざわざ探すまでもなかった。


 店の前に到着すれば、いい匂いがする。

 食事処……。ゲッティローグには残念ながら食事処と呼べるような場所はなかった。旅人すらめったに来ない、辺境の極小都市であったから仕方のない話だ。


 この町はまだ旅人の通りもあって、経営が可能なのだろう。


 グー。


 私ははじめ、それが自分の腹の虫だが鳴っているのだと理解できなかった。あまりにも久しぶりの生理現象だったからだ。邪神の箱庭の中では、腹が減り始めたらそこら辺の魔物を狩り殺してその場で調理して食べていた。食事はなかばルーティーンと化し、栄養補給という意味合いの作業に置き換わっていた。


 扉に手をかける。開けていいものだろうか。わずかに逡巡する。

 だって怖いんだもの、さっきも門番たちに変な子だって思われたみたいだし。


 しかし、この空腹の中でこの匂いを嗅いでしまっては、さすがにこの場を去るという選択肢はない。


 行こう。


 扉を少し開けた。そしてその時、雷に打たれたように私の脳裏によぎるものがあった。


 あ、お金持ってない。



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