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新たなる敵

「足りない」


 肉が足りない。近隣の食べられそうな魔物は狩りつくしてしまった。斧に吸わせる血も足りていない。


「場所を変えるか」


 より漂う魔力の濃い方へ。ふわたろうと背を並べて、走る。視界に流れる原生林の様相はさらに木々を巨大なものへと変化させて過ぎ行く。


 更に少し木々の丈が高くなって、地面の方に届く光が少なくなってきたころ、得体のしれない違和感を肌にひりつくように感じ始めた。何かゾクゾクとするのだ。


 森が深くなるたびに、違和感は強まっていく。


 私は恐れを振り払うように、たまたま見かけたキング・グリズリーを奇襲することにした。


 グオオオオオォオオオオ!!!


 背後から完璧に気配を殺して飛び上がった私を、咆哮と共に迎え撃つ魔の熊の王。振り向きざまにその巨大な左手を振りかぶる。羽虫を叩き落すかのようだった。いともたやすく吹き飛ばされる私。


 そのままの勢いで木の幹にたたきつけられる。受け身を取ることもできずに巨木に打ち付けられる。ふわたろうが咄嗟に私を回収してくれなければ、落下時の衝撃でどうにかなってしまっていたかもしれない。


 ぬかった。こいつは、強い。


 キング・グリズリーと体格は変わらないが、カンの良さもパワーも段違いなのだ。


「ほんとに、キング・グリズリーか…?」


 いや、キング・グリズリーならばここまで手こずらなかったはず。これは、もっと別種の────


 振り向いた大熊の顔には、顔があった。忌々しいあの顔が。熊の顔面を剥がして、そのままあの顔をへばりつけたような、そんな気持ち悪さを感じるとともに、熊の強さに合点がいった。


「邪神────どういうつもりだ」


 怒りが湧いてきた。


 熊の顔面に浮かぶあの人面岩と同じ笑みが、私をいらつかせる。


 私の問いかけに対する邪神の返答はナシ。無視するようだ。


「そう。私のやることは変わらないわ。あなたの望み通り、強くなるだけ」


 ────目の前の敵を、殺すだけ。


「グラァアアアアア!!」


 裂帛。


 声は森閑とした原生林の空気を切り裂き、それにこうするように森が騒めく。


 どこからともなく、邪神の顔面を張り付けた大熊たちがわんさか出てくる。


「グハッハハッハハゥ……」


 人面大熊が、こちらをあざ笑うように笑い声をあげた。


「これは手荒な歓迎ね。まあいい。あなたたちは私をもっと強くしてくれる養分に過ぎないんだから」


 勝負できるか? 若干の厳しさは否めない。それでも、強くなるためには戦わなければならない。


 御託は捨てろ。これが虚勢でないことは今から証明する。


「かかってこい。────全員まとめて、このバトルアックスの錆にしてやる」


 相棒が隣でふんっふんっと鼻から息を出す。ふわたろうもどうやらやる気のようね。




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