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サバイバル

主人公の名前をナイアに変更しました!あとは細かい部分をいろいろと修正いたしました。

※それと、今回のお話は残酷な描写が入ります。苦手な方はご注意ください。

「悪かった、ナイアよ。驚かせようと思ったのだ」


 人面大岩はそう言うと、相好を崩した。久しぶりに話し相手が来て嬉しい、という話はどうやら本当らしいがいきなり驚かされては────こちらとしては不信感が拭えない。


 こいつは信用しないでおこう。


 ナイアは心に決めた。


「ナイアよ。アルミラージよ。汝らは何がために旅をする?」


「何がため、と言われても。そもそもこの旅の始まりは、成り行き……としか言いようがないわね。特に行く当ても目標もない旅よ」


 ちらりとアルミラージを視ながら話す。ナイア自身、なぜこの旅がいまもこうして続いているのか、よく分かっていない。


「それと、疑問なのだが……種族名で呼び続けるのはいかがなものなのだ?」


 言われて、数瞬間考えてそれがアルミラージについて言っているのだと分かったが、今までそんなことは考えたこともなかった。


「言われてみれば確かに」


 アルミラージはなおもつぶらな瞳をナイアに向け続けている。


「────ふわたろう」


「……ふわたろう?」


「この子の名前、ふわたろうにする。ふわふわしているのと、綿毛みたいだから」


 ふわたろう、と名付けられた大兎は、さして興味もなさそうに地面の匂いを嗅いでいる。


「さて。相棒の名前も決まったことだ。私から君らに一つ提案がある」


「どんな提案なの?」


「まあそう焦るな。一つ、質問を投げかけてみようか……ナイア、もし君と全く同じ姿をした人間が目の前に現れたら、君はどう思うだろうか」


「どう……? 単に、気味が悪い、としか……」


「ふむ……そうか。了解したよ。それでは、私から提案をさせていただこう。君たちには私が作った箱庭で、なんとか生き延びてもらおう」


「箱庭? 生き延びる? ───いったい、何のお話?」


 ナイアの背筋に冷たいものが走る。もと来た通路をちらりと見やる。そこに通路はない。ふさがれている。ナイアは内心で舌打ちをした。


「それは、何のために行うの? ────さっきみたいに私たちを試すため?」


「それもある。しかし選別でもある」


 退路はふさがれている。のこのこ敵陣にやってきたのが運のツキだった。後悔しても後の祭りだが、突き合わせてしまうふわたろうには申し訳ないことをした。


「そう。つまり────私たちが生き残れば、それでいいわけね」


 ここで断っても、ただでは帰してくれないだろう。つまりどの道もう、死ぬか、生きるかしかない。


 ならば生きる方を選択する。ナイアはそうやって生きると決めたのだ。


「────それじゃあ、始めよう」


 今の今までずっと閉ざされていた人面大岩の瞼が開く。深紅の光を湛えた眼から炯々とした視線が飛び出し、ナイアたちを突き刺す。


「ナイア。ふわたろう。少女と相棒よ。良い旅を」


 人面大岩が大きく口を開けた。少女とふわたろうはたちまちその大きな口の中に引き寄せられ、飲み込まれる。空間をゆがめることで、動くことなく彼女らを体内に引きずり込んだのだ。人面大岩は、ただ静かに瞼を閉じた。










「ここは……森?」


 原生林、というのが正しいのだろうか。太く背の高い木が幾本も幾本も連なり、森を形成している。


 木漏れ日が優しく彼女の顔を照らしていた。チチピピと鳥がさえずっている。


 そして、そばにはふわたろうがいる。


 三秒後、背後から猛突進してきたキング・グリズリーによって、ナイアは吹き飛ばされて木の幹にたたきつけられた。ドサリと地面に衝突したエネルギーが彼女の体内を暴力的に吹き抜け、それきりだった。










「え……?」


 原生林、というのが正しいのだろうか。太く背の高い木が幾本も幾本も連なり、森を形成している。


 木漏れ日が優しく彼女の顔を照らしていた。チチピピと鳥がさえずっている。


 そして、そばにはふわたろうがいる。


 既視感があった。彼女は振り返って確認する間もなくすぐさまふわたろうに飛び乗り、全力でふわたろうのお尻をひっぱたく。びっくりしたふわたろうはそのまま全速力で前進した。


 すぐ背後を何かが通り過ぎる気配。ブォンと、空気をきりさくような音がして、続いてドガンという轟音が響いた。振り返れば、太い木の幹に巨大なモンスターが衝突していた。


「ッ、キング・グリズリー」


 固まった私の隙を狙って、鳥が突っ込んできた。くちばしが彼女のお腹を切り裂いて、あふれ出した血がふわたろうの真っ白とした毛並みに赤く模様をかたどった。ナイアはあまりの痛みに意識を手放した。










「またかッ」


 三度目のループが始まった。しかしどうすればいいのか、理解はした。


 ふわたろうの背に跨る。とにかく逃げることだ。このレベルの魔獣たちと真正面からやりあっても勝てるかどうか。それに、三秒制止するだけでどこからともなく魔獣が命を狙って飛んでくるのだ。逃げ続けることでしか、生き延びることは出来ない。ナイアはそう思った。


『それもまた一つの正解ではあるだろう』


 声がした。ナイアたちをこの状況に追いやった元凶の声だ。


『しかしこの状況における相対的な正解ではない』


 元凶が何か言っている。ナイアは聞く耳をもたずに命を守ることにいそしんだ。


 小鳥の突撃が頬を切り裂いた。肌が熱く燃えるような感覚。痛みは生存のカンを鈍らせるノイズだ。意識して無視することに努める。


『時に、君は目の前に自分と同じ姿の人間が現れた場合、気味が悪いと、そう言ったね』


『本当は、もう少しぬるい環境で……いつ死んでもその場で体を、あらかじめコピーしておいたものと取り換えて復活できるように……というのも考えたんだが、この方法はどうやら原理的に、君が好まざる状況をはらんでいるようだからね』


『だから僕は、君が望むであろう方法で君の成長を手助けすることにした』


『これはタイム・リープといってね』


『過去のある一点に時間を跳躍して巻き戻ることが出来るんだ。もちろん、相棒も一緒だよ。ふわたろうは君が死んだ時点で同時に過去に戻される』


『すごいだろう』


 まるでそれは、おじいちゃんが孫に自慢をするかのような、そんな口ぶりだった。


「ノイズは無視だ……」








 何度も。何度も。何度も。


 殺されて、殺されて、殺されて。


 それでも歯を食いしばって生きて、生きて、生きて。


 気を抜けばすぐに殺される。この森では甘えた奴から死んでいく。それは魔獣たちでさえ例外ではない。ナイアたち自身、魔獣たち同士が争い、殺しあう様子を何度も見てきた。


 痛い。無力。絶望。悲しみ。喪失感。憔悴。やりきれなさ。


 激烈な感情の洪水の中で、ナイアは自分の心がどうにかなってしまっていくのを感じていた。変容していく自分の精神を直視することが出来ずに、彼女はまた生きるという行為に没頭する。






 今もまた、殺される。


 けれどもう恐れない。この身が終わる証左たる、飛び散る血しぶきの中にありながら、彼女は笑う。


「生きるって───楽しい」



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