野営
アルミラージは地面を蹴り続ける。いつしか草原は林へと変わった。果物を採取し、獣を狩猟し、腹を満たしながら進んでいく。
いつしか鬱蒼とした森が広がり、背の高い木々が日の光を遮り始めた。
「もう少ししたら日も暮れる頃ね」
ナイアは白く大きな背中から降りると木陰に入り、木の幹に背中を預けて目を瞑った。
「少し寝るわ。夜になったら起こして」
それだけ言うと、静かに寝息を立てる。
『ナイアよ。人の子よ』
意識は闇の中でとろけるように、深い睡眠を享受する私。そこに、どこからともなく声が聞こえる。誰かが語り掛けてくる。
「うるさいなあ……誰? 今寝てるんだけど」
『おおっと、つれない子だな。久しぶりに人間と話すんだ。少しは会話に付き合っておくれよ』
「ほんとに誰。私の夢に勝手に出てこないで。私は寝たいんだけど」
『……。てっきり私は、君が私を呼んだものと考えていたんだがね。どうにもそうではないらしいな』
「なんの話?」
『いや、なんでもないさ』
「話がないのならどこかへ行って。私を一人にさせて。寝かせて。」
『うーん、会話が弾まないなあ。仕方ない。これだけ言って退散するとしようか。』
『この先に遺跡がある。私はそこで、君たちの到着を待っているよ』
ふわりと顔に何かが当たる感触。
目を開けると、アルミラージが私を起こそうと鼻先をこちらに近づけていた。細く長いひげが顔にあたり、くすぐったい。
「見張っていてくれてありがとう。あなたは寝ていて。私が見張っているから安心して。」
近くの枝を拾い、火種をこしらえると葉っぱと共に火を大きくしていく。
「めちゃくちゃ疲れる……」
もう何度も繰り返していることだが、なかなかこの着火法には慣れない。
「私も魔法が使えたらなあ……」
火属性の魔法であれば、一発で火を出すことができる。
ナイアは前に右手を押し出すと、「バーン」と言った。もちろん、その手の先からは火の玉も何も出てこない。
ただ静寂だけが、森を支配していた。聞こえるのは、その図体には似合わぬ、かわいらしいアルミラージの寝息の音と、パチパチという焚火の音だけであった。