アルミラージの背に乗って
アルミラージは風を切って原野をすすむ。その剛柔な体躯から繰り出される力はしなやかな筋肉の力でロケットのような推進力へと変換され、爆発的なエネルギーで地面を蹴っていく。
「はやすぎ……」
私は振り落とされないようにするだけでも精一杯だ。
「なぜこの子は私を助けてくれたんだろう……」
あの時。剣を振りかぶってきた男が目の前に迫ったとき、私は「ああ、このまま死ぬんだ」……と、自分の末路に納得してしまっていた。別に、私が死んだ方がいいくらいに極悪人で、ようやくツケを払う時が来たんだ、と感じたわけではない。単に、こういう終わり方もリアルな人生なのだろうと、受け入れてしまったんだ。
別に変じゃないでしょう? 私は、キンググリズリーに襲われた時だって、そのあとに川へ飛び込んだ時だってそうすでに何度か死んでもおかしくないような経験を何度もしていた。
私が今、生きていることって、奇跡なんじゃあないか。
そう思ったら、奇跡に生かされていた私が、本来の命運を辿っていきなり死ぬことだって、有りうるんだ。そう思った。
そう思ったことは、変なことじゃないと思う。
決して、おかしなことなんかじゃない。
でも、私は考えを改めるよ。そう思ったのはたしかに変なことじゃないけど、悪いことだったって。
私は以前、ウサギを殺そうとしたことがあった。いや、結局逃がしたんだから、それは殺そうとしたことにはならないのかな。でも、ウサギなんていう、弱い生き物からすれば、いや、これはすべての動物に言えることかもしれないけれど、死というのは、いきなり来る。それがリアルなんだ。
そんな動物たちにとって、「生きている」とは、それだけで幸せなんじゃないか? 彼らにとっては、殺されないことこそ、この世界で生きる意味なんじゃないのか。
だから私はこう思うんだ。
「生きないと」
私が今まで殺してきた生き物たちの分まで。
アルミラージは「ブーン」と低い唸り声を上げた。「あまり思いつめるなよ」と、そう言っているかのようだった。
「なに? 心配してくれているの?」
二人は風を切ってすすむ。そこに道はない。青い空と緑の大地。風が少女の頬と大兎の白く柔らかい毛並みを撫でる。ただただ広大な自然が、二人の少女の感傷とアルミラージの気遣いをやさしく包んでいた。