お別れ
「アルミラージ……」
言うや否や、カノーレ師匠が動いた。
「ッ……早い」
「そんな……師匠でも追いつけないなんて」
そのツノありウサギの速さは端的に言って異常だった。もはや目に見えないのだ。
「師匠……さすがに勝てないよ……逃げましょう」
私が悲痛な声を上げたその時だった。
「へ……!?」
ウサギがこちらを見た。
私はヒヤリと冷たいものを背筋に感じ、身震いした。
「待って。来ないで」
アルミラージ、と呼ばれた伝説の魔獣は、私の姿を見るや否やゆっくりとこちらへにじり寄ってくる。
「やめて」
そんな私の声も届かず、アルミラージは私の間近に来てしまった。
アルミラージは私の方へ顔を近づけるとそのあぎとを開き、
「え?」
私の襟首を咥え、持ち上げた。
「うええええ?」
アルミラージの背に乗せられる私。
これどういう状況だ?
「魔女だ!」
調査団の生き残りの一人が言った。
「あいつは魔獣を操り、この街に破壊をもたらした魔女である! あの魔女を殺せ! 八つ裂きにしろ! これは天命であるぞ!!」
そう言って剣を振りかぶる。
「わ! 待って、動くの!?」
振り落とされないよう、長く白い毛の束にしっかりとつかまる。
次の瞬間には男の剣は衝撃でどこかへ飛んでいって、その男の肉体は絞り終わった雑巾のような姿になっていた。
「あちゃ……」
アルミラージが私に顔を向け、鼻をくいっとやった。
どうやら何か伝えようとしているらしい。
直感で何を言おうとしているのか理解した私は、師匠の方に顔を向けた。
「師匠! ご教示いただくのはまだ先になりそうです! その時までどうかお元気で! あと、今までありがとうございました!」
「ナイア、その……いえ、深くは聞きません。頑張りなさい」
「はい!」
そしてお父さんの方を向く。
「お父さんも今までありがとう! お酒はほどほどにね! ……みんなもありがとう! 私、みんなを忘れないよ!」
「ナイアーッ! 元気でやれよ!」
父の声を背に聞きながら、私はそのままアルミラージに連れ去られた。