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お前が好きとかありえない


中村薫(なかむらかおる)って、女かと思った」


 その言葉にカチンときてキレなかったのは褒めて欲しい。

 初対面でそんなデリカシーのない発言をした堀綾香(ほりあやか)の印象は最悪だと思った。


 そんな堀は自分が所属する天文部で唯一の女子であり、自分と同じ学年の部員だった。

 男子しかいない天文部で女子の堀の入部は歓迎されたものの、堀は女子でありながらおしとやかの欠けらも無い人間だった。


「中村、これ重い。持って」

「は?」

「か弱い乙女にこれ持たせるの?」


 偶に行われる天文観測の時、機材を押し付けられたこともあり、その時はお姫様というより女王様の方が近かった。いや王様か。


 部活で屋上に上がった時、関係ない先輩たちが屋上に入り込んで我が物顔で居座りいつまで経っても出て行かなかった。堀はそれを無視して無言で鍵を閉めようとした。

 なぜそんなことをするか聞けば「許可なく勝手に入ってきたんだから私らが勝手に鍵を閉めても文句は言えないだろ」と言ってきた。


 堀は黙ればそこそこ可愛い顔をしているが、口を開けば地雷ではなくむしろ魚雷だった。


 彼女は後先考えず行動するので、平穏に過ごしたかった自分はそんな堀と相容れなくて何度か喧嘩した。

 それからは堀がまた何か言い出した時は、先に察知した先輩から「ステイステイ」と宥められることもあった。


 仲良くなった友達から小学生の時の堀を聞いてみれば、自己中心的で曲がったことが大嫌い。低学年の時は納得がいかないと癇癪を起すこともあったからこれでも大分マシになったのだという。


 部活帰りは先輩たちの後ろで堀と後ろで二人そろって歩く。

 学校から家まで一番遠いのは自分でその次が堀だ。そんな堀と自分はお互い部活帰りの話相手だった。


「ねえ、さっきのアニメの話なんだけどさ。アレって面白いの?」

「なんで俺に聞くんだよ」

「中村、先輩たちの話聞いてがっかりな顔してた」


 先輩がアニメが面白くなかったと言っていた時の自分の顔を堀に見られたらしい。

 自分が原作を買ってたアニメの話だったので一瞬反応はしたものの、話はアニメが面白くないという感想ばかりで、原作を読んでいた身としては原作の漫画を読んで欲しかったと思っていた。


「……そんなの知らん」

「中村も普通に話せば?」

「それ言うならお前も喋ればいいだろ」


 堀とは部活で話していたことのおさらいをするかのような話した。

 あのゲームって何だ、あの先輩が話していたのはどういう意味なんだとか。その時自分はこう思ったとか。

 堀と別れるまでの20分の会話の中身は、堀がその時割り込めなかったことを話して気持ちを発散するかのような作業だった。


 正直最初はここまで話せるのになんであの場で話さないんだろうと思ったが部に馴染んできたところで、堀は多数の人間と会話するのが苦手であるらしいということを察したのだった。



「堀はなんで天文部に入ったの」

「なんでって。この学校、生徒全員入部しないとじゃん」


 入部しても退部するやつら多いけどな。


「そうだけど、ここ男しかいないじゃん」


 堀は基本的に天文部の人間を除き、男子と必要以上に会話することはない。

 もちろん学年が同じ自分も部活のこと以外で会話することなんてほとんどなかった。


「私を変な目で見ないし」

「変って自覚あったの」

「一応ある。あとみんなが語ってるの見てて楽しい」


 彼女はそう言って下手くそに笑う。彼女なりに人との会話を楽しんでいたらしかった。

 だがなぜ自分がコイツの顔を見てソワソワするのか分からなかった。



 夏休みが開け、文化祭準備でこの部活も活動時間が長くなる。

 帰る時には既に日も沈んでいて、街灯の光を頼りに帰る日が続いた。


「中村はオリオン座以外の星座確認したことある?」

「ここじゃあ分かんないだろ」


 星は明るいところでは見えない。

 この街も街灯が一新され前よりも明るくなったから尚更星空は見えにくかった。


 オリオンはサソリに逃げて最終的に恋人であるアルテミスの矢で死んで星座になったらしい。

 神話の神様はかなり身勝手で自由奔放なイメージが強い。殺されたオリオンも色んな女性に恋をした節操無しだったし。

 もしオリオンがはじめから一途に誰かと恋をしていたら星座になってまでサソリに追いかけられることなんてならなかっただろうに。


「冬でも部活やるのかな」

「むしろ夜の方が観測頻度多そう」

「確かに」


 そんな堀も自分のルールで動く傍から見れば自由人だ。そんな彼女が誰かと恋をすることなんてあるのだろうか。

 自分ですら恋をしたことなんてないのに誰かと一緒に居る事なんて想像できない。

 身近に関わっている女子なんてコイツしかいないのに。


「どうした中村。突然顔なんか叩いて」

「……いや、なんでもない」


 ふと思ったもしもが脳裏によぎり、思わず両手で顔を叩いた。

 まさか、自分ががそうなるはずがない。だって。


「お前おこちゃまだし」

「だからなに!?今日の中村おかしい!」


 そうだ。おかしいのは自分だ。

 こんなに顔が熱くなるなんておかしい。だって、自分が――


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