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「中村はいるの?彼女」
「えっ!?あー……就職してからは全くないな」
「そうなんだ」
学生の頃なら一人いたがそれだけだ。
サークル仲間で勢いのまま付き合ったはいいが結局一年も経たず別れてしまったけど。
『薫くんはさ、私のこと見てないよね』
当時は初めての彼女だったので優しく接しよう、尽くそうと思ってネットで調べたりして頑張ったのに、別れ際のその言葉に地味にショックを受けた。
しばらく失恋のショックで立ち直れなかったがその脳裏で過ぎるのは中学の時の思い出だった。自分の想いはあの時のまま止まって、堀の面影を追いかけていたのだ。
「この歳になるとさ、ちょっとだけ急かされるんだよね」
「まだ若いのに?」
「それでもだよ。私さ、一人っ子だからさ親も孫が見たいって。……何かごめん」
「まあ女性はそうだよな」
若いと言ったが確かに自分たちは今結婚の適齢期にある。
子供が欲しいなら若い方がまだ出産のリスクも安いだろう。親も孫が見たいと思っているなら急くのも分かる。
「そう言われると俺も普通に焦るな……」
姉が先に結婚して子供も居るので両親は何も言わないけど、自分らの年齢は既にアラサーだ。あっという間に時が流れれば取り残される可能性は高い。
女子の方に行った奴らも合コンみたいだとか言っていたが、もしかしたら本当に彼女を探す目的で関わっていたりして。
「注文しよっか」
「お、おう」
堀に気を遣われた。昔はデリカシーが無かったきらいがあったので成長した堀に思わず目頭を抑えた。
「どうしたの」
「お前も成長したんだな……」
「なんか酷いこと言われた気がするんだけど?」
メニューを近くにいた人に取ってもらった。
そろそろビール以外の物を飲みたかったが、この店は飲みやすいカクテルの品揃えが少なかったため仕方なく梅酒を頼む。堀は日本酒を頼んでいた。そういえば先ほど頼んでいたのはなんだったのだろう。
自分らが注文しているのに気付いたのか、女子たちも次々と店員へ注文していく。
店員の確認後、堀の注文したものに気付いた女子の一人がそれを本人へ指摘してきた。
「さっきの日本酒って堀さんの?」
「そうだね」
「堀さんめっちゃ飲むねー!さっき焼酎飲んでたし」
「お酒は好きだよ」
「でしょうね」
先ほどまで飲んでいたのは焼酎だったらしい。炭酸が入っていたからソーダ割りだろう。
だがここまでの流れで自分は彼女の変化に対してぽつりとこぼした。
「……喋れるようになったんだ」
その言葉に堀は一瞬だけ見開いた。
だがその続きは注文していたドリンクを持ってきた店員によって遮られた。
次々とドリンクが回されていき、日本酒を頼んでいた堀の方にはサービスなのか枡に入っていた器に日本酒がとくとくと音を立てながら注がれていた。横目に堀の顔を見ると口角が上がっていた。
「堀さん昔は弱そうに見えたのに、今じゃ酒豪だよ」
「……そうかな」
女子に絡まれ、堀は愛想笑いを浮かべている。この女子は当時も女子の中心だったが今も同じなのだろうか。
酒に酔っているせいか厄介になっている気がする。
「でもよく話すようになったね」
「ああ、そうだね」
「中村は眼鏡外しても中村だね」
「多少は変わってるだろ」
「えー分かんない」
相当酔っているのがよく分かる。女子の方を見ると肩をすくめられた。もしかして自分で飲んだのか。
彼女も堀の方に甘え始めた。そこまで仲が良くないはずの堀も困惑している。
「すみませんお冷ください」
「中村紳士ぶるなよ」
「はあ?ここで酔いつぶれたら誰がコイツを送るんだよ」
野郎に茶化されたがはいはいと言って座布団を一枚寄越してくれた。
店員から渡された水を飲ませて横になればうとうととし始める。これはまじで誰が帰すんだ。
泥酔したモブ女。名前つけてない。