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 昔、夏でもないのに日傘をしていた堀を見かけたことがあった。

 男勝りな性格であった彼女が女の子らしくワンピースを着て日傘を差しているのを見かけた記憶がある。

 その時自分は小川と遊びに行く約束をしていたので自転車に乗っていた。

 信号待ちをしていた時、対向車線側の横断歩道の前に立っていた彼女に対して、そこまで仲が良いわけでもないから大声で声をかけることも憚られた。

 結局信号が青になったのと同じタイミングで歩き出した堀を横目に、同じスピードで自転車を走らせて車道の向こう側にいる堀を眺めることしかできなかった。


「言ってなかったし、あの時は我慢してたからね。流石に学校でサングラスはしないでしょ」

「休みに日傘してたのもそういうこと?」

「知ってたの?」

「まあ、昔、休みの日に見かけたから……」

「へえ……そうなんだ」


 よく見ていたと思われないように言ったと思ったがよくよく考えると、その一瞬を覚えているというのもおかしいだろうかと余計恥ずかしくなる。


「どこで?」

「えっと……たしか駅前の……ほら昔マックあっただろ。あの場所あたり」

「あぁ。マック」


 確かにあったわなんて堀は懐かしむような顔をしていた。

 この駅周辺はファーストフード店はあるにはあるのだがその代表であるはずのマックはない。

 数年前に潰れてから店が入れ替わり立ち代わり入ってきたがどの店も長くは続かなかった。


「マックがあった場所、結構入れ替わったよね」

「そうだね。近くの商店街もなくなったし」

「たしか近所だったっけ?」

「あぁ、うん。もう家出たけど」

「そうなの」

「時の流れは残酷だ」

「こればかりは仕方ないね」


 子供の頃はそこそこ栄えていた商店街も今では過疎化し、店が入れ替わり立ち代わって最終的にはシャッター通りになった。

 その代わり少し歩いたところに大きなデパートやスーパーができたので、商店街に通っていた主婦たちはそちらに脚を向けるようになった。


「……タバコ吸うの?」


 堀が自分の胸ポケットを見たのだろう。マルボロのメンソールのボックスがすっぽりと収まっている。

 最初は大学の付き合いで吸うようになったのだが、今ではすっかりニコチンがないとやっていけなくなった。


「お、中村もヤニ休憩する?」

「あー……」


 他の同級生から喫煙の誘いが来る。どうやらこの店は全席禁煙らしい。本当に愛煙家の肩身が狭い世の中になったものだ。

 少しだけ考えて煙草を吸うか迷ったものの、隣にいる堀を考えてそれはやめた。


「いや、まだ大丈夫」

「行っても良かったのに」

「あまり酒と一緒に吸いたくないんだよ」

「けっこう来るっていうもんね」


 適当な嘘で誤魔化した。

 堀は手を伸ばしてお冷の入ったピッチャーを取る。手を伸ばした隙に見えた白いカーディガンの下はノースリーブのニットだと知った。

 カーディガンの下が見えているのも気にせず堀はお冷をグラスに注ぎ、それを自分の喉に流し込んだ。

 ようやく堀がこちらを見てきたので、自分が堀のことを凝視していたことを自覚しまた視線を逸らす。

 何か注文しようかと聞いたがトイレに行ってから決めると言って堀は席を立ったのだった。

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