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すっかり更新が止まっておりました。すみません。
次話で「とある英雄の末路」は最終話になります。
少しずつ歯車が合わなくなってきたのは、クエストを進め念願の『英雄』になった頃だった。
長年ある国を苦しめてきた邪竜を倒し国王との謁見の場で、祝勝会にぜひ参加してほしいと言われたのだ。そこで新しいクエストかイベントだろうと軽い気持ちで参加をしたのが間違いだったのかもしれない。
祝勝会の翌日、この国に留まるように勧誘を受けたとサーラを除く他のメンバーから相談を受けた。世間話を装いながら秘密裏に打診を受けていたようで、これからの事を話し合いたいと言ってきたのだ。
今になって考えると、国に留まる事に消極的な様子を彼女たちが見せていたのが分かるが、その当時の俺は今までの功績や地位に有頂天になっていて、周りが全く見えていなかった。たかがNPCにそんな相談をされて頭に血が上ってしまい、喧嘩になってしまった。
そこで好感度が下がりPTは解散、サーラと二人きりで冒険を続ける事になった。サーラは穏やかに微笑んだまま、黙って俺の後を付いてきた。
そこからの冒険は、はっきり言って酷いものだった。敵のレベルやクエストの難易度は以前の“英雄様御一行”としての想定なのに、PTメンバーは足りず、装備もアイテムも自分の想定よりも不足していたり、不備があったりして今まで通りの冒険ができなくなっていた。
よくよく考えてみると、クエストの精査や戦闘での作戦の立案や指示出し、アイテム管理など全て他のメンバーが分担してやっていた。俺はその指示に沿って必殺技スキルをただ指定されたタイミングで敵にぶつけて戦闘をしているようになった気でいる存在だった。
自分がレベルが高いだけで、戦闘技術がまるで身に付いていない木偶坊だと自覚した時には、もう何もかもが終わっていた。
クエストの数々の失敗によって賠償金は途方も無い額に膨らみ、それを清算する為にありとあらゆる物を手放していった。最後の方は自暴自棄になり、内容の確認もせず様々な権利書に機械的にサインをした。
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流れに流れて始まりの街まで戻ってきた俺は、ガラの悪い現地人冒険者とつるむようになり、真っ当なクエストよりも後ろ暗いクエストをステータスの高さや特殊スキルにものを言わせて、次々とこなしていくようになった。
それでも彼女は俺を見捨てず、ただ穏やかに微笑んでいた。そんな彼女の態度が気に食わず意味もなく当たり散らし、PTに入っていてもクエストには連れて行かず拠点にただ待機させている事が多くなっていった。
そんな生活をしていたある日、ふと最近ログアウトしていない事に気が付いた。ゲームには一日のログイン時間の制限があり、一定時間を過ぎると強制ログアウトの警告がアナウンスされ、警告を無視していると強制的にログアウトとなる。
だが最近そのアナウンスを見ていないし、強制ログアウトも受けていない・・・
一抹の不安を覚えつつ、メニュー画面を開いてみるとログアウトの文字が無くなっていた。
バグかと思い、色々な機能を見ていると信じ難いものが目に飛び込んできた。
自分のプレイヤーネームの横にNPCのマークが付いている····
どういう事かと混乱する中、未読になっている一つの通知が目に入る。ちょうど賠償金の清算をする為に様々な物を売り飛ばしていた時のもので、売買の通知が煩わしくあまり見なくなっていた時期のものだった。
【プレイヤー権の売却ありがとうございます。
貴方は只今よりNPCとしてゲームに参加することになりました。
これから先のログアウトは出来ませんのでご了承下さい。
また、NPCには“死に戻り”の機能はございませんので、そちらもご留意下さい。
※お問い合わせ先はこちら※】
俺は慌てて問い合わせ先に連絡をしたが、そこで得られたのは無慈悲なメッセージだけだった。
きちんとした誓約書にサインをしていること、破棄できる期間がすでに終了していること。
元に戻る方法は無いのかと絶望している俺に、1つのクエストが現れた。
【クエスト内容:『落ちた冒険者』として、始まりの街の冒険者の妨害をする
達成数:0/1000人
成功報酬:プレイヤーの権の復活】
レベルは少し前まで最前線組だったこともあり、始まりの街にいるようなプレイヤーに後れを取ることは無い。いざとなったら英雄のスキルを使えばいい。サーラだっているんだ、きっと彼女も強力してくれるだろう。だって彼女は英雄をサポートするのが使命だから。
そこから俺は、ありとあらゆる行為に手を染めた。
ギルド登録に来た冒険者を口や暴力で妨害するなっているのは序の口で、親切そうな顔をしてクエストに付いていき肝心な所で裏切り、死に戻りさせる。
─もちろん装備品やアイテム、所持金も奪うだけ奪って─
少し手強そうなプレイヤーには、仲間のNPC冒険者やPKプレイヤーと組んで執拗に追い詰め、引退に追い込む。
─引退したと聞いたときは胸がスッとした─
クエストの達成率が上がっていく度に、かつて自分が最前線で感じていたような万能感が胸の中に湧き上がってくるのを感じていた。
─あぁ、このクエストはなんて愉快なんだろう─
段々と自分の中の目的がすり替わっていく事を感じていた。