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─パーティーに参加できるサポートNPCは特別なスキルを持っていたり、居るだけでパーティー全体にバフが掛かる事がある─
これは公式からも第1弾βテスターからも出ている情報で、攻略を進める大きな助けになるとされている。もちろん場合によってはNPC無しの編成の方が有利になる場面もあるし、NPCが編成できないイベントや戦闘もあるようだけど、パーティーメンバーを固定で組んでいない人や基本はソロで攻略をしている人にとっても有難い効果になっている。
NPCにもレベルや職業があり、戦闘や生産をすることでレベルを上げたり新しいスキルを取得することもできるらしい。長い時間一緒に冒険をすればするほど強くなっていくという訳だ。
ただし、NPCは“死に戻り”ができない。HPが0になってしまうとそこで終わり。今の所、生き返る方法は見つかっていないらしい。それが原因でゲームを離れてしまったプレイヤーもいると掲示板には書いてあった。
肝心のサーラにどんなスキルやバフが備わっているのか確認してみたが、とんでもない効果を持っていることが分かった。
パーティーにいるだけで基礎ステータスが大幅に増加し、状態異常無効など信じられないような効果が付いたのだ。されに『水の女神』というだけあって広範囲の回復スキルや水の壁で周囲を囲む防御スキルなど、まさにサポート特化の至れり尽くせり状態だった。
さらに驚いたのは、僕の『英雄の卵』という職業だ。職業特有のおそらく一撃必殺になるような技スキルの取得や経験値の大幅アップなどまさに英雄になることを約束されたような補正が入っていた。
つまり僕は、一瞬にしてラノベにあるような“チート系主人公”になることができたのだ。
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「ようこそ始まりの街へ!ここは良い街だよ!」
珍しい従来形のNPCの声が聞こえて、僕は目を開けた。ステータスを確認した後、サーラから始まりの街に転移できると聞きやってきたのだ。街でのチュートリアルを済ませ、ワクワクしながら冒険者ギルドの前にやってくる。
やっと冒険者登録をして、このゲームを旅することができることが嬉しくてたまらない。しかも頼れるNPCもいるのだ。きっと攻略組として活躍できるに違いない、なんてったって僕は『英雄の卵』なんだから!
期待に胸を膨らませている僕を、サーラは優しく微笑みながら見つめていた。
ギルドに入り、受付で冒険者登録をしようと歩き出すと背後から声が聞こえてきた。
「おい!見ろよあのガキ!
あんなナリで冒険者をしようってか!笑えるぜ!!」
「ギャハハ!違いねぇ!」
こんなテンプレみたいなことあるんだと少しうんざりした気持ちで声のする方をちらりと見ると、いかにも落ちぶれていますといった姿をした冒険者達がこっちを見ながら馬鹿笑いしている。NPCを現すマークが名前の横に付いている事に気が付き、改めてこのゲームのAIに感心する。
そんな事を考えていると、何かが彼らの気に障ったらしい。ゆっくりとこちらに近づいてくる。
「おいガキ、なんか言いてぇことでもあるのかよ」
「僕はただ登録をしたいだけなんだ。
そういうのは他所でやってくれないか」
話しかけてきた、体格のいい大柄な男─おそらくリーダーだと思われる─になるべく冷静に話しかける。
「ハッ、バッカじゃねぇの?
オメーみたいな奴を見てると、殴りたくなって来るんだよ!」
そう言って間髪を入れずにこちらに向かって来た拳を片手で防ぐ。テータスの上がった僕にとっては、拳の軌道がまるでスローモーションのように見え、掴むのは容易かった。
「なっ!このクソガキが!」
片手で受け止めた事が信じられなかったのか、驚愕の表情を浮かべながら次々と僕に向かって拳や足を出してくるが、動揺しているからか先程までの勢いが無く、簡単に避ける事ができた。
「チッ··」
男が腰に付けている剣を抜こうとした瞬間
「何を騒いでおるのじゃ!」
ギルド内に大声が響いた。今まで感じた事の無いような威圧感を感じ声がした方を見てみると、ローブを纏ったお爺さんが足早にこっちに向かってくる所だった。お爺さんと言っても弱弱しさは感じられず、貫禄があって堂々とした態度で僕たちに話しかけてきた。
訳を話すと、お爺さん─この街のギルドマスターだったそうだ─は僕と因縁を付けてきた男で試合をするように提案をしてきた。いきなりの展開に驚いていだが、これもチュートリアルかクエストの一部だろうと考えていると目の前に画面が現れる。
【クエスト内容:『落ちた冒険者』と戦い勝利する
成功報酬:ギルドマスターの好感度アップ
特殊クエスト:伝説の武器を求めて 進行開始】
やはりかと納得をして【OK】を選択すると、クエストが動いたようでギルドマスターに連れられ裏庭兼練習場のような場所にやってきた。
試合自体はあっさりと勝負がついた。練習場で僕と対峙した時に始めて、サーラがいることに気が付いたらしく、サーラを見てひどく驚いた顔をしていたのが印象に残っている。技の切れもスピードも最初に殴ってきた時よりも段違いに遅く、デバフがかかっているかのようだった。
試合が終わった後にサーラに知り合いか尋ねてみたけれど、記憶に無いと言っていたので向こうの勘違いか何かだろうという事になった。
無事クエストを成功させギルドマスターに実力を認めてもらうと、この街にいる伝説の武器職人と出会い装備を作ってもらうクエストを受け、意気揚々とギルドを後にした。
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武器職人に会えたものの、僕の実力を見る為に装備の素材を探すというクエストを受けることになり、サーラと一緒に森に行くことになった。そこで刺客に襲われていた滅亡した王国の最後の血統だという高飛車だけど魔法の腕はピカイチなお姫様NPCと出会い、紆余曲折あって一緒に冒険をすることになったり、装備を作ってくれた武器職人の孫娘のドワーフがタンクとして仲間になったりと順調に仲間が増えていった。今考えても怖いくらい順調に冒険が進んでいった。
それと反比例していくように現実の世界がつまらなくなっていった。ゲームにはログイン制限があり、決まった時間以上ログインしていると警告が出て強制ログアウトになる。しかし学校や塾、習い事をしているとそもそもログアウト制限にかかるまでゲームをしていることができない。次第に家族や友人と会話をするのが、学校に行くのが億劫になってきた。
現実の4時間がゲームの1日になることもあって、1度休み出したらその後はズルズルと休みがちになり最終的に引きこもりになってEndless Storyの世界に夢中になっていった。
それでも僕は何も困ることは無かった。ゲームの世界ではレア職の『英雄の卵』で、美人ぞろいのサポートNPC達と高難易度のクエストをバンバンこなしている。おそらく英雄になるというストーリーも順調に進んでいる。重要そうな地位のNPC達が僕たちを“英雄様御一行”として、どこに行っても歓迎してくれるのにもやっと慣れてきた所だ。
βテスターが終わった後の正式版でも、今のレベルや職業、サポートNPCとの好感度はある程度引き継げるとお知らせに出ていたし、なによりここまでクリアしてきた実績がある。僕の冒険者人生はまさに順風満帆、最強プレイヤーになることも夢じゃない。そんな所まできていたのだ。