四話
久々の投稿です。
遅れて申し訳ない……。
何がどうなっている?
「母さん……。今日って何日で何曜日だっけ?」
「何言ってるのよ?二十七日の土曜日でしょ?」
「だよね……。そう…だよな…」
「早く起きすぎてボケてるんじゃない?顔でも洗ってきたら?」
このやり取りに覚えがあるのに、一番重要な部分が違う。
俺はここで違和感の正体に気づく。母が言った「早いじゃない」というのは、「休みの日なのに」という言葉が頭に隠れていたのだ。平日であれば、いつも通りの時間だから、そこに引っ掛かりを感じたんだ。
ボーっと立ち尽くし、数分間考え込んだ。
よくよく考えれば、金曜日の次は土曜日。当たり前のことが起きただけ。これが正常なんだ。今までの体験については謎のままだが、こうして土曜日になったのだから、悩む必要なんてなかった。
全部夢だったのだろう。そう結論づけて、それ以降は考えることをやめた。
二度寝をしようにも目が冴えているので眠れなかった。時間を持て余している俺の頭の中はミオナのことを考えてしまう。金曜日に告白するつもりがアクシデントによって、予定変更となった。解決に時間がかかると思われていたのに、よくわからないまま迎えた土曜日。
俺に残されたのは告白できなかったという後悔だけだった。そうなると無性にミオナに会いたくなる。我慢の限界に達した俺は電話を掛けていた。相手はもちろんミオナだ。
プルルルル、何回かコールしてから通話に切り替わる。
「もしもし?ミオナ?今大丈夫か?」
【もしもし。アキト?大丈夫だけど、急にどうしたの?】
声を聞いただけで癒される。
「今何してるかなって…。もし暇だったら遊びに行きたいなーって思って…」
【今から?……いいよ。私も暇してたから…】
「ホントか?!なら行こう!すぐに行こう!」
【ちょっと待って。女の子には準備があるんだから。もう少し後でいい?】
いいに決まってる。「もちろん!」と言って、ミオナの準備を待つことになった。ミオナからの連絡が来る間、ソワソワしている俺はあることを考えていた。
――――――告白しよう!
完全に舞い上がっているのだが、不思議な悩み事から解放された俺は勢いに任せて決意した。短い間の出来事だったかが、ミオナのへの思いを爆発させるのには十分だった。
脳内シミュレーションをしていると、ミオナから〈準備できたよ〉と連絡がきたので、駆け足で迎えに行く。物の数秒でミオナの家の前に着いてインターホンを鳴らす。それだけの行為でもドキドキしている。
すぐにミオナは出てきた。白いワンピース姿のミオナはやはり天使だ。異論は認めない。
本当は手をつないで歩きたいのだが、その気持ちをグッとこらえて歩きだす。目的地は映画館。待ち時間で考えたプランというのは恋愛映画を一緒に鑑賞して、ミオナにも意識してもらっていいムードの中で告白するというもの。穴だらけで雑なプランだが、舞い上がっている俺には完璧に思えた。
映画館に着くと予定通り、恋愛映画の席をとる。正直、その映画については何も知らなかったが、ミオナから観たいと申し出があったので、スムーズに事が進んだ。どうやら運も味方しているようだ。
映画の時間まで、隣のゲームセンターを見て回る。ミオナが欲しがったものはとってあげたいが、そこでねだらないのがミオナのいいところ。控えめで欲しがらない、そんなとこも好きだが、わがままを言ってほしいという気持ちもある。
ミオナが言い出さないなら俺からプレゼントしようと、近くにあったストラップのUFOキャッチャーに挑戦する。意気込んで挑んだものの、二つとるのに1000円以上溶かしてしまった。
ストラップの一つをミオナに渡す。
「おそろいだね」
しょぼいストラップに見合わない笑顔を頂いた。
時間が来たので映画館に戻り、映画を鑑賞する。
ストーリーは高校生の主人公とヒロインがすれ違いながらも、最後には結ばれるというハッピーエンドの物語。俺たちにピッタリじゃないか。映画の告白のシーンでは、ああいうのもいいな、なんて自分の計画と比べて一人で盛り上がっていた。
観終わったら余韻が残っている内にカフェで語り合う。話しているとミオナも映画に感化されたのか饒舌に語っている。
「主役の南村君かっこよかったねー」
「……ミオナもああいうのがタイプなのか?」
「うーん…かっこいいとは思うけどタイプではないかな。もっと…その…って私の話はいいでしょ」
ミオナの好みを知るチャンスではあったが深追いは禁物だ。知ったところで、今更どうこうしようもない。俺は今日ミオナに告白するんだ。
楽しい時間はあっという間に過ぎていく。カフェを離れた後もブラブラしていたら時間が経っていく。
どこでしよう?ここは?違うか。今じゃない。まだだ。次にしよう。時間は大丈夫だよな……。
気づけば夕方、帰り道。俺はまだ告白できていない。思い返せば何度かチャンスはあった。だが、意気込んでいたくせに、間際になると言葉が出てこなくて息が詰まってしまう。「まだ大丈夫」と自分に言い聞かせても、次もその次も同じことの繰り返し。自分の女々しさに自分でも呆れてしまう。
やっぱり準備しないと駄目なんだな……。ただ一言「好き」と言うだけなのに。ずっと思ってきたのに。
「この公園懐かしいね」
下ばかり見て歩いていたので自分の家の近くまで来ていることにその時気づいた。顔を上げると横には公園があった。滑り台とブランコと鉄棒、小さな砂場で構成されている小ぢんまりとした公園。小さい頃からよくミオナと遊んだ思い出の多い公園。
「ちょっと寄ってかない?」
ミオナは聞いておきながらすでにブランコに向かっている。楽しそうにブランコをこぐミオナの横に俺も並んで腰を掛ける。
久しぶりに座ったブランコは窮屈に感じる。こんなに小さかったのか……。いや俺たちが大きくなったんだよな……。
自分たちの成長を実感して公園を見渡すと、あの頃の記憶が鮮明に浮かんでくる。
ブランコでは靴を飛ばし合って…滑り台は逆から登ってミオナの邪魔をしたっけな…砂場でミオナが作ったお城は見事なものだった…鉄棒では落っこちてミオナに心配かけたよな……。
全部全部、俺の中の大切な宝物。あの頃からミオナといると楽しくて、嬉しくて。いつだって俺の隣にいてくれるミオナが―――
「好きだ」
準備なんていらなかったんだ。ずっと思ってたんだから。ただ思いを伝えるだけ。気張らず、いつものように、自然に。
「ミオナのことがずっと好きだった。俺と付き合ってください」
唐突な告白にミオナも戸惑っていると思っていた。
「私もずっと好きだったよ。こちらこそよろしくお願いします」
俺の告白はすんなりと受けてもらえた。まるでわかっていたかのように。
「なんでアキトが驚いてるの?」
「だっていきなりなのにあっさり成功したから…」
「今日のアキト見てればわかるよ……。何か言いたいことあるんだなって。アキトのことは私が一番知ってるんだから」
「なんだよ…。バレてたのかよ。恥ずかしいな…ハハ。でも嬉しいな。本当にミオナのことが大好きだったから」
「改まって言われると恥ずかしいね…。でも私もおんなじ気持ちだよ。…ずっと待ってたんだから、遅いよ、もう…」
泣いて、笑って、喜んで、俺たちのこの忙しい時間のことを青春と呼ぶのだろう。悩み苦しんだ夢についても、今となってはこの瞬間の為にあったと思える。
どんな困難であってもミオナと一緒なら乗り越えていける、俺はそう確信した。
ブランコに揺られながら思い出話に花を咲かせる。俺とミオナの間には話題は尽きないが、暗くなってきたところで切り上げる。いつだって話せるのだから。
別れ際、すぐ近くなのに惜しい気持ちが収まらない。ミオナも俺と同じ気持ちなのだろうか、握った手を離せないでいる。このまま見つめ合っていたい、その想いにけじめをつけて口を開く。
「……また明日」
「……うん。また明日」
明日があることの喜びをここ最近でよく思い知らされた。だからこそこの言葉を選んだ。
1分、1秒、過ぎ行く時間を踏みしめながら、前を向いて進んでいく。
「好きだよ…ミオナ」
「私も…アキト」
後悔の無いように、思いを伝えて―――
ピッ。
【おはようございます。六月二十七日土曜日、モーニングサタデーの時間です】
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