二話
二話目です!
頭の中で今の状況を整理していると、いつの間にかお昼休みとなっていた。それほどに考え込んでいた。授業そっちのけで上の空の俺は、先生に何度か注意を受けた。いきなり当てられて問題を解かされることもあった。そんな時、大抵は答えることができずに恥をかくのだが、今日の俺はそんな醜態を晒すことなどなかった。何せ、昨日やったはずの問題だったから……。
「今日のアキト、なんか変だよ?身が入ってないっていうか……」
目の前にいるミオナは心配しているようだ。
お昼ご飯はミオナが俺の前に来て、一緒に食べるようにしている。
「はいこれ」とミオナが差し出す弁当を「ありがたやー」と丁重に受け取る。
俺の弁当はミオナが作ってくれていて、心の中で愛妻弁当と呼んでいるのは内緒だ。高校に入って、遠回しに「作ってくれたらなー」とお願いしたら、快く引き受けてくれて、それ以降は甘えている。幼馴染の特権であり、他の男子への牽制も兼ねている。
「ちょっとな…。大した事じゃないから気にするな」
「ならいいけど……。何かあったら言ってよ?」
俺とミオナは何でも打ち明けられる仲だが、今回に限っては告白が絡んでいる為、黙っておくことにした。そうじゃなくても、まだ把握できていないのだから。
午前中、賢くもない頭をフルに回転させて、とある結論に至った。昨日のは夢だったんだと。所謂、予知夢や正夢と呼ばれるものだ。あまりにも気合が入りすぎて、夢の中で予行練習してしまったのだという風に結論付けた。詳しいことはわからないが、先行しすぎた意識がそうさせたのだろう。授業の内容まで同じだったのは説明できないが、予習や進行具合が偶然良い具合に重なって、夢の中でも一致したということにしておいた。無理矢理だが、そうでもないと納得できなかった。
「……あんまり美味しくなかったかな?」
ハッと気が付くとミオナが俺の顔を覗き込んでいる。普段と違って無口な俺を見て、不安になったのだろう。
「そんなことないよ!今日もめちゃくちゃ美味しいよ!」
「よかった」
誤魔化したはいいが、多分気が付いているのだろう。いつもと様子がおかしいことに。それでも無理に聞こうとしないのはミオナの優しさだ。昔からそうだった。踏み込みすぎず、でも話すと寄り添ってくれる。今だって、見守るかのように笑顔を向けている。
そんな優しいミオナがやっぱり好きだ!付き合えた喜びを夢で終わらせたくない!
俺は夢を現実にする為に、決意する。下手なことはせず、夢での行動をそのままなぞることにしよう。焦ることはない。大丈夫……。となると、この昼休みにもやることがある。
「ミオナ、今日の放課後空いてるか?」
「空いてるけど…、どうしたの?」
「よかった…。じゃ、じゃあ放課後、そのまま帰らずに教室で待っててほしいんだ。そこで…は、話したいことがある」
二回目なのに心臓はバクバクしている。顔が火照っているのを感じる。こういう時にスマートに言えたらいいのだが、ないものねだりしても仕方がない。覚悟は決めたんだ。
「わ、わかった…。待ってるね」
ミオナも顔が赤い。なんとなく察しているのだろう。夢と同じだ。
それでも安心はできない。返事を聞くその時まで、気を抜かないようにしよう。
その後はお互い口数も減り、早めに食事を終わらせて席に戻っていった。
午後の授業も一度習った内容だった。同じような、ではなく全く同じだったのが不気味だったが、あまり気にしないようにした。放課後が近づくにつれ、そんなことよりも告白のことしか考えていなかった。
帰りのホームルームが終わり、教室にいた生徒たちは方々に散っていく。部活動に行く人や帰宅する人等様々だ。すぐには帰らず教室で喋っている人もいた。残っているわけではなくゆっくりと帰り支度をしながら、友達と談笑している様子だ。少し時間が経てば誰もいなくなるはずなので、その時が来るまで、トイレで時間を潰す。
鏡を見ながら、一応身なりを気にしてみる。取り繕ったところで今更なのだが、外見というよりは心を落ち着かせるための行動だ。
二、三十分ほど経っていて、そろそろだと教室に戻った。丁度、最後の生徒が教室を出るタイミングだったようで、入れ違いのように俺は教室に入る。そこには、ただ一人、窓際一番前の席でポツンと座っているミオナがいた。校庭を眺めるその様は絵になっていて、切り取って飾ってしまいたいくらいだ。
俺に気づいたミオナは振り返る。
「……遅いよ…」
「ごめん…。人がいなくなってからのほうが良かったから…」
ミオナは怒っているわけではない。何か話そうと思って、けれども何を話せばいいのかわからずに、とっさに出た言葉だろう。
沈んでいく日の光と重なって、照れているように見えなくもない。
「……それで、話って?」
目が合うと、すぐにお互い逸らして、また見つめると、向こうも見ている。
「昔から…ミオナのことがずっと好きでした!俺と付き合ってください!」
ありきたりで古典的に、頭を下げて手を突き出す。この手を取ってもらえれば成功というやつだ。
顔を下に向けてほんの数秒のことだが、永遠にも感じられる。
ドクンッ、ドクンッ。大きく脈を打つ音が聞こえる。
しばらくすると、突き出した手を包み込むような温かい感触が伝わる。
「私も…ずっと好きでした。こちらこそよろしくお願いします」
バッと顔を上げて確かめる。そこには、薄っすらと涙を浮かべて笑うミオナがいた。
「ホントに?」
「うん…」
「やったぁぁぁ!」と思わず上げた声は教室を突き抜けて廊下までこだましていたが、その時は恥ずかしいという感情はどこかへ消えていた。
「もう…遅いよ……。ずっと待ってたんだから……」
「ごめんな。中々伝えれなくて。ずっと勇気がなかったんだ……。でも、ようやく言えた」
「うん、私も……。すごい嬉しかった」
この時のミオナは今までで一番可愛くて、自然と抱き寄せてしまった。ミオナも嫌がることなく、顔を俺の胸にうずめて、少しの間抱き合っていた。
この瞬間、この世界に存在するのは二人だけのようにも思えた。
こうして、二度目の人生で一番歓喜した瞬間を無事に迎えることができた。最初は混乱して、どうなることかと心配したが、結果から見ればよかったと思う。むしろ、夢のおかげなんて思ったりもした。
帰り道も夢で体験した通りになった。チラチラとこちらを気にするミオナが可愛くて、ぎこちない会話がなんだか楽しい。一度体験しているのに変わりがないのが、俺の純情たる所以なのだろう。そんな自分も嫌いじゃない。
家に帰って、ひとしきりニヤついてから今日のことを振り返る。なんとも不思議な体験だった。一日を終えてみて、夢との相違点はほとんどなかった。
スマホを手に取るとミオナからメッセージが来ている。
ミオナ〈改めて、よろしくね!ってなんか照れちゃうけど(〃▽〃)〉
メッセージの内容まで一言一句同じなのは少々怖さを覚える。かと言って文句もなく、どうするでもないのであまり気にしないようにした。いつかミオナに話せたらいいなと、その程度にしておく。ただ、あまりに夢と同じだと不安もあったのでやり取りを続けておくことにした。
アキト〈こちらこそ!それで早速だけどミオナさえよかったら明日遊びに行か
ない?〉
ミオナ〈行きたい!〉
アキト〈よかった。じゃあ映画でも観に行こ!明日朝迎えに行くよ〉
ミオナ〈わかった。楽しみにしてるね。また明日。おやすみなさい〉
アキト〈また明日。おやすみ〉
夢ではできなかったデートの約束をすることができた。
今までも二人で遊びに行くことはあったが恋人として出掛けるのはこれが初めて。緊張しつつも、期待を胸に抱きながら、早めに寝て明日に備えることにする。
◇
早く寝た分、早めに起きた。まだ時間はあるが初デートと思うと目が冴えて二度寝する余裕なんてなかった。
デートの先行きを左右する天気を確認する為、リビングに降りてテレビをつける。
「あれ?今日は早いじゃない」
後ろで母が朝食の支度をしている。
「まあ今日はちょっとね」
ピッ。モニターに映像が映る。
【おはようございます。六月二十六日、金曜日のZOPです】
「え?」
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