カースト最下位のボッチ陰キャな俺が、何かと上から目線でダル絡みしてくるカーストトップの幼馴染を再起不能になるまで人狼でボコしたら従順なメス犬になった話
俺、小田景将太は、このクラスのカースト最下位のボッチ陰キャだ。
カースト上位や中位のパリピなリア充グループに入る事は勿論、下位のヲタグループにすらある理由から属すことが出来なかった本物のボッチである。
そのある理由というのは。
「ちょっと将太まだ? アンタ本当にトロいわね~、こんなクラス日誌くらい、ちゃっちゃと書けないわけ? 運動も勉強も下の下、オマケに顔はキモいし、メガネだし、なによりコミュ障の陰キャ。はぁ……やれやれ、アンタってアタシがいないと本当に死んだ方がいいくらいダメね?」
この、口を開けば俺に悪口しか言ってこないクラスメイトの女子、翔田好乃である。
「あ~嫌だ嫌だ、アンタみたいなのと幼馴染とか、アタシの人生で1番の汚点だわ。ほら、ちゃっちゃっと手動かしなさいよ」
俺が授業の感想欄に何を書こうか考えていると、好乃はまだ書いていると言うのに俺の机に座り、足を組むと、そんな事を言ってくる。
校則をぶっちぎった短さのスカートから伸びる細く綺麗な足に、危うく意識を持っていかれかけたが、これは俺専用の罠だ。
その証拠に。
「ん~? あれ? やだ! 今アンタさアタシのスカート見てなかった? キモッ! ねぇ皆きいて~! 今アタシさ~小田景君にパンツ見られちゃったんだけど~! マジ最悪無理ぃぃ!」
うっわ~小田景きめぇ~! マジやってんな~! むっつり陰キャ過ぎんだろぎゃはは! 羨ましいンゴ。
クラスのあちこちでそんな声が巻き起こる。
嫌悪、侮蔑、嘲笑、嫉妬、様々な悪感情の乗った視線が俺に突き刺さる。
「うっ⁉ ……くはっ……こひゅー……こひゅー……」
健康な環境で育った人には分からないと思うが、俺の様なボッチ陰キャは、こんな風に大勢の人間の注目を浴びると、上手く呼吸が出来なくなってしまうのだ
やべっ……マジで苦しくなってきた。
俺は死にたくなる気持ちをグッと堪えて、やめてくださいという意思表示をしようと好乃の目を見る。
ニマ~!
「ぷぷっ……マジうける……」
「はぁ…………」
好乃は意地悪そうな笑みを浮かべ、楽しそうに笑っていた。
本当に溜息しか出ない。
俺と好乃は所謂幼馴染という関係だ。
しかも幼稚園から高校2年生の今に至るまで、ずっと同じ学校というかなり長い仲の幼馴染。
小さい頃は俺の悪口なんて間違っても言わない優しい女の子だったのだが、
中学に上がってからは徐々に態度がキツくなっていき、今ではこんな性悪女へと成長してしまった。
「ほら! 溜息ついてる暇があるなら、その足りない頭と手を動かしなさいって! あんまりトロトロやってるともう1発いくわよ?」
スカートの裾を手でピラピラと弄びながら、足を悩ましく組み替える好乃。
そんな態度に情けなく二重の意味でビクビク、ドキドキしてしまう俺。
恐らく好乃がこんな調子に乗っている大きな原因は、そのダントツの美貌だろう。
好乃はティーン雑誌のカリスマモデルをやっており、化粧動画をユーチューブに上げようものなら楽勝で数百万再生を叩きだすような超人気者。
確か去年くらいにテレビデビューして、今では飛ぶ鳥を落とす勢いの超売れっ子タレントでもある。
そしてそんな奴が、高校のクラスなんて小さな世界でカーストトップにならないわけがない。
いやカーストトップなんて言葉では生温いか。
もっと的確な表現をするなら好乃は女王。
絶対的発言力を持った女王といっていい。
だが決して氷の女王というわけではない。
確かに好乃は先輩や先生にもタメ口だし、思った事はどんな失礼な事でも1秒も躊躇わずズバッと言ってしまうような、xxLサイズの態度の持ち主である。
だが、その分誰にでも分け隔てなく明るく接するような気さくな性格の持ち主でもあるのだ。
俺達のクラスはそんな好乃を中心にかなりうまく纏まっており、ここ1年半で1度もイジメなどの問題が起きた事はない。
勿論それは俺以外への話だが……。
「はぁ……死にてぇ……」
確かにこのクラスにイジメはない。
ないが、イジメに近いイジリは存在している。
ターゲットは勿論俺。
俺へのイジリがギリギリでイジメになっていないのは好乃のお陰と言えなくもないが、逆に俺がイジリのターゲットになっているのも好乃のせいだ。
好乃はさっきの様に意図的に俺を追い込んでくる、それも毎日、毎休憩時間である。
世の中には俺なんかとは比べ物にならないくらい苦しい思いをしているボッチがいる事は理解しているし、俺なんか全然マシな方だって事くらい分かっている。
分かっていても、それでも俺にとってこの状況は苦痛以外の何物でもないのだ。
別に俺は好きでボッチをやっている鋼の様なメンタルの持ち主じゃない、どこにでもいる様な気弱で陰キャなヲタクだ。
だからこそヲタクグループに混じってアニメやゲームの事で盛り上がりたいのに、こんな風に好乃にダル絡みされる事によって、向こうに変に壁を作られれてしまいグループに入る事が出来なかった。
俺の高校生活はこの女にぶっ壊されたと言っても過言ではないだろう。
あ~何か思い出したらマジでムカついてきた。
ルックスがちょっと……いやかなり……いや滅茶滅茶いいくらいで調子乗りやがって……お前なんかクラス転移して俺がチート能力もったら絶対ボコボコに……ボコボコに……逆にボコされそうだな……。
って違う!
くっそ! こうなったらもうどうなろうが知るか! 俺のタメにタメた憎しみをこの場で解放してやる!
見てろよこのくそビッチがあああああああああああああ!
「おい、好乃!」
「は? 何?」
ギロリ。
「ひぃ⁉ いや、なっ、何でもありません翔田さん……」
顔怖⁉
めっちゃ顔こわいんだけど⁉
美人って顔が整ってる分睨んだ時の威力もヤバいんだな……想定してた10倍は顔面の圧が凄かったぞ……。
「はぁ⁉ なっ、何もないんだったら急に呼ばないでくんない⁉ しっ、しかも下の名前でとか有り得ないし……変な勘違い皆にされたら困るんだけど……」
何年かぶりに下の名前で呼び捨てにしたけど、それくらいでそんな怒るなよ……怖かったぁ……。
「大丈夫ですよ……俺と翔田さんがそういう感じで勘違いされるとか絶対有り得ないですって」
「はぁ⁉ 絶対にって何⁉ じゃああんた命賭けれんの⁉ 死ねるわけ⁉ 死ねないでしょ⁉ だったらもう二度とそんな事言わないでくんない⁉ 世の中に……ぜっ、絶対とかないんだから……」
やべぇ……キレポイントが分からない……。
文脈的には多分俺の絶対って言葉に怒ったとは思うんだが……アレか? やっぱこいつくらい売れっ子になるとそういうリスク管理が重要って事なんだろうか?
「ごめん……」
何も悪くないのに、それが当たり前かのように謝る俺。
いつもの事、習慣と言ってもいい。
「フン! 分かればいいのよ! 次言ったらマジで許さないかんね?」
はぁ……何で俺こんな事してんだろう?
マジで情けなすぎる……。
毎日のように好乃に一矢報いてやりたいと思っているのに、結局一矢報いるどころか、言い返す事すらもできやしない……。
キーンコーンカーンコーン。
「よーしお前等座れ~」
そんな中、チャイムがなり、それと同時に担任の先生が入って来た。
それを見た好乃を含めたクラスメイト達はゾロゾロと自分の席に戻っていく。
俺にとっては正に救いの鐘の音だ。
「え~先週は名前順の班ごとに分かれて様々なディベートをしてもらったが、今週はその応用……というかちょっとしたゲームを前の班でしてもらいたいと思う」
「ふぅぅぅぅぅ! ゲームとかいいじゃん! 先生ナイスゥ!」
パリピ男子の紀田くんを皮切りに、教室全体がいいねいいねと湧いていく。
「また班ごとかよ……」
体育の2人1組に近い殺傷能力を持つ、班という悪習。
体育の時のように組を作れなくて死にたくなるような事は確かにないが、こっちはこっちで班のメンバーが名前順で選ばれてしまい普段絶対話す事の無いようなカースト上位の化け物達と交わらなければならないというデメリットが存在する。
「よーし、じゃあ説明をする前に机をくっつけて、それぞれ別れろ~」
そして何より。
「わーい好乃ちゃんと一緒のチームだ~」
「うちもうちも~、本当に江藤って苗字でよかったわ~生まれて初めて親に感謝したもんね」
「あはは、これくらいで大袈裟だって~」
好乃と同じ班だと言うのが更にキツい。
先週のディベートなんて……あぁヤバい思い出したらまた死にたくなってきた……。
はぁ……こんなんじゃ何のゲームをしても楽しめそうにない。
「よし全員準備できたな、何だ翔田の班は1人休みか、そこには後で俺が入るとするか」
俺達のクラスは35人、そしてロングホームルーム用の班は7人ずつの5班に分かれている。
どんなゲームをやるんだろう……なるべく好乃と関わらないようなゲームがいいんだけど……
「今日お前達がやるゲームは人狼だ」
人狼だと⁉
「お~、反応を見るに6、7割の生徒は知ってるという感じか、じゃあ説明していくぞ? 人狼というのは村人陣営と狼陣営に分かれて……」
ドクン、ドクン、バクン、バクン。
心臓の音がうるさくて先生のルール説明が全然耳に入ってこない。
だがそんなのは何の問題にもならないだろう。
何故なら俺は、スマホの人狼ゲームのトップランカーなのだから。
中学から好乃のせいでボッチになった俺は、有り余る時間の殆どをゲームに費やしてきた。
そのおかげでゲームの腕前だけは、どのジャンルでもかなりのモノになったと自負している。
特に人狼はその中でも1番時間をかけた1番自信のあるゲーム。
人狼のおかげでネット上ではあるが友達が大勢出来きたし、辛いリアルを忘れらた。
そんな思い入れの強いゲームでもある。
そしてそんな人狼を授業でやるだと?
勿論こんないいとこ素人に毛が生えたレベルの連中に本気を出す気なんてサラサラないが、この人狼でもしかしたらあの憎たらしい幼馴染に一矢報いる事が出来るかもしれない。
あの傲慢で俺を馬鹿にしてきた好乃に一泡吹かせる事が出来るかもしれない。
そう考えると……ゴクリ。
否が応でもテンションが上がってしまう。
「あ~それ知ってる~、てか好乃ちゃん先週の無吉さんの番組でやってたよね」
「うちもそれ見た~、超頭つかうやつじゃん、でもその時好乃めっちゃ強くなかったっけ?」
「え~そんな事ないよ~、てかあんな超単純なクソゲーに強いとか弱いとかないから」
は?
クソゲー?
強いとか弱いとかない?
今そう言ったかこいつ。
プツン。
好乃の言葉に俺の中の何かがキレた。
「………………」
今まで相当な量とレベルの暴言を我慢してきた俺だが、俺の愛してやまない人狼を目の前でクソゲー呼ばわりされたのには流石に我慢出来ない。
が、大声で激昂するような事はしない。今はロングホームルームとは言え授業中だ。
キレたとしても今このタイミングでそんな事をする度胸は無い。
それにそんな事をしても好乃には全く響かないだろう。
ならばどうするか。
決まっている。
この1時間の人狼で、好乃をボコって心をへし折るのだ。
「という感じだ。今回は初めての授業なので、村人2、人狼2、占い師1、狩人1のオーソドックスな初心者ルールでやっていこうと思う。よし、じゃあ各班長はこのカードを取りに来い、最初のゲームは班長がゲームマスターになりその後は名前順でローテーション、翔田の班は特別にずっと俺がゲームマスターをやろう」
俺がそんな事を考えていると、いよいよもうすぐ人狼が始まろうとしていた。
運のいい事に俺達の班は、先生のはからいで全員プレイヤーとしてフル参加できるようだ。
十分すぎる時間だな。やってやる。
「よーしでは始めるぞ? まずは初日の夜だ、ゲームマスターは適当にカードを裏向きにして班の奴等に配れ、そして配られたカードを各自確認したら、顔を伏せろ」
俺は先生から配られたカードを見る。
占い師。
いきなりだな。
だが丁度いい、これでもし好乃が人狼だった場合、性格的に間違いなく対抗の占い師として出てくるだろう。
叩き潰してやる。
「では全員顔をふせたまま人狼だけは静かに顔をあげて、相方を確認してくれ、よし確認したな? そしたらまたふせろ」
頼む来い! 来てくれ!
「次に占い師は顔を静かにあげて、占いたい生徒を指さしてくれ、ゲームマスターはその生徒が村人陣営なら〇を、人狼だったら×をジェスチャーで伝えろ」
俺が占うのは勿論好乃。
などではなく、俺の左隣の席のパリピイケメン紀田くん。
結果は〇、つまり村人陣営。
占い師のセオリーとして最初の占いは左隣か、正面の相手を占うのは基本だ。
特に決まりがあるわけではないが、うるさいメンバー同士ではこれをしないだけでで色々突っ込まれてしまう。
ちなみに席順は
江藤さん。 好乃。 井川さん。
相沢くん。 紀田くん。 俺。
という感じになっている。
つまり俺は好乃を占った場合、しょうもないツッコミを入れられる事に繋がる。
そしてもっというなら、好乃が人狼だった場合、占い師を語る可能性が高いので、占う必要がないのだ。
何故なら占い師が2人出て来た時点で、もう1人は確実に人狼、そんな決まりきった事を言っても仕方ないからな。
「では2日目の朝を開始するぞ、各班のゲームマスターは最初に喋る人間を決めろ、制限時間は1人2分。時計回りに自分の考えを言っていけ、誰が何を言っているのか、誰に投票したか等分かりやすいようにメモをとるのがおすすめだぞ、じゃあここの班はそうだな、翔田から始めてくれ」
「はい。じゃあ始めるね! コホン! 皆お早う、いい朝だね」
実際にはもう午後だが、人狼ではこんな風に言う事が往々にしてある。
「早速だけど、カミングアウトしちゃいます、アタシは占い師、アタシは占い師よ、セオリー通り、左隣の井川ちゃんを占って白だったわ」
きっ、きききたああああああああああああああああああ!
はい好乃人狼確定えええええええええええええええ!
ヤバいめっちゃやる気上がって来た。
「皆に言っておきたいんだけど、アタシが本物の占い師。だから次に出てくる占い師は絶対に偽物だよ? だからそいつの発言と、そいつの占った奴の発言には注意しておいて、時間は早いけど、これで以上ね!」
30秒弱。
という所だろう。
流石にテレビでやっただけあって少しは慣れているな。
実に簡潔で纏まっていて、要点もいくつか抑えられている。
30点といったところだな、正直相手にならない。
まぁテレビでお笑い芸人さんを相手にするならこれで充分だろうが、はっきり言って興ざめなレベルだ。
「次私か~、えっ、え~と、今好乃ちゃんに占ってもらった通り、私は村人陣営です。
ん~1週目だから何とも言えないな~、とりあえず私的にはあたしを白だって言った好乃ちゃんを信用してます、以上!」
今度は20秒弱。
井川さんは間違いなく初心者だろう。
テレビで見てなんとなく流れは知っている程度。
正直こういう自分を白だと言ってくれた占い師を完全に信じてしまう初心者が1番困る。
何故なら狼は誰がもう1人の狼で、それ以外が全員白だという事を知っているからだ。
だがまぁこの場合は恐らく…………。
「次俺ですね」
遂に俺の番がやってきた。
さてと。
軽くもんでやるか。
俺は顔の半分以上を隠していた長い前髪をかきあげ、度の入っていない伊達メガネをとる。
「最初に言っておきますが、俺は人狼のゲームアプリで日本3位です。ですがそれは無視してください。その代わり皆も人狼に関係ない要素は出来れば無視してください。
皆は多分人狼とは関係ない人間的な部分で翔田さんを信用してしまいそうになると思いますけど、これはゲーム。そういうのは無しで楽しみましょう」
俺はこの教室で出したことも無いハッキリと明瞭な声でそう言い放った。
腹式呼吸で吸った空気を、口内の軟口蓋を使って響かせる、一般人は知らないが発声の基本中の基本。
しかしそれ故にこれが出来るか出来ないかで声の質、相手の聞き取りやすさが全然違う。
「「「「⁉⁉⁉」」」」
班の残り5人のメンバーと先生に凄い動揺が走る。
「なっ⁉ 髪とメガネは絶対にそうしとけって言ったのに、それにあんなイケボでそんな……モニョモニョしちゃったらどうすんのよ馬鹿……」
何かモニョモニョと好乃が言ったような気がするが、スライド(カミングアウトした職業を変える発言)以外喋る事はルール違反だ。無視するとしよう
「さて、本題ですが、僕が本物の占い師です。つまり翔田さんは人狼です。まっ黒ですね。
そして僕が占ったのは紀田君です、占い理由はそれがセオリーだったからです。
次に皆に信じてもらう為に、翔田さんの黒要素を言っていきたいと思います、もしこの後の2週目の発言で翔田さんがこれに対して納得のいく反論で出来なければ黒濃厚と思ってください」
俺はペラペラと喋り出す。
似たような事を1万回以上は言って来たでだろう、決まり文句。
なつかしいな~、6人村なんて相当頭にキテいる時に初心者狩りをした時以来だ。
まぁ当たり前だが噛むことなんてありえない。
「まず1点、占い師なのに喋った時間が短すぎます。1週目の村人ならともかく、占い師は村人陣営の要。
ハッキリ言ってこれはヤバすぎですね、本当に俺が真の占い師で村よかったと思います。
喋る事が他にないとしても、進行論、つまり私は〇〇みたいな事を言う人が怪しいと思う、頑張って制限時間いっぱい話してください、みたいな事でも言うべきです」
「⁉」
ズバリと俺にそう言われ、面食らう好乃。
「まぁ恐らくそこまで気が回らなかったんでしょう、考察らしい考察も殆どしていませんでしたし、初心者丸出しの小学生低学年でも出来る発言でしたね」
ちょっとだけ好乃を煽る。
そして続ける。
「もしくは緊張してうまく喋れず、早く自分の番を終わらせたい狼にありがちな行動です」
声のトーンを落として説得力を上げる。
普通の人だったらこのくらいの事でここまで言うのはヤバい決めつけだが、人狼は少しの事をしつこくしつこく突いて相手を困らせるゲーム。
これくらいよくある事である。
「そして2つ目、これが決定的な黒要素です」
少しタメを作り、好乃を真っ直ぐに見つめる。
自分が劣勢なのが分かっているのか、顔を真っ赤にし、目を合わせようとしない。
このくらいのプレッシャーに耐えられないとか、雑魚だな。
「何で2人目の占い師が出てくることを分かったような事が言えたんでしょうか?」
『だから次に出てくる占い師は絶対に偽物だよ?』
確かに好乃はそう言った。
「これは盤面が完全に見えている狼以外には言えない言葉です。
狼が2人ともビビッて占い師として出れない可能性、つまり平和村という可能性も充分に有り得るというのに、どうしてそこまで強い言葉を使えたんでしょうか」
「は~確かにな~」
隣の席の紀田君が小さな声でそう呟く。
他の班の生徒もそれに近い顔をする。
実際は好乃の言ったように占い師が2人以上でるのがオーソドックスな人狼なのだが、これを言わない最初に出た占い師は信用をガクっと失う事になるのだ。
「加えて言うなら、好乃さんの占い先である井川さん」
「ほえ⁉ わたっ、私⁉」
「井川さんが言った自分を白だしした好乃さんを信じる。と言うのは完全に意味不明な発言です。
何故なら狼は自分達以外の人間が全員白だと分かっているので、好乃さんは誰でも自由に白だと言えるんですよ」
「そそっ、そっか、そうだよね」
急に井川さんに俺がターゲットを切り替えた事により、困惑する井川さん。
「さっきの井川さんの発言は、人狼である好乃さんがもう1人の人狼である井川さんを庇い、それに井川さんが乗っかったと思われても仕方ありません。なので僕は2週目の井川さんの発言にも注意して聞いていきたいと思います。以上です」
ビシっと2分丁度を使い切り、そう言った俺。
班のメンバーは全員ポカンと口を開けて固まっている。
シーン。
あぁやっちまったな。
途中から自分でもやり過ぎだと思ったが、もうこれはそういう次元じゃない。
今まで教室でクラスメイト達に一方的にイジられてきた口数の少ないボッチが、急にこんな風に喋り出したらこんな空気にもなるだろう。
でも後悔はしていない。
5年間も散々上から目線で言ってきた好乃に一泡吹かせてやれたんだ。
それに大好きな人狼でまで口数の少ないボッチでいるなんて、そんな事は御免こうむる。
「えっ、えっとじゃあ次は俺、だよな……」
いつも底抜けに明るいクラスのムードメイカーである紀田君も、流石に言葉に詰まっている様子だ。
当たり前だよな。彼みたいなリア充からしたら俺みたいな陰キャがワーワー言ってたら折角のゲームがつまらなくなっちゃうよな。
しかし。
「え~じゃあ俺も小田景を見習って頑張って喋りたいと思います!
あれっすね、超驚いたよねマジで、まさかこいつにこんな特技? みたいのがあるなんて知らなかったよ実際!
聞いててあ~確かにな~って思わされちゃったもん。
多分こいつがいなかったら普通に好乃ちゃんの言う事信じる場面だけどさ、このゲームだけは俺もそういうの無しで行こうかなって思ったよ!」
紀田君…………。
「ん~で俺の考えなんだけど、今のとこ小田景の言ってる事が正しいと思ったかな。
でもそれはあくまで今のとこな? 小田景がいくらそれっぽい事言ってても人狼かもしれないわけだから完全には信じちゃいないぜ?
次の好乃ちゃんの番でバシーン! と言い返したらむしろ好乃ちゃんの方に俺は傾くかな。
以上! って全然時間余っちまった、人狼むず!」
はははっと笑いながら自分の番を終える紀田君。
そんな紀田君を見て、俺は何だか無性に嬉しくなった。
てっきり暴走した俺に対して否定的な事を言うのかと思ったが、そんな事は一切せず、真剣にゲームに取り組んでくれている。
「いい人だなぁ……」
小さくそう呟く俺。
リア充爆発しろとか、パリピは敵とかずっと思っていたけど、そんなのは人によって全然違うんだと改めて思い知らされた。
こんな風にリアルで、それもパリピの人と人狼をやれる機会なんて最初で最後だろう。
好乃をボコるのもいいが、普通に楽しむ事も忘れないでいこう。
そしてそれから相沢君と江藤さんが毒にも薬にもならない事を喋り、2週目の好乃の番になる。
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「えっ、えっと! その!」
アタシは先程アタシに向けてズバズバと言いたい放題言ってきた幼馴染を見る。
「うぅ……」
恥ずかしくて直視出来ない。
そこにいたのは5年間も私に好き勝手言われ続け、何も言い返す事も出来なかった情けないヘタレではなく、余裕に満ち溢れたかっこいい将太だったからだ。
何よ将太のくせに生意気よ!
そう言ってやりたいが、そんな事を言ったら次の将太の番で滅茶滅茶に言い返されそうだ。
それはそれで、何ていうか凄くアリなんだけど…………。
じゃない!
アタシがそんな事言ったらこの空気に水をさしてしまう。
って言うか何なの? 何でこんな急に人が変わったみたいになるわけ?
胸キュンしすぎて死にそうになるからマジで止めてほしいんだけど!
こいつ、アタシが実は若干Mなの知ってるわけ?
毎日ベットで将太にそういう事言われる妄想してるの知ってるわけ?
てか何で髪かきあげてんのよ? 何でメガネとっちゃうのよ!
そんな事したら今まで私が散々将太の自信を砕いてきた努力が無駄になっちゃうじゃないの!
人がどんだけ他の女が寄り付かないようにこの5年間頑張って来たと思ってるわけ⁉
あああああヤバい! 今はそんな事考えてる場合じゃない! 何か言い返さないと!
「えっと、まず将太、じゃなかった小田景君の言った黒要素1つ目ですが、それはみんなが初心者だと思ったので、あんまり長々と喋ると逆に混乱させてしまう可能性があると思ったからです。
確かに進行論も大事ですが、そんなのを言わなかったからアタシが黒だと言うのはおかしいです」
よしっ! いい感じで言えた!
どうよ将太!
困ったでしょ? アンタなんかアタシが本気を出せば簡単に!
…………ってなによ⁉ そのやれやれって顔は⁉
将太のくせに生意気ね!
だったら!
「あと2つ目ですが、これに関しても完全に言いがかりという他ありません!
普通6人村というのは占い師が殆ど2人以上出てくるものなんです!
何故ならそっちの方が狼の勝つ確率が高いから!
こんなのでアタシを黒とか本当に笑っちゃうわね! ほら言い返せるものなら言い返してごらんなさいよ! 日本ランキング3位のボッチ陰キャ君!」
バン! と机を叩き、将太を睨む。
決まった……。
てかやり過ぎ? あ~やってしまった。アタシがいないとダメダメな将太の最後の砦を壊してしまった。
まぁでもいいわよね? 人狼ってこういう性格悪くなるゲームだもん。
このゲームは間違いなくアタシの勝ちで決まりだけど、収穫は凄いあった。
まさか将太があんなかっこいい1面を見せるのは意外だったからだ。
将太は小さい頃から元々そこそこかっこいい奴だったけど、本来のカッコよさが年を重ねる度にヲタク趣味に邪魔され、ナヨナヨとした微妙な優男になってしまっていた。
それがアタシには我慢出来なかった。
だからアタシはあいつに発破をかけるつもりで中1の時に酷い態度をとったのだが、効果なし。
ムカついて悪口のレベルを上げていったが、それも殆ど無意味だった。
時折悔しそうな目で睨んできたから完全に脈無しというわけではないと思ってたけど、ようやく今日芽が出てくれた。
はぁ~アタシって本当に健気な女……もしかして前世は女神だったのかもしれないわね。
「今の2人の言葉を聞いたら皆分かると思うけど、完全に好乃ちゃんが正しいよね?
それくらいは分かってくれたと思う。私は小田景君に投票するよ。だからみんなも投票しよ」
そんな事を考えていると井川ちゃんが何やら完全にアタシを援護するような事ばかり言っていた。
こんな事をすればアタシと井川ちゃんが繋がっていると思われてしまう。
まぁでも大丈夫か、どんなに井川ちゃんが変な事を言っても、もう結果は見えてる。
だってアタシは将太の言った黒要素を完璧に論破したのだから。
「はい、じゃあ次俺ですね」
将太の番になる。
あ~だからそんな風に髪を上げるんじゃないわよ! バカじゃないの⁉
「まずは先程の好乃さんへのカウンターですが」
ぷぷぷっそんな言葉使っちゃって可愛いわね~。
どうせアンタはこのアタシに負けるのよ!
「正直好乃さんのレベルが低すぎて困惑しております。ははは」
なっ⁉ 何でっすって⁉
「皆を混乱させない為に、ぷぷっ、短い時間で終わったと言ってましたが、意味不明ですね。
占い師は村人を導く職業です、そんな占い師が皆を混乱させない為に時間いっぱい使って村人を引っ張らないでだれが引っ張っていくんですか?」
ぐぬぬぬ⁉
「あと平和村の件ですが、確かに平和村、つまり占い師が1人のパターンは、占い師が2人のパターンより少ないですが、村人の思考の裏をかいた狼がやる作戦としては別に珍しくもありません。
むしろ好乃さんみたいな説得力のない答弁しか出来ない人はそっちの方が向いている作戦ですよ?」
バカにするような目でアタシを見る将太。
んっ! やばっ⁉ ちょっといいかも⁉
って違う違う! 何よこいつムカつくわねえええ!
「そして好乃さんは2週目の発言で決定的と言えるミスをおかしています」
はっ? あたしは完璧だったわ⁉ 何を馬鹿な事いってんのよ!
「それは、村人陣営なら必ずやる筈の2人目の狼を探す行為を全くしていなかった事です」
「⁉」
「人狼は最初の投票で真の占い師を吊ってしまえば、殆どの場合勝ちになります。
それを防ぐには狩人が上手い事守らなければいけないからです。
なので人狼は最初の投票の事しか考えていません」
「あ~成程~」
紀田君がそう小さく呟くと、周りのメンバーも言っている意味が分かったのか、納得するように頷く。
「僕はずっと2人目の人狼を探していました。濃厚なのはずっと僕に投票しろしか言ってなかった井川さん、次点で紀田君の意見に便乗しかしていなかった相沢君。
恐らく投票結果を見れば完全にハッキリするでしょう。
なので狩人の人は万が一俺が吊られたら、好乃さんと井川さん以外を守ってください」
ヤバい…………。
将太の言っている事は全て的中している。
何? 何なのよこいつ⁉
「そして投票の話なのですが、俺としましてはわざと決戦投票にして、もう1度好乃さんとバチバチやってもいいと思っています。
恐らく人狼の井川さんは俺に入れるでしょうから、そうですね、次点で怪しい思う相沢君が好乃さんに入れてください。あとの2人は無投票にしましょう。
もし裏切り者が出ればそいつが2人目の人狼、でなければ井川さんが人狼です」
もうこの時点でアタシには将太が何を言っているのか分からなくなっていた。
でもこの場の空気を完全に将太が握っているのは分かる。
こいつの言う通りにしなければならないと思う程の説得力。
それもアタシのカリスマ性が霞んでしまう程の絶対的なレベルの……。
「なぁ? この提案飲めるよな好乃。やり合おうぜ? 徹底的にさ」
ゾクリ!
んんんっ! やばっ⁉ 何なの⁉ 何なのよこいつ⁉
将太のくせに! 将太のくせにアタシの事をそんな目で見るなんて⁉ でも逆らえない……アタシはこんな奴を今まで相手にしてきたっていうの⁉
てかさり気に名前で呼ぶのズルいわよ⁉
「な~んちゃって、翔田さんと俺、どっちに投票するかは皆に任せるよ。以上です」
勝敗は決した。
アタシは生まれて初めて将太に負けた。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
そこからのゲームも一方的な展開だった。
「えっ? 翔田さん占い師で、俺に白出したんですよね? おっかしいな~、だって俺占い師なんですよ」
「なっ⁉」
「これ何が起きてるか分かります? 破綻、翔田さんの言っている事は完全に破綻しているんですよ?
まぁ運が悪かったですね、時間が勿体ないんで自爆してください」
「くっ! すみません先生自爆します」
「なーんてな! 俺は村人だよバーカ!」
「んんんんんっ!」
みたいな事が起きたり。
「なっ⁉ 何で……アタシは確かに狩人ってカミングアウトしたアンタを噛んだ筈なのに……」
「お前本当に抱きしめたくなるくらい馬鹿だな? こんなバレバレのアーマーに飛びつくなんて……本当は紀田君が狩人だったんだよ。イエーイ紀田君ないすぅ!」
「おっおおおお! やっぱそういう事だったのかああ! うわぁ! 人狼って楽しいな小田景!」
「あはは。そう言ってもらえてよかったよ。紀田君才能あるよ! 顔だけしか取り柄の無いどっかの馬鹿とは大違いだ」
「んんんんんんんんっ!」
みたいな事が起きたり。
「なっ⁉ 将太! よくもだましたわね⁉ あっ、アタシはアンタを信用して紀田君に投票したのに!」
「はっ、初日投票で黒出しされた奴の言う事を鵜呑みにするとはとんでもない馬鹿だな。最後までお前を残したのも1番騙しやすそうだったからだよ! まんまと引っかかった好乃」
「んんあああああああああああああああん!」
みたいな事が起きた。
奇跡的に俺と好乃は5回中、5回とも別陣営になり、その全てで俺が勝った。
しかも全て好乃をハメるような勝ち方で勝った。
勿論全て狙ってやっている。
好乃はなまじ完全なド初心者じゃない分思考が読みやすく、操りやすかった。
6人村は運の要素が強い人狼だが、圧倒的な実力差があればこの通り完封出来てしまう。
「いや~将太めっちゃ強いなお前。まさか初日占いで黒だししたのに負けるとは思わなかったわ」
「ほんとほんと! 将太君マジで凄いよ! 私びっくりしちゃった! しかも髪とかメガネとかちゃんとしたら結構イケメンだし、とんでもないイケボだしで、これは夏休み前の女子達で戦争が起きる匂いがするね~。
てか何でそんなダサすぎな恰好してたの?」
「ん~何だろう? あんまり自分に自信が無くて、顔隠してたんだよ。あはは」
そんなこんなでロングホームルームが終わる頃には、紀田君達とかなり打ち解けていた。
リアルの人とこんな風に会話が出来るなんて夢にも思わなかった。
幸せ過ぎておかしくなりそうだ。
ちなみに超長い前髪や、ダサい伊達メガネは好乃に、アンタみたいな不細工はイジメられるから顔を隠した方がいい! と言われたのでその忠告にしたがったんだが…………。
面倒な事になりそうなので言うのは止めておこう。
そしてその好乃と言えば…………。
「はぁ……はぁ……将太ぁ……しょうたぁ……」
何やらぶっ壊れていた。
机に突っ伏して何かぶつぶつ言っているが、何を言っているのか上手く聞き取れない。
ここまで完膚なきまでに叩き潰したのだ。
プライドの高いこいつがこうなってしまっても仕方あるまい。
人狼を始める前はこんな風に好乃をボコってやりたいと思っていたが、実際にやってしまうと何か申し訳ない事をした気分でいっぱいだ。
というか途中からは好乃を含めたこの班で人狼をするのが楽しくて、復讐してやるみたいな気持ちは完全に霧散してしまっていた。
あぁ、可哀想に耳は真っ赤だし、妙に息が荒くなっている。
知恵熱でも出してしまったんだろうか?
キーンコーンカーンコーン。
「よし今日の授業はここまで! 号令はいいぞ~、掃除だけはして帰るようにな~」
そして終業のチャイムがなり、先生が去っていった。
「なぁ将太! これからどっかいかねぇか? カラオケとゲーセンどっちがいい? 俺もっとお前と仲良くなりたくなっちったよ!」
「き……紀田君……うん! 俺はどっちかって言うとゲーセンの方が得意だけど、カラオケでも全然いいよ? まぁアニソンとかボーカロイドしか歌えないんだけどさ……あはは……」
「え~将太ってボカロ歌えるん? うちもこう見えて実はボカロはまってんだよね~、精密採点でどれくらいいくん?」
「えっ? 全然低いよ? 90点くらいならとれるけど、最高は97点とかだったような記憶が……」
「えええええええ⁉ 超上手いじゃん⁉ ねぇ紀田、うちらも行くからカラオケにしてよ、ゲーセンとかその後いけばよくね?」
「いいね、いいね! だったらプリ取ろうよ! うち将太君とプリとりたーい」
え? え? え?
何? 何この感じ? 一体何が起きてるんだ?
何で俺みたいな奴がこんなカースト上位の皆と遊ぶ流れになってんだ?
歌なんて歌い手の友達に比べれば全然下手クソなのに……。
やっぱあれかな? そういう下手な奴が1人は欲しい適な意味なのかな?
「じいいいいいいいいいい…………」
そんな事を考えていたら、背中になんか殺気のようなものを感じた。
振り向いてみると、そこには目尻に涙を溜めた好乃が、今まで見た事もない顔で俺を睨んでいた。
あちゃ~……やっぱ怒ってるよな~……
「ねっ、ねぇ! お・さ・な・な・じ・み・の! 将太! 遊びに行くのはべっ、別にいいんだけどさ! あんま調子乗んないでくんない⁉ 早く学級日誌を届けに行くわよ!」
「えっ? あぁいいよ、翔田さんは先に帰ってて、俺が後で1人で届けに……」
「そう言うのいいから! 早く行くわよ⁉」
「はい…………」
あんだけ人狼でボコしたというのに、もう復活してしまったか……。
まぁいいや、あんな好乃初めて見れたし、俺にはこれくらいが丁度いいのかもしれない。
そして俺達はトコトコと職員室へ向けて歩き出す。
「よかったわね! 人気者になれて! おめでとう!」
階段を下りている最中に、そんな声が前から飛んできた。
勿論声の主は好乃。
どんな顔をしているか分からないが、声色と背中がアタシは不機嫌だと物語っている。
「はぁ…………」
自然とため息がでてしまう。
相変わらずよく分かんないキレポイントだ。
「なんで俺が人気も……少しクラスメイトと仲良くなっただけでそんな怒るんだよ?」
「はぁ? なななっ、何言ってんの⁉ アタシは別にそんな事で怒ってないし! ただ何? あんたみたいなキモヲタが友達の女の子をキモい目で見てるのが気に入らないっていうか! キモいだけ!
あ~もうウザいウザい! どうせ誰でもいいから彼女欲しいとか思ってんでしょ? 付き合えばいいじゃん! よかったね! いけそうだね! おめでとう! ふんっ!」
ほう、意味わからん。
こいつは一体何言ってんだ?
俺が井川さんや、江藤さんを? 有り得ない。
どんな間違いが起きようがそんな事は起こり得ないだろう。
こいつは全く本当に……。
プツン。
またも俺の中の何かがキレた。
「なぁ? 好乃」
「はっ、はぁ? 何よ⁉ またそんな風に名前で呼んだりして……いい加減調子にのりす……」
その瞬間、俺は好乃の手を思いっきり引いた。
「きゃっ!」
いきなりの事に小さい悲鳴をあげる好乃。
好乃はその勢いのまま壁に背中を軽くぶつける。
ドン!
そして俺はそのまま好乃の顔の横の壁に思いっきり手を突く。
「なぁ好乃、俺さ、人狼を馬鹿にされるより我慢出来ない事があるんだ」
「ひぅ⁉ なっ、何よ⁉ なっ、何意味わかんない事急に言ってんのよ? てっ、てか近⁉ 近いよ……ねぇ、ちょっと嫌だ……だめ……んっ!」
所謂壁ドンというやつを俺は今、好乃にやっている。
好乃のぱっちりとした目を見つめながら、キスしようと思えば出来る距離まで顔を近づける。
「どんだけ馬鹿にされてもいい、クラスメイト達の前でイジられてもいい、でもお前にお前以外の女と付き合えいいなんて言われるのは我慢出来ねぇよ」
「えっ⁉ そっ、それって…………」
「俺と付き合ってくれ好乃」
俺は長年の思いを口にした。
1週間後。
「おっ! おはよお将太、と……その……えっと……好乃のちゃん……」
「あぁおはよう紀田君、ほら、好乃のご挨拶しなさい」
「うぅ……おはようワン」
「よ~しよ~し、よくできたなぁ」
「んんんんっ!」
俺は好乃の首につけたリードを軽く引き、頭を軽く引っ張ると頭を撫でた。
すると好乃は羞恥に顔を染めながらも、嬉しそうな声をあげる。
「そのなんだ……将太……今日もお前等やってんなぁ……いや仲が良くて凄くいいと思うぞ? いいと思うんだが……その」
「仲がいいって、よかったな好乃。俺達ラブラブカップルらしいぞ」
「アッ……アンタ覚えときなさいよ⁉ 絶対今日こそ! アンタをボコしてにゃわああああ!」
俺の許可なく犬語をやめた好乃にしつけをする。
しつけと言っても大した事はしていない。
ただ小うるさい好乃の首を舐めただけの話だ。
「罰ゲームの終了時間は予鈴のチャイムだろ?」
「くっ! ……アンタがこんなどうしようもない変態だったなんてワン……屈辱だワン……」
俺と好乃のやっているのはペットごっこ。
あの授業以来、俺達のクラスでは人狼が大ブームになった。
そして昼休みになると俺と好乃は友達を集めこの罰ゲームであるペットごっこを賭け、人狼をしている。
ペットごっことは朝一緒に教室に登校してから、予鈴のチャイムがなるまで、負けた方が勝った方の犬になるという遊びだ。
ややアウト気味な行為だとは思うし、俺から賭けを持ち出しているわけではないのだが、何故か好乃はこの罰ゲームを賭けて毎日俺に人狼を挑んでくる。
「ほう、そんなに嫌なら別に別れてやってもいいぞ?」
「んんんんあぁぁ! そんな意地悪言わないでよ! 誰もそこまで言ってないでしょ⁉」
「冗談だ、大好きだぞ好乃」
「アタシもすきにゃわああああああ!」
全くしつけのなっていないメス犬だな。
「ルールはルールだ、犬語を忘れるな」
あんな人狼で俺達の関係がここまで変わる事になるなんて思いもしなかった。
あれから俺は毎日人狼で好乃をボコり続けている。
「なぁ好乃、土日は罰ゲームかけて人狼しないのか? 別にアプリを使えば出来ない事もないだろ?」
「いっ嫌よワン! 土日くらい普通のカップルでいさせなさいよ! ワン!」
「はいはい、分かったよ」
あと1分でチャイムだ。
流石にこんなところを先生に見られるわけにはいかない。
俺はどうしたらこの可愛い好乃を、土日も犬に出来るかなんて事を考えながら、首輪外すのだった。
初めて短編を書いてみました。
もしよろしければ評価お願いします。
もしも需要があるようなら連載版も視野に入れようかと思います。




