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初夜を駆ける

作者: 城柳 雪

 


 今晩は一年で一番忙しい夜だ。



 メアリーは地上を見下ろす。冷たい風が強く吹いて、長い黒髪を躍らせる。この地域では、今夜見る夢で一年を占うという習慣がある。ならばせっかくなので良い夢を、というのが協会の意向であった。

相棒のバクへ好物の麩菓子を与えてやりながらネオンが輝く眼下はせわしなく人が行きかい、あと少し時間が経てば眠る者も増えるであろう。


 メアリーの仕事は夢の管理である。害のある夢を相棒と駆除するのが平日の業務であるが、所謂「初夢」の今晩は異なる。良い夢を配る班から預かった羊たちを放牧するのだ。大した仕事ではないが羊という生き物は可愛い。もふもふとしており、実に可愛い。


「ああ、可愛い。可愛い可愛い可愛い」


 思わず借り物の羊に頬を摺り寄せ抱きしめる。

よく訓練された羊たちだけあり、大人しく賢い。相棒のバクは白い目でメアリーを見ているが気にしないことにした。


 人が害のある夢を見る理由はいくつかある。性格に起因するもの、体験によるもの、ストレスによるもの。

その中で今晩は偶然不運にも害のある夢を見てしまった者の元へ相棒と赴き喰わせる。後は羊たちがメエメエと夜空を駆けるのを眺めればいい。


「メアリー、もぐもぐ、悪夢がいるよ」


 相棒が麩菓子を頬張りなあがらその方向へ首を向けた。

黒い靄のようなものが見える。


「オーケー、行こう。羊のみんなはこのまま夢を撒き続けて」


 黒い鎌を担ぎ上げ、靄を見据える。なかなかな黒さだ。さぞ魘されっていることだろう。羊たちは了解とでもいうかのようにメエメエと啼き散らばっていく。


「初夢が悪夢なんてやだよねー」

「確かに。ちゃちゃっと片付けに行こう」




 今日は元旦。


 朝のうちにお参りを済ませた。

おみくじは吉。

仕事運は「努力により結果がついてくる」だった。ならば努力すればいいだけだ。恐らく悪夢はひとつやふたつではない。今夜は忙しくなる。



 淡く輝く羊が跳ねる中、悪夢を狩るため新年初めの夜空を駆ける。

寒いのは苦手だがこの夜は好きだ。




 さあ、人々よ。


安らかに眠り給え。


あなたたちの初夢は善いものとなるから。

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