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勇者、村から去る

朝起きたら宿屋が村人に囲まれていた。

この俺が、勇者が泊っている宿屋がだ!

「どうなってるんだ!」

「ちょっと宿の人に聞いてきます!」

「勇者様、落ち着いてください。今はまだ囲まれているだけです。いざとなれば突破できます」

「だけどなあ!」


いつもなら食堂で朝食の準備をしているであろう女将も、この状況には戸惑っていた。

「あの、女将さん。これはいったいどういう事なんでしょうか?」

「あんた確か勇者の仲間の回復役じゃないか!どうしたもこうしたもないよ!こっちだって朝飯の支度してたら急に連中に囲まれてびっくりしてるんだよ!村長の奥さんが死んだとか言ってるけど、あんたたち何しでかしたんだい!」

動揺しているからか昨日見せた人あたりの良さは見えず、怒鳴りつける。

「いえ、なにもしてません…」

回復役は、村長とその奥さんとあった時の会話を思い出してみたが、おかしなやり取りはなかった。

「なにもしてなくてこんな騒ぎになるわけないだろう!」

「私たちはただ、回復薬が余っていたら分けて欲しいと頼んだだけで…」

「それだよ!その話だよ!」

「え…?」

「あんた達が欲しがってる回復薬、村長が嫁さんのために買ってきたやつだよ!身重なのに大怪我して死にかけてた嫁さんのために、村長が有り金はたいて買ってきた回復薬を分けてくれなんてどういう了見だい!」

「い、いえ、私たちがお会いした時はもう治ってらっしゃいました!」

「じゃあ、あれだ、嫁さんが自分のために使わせた事が申し訳なくて、思いつめて死んじまったんだろ」

「そ、そんな…」


そうこうしている間も、囲んでいる村人たちの熱量は上昇していく。

「おい、村長に謝れ!」

「村長の嫁さんに謝れ!」

「そうだそうだ!謝れ!」

「謝れ!謝れ!」


「言っちゃあなんだけど、いま表に出たら危ないよ。裏も囲まれてる。腹が減るころには少しは人数も減るだろう。そのころを見計らって出ていた方がいい」

「いえ、私たちが来た事でご迷惑をかけたのは事実です。謝ろうと思います」

「やめときな!いくら勇者の仲間だっていってもあんたは戦う力なんてないんだろ!」

「それでもです」

「はあ、わたしゃ知らないよ」


「おい、一人出てきたぞ」

「皆さん!私たちが来た事でご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした!すぐに出ていきます!」

「出て行くだけで済ませる気か!」

「村長から逃げる気だぞ!」

「逃がすな!」

何処からともなく回復役に石が投げつけられると、周りの村人たちも続いた。

「すみません、すみません、すみません」

回復する事しかできない回復役は、謝るしかできない。



どのくらいの間投げつけられただろうか。遂に顔に当たり、崩れ落ちたところで

「やめろーーーー!」

勇者の声が響いた。

「勇者様!」

「こいつはただの回復役だ!何も悪くない!」


「おい、勇者だぞ」

「どうするんだ」

「やり合って勝てる相手じゃねえことぐらい分かってただろ!」

「じゃあなんでこんな喧嘩を売るような真似したんだよ!」

「いや、お前が文句言いに行ってやるとか言うから」

「それはお前が先に言ったんだろ!」


「で、どうするんだ。このままやるって言うのか」


「お、おい、どうする」

「い、いや、その」


「何もないって言うんだったら俺達はこのまま出て行く。それでいいな?」


「あ、ああ…」

さっきまで威勢はどこへ消えたのか、あっさりと村人たちは帰っていく。


「遅くなって悪かったな」

「でも、ちゃんと来てくださいました。やっぱりあなたは私の勇者様です」

「恥ずかしい事言うなよ…」

「私も恥ずかしいんですよ?」

「なら…」

「でも本気ですから」

「…さて、今のうちに出発するか」

「はい!」


結局、回復薬は手に入らなかったが、仲間との絆が深まったんだ。それで良しとしようじゃないか。



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