※勇者は素寒貧になった!!
笑わないで聞いて欲しい。
俺の職業は『勇者』である。
「へっ――くしょい!!」
現在の俺の装備――ただのぬのきれ。
Lvは表示上は99だが、たゆまぬ努力で、Lv表示の意味の無い所に達している。
俗に言うステータスと言う奴は、999とかの表示では既に無く、神代文字でFFFFという表示になっている。
そんな俺が、ただのぬのきれ一枚で、路地裏に転がっているのには、訳がある。
− − − −
一年前、俺は、足掛け5年に渡る『魔王討伐』の旅を終えた。
15から旅に出て、数多の戦いの経験を積み。
幾重にも連なる山々を越え、無限とも広がる海原を越え。
当初の目的だった筈の『魔王』は、『大魔王軍』の『四天王』配下の『十六人衆』の――ああと、要するに、下っ端だった。
ともあれ――そいつ倒したので旅は一旦終わりです、となったなら良かったのだが、下手に突付いた事によって、『大魔王』から目を付けられてしまい――
もう、口に出すのも面倒なぐらい、色んな事があった。
しかし、兎に角一年前。
『大魔王』を打ち倒し――俺は故郷に錦を飾り、そして伝説に――なれなかった。
送り出してくれた母親は、心労で亡くなっていて。
国の姫を后に、何て話は、5年の間に別の者の婿入りが決まり。
軍団率いる兵法知らないから、騎士団長でもなく。
そもそも、ステータスが常人には読めない表記になってしまっていて。
俺は、『勇者』という名前を持った、ただの人以下の存在になった。
『転職の神殿』へ行ってみたら、「そればかりは罷り成らん!!」とか言われた。
何言ってんだふざけるな、と暴れて、神殿を半壊させそうになったのは半年前だ。
旅の途中で稼いだ小銭は、その修繕費に半分飛び。
一緒に旅をした『僧侶』に、『勇者として大魔王軍に荒らされた国々の為に浄財を』と言われ、国の手前ケチるわけにも行かず。
それでも、預けてた金で、一生つつましくなら暮らせるかな、とか思ってたら、『預かり所』が消えていた――いや、正確には、国の管轄になって、その国が別の国と戦争して滅ぼされていた――まあ、あの国、嫌な王様だったしな……
それでも、手持ちは幾分かあった――だが――
− − − −
「へ――っきし!!」
……賭け事は、やるもんじゃない。
というか――相手が止まって見えるからって、勝ちまくるのは良くない――
イカサマを疑われて、囲まれてこの様だ。
本気出して殴って逃げようかと思ったが、それやったら『神殿』の二の舞だ。
あるいはもっと酷い事になりかねない――一般人を、大魔王と交えた拳で殴る訳にもいかないしな――イキってても、『大緑蟹』相手にも敵わない一般人な訳だし。
『戦士』は自国の将軍。
『僧侶』は教会の偉い人。
元『魔法使い』で、現『武闘家』は流派の長。
最後の戦いに赴いた中で、俺だけがこの様だ。
「――『勇者』、か――」
世界は平和になった。確かに。
だが、実際は――『魔王』という脅威が無くなって、人間が再び人間らしく競い合い、争い合い始めただけだった。
『伝説の武具』を得る為に会った『神々』は、それに介入する気はないらしい。
――『剣』手に入れるために、『武神』を全力で殴り伏せたのがいけなかったのだろうか――いや、でも、『全力で掛かってくるが良い!!』って言ったの、あの神だし。
「――ふ、ふふ、『勇者さん』、『勇者殿』、『勇者さま』――
だーれも、俺の事なんぞ――覚えてやしない――」
そもそも論ではあるのだが、俺は『勇者』に成りたくてなったんじゃない。
行方不明になった父親が『勇者』と呼ばれていたから。
その息子として、周囲の期待に応えざるを得なかっただけだ。
――それでも、意義はあると思ったから、自分で選んだのだけれど。
必死に訓練して。
必死に戦って。
そうして――費やした五年は、故郷の人からすら、『俺』を奪っていた。
『勇者』の名声が。
『俺』の名を奪う。
誰も『俺』を見はしない。
誰も『俺』の声を聞きはしない。
もう、誰も――
「――何してるんですか? 『レト』さん」
――誰だ、俺の、名前を――
「って、なんちゅう格好してるんで――股を隠せ!!」
「痛い!! だ、誰だお前!!」
「おっおー、何て薄情な。自分がぶん殴った相手の事は覚えてませんか?
酷い話だ!! あんだけ激しく戦い合ったのに!!」
……え?
「……『魔王』?」
「箔を付けるためにそう呼ばれてるだけと言ったでしょうに。
はい、本名思い出してー、さもなきゃ、この街を焼きます」
「ルベリア!!」
「ぴんぽーん」
――もう何もかも無いと思った俺の名を呼んだのは、俺が殴り合った相手だった。
− − − −
『魔王』――それは、この大陸の北端に、唐突に現れた、人間の脅威。
大陸北端の王国を、無数の軍勢で一夜で滅ぼし――そこに住まいした。
元々、その地が険しい山脈に囲まれていた事も有り、また、他国への玄関口としていた港湾も、魔物が封鎖し――僅かに逃れてきた王侯貴族たちが、救援を募った。
何人もの『勇士』『勇者』たちが、その地へと赴き――帰らなかった。
− − − −
「――帰れなかった、じゃなく、帰らなかった、だったんだけどな」
「人間がどうやったら『転ぶ』かは、しっかりと研究してから来ましたからねぇ」
俺が足を踏み入れた時にはそこは、あらゆる意味での誘惑の都に姿を変えていた。
『カジノ』から『ぱふぱふ』まで、と言えば分かりやすいだろうか。
『戦闘狂』には魔界産の魔獣たちとの戦いの舞台まで用意されていた。
おまけに、こいつは――『魔王』としてではなく、町の受付に居て、もぎりをやっていた。戦いまで行ける訳が無い――俺だって戦えたの、半分偶然だしな。
「みんなバカ正直に王宮目指して、ダミーに切り掛かってスポーン、ですもん」
「懐かしいな、『戦士』が落下して行ったっけか――」
「『んほぉぉぉぉぉ!!』ってね。あの叫びで笑っちゃってバレたんでしたっけ」
「――というか、考えると、お前が一番えげつなく『魔王』してたな。
『魔術封じの煙』、『弱体の光線』、『武器殺しの力場』――」
あ、涙出てきた――最初のボスがこんなだったんだぜ?
「だって皆さん、話聞かないんですもん。
『大魔王から命令されてきたけど、ハラワタ食い荒らす気はありません。
実効支配している、という形が取れてれば、出来るだけ自由は保証します』
って言ってるのに――貴方なんて下着一丁で殴り掛かって来るし」
「武器防具全部封じておいて言う事じゃないだろ――
お前もノリノリだっただろうが――『くるがよいゆうしゃよ(がおー)』って」
「運動しないと、すぐお肉付いちゃうんですよね、ほら(ぷにー)」
「腹を摘むな!! そんなフランクで『下』に弱いのはなんだお前!?」
「私女子校出ですし」
知らんっ!!
「――というか、服まで貰っておいてなんだが、何故助けた?」
「やですねえ、あげた訳じゃ在りませんよ? ちゃんと請求しますよ?」
――ああ、うん、そう言えば、そうだっけか、お前。
「――儲かってそうだな、『商人』」
「貴方が五年掛けて『強硬派』駆逐してくれてる間に、ガッポリですよ、ガッポリ。
ちょろいっすね、人間の商人社会も、ぐへへ」
「――金貨風呂な顔は止めろ、女の子だろ、お前」
「あいあい」
――マジでこいつは、無茶苦茶だ。
俺と戦った後、しれっと人間界に馴染んで、挙句に旅の途中、ちょっと行動を共にしたり――しかも理由が『商品の仕入れ』だ。『魔界』行くって言ってんのに。
まあ、水先案内人として、雇った俺も俺なんだけど……
いや、あの時こいつ化けてたしなあ……偽名だったし……
そんなこいつが、何を目的にあの裏路地から俺を引っ張ってきたんだ。
今居るところも、冒険中なんか入った事も無い高級酒場の特別室だし……
「あ、でも、お酒と料理はおごりです、たんとお上がんなさいな」
「……いや、いい。金は作って、返しに来る――」
「どうやってですか?」
にこやかに、痛いところを突きやがる。
「『勇者』として名が知れ、冒険者ギルドの類からも、
『勇者様にお世話できる程の仕事など――』って言われてるんですよね?」
「……傭兵でもやるさ」
「あっはっは!!!! 無理無ー理ー!!!!
レトさんが動くだけで戦争が休戦するんですよ?
王様に挨拶に行って、それだけで幾ら貰えるんです?」
「だったら鉱夫にでも――」
「冒険途中の杵柄は分かりますけど、レトさんの能力でやったら、他の鉱夫がストライキ起こしますよ? どこも基本、歩合ボーナスありですから」
どうしろって言うんだよ!?
言われて改めて気が付いたけど、八方手詰まりじゃねえか!!
「――まあまあ、座って下さいよ。
レトさんにとっても悪くない、悪い話をしましょう、ってんですから」
「――悪い話、だと?」
「商人が『良い話』すると思います? 儲けを度外視して動くときの商人って、基本その向こうのより大きな儲けを睨んでるんですよ? そんな人種が?
――って、私は厳密にはヒトじゃないですが、失敬失敬」
そういうと、そいつは、スッと目を細めた。
「レトさん。『魔王』に成りませんか?」
…………
「帰る。お会計――ああ、まだ俺水すら飲んでないけど――」
「待って、話聞いて、行かないでプリーズ、話が進まないでしょうが!!」
「そんなふざけた話、『いいえ』するに決まってるだろうが!?」
「待って待って、私も不本意なんです、平和主義者ですから基本!!
でも貴方でも連れてかないと――」
「連れてかないとなんだよ!?」
「『大魔王』不在の魔界がどんなか、想像してくださいよ!!」
「知るかよお前等のお家騒動なんか!?」
「違うんですってば!! 聞くだけ、触りだけでいいから!!」
− − − −
「……天界が、魔界に侵攻?」
「そういう噂があるんですよ。魔界のあちこちでね。
理由は明々白々で、レトさんが『魔界がただの荒涼とした土地で無いと証明したから』です――意味分かります?」
――いや、その、確かに、ぶっ壊れてた神器を直す為に、魔界まで金属盗掘に行ったりしたけどさ――
「というか、仕方ない事なんでしょうけど、『僧侶』さんがペラペラ喋っちゃいましたからね――『御使い』連中に」
「あー、うーん、その、スマン」
あのおっさん、本気でガチ信仰者だからな……
「――つっても、天界がわざわざ攻め入る必要性、無いだろ」
「在るでしょう。遥かな昔に闇の彼方へと放逐した相手が、自分達より文化面で伸びてしまっていたら? そりゃ戦闘民族ですし、血みどろでは有りますけど――というか、両方を見た貴方には、言うまでも無いでしょうけど」
「う――うーん、まあ――」
魔界は兎に角、全てが激しく、エネルギッシュで開放的。
天界は――なんだろうな、引退した後なら住み易そうな――んで、閉鎖的。
「まあ、他人の持ってるモノは綺麗に見えますし」
「――それを理由に、ってのは、弱くないか?」
「理由もう一つは、あなたそのものでしょう――武神に勝てる人間が出て来てしまった、てんで、焦ってるんでしょうね」
ちが、俺の責任じゃないだろそれ。
「いや、それを責任取れとか言ってるんじゃないんですよ?
でも――はっきり言わせて貰いますよ? ネコ派勇者?」
「おい、なんだその称号」
「辺縁地帯で『猫人』たちと戯れてたじゃないですか」
誤解だ!! あいつ等が勝手に懐いてきたんだ!! ネコは好きだけど!!
「――あ」
「分かります? 最初に犠牲が出るとすれば、彼らの様な存在ですよ?」
……魔界の入り口近辺だもんな、あの連中の住処……
「…………」
「言っておきますけど、魔界の上が、彼らを保護するとは限りません。
人間界に逃がしても無駄だと思います。
何故なら――天界の最終目標が、魔界侵攻で終わるとは思えないからです」
「――俺が止める」
「単騎でどこまで倒せますかね? 倒して倒して、その分だけ相手が苛烈に他を責め苛まなければ良いですけど」
「……それは――」
「まあまあ、待ってください。『魔王』になる場合のメリットがあります」
「デメリットもあるだろうが」
「まあ、デメリットは些細な事ですよ。
人から裏切り者呼ばわりされる可能性。
神から反逆者呼ばわりされる可能性。
――で、それがなんです? そんなに重大で甚大ですか?」
――そういわれると、大した事無いような……今も、世間の風が冷たいし……
「メリット行きますね。
基本的に、魔族は強い方には服従します。
つまり、貴方が強さを示す限り、どんだけ酷く扱っても、ちゃんと付いては来ます」
「いや、そんな、お前じゃないんだから……」
「あんな善政敷いた奴になんて事を!! ――じゃなくてー。
次々――『酒は美味いしねーちゃんは綺麗』」
――事実といえば事実なのが、なんとも……
旅してた当時は、『勇者殿は未成年でありますから!!』って『僧侶』に訥々と説教されて、結局味わえなかったが、『戦士』と『魔術師』がうめぇうめぇ言ってたし……
「んで、も一つ。
『私がパートナーにつきます』」
「……デメリット、じゃ……」
「なめんな!! 『おはよう』から『はわわ』までこなせる万能軍師ぞ!?」
超が付く有能さは認めるけど、この性格だもん、お前……
「で、駄目押し――
『貴方が貴方らしく生きられます』」
「…………」
「違います? 本質的に貴方は、『手を選ばないで、最良のやり方』を好む筈。
魔族は性情的に近いですよー?」
……見透かされてる……
「――何故分かる……」
「ふふん、ストーカー舐めんな――ちが、引くな、引くなぁぁぁぁ!!」
「挙句電波系か!?」
「ちがうってばー、人脈は大事、これが資本ネ!!」
「何語!?」
「いや、ストーカーは冗談です。この状況に一番の人材、って考えて探して、更に掘り下げて調べたんですよ、丹念に丹念に、好むカップサイズまで、うぇひひ」
いかんでしょ……
「因みにレトさんはAAAから射程圏な――ごめんなさい、最終奥義構えないで」
「ファッ――何が悪いんだ――御乳はデカさやないんや――ファッ」
「いや、特殊性癖暴露されたわけじゃなし、落ち着こうよ、ね?」
− − − −
「一応、リクルートでした、とね」
「――お前のメリットが不明なんだが」
自分で利の無い事はしないと言って置きながら……
「そうですねぇ――『魔王なんてクソ面倒な事しないで済む』、ですかね?」
「おい」
「ああ、違います。私がやるとね、ほら。細々した事が気に成りだして、睡眠時間が」
「魔族の癖に、神経質なとこあるもんな、お前……」
「大雑把は大雑把なんですけど、一度気に成りだすと、もうダメですもん」
『戦士』のイビキがうるさいつって、本気で伝説の枕探してたもんな……
「後――私も好きですし。猫」
……はあ。
「かといって、『ひよっこ勇者』に殴り合いで負けた私じゃあ、戦えませんからねえ」
「……統治の仕方、とか、全然知らんぞ、俺。財務とか――」
「んなもん、文官に任せりゃいいんです。私がチェックしますから、不正なんてしたら、素敵な未来に御招待ですよ」
「――魔族が、勇者に従うのか?」
「やだなあ、どっかの世界では、その父親にすら従ってるんですから。
問題にも成りませんよ――それに、意外と人気有りますしね、レトさん」
「――『魔将の息子』だからな」
「親父さんは、マジモンの英傑でしたから」
そう――行方不明の親父は、記憶を失い、魔界で武将をしていたのだ。
……まあ、正確には、とある国で騙まし討ちにあって、『鎧』に生かされたらしいが――親子揃って、人に恵まれないとか、なんという『勇者親子』なんだか……
――倒したよ。一騎打ちで。
「――成るよ、『魔王』」
「――はい。精一杯支援します」
……人間に未練が無いではないが……
まあ、居場所無いからな、この社会に――
「――まあ、候補からですけどね」
「……なんて?」
「情勢不安だから、そんなに居ないと思いますけど、他の候補と競い合って――」
「面倒事から逃げたいだけじゃんかお前!?」
「あったりめえですわい、ひひひ」
「無し!! やっぱ無し!!」
「だめですねえ、言質ちゃんととりましたし、この『誓魔の書簡』にばっちり――」
「太古の禁呪だろそれ!? なんてもんを使って人をはめてやがる!?」
− − − −
――こうして、俺は、『魔王』を目指す事に成った。




