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大嫌いな女  作者: ざっく
2/4

イライラする

最初の会議はスムーズに終わった。


直哉がデザインの説明をして、陽花里がこれからの計画を提示する。

方向性が分かれば、後は定期会議以外はそれぞれの仕事を始めるだけだ。


「じゃあ、渋谷さん。よろしくね。席は私の隣に持ってきてもらうわね」

席と言っても、大きなテーブルにチェアーを持ってくるだけだ。

そこに資料を持ってきて、名刺などの注文もしなければならない。

「ええ~、私も加藤さんの隣がいいですう」

「……は?」

席の場所について、いきなり意見を言われると思わなくて、一瞬思考が固まった。

座る場所としては、直哉が広い場所に座り、その横に陽花里、直哉と反対側に瑠衣のつもりだった。

直哉を挟んでサポーター二人が座ると言うことか?

「いや……それは、仕事がやりにくいし」

陽花里と瑠衣が連絡を取り合うことの方が多いはずだ。

何より、設計図を開く直哉の場所をサポーターが邪魔しては何もならない。

「ははっ。仕事を教えてもらわなくてもよくなったらおいで。それまでは、そこで頑張れ」

陽花里が何と答えようかと考えていると、直哉が笑って答えた。

「じゃあ、すぐにそうなります!」

「期待してるよ」

両手を胸の前でこぶしを握る彼女に、直哉は優しく笑う。

その視線が、そっと下に動いて彼女の胸を見たことに陽花里は気が付いた。

陽花里が気が付くほどだ。見られた本人はしっかりと分かっているだろうに、うふふと知らぬふりで胸を強調させるように肘を寄せていた。

「渋谷さん、じゃあまずは、いくつか見積もりに出すための資料を……」

陽花里がその様子を無視して書類を広げると、不満そうにため息を吐かれた。

その書類を見ると、直哉もチーフと話をしに行った。

瑠衣は、座りながら陽花里を横目に見て

「空気が読めないんですね」

呆れたと言わんばかりに吐き捨てた。

彼女の態度から予想していたことなので、その言葉を無視をして陽花里は彼女に仕事を割り振っていった。


一週間後、陽花里は彼女の態度に毎日イライラしている状況だった。

「渋谷さん、会議室予約出来てないの?」

会議の予定だった部屋に、他の予定が入っているのを見て、陽花里は隣の瑠衣に聞いた。

彼女はいじっていたスマホから顔を上げて

「できてますぅ」

ふんと鼻を鳴らしながら返事をした。

「でも、実際、予定が入ってないから聞いてるんでしょ?どうなって――」

「あれ、陽花里聞いてない?第三会議室に予約出来たって、俺、連絡受けたよ」

陽花里の後ろから、直哉が不思議そうに言う。

「え?第三?」

「第一が予定が入ってたから、第三でもいいかって聞かれて、良いよって返事したよ」

「あ……そう」

瑠衣を見ると、またスマホに戻っている。

デザインの勉強をしているということだが、この態度はどうだろう。

陽花里は、大きく息を吐き出して、イラ立つ気持ちを落ち着けて声を出した。

「渋谷さん、会議室の予約をお願いしたのは私よね?だったら、その結果は私に教えて。変更も知らせてもらえないと、他の人に連絡をしないといけないでしょ?」

一生懸命冷静な声で話したつもりだが、そもそも息を吐いたところから、陽花里が怒っていることは分かるだろう。

「変更の連絡は俺がしたよ。そんなに怒るなよ」

――私が知らないのよ!

思わず声を荒げそうになってしまった。

ここは怒るべきところだ。そして、連絡をサポーターがしないなんて。

「私は渋谷さんに注意をしているの。直哉は口を出さないで」

陽花里が彼を睨み付ける。しかし、彼は瑠衣を心配そうに見ていた。

「だって、泣きそうじゃないか」

「そんなの関係ないの」

間髪入れずに返事をする陽花里に、彼は肩をすくめてパソコン画面に視線を移す。

そして、陽花里はもう一度瑠衣に視線を向ける。

彼女が採用されて一週間。

彼女は仕事ができないことは無い。--が、やる気が足りない。

直哉が見ているところでは、ものすごくやる気に満ちている。

このスマホでデザインを検索するのも、直哉に「いろいろなデザインの見るのは勉強になるよ」と言われたから始まった悪癖だ。

まだまだ、仕事の内容を覚えなきゃいけない時に、デザインの勉強も何もない。

しかも、彼がいなければ、その画面がSNSなどに変わるのを陽花里は知っている。

「渋谷さん、私の言うこと分かる?」

泣きそうだと直哉に評価された顔は、赤くなって涙はにじんでいる。しかし、彼女の眼は陽花里を睨み付けてきた。

「すみません。私、気が付かなくって」

気が付かないってこと、ある?

頼んだ人間に返事をするなんて、当然ではないのか?

同じ間違いを二度としないように繰り返し言うと、瑠衣は涙をこらえるように陽花里を見上げてきた。

「朝月さん、ずるいです」

またも思考が止まりそうだった。

今、陽花里は彼女を怒っているところだった。何故に、ずるいとかいう言葉を出せるのか。

「同じサポーターなのに、加藤さんとは朝月さんばかり話すし、私はお話しできないじゃないですかっ!それに、それにっ……お二人は名前で呼び合ってるのに、私は名字のままだし」

お友達ごっこがしたいのか。

お話ができないと泣かれたことは無かった。

陽花里は呆れた目を彼女に向けて、口を開こうとした。

「なんだ。名前くらい。直哉って呼んでいいよ」

――だから、口を挟まないで!

一瞬で頭に血が上った陽花里を尻目に、二人は仲良くお話を始める。

「本当ですか?嬉しい!私も瑠衣って呼んでくださいっ」

「ああ。――いいよな?陽花里?」

陽花里を宥めるように顔を覗き込んでくる彼に、睨み付けることで返事をする。

ここでこれ以上何かを言えば、陽花里一人が悪者だ。

彼女は疎外感を感じていただけだし、直哉と話したかっただけ。

陽花里はそれをわざと邪魔していたということか。

「分かったわ」

呼び名とか、誰がそんな話をしていたと言うんだ。


呼び捨てにされようとどうだっていいことだと、陽花里は言いたいことをぐっと飲み込んで、これ以上関係を悪化させないために頷いた。


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