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大嫌いな女  作者: ざっく
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最高のコンビ

静かなその会議室で、紙がめくられる音だけが響いていた。

そして、この部屋の視線を一身に集める男性が、顔を上げて頷いた。

「いいでしょう」

そして、手に印を持ち、契約書欄に印を押した。


その途端、ふっと空気が緩み、直哉と陽花里ひかりの顔にも笑顔が戻る。

「ありがとうございます!」

二人は同時に立ち上がり、男性に頭を下げた。

男性も厳しそうに見える顔に笑みを浮かべ、満足そうに頷いた。

「期待していますよ」

「お任せください」

直哉は胸を張って請け負った。


オフィスビルが立ち並ぶ一角の、ひときわ美しいビルから、二人は高揚感を抑えられないままに出てきた。

陽花里は、今交わしたばかりの契約書を大切に抱きかかえ、直哉を振り返った。

「やったね!」

直哉も、喜ぶ陽花里に表情をほころばせる。

「ああ。――さあ、これからが勝負だ」

その言葉に、陽花里は笑みを深めた。


彼――加藤直哉は、建築デザイナーだ。

六年前、直哉はデザイナーとして、陽花里は事務員として、今所属している菊池デザイン事務所に就職した。

同期で入社したものの、立場は大きく違っていた。

彼のデザインは高く評価され、大学生時代から幾度も賞を取ってきていた。

対して、朝月 陽花里は建築に興味があって、建築学科を卒業したとはいえ、彼の足元にも及ばない。デザイナーではなく、ただの事務員としての採用だった。

彼は所長に認められ、入社後一年でフランスへ勉強をしに行った。その後四年、様々な成果を上げて日本に戻ってきたのだ。

そんな彼に刺激を受けて、陽花里もスキルアップを目指した。

入社後、五年間でたくさん勉強して、デザイナーのサポーターとしての経験を積んだ。

インテリアコーディネーターやプランナーの資格を取得し、CADを扱えるようにもなった。

それだけの頑張りを認められて、陽花里は帰国した直哉とコンビを組んで仕事を行うようになったのだ。

直哉とは気も合うし、同い年と言うこともあって気安い。何より、彼と取り組む仕事はやりがいがあった。

小さな歯科医院のデザインから、大きなビルの設計まで、彼は緻密にデザインする。

それをアシストするために陽花里も、立地予定地の写真を撮って、街の風景にそのデザインがどう馴染んでいくのかなど、あらゆることを検証する。

お互いに意見を言い合って、さらにデザインをいいものへと変化させていく。

直哉と陽花里は、最高のコンビだと思っていた。


「ただいま戻りました!」

陽花里たちが事務所に戻ると、部屋にいる全員が二人を振り返った。

そこで、陽花里は直哉に視線を向ける。

直哉もにっこり笑って、親指を立てた。

「取りました!」

その途端、わっと部屋が沸く。

「よくやった!よし、チームを組むぞ。所長に連絡を取ってくる」

チーフが大喜びで電話をするために奥の部屋に入っていく。

菊池デザイン事務所の所長は、他にもあらゆる業種を掛け持ちする忙しい人で、なかなかこの事務所に顔を出してくれない。

だから、実質この事務所のデザインは、直哉がトップなのだ。

その人とコンビを組めるなんて、陽花里はこの仕事に充実感を感じていた。

「私はデザインのコピーを冊子にしてまとめるね」

これからはチームで動くことになる。

その全員にコンセプトなど、正確に伝える必要があるのだ。

「ああ、頼む」

直哉と陽花里は目を合わせて、どちらからともなく手を叩き合わせた。



次の日、会議室にはチーフを筆頭に直哉、陽花里、会計担当の松井汐音、技術担当の鐘ヶ江修が集まった。

松井も鐘ヶ江もベテランだ。他にも仕事を持っているだろうに、そこからこちらに引っ張ってくるほどの大きな仕事だと言うことだ。

そして、もう一人。

「渋谷 瑠衣です。よろしくお願いします!」

新入社員がいた。

ショートボブの髪をフワフワのウエーブにさせて、小柄な体に小さな顔。大きな瞳に、ピンク色の小さな唇。童顔にも見える割に、胸が大きくて羨ましい限りだ。

「渋谷さんには、朝月さんと一緒に加藤くんのアシストをしてもらう」

チーフが直哉を紹介すると、上目遣いに彼を見て、

「お願いしまあす」

小首をかしげて挨拶をした。

「ああ。よろしく」

直哉がにっこり笑うと、彼女は頬を染めて俯いた。

直哉は、そんな彼女を微笑ましそうに見つめていた。


――陽花里はその二人の様子を見て、少し、嫌な予感がした。


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