第44話『心を埋める鉄条網』
私の真ん中にポッカリと空いた風穴に、
寺脇さんという春の嵐が吹き荒れ…
ぐんぐん温められて熱を帯びていったその風穴の至る所に
ビッシリと新しい芽が生え、花が咲き…
そして、
その咲き揃った花たちを、
引きちぎるように無理矢理
根こそぎ全てむしり取らねばならなかった。
もう、本当に疲れた。
私は、むしり取った花たちの代わりに、
無意識にトゲだらけの鉄条網をビッシリ詰め込んでた。
もうこの風穴に誰も、何も入り込まないように。
埋まることの無い私の風穴を
鉄条網で埋めることにしたのだ。
無意識に…
意識的にしたわけじゃない。
誰も、何も、私の真ん中に入ってこられないようにだなんて、
意識して考えて拒絶しようと思ったわけじゃない。
ほんとうに無意識に、自然にそうなってた。
ただ、「疲れた」とだけ、
強く感じてた。
恋をすることに疲れた。
愛することに疲れた。
人を拒絶したくなったのではなく、
恋したり愛したり、自分の心に波風が立つことにホトホト疲れてた。
ただそれだけ。
人を愛するエネルギーを使い果たしてしまった感じ。
春が終わり、
その夏に知り合った千原君とも、
私は呑み友達、親友、というスタンスで居心地がよかった。
彼とはとても気が合ったし、楽しかったし、
何より気楽でいられた。
33歳になった私、身の回りの女友達はさすがに大半が母。
しょっちゅう外食だの呑みだの、延々と付き合わせるわけにはいかない。
自然と男友達と一緒にいることが私の日常になってた。
私はバツ2で独身、会社経営者で33歳。
そう聞けば男の人は大抵ヒキ気味になる。
それが私には都合が良かった。
色っぽい関係にはなりたくないのだから。
そうして気楽な男友達とツルんでは
平和で楽しい日々を過ごすようになった。
千原君はそんな中でも一番の引っ込み思案な男で、
いわゆる『草食男子』の典型、
というか、草にすら食欲を示さないような、
そう、『植物男子』ってかんじ。
二人っきりで部屋でビデオ観て朝まで過ごしても、
酔っぱらって一緒に帰ってザコ寝しても、
何も起こらない。
そんなふうにいつもツルんでた。
秋も過ぎ、クリスマスが近付いてきた頃、
千原君は思いがけない言葉を口にした。
「…じゃあさ、俺と付き合っとく?」
「は?なにそれ?」
「何って、だから俺と付き合っとかない?」
「しょっちゅう付き合ってんじゃん?」
「いや、だから、そーじゃなくて…」
「違くないじゃん。」
「俺の…、彼女になってくれませんか?」
「え〜〜〜ちょっとぉ、何言ってんの?」
「めっちゃ真面目に言ってるんですけど…」
「何よ、急に…、冗談キツイって。」
「だから、マジなんですけど。」
「……。」
「俺のこと嫌い?」
居酒屋の喧騒がなんだか一瞬静まったような
錯覚を感じた。
「嫌いなわけないじゃん。
いくらなんでも、嫌いな人とこんなにツルんでないっしょ。」
「俺は、貴女が、好き、なんです。」
「……。そりゃ私だって好きだから一緒に遊んでるんだよ、
だけど、だけど…、好きは好きでも、そういう好きじゃない。
…ぶっちゃけてごめん。」
「<そういう好き>じゃない、か…」
「あ、千原君のことが、というよりも、今の私は、
誰のことも<そういう好き>にはなれないみたい。
そういうの、ホトホト疲れちゃっててさ。
誰ともそんな気になれないんだよね。」
「……」
「だから、今はすごく楽しいし、
この関係は大事にしたいなと思ってるよ。」
私はもう嫌なのだ。
人に恋して、人を必死に愛して、
疲れ果てるのが嫌なのだ。
恋愛をする気力が無い。
恋愛は諸刃の剣だ。
気持ちが高揚してドキドキして楽しくて、
嬉しい幸せもいっぱい感じることが出来る。
その反面、
寂しさや切なさや、
苦しい気持ちになることもある。
もう泣くのは嫌なのだ。
今のまま友達と楽しくやってるだけなら、
平和で楽しいだけの日々。
そういう心の平穏を壊したくない。
千原君はそんな私の話を聞いて、
『植物男子』らしく一旦は引き下がった。
しかし、
草花のしなやかさに似て、
ポキンと折れてしまうこと無く、なめらかにしなった体が
ゆっくりと何度でも起きてくるかのように
『植物男子』らしく…
その後もまた同じような話をしてきては、
私に「今のままでいようよ。」と言われ、
友達関係を続けていた。
34年間、草食どころか、植物のように生きてきていた彼には、
自分から恋愛に行動を起こすなんてこと自体、無いこと。
ましてや、それを思いきって口にして断られたのに、
それでもまだ諦めずに同じことを口にするなんて、
人生の一大事だった。
「なぜだかわからないけど、
この人だけはどうしても…って、そう思ったんだ。
こんな頑張ってる自分は初めて。」
「それは、光栄です…って言えばいいのかな。
でも、ごめんね、恋愛する気力はもう無いの。」
「……。」
「……。」
「あのさ、最後にもう一回だけ、信じてみて。
もう泣きたくないっていう気持ちは解ってるから。
恋愛しても、楽なまま、幸せなままで居ることも出来るって、
最後にもう一回だけ信じてみて。」
「だけど…。
仮にもう一回だけ信じてみようってのがアリだとしても、
でもそもそもやっぱり千原君の事<そういう好き>とは違うのよ、
申し訳ないけど。」
「でもこうやって一緒に居て楽しいとは思ってくれてるんでしょ?」
「うん。そういう意味では好きだと思うよ、でも、
恋じゃない。」
「いいよ、それで俺は十分。
女の子はね、自分が愛するんじゃなくて、
愛されるほうが幸せだと思うよ。
ただ愛されてるだけなら、泣くことも無いでしょ。」
「……。」
「俺のこと<そういう好き>じゃなくてもいい。
俺のそばにいて俺に愛されてるだけでいい。
それなら泣くことなんか無いでしょ。
もう一回だけ信じてみて。」
そうして私は心の平穏を手に入れた。
高揚することも無い代わりに、
波風は立たない穏やかな安らぎの日々。
心に詰め込んだ鉄条網が、
私に平和をもたらしてくれた。
鉄条網で埋めるしかない心の風穴。
ノブヒコさんを失って出来たどうしようもない穴。
そう、あれから丸二年が過ぎていた。
二年前の一月十九日、
ノブヒコさんの誕生日、午前零時に別れのメールをして…
彼もそれを受け入れる返信をくれた。
お互い、この世の誰よりも愛してる。
でも、これ以上苦しむのはやめよう。
これ以上罪を重ね続けるのはやめよう。
だけど、誰より愛してる。それは変わらない。
きっと、さよならさえも永遠の絆になる…
二人ともそんな気持ちを伝え合って、
逢うのをやめた。
恋愛関係に固く封印をした。
あれから独立起業して仕事を始めた私。
元いた会社もクライアントのひとつとなり、
いくつか仕事をさせてもらってた。
ノブヒコさんと顔を合わせることは無かったけど、
私のその後の仕事ぶりは耳に入っていただろう。
「恋愛関係は解消しても、仕事は応援してるから、
何かあったら何でも相談して。
そのうち僕も仕事をお願いするかもね。」
そんな風にも言ってくれてた。
彼との接点は殆ど年賀状だけになっていた。
年賀状の季節がくる度に、唯一の接点に嬉しい反面、
恐くてドキドキしていた。
別れた途端に”家族が増えました”だったらショックだな…
年賀状を見るのが本当に恐かった。
気持ちはずっと変わらない、なんて言ってたけど、
”別れても永遠に”なんて事は、
信じたくてもやっぱり現実的じゃない。
見ないで捨ててしまおうかとも思ったくらい恐かった。
見なければ、傷付かずに夢をみたままでいられる…
奥様手書きの私への宛名書きだけをみつめながら、
ハガキを裏返すことを躊躇い続け…
2001年、2002年、
本当に年賀状が恐かった。
息子さん一人の写真年賀状をみて、
ホッとしている複雑な自分。
2000年の独立以来、
東京での仕事が多くなってきていて、
東京にも住まいを持ち、地元と東京との半々生活だった私が、
地元を引き払って東京だけに根を張ることになったのが
2002年の春だった。
千原君とは冬から付き合い始めたばかりだったけど、
春からは遠距離で交際を続けることになった。
千原君とそうなる前から計画していたことだったので、
彼には納得してもらうしか無かった。
ノブヒコさんとの想い出の部屋を
引き払うことになった。
私の離婚の直前、
借りたばかりの電気も何もない部屋を、
二人で喜んで見に行ったっけ。
私が越す前に、何もないこの部屋に最初に寝泊まりしたのは
ノブヒコさんだったな。
二人で一緒に電化製品を買い揃えに行き、
二人の新婚生活を始めるかのように、
幸せな気分でこの部屋の生活をスタートさせた五年前。
この部屋のデザインを彼はとっても気に入ってて、
自分の一番好きな場所だって言ってた。
この部屋は、
私とノブヒコさん、そのもの…
その部屋を去る。
もうこことはお別れ。
クライアントでもあった元の会社、
そしてノブヒコさんにも、
地元を去る旨を伝えた。
そのメールにノブヒコさんは感慨深げに返信をくれた。
「門出でもあるし、
行ってしまう前に、一度会わない?
変な意味じゃないけど…」
二年半ぶりの再会だった。
初めて休日のドライブに連れ出してくれた時と同じ、
駅のロータリーで待ち合わせ。
あの時と同じような天気の良い日。
あれは97年、もう五年も前の事なのかぁ…
あの時と同じように、ドキドキしながら待つ。
何度も鏡をみて、メイクが、髪が、乱れてないかチェックしてしまう。
二年半ぶりに再会して、ガッカリされたらショックだもの。
別れたのを悔やませるほど、綺麗じゃなきゃ。
あの時と同じように、
少し遅れて彼の紺色の愛車がやって来て、
私たちは再会した。
「松尾さん、駄目じゃない、そんなに綺麗になってちゃ。
惚れ直しちゃったら困るでしょう。」
「ノブヒコさん、口が上手くなっちゃった?」
「ははは。でもほんと、ビックリしちゃうよ。
少しは老けたりしたのかな?って思ってたのに、
松尾さん今年秋で34でしょ? なんか前より若返ったみたい。」
「ほんと〜?」
「ほんと、綺麗になったね。…あ、いや、昔も綺麗だったけど!」
「ありがと!誰に言われるより嬉しいかも。」
私たちは、昔よく行った遠い街の海辺のレストランへ行き、
お互いに最近の仕事のことなんかを話した。
二人とも元々仕事の虫だから、
そんな話なら山ほど出来る。
実際、何を話して良いか判らなかった。
もう恋人じゃない。だけど、愛し合ったまま離れただけ。
二年半という時の流れは、
すっかり遠い昔話というほどは長くなく、
微妙な年月なのだ…
<仲が良かった同僚との再会>
そんな感じで仕事の近況を話すだけ、
それが当たり障りない。
そして、ドライブしながら戻り、
夕方には家の傍まで送り届けてくれた。
間もなく到着、という頃になって、
彼がこう言い出した。
「あの部屋、本当に僕もお気に入りだったんだよな〜。
もう無くなっちゃうのか…。」
「うん。」
「ね、すぐ帰るからさ、帰る前に、最後にチラっとだけ、
部屋、見に行ってもいい?ダメ?」
「…うん。そうだね、
ノブヒコさんのお気に入りでもあった部屋だしね。
もう最後だし。」
彼と一緒に部屋に上がり、
中へ。
「何か飲みます?」
「いや、すぐ帰るから。」
「うん。そうだね。」
この空間に彼が長くいたら、
冷静で居られないかもしれない。
私もそんな恐さを感じてた。
二人とも突っ立ったまま、
座る事もしないで、部屋を眺めてた。
座っちゃったら、
「帰れなくなる」「帰せなくなる」
二人ともそんな想いと闘ってたような気もする。
二年半前、貴方がこうしてこの部屋に来てくれることを、
私はどんなに待っていたか…
その貴方が、今、この部屋にいる。
あんなに待ち焦がれた貴方がここに。
でももう、それは過去。
貴方に焦がれて泣く日々は、もう終わった。
「変わってないね。相変わらず、すごく居心地のいい部屋…
ほんと、ここのデザインとかインテリア、大好きなんだよな〜。」
「うん。」
「今は社宅だからさ、どうしようもないけど、
いつか家とかマンションとか自分で買ったらさ、
この部屋みたいにしようって決めてるんだ。」
「でもお子さんが小さい間は、
どうしたって散らかっちゃうだろうし、
難しいよね〜きっと。」
「でもほら、僕が家とか買う頃には
子供もちょっと大きくなってるでしょ。」
「なるほど、そうだね。」
突っ立ったまま、そんな他愛無い短い会話。
延々立ったまま長話はあり得ないし、
立ち話が途切れれば、
もう長居する理由はなくなる。
「まあ、とにかく身体に気をつけて、元気で頑張ってね。」
「はい。ノブヒコさんも。」
「仕事はどんどん活躍するだろうし、心配してないけど、
またほら、倒れちゃったりしないように、ね、
助けに行けないからさ〜」
「ははは、確かに。あの頃二度も入院したもんね。」
「じゃあ、ほんと、元気で…」
「うん。ノブヒコさんもお元気で。
ここ引き払う前に、こうして笑って会えて良かった。
ありがとう。」
だめだ…
これ以上、こうしてたら泣いてしまうかもしれない。
笑って他愛無い会話だけして、友人モードでバイバイしなきゃ!
「それじゃ、またいつか!」
無理に元気に笑ってそう言い、
さあ帰って下さいと言わんばかりに、
玄関へ向かい足を踏み出した。
「………!」
私はいきなり抱き寄せられてた。
ノブヒコさんは私をキツくキツく抱きしめてた。
(え!?………!!!)
(どうしよう!ダメダメ。)
(そっか、最後にギュ!っとハグして
笑ってバイバイってことにすれば…)
(そうね、バイバイのハグ、ハグなら…許される、かな…)
必死に友人モードを貫こうとしてた私。
でも、
次の瞬間に彼は、私の顔を両手に持ち、
私の唇にキスを…
(ダ、ダメ!それはイケナイ!!)
一瞬唇を避けようとした私の顔を、
彼は両手で自分のほうに向け、
力強くキスしてきた。
(ダメダメ…!ダメだって!)
短いキスで一旦顔を離す。
(今なら、笑って”じゃあね!”って言える。)
(ね!笑ってバイバイしようよ!)
彼の眼差しは、とても切なく熱く、
とても笑ってバイバイという友人モードじゃなかった。
泣きそうな?そんな目のようにも見えた。
彼のこんな切ない表情は初めて見た気がする。
彼はまたすぐに私の顔を引き寄せ、
キスを続けた。
次第にキスに熱がこもり、
強張る私の唇のドアを開けようと彼の舌がノックしはじめる。
世界で一番愛しい人の情熱的なキス…
うっかり受け入れそうになってしまう。
私の目尻から勝手に涙がにじみこぼれていた。
でもダメだ!
これを受け入れたら、もう止まらなくなってしまう。
また離れられなくなってしまう…
懐かしいノブヒコさんの香りに一瞬気が遠くなる…
この香り…
貴方のこの香りが恋しくて
あの頃の私はどんなに泣いたことか…
あの頃、
ノブヒコさんに逢えない日が十日とか二週間とか長くなると、
本当に切なかった。
彼がパジャマとして着ていたTシャツに、
残り香がたっぷり香ってるのはほんの数日のあいだ。
香水の香りと混じった彼自身の匂い。
彼に会えない日は、
そのTシャツに顔を埋め、
目を閉じて深呼吸…
まるで彼の腕の中にいるような錯覚を感じられる。
ある日は、それを抱いて眠り、
ある日は、それを着て眠り、
一人の夜をやり過ごした。
でも、残り香がもつのは1週間程度。
それでも会えなければ、
彼の香水を枕に振りまいて、
そしてやっぱり、
彼のTシャツを着て眠る。
彼に包まれて眠っている妄想にひたろうと必死だった…
彼の香水を振りまいて眠ることで、めせて夢で会いたかった…
懐かしい愛しい本物の彼の香りで、
私はとけそうになる…
(だめだめ、なにやってるの、しっかりしてよリク!)
彼と舌を絡めることだけは、それとなく回避し、
彼のキスから身をかわした。
(本当は、貴方とずっと、こうしていたかった。
貴方と一生キスしてたかった…)
「じゃ…じゃあ、またいつか!
お元気でね、ノブヒコさん!」
身を切られる想いで彼を送り出し、
一人残された部屋で、
私は動揺に震えてた。
クソまじめ過ぎて、
ネガティブ気味な考え方で自分を追いつめてしまいがちな
そういう私にノブヒコさんはよくこう言ってた…
「どんな事でもさ、角度を変えてみれば良い事になるんだよ。」
ポジティブ思考を教えてくれた人だった。
自分のそういうネガティブな思考グセに関して、
人からどうこう言われても、普通は反発してしまうものだけど、
彼は見事に、嫌味なく、説教でもなく、
威圧するでもなく、押し付けるでもなく、
私を素直に「それってイイかも…」と思わせてくれました。
「忙しくて休みが取れない」→「仕事で活躍してて充実してる」
「部下が思うように働いてくれない」→「ポンコツチームの実績上げたら評価されるチャンス」
とかそう言う風に。
「トロい」→「丁寧で優しい」
「積極性がない」→「控えめで従順」
「文句ばかり言う」→「色んな事に良く気が付く」
こじつけでも良い。
必ず物事には裏返した見方、言い方がある。
ゴリ押しでも良いから、
ネガティブな事柄は全部裏返して言い直してみる。
そこにある事実は変わらないけれど、
裏返して良い言い方で全てをとらえるようにしてれば、
自分の回りから悪い事柄が消えてしまう。
そこにある事実が同じでも、
見方を裏返すだけで、良い事だらけになる、
ならばそうやっておいたほうが、いつも自分を幸せにしておける。
自分が苦しまず、楽でいるために、
嫌な事、悪い事を取り除くには、
その全てを裏返してみる、
それだけで楽になれるならこんな得な事はない。
「そうやって自分で自分を幸せにしておいてあげなきゃ。
自分で自分を辛くしちゃ損だよ。」
「すぐに全部は無理でも、
少しずつそうしていくと、絶対に幸せだよ。」
少しずつ…
少しずつでいいんだ。
それが気を楽にしてくれたのかな。
思考なんて急激には変えられない、でも少しずつ試してみる。
そうするうちに、
「あ、確かに気分良いかも」っていうのが解って来て、
だんだんそれが出来るようになっていく。
「僕は、松尾さんにいつも幸せな気分で居てほしいから…」
ノブヒコさんは、
私を、がんじがらめの不幸シンキングから救ってくれた人だった。
彼が去ったばかりの玄関のドア。
このドアノブに手を掛け、
扉をあけて飛び出し、
彼を追いかけたい…
もう一度抱きしめてもらいたい。
もうこれで逢えないかもしれない…
でも、今追いかけたら、全てが無駄になってしまう。
ドアノブを握ることは出来ない。
本当に、もう会えないのだろうか…
第45話『十年の空白そして…』へ続く




