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第42話『二十一世紀最初のキス、そして急変』

 クリスマスのデートからすぐ、

年末になった。

2000年の年末。



 二十世紀が終わり、

二十一世紀が幕開けする瞬間がやってきた。






 百年に一度しかないこの瞬間。





 人の一生はせいぜい八十年、

タイミングが悪ければ、

一生に一度も立ち会えない世紀が変わる瞬間。



 私たちは、偶然この時代に生きていて、

世紀が変わる記念すべきこの時を経験する事が出来る。










 でもクリスマスに会いに行ったばかりだったので、

年末は行く予定はなかった。



 大晦日、小栗君とチャットや電話でお喋り。




「そんな記念すべき瞬間、こうやって一緒に迎えられて嬉しいよ。」




「そうですね!自分も光栄っす!」




「実際にそばに居られたらもっと良かっただろうけど…」



「来ますか?」





「ええ〜〜〜!」




「なんちゃって。」





「もう!」





「牛?」






「はいはい。小栗君ってば…」







「今からでしたら、20時過ぎの新幹線に乗れば

23時前には東京駅に到着しますね!」






「ええ???マジで言ってるの???」






「ウソですよ〜。」





「もう〜〜〜〜!」






「だから牛ですか?」






「ってか、大晦日に新幹線なんて空いてないじゃん。」







「指定は無理でしょうけど、自由席なら問題ないっすよ!

座れる保証は全くありませんが…」




「あの〜、まじめに言ってるの?」







「まじめに来ますか?!」







「えええ!?」







「自分も東京まで出向きます!

ミレナリオでも観ませんか?」





「ええええええええ!」






「嫌ですか?」





「嫌な訳ないじゃん…」






「そう言ってくれると思ってました!」







「出た!決め台詞〜。

もう小栗君ったら…」










 私は大慌てで身支度をし、

新幹線に飛び乗って遥々東京駅へ。


 大晦日の23時前、ごった返す東京駅で、

小栗君が嬉しそうに出迎えてくれた。



「来ましたね!」



「来ちゃったよぉ。」







「まさか本当に来ちゃうとは…」







「え?!えええええ?!ちょっと、なによそれ〜〜!」













「まさかまた急に来て貰えると思ってなくて、

来てくれて本当に嬉しいんですよ!」







「ほんと?」






「自分と璃玖さんの間に嘘は無いっす!」









 なんだか、いつも以上に本当に嬉しそうな小栗君。



 つい一週間前、

クリスマスのあの出来事の直後であるこの日、

こんなに露骨に喜ぶ顔を見せる小栗君を見ていると、

自然と私のテンションも上がりまくっていった。






 二十一世紀へのカウントダウンをしようと集まった群衆に揉まれながら、

大手町界隈をゾロゾロと歩いた。




 







 いつの間にか、群衆のカウントダウンの声が沸き上がり…







「10…、9…、8…、7…、6…、」






「5!」






「4!」







「3!」






「2!!」








「1!!!」










「ゼロ!!!!!」










「二十一世紀おめでとう〜〜〜〜〜!!!」


「A Happy new year!!」


「あけましておめでとう!!!」





 一斉にミレナリオに明かりが灯り、

私たちはロマンチックに輝くおびただしいイルミネーションの中にいた。


 歓声と、叫び声と、拍手と、口笛、クラッカーの音、

訳の分からない大騒ぎ!






 あちこちでハグし合う姿、

そして、抱き合うカップルが見えた。




 その辺から、

「二十一世紀の初チュー!」

という言葉が聞こえてきた。









「きゃははは…”二十一世紀の初チュー”だって!」






「二十一世紀の初チューですか。」





「なるほどそうだよね〜!ふははは〜〜」







「じゃ、二十一世紀の初チュ〜〜〜…」







「………!」







 人前でキスなんてする人じゃないのに、

人混みの真っただ中で、いきなり小栗君がキス…




 照れくさそうに、

でも嬉しそうに、

私の唇にキスをし、そのまま私を抱きしめた小栗君。




「ぎゅ〜〜〜〜〜〜!!!!!!」





「小栗君?」




「二十一世紀の初チュー、しちゃいましたよ?」




「うん。そうだね、二十一世紀の初チュー、小栗君としちゃったね。」






「この百年の最初のチューですよ!どうしますか!」




「ど、どうって…、ねえ、そうねえ。なんか感慨深いものがあるね。」






「二十一世紀の初チューが自分とで良かったんっすか?」






「うん。大好きな小栗君とこうして迎えられて嬉しいよ。

良い記念だよね。来て良かった。」













 ノブヒコさんと別れてもうすぐ丸一年…

この一年、小栗君が側に居てくれなかったら、

私はいったいどうなってただろう。


 ノブヒコさんを失った自分を紛らわすために

小栗君に甘えてハシャイできた一年。

だけど”大好き”の言葉には偽りは無い。




 彼との関係がこれから本当の恋愛になって行くのだろうか?



 それは、私自身にもよく分からない…
















 私たちは二人で千葉の展望タワーに登り、

二十一世紀の初日の出を一緒に拝んだ。


 物凄い大きな太陽。

まばゆく、燃え滾るような、すごく印象的な日の出だった。



 その新しい朝日を浴びながら、

新鮮でとても豊かな気持ちに包まれてた。










 小栗君のこの変化が、

さらに大きな急変への予兆だとは全く気付きもしなかった。


















 元旦の夜、私は小栗君に見送られて、帰路についた。




 そして、また遠距離での電話やチャットでの交流へと戻った。








 一月二日、一月三日、一月四日…



 ”親友”というニュアンスが消えて、

すっかり”遠距離恋愛”のラブラブモード。





 





 二十一世紀初めてのキスのあと、

そんなラブラブモードなお正月が三〜四日過ぎていった。



 そして、たしか一月五日頃だった…



 その夜の電話でのこと。











 小栗君のトーンが、

いきなり変わった。











 昨日まで超ラブラブモード全開だった小栗君、

その彼の様子が、変なのだ。







 ふざけてるの?


 からかってるの?


 一体なに?










 なぜかいきなり、”親友”を連呼、

不自然なまでのオトモダチモード…




 私の頭は「?」マークだらけ。












 ???







 チンプンカンプンな彼の態度、

一体なんなの?










 あのクリスマス以来、

”親友”モードは終わりじゃなかったっけ?



 急激に恋人モードにシフトチェンジしてきたのは

小栗君だよ?















 昨日まで恋人モードだった人が、

なんでいきなり親友モード?



 なに?








 なにがしたいの?














 明らかな切り替えに次ぐ切り替え、その理由は何?
















「ねえ、どうしたの?何があったの?」








「え?何がですか?」









「何がじゃないじゃん。

さっきから”親友””親友”って連呼してるの、おかしいよ。」











「璃玖さんと自分との友情が、何かおかしいですか?!」









「そうじゃなくて…。

小栗君この頃”親友”だの”友情”だの言わなくなってたじゃん。」












「そうでしたっけ?

言わなければ消えるような友情ではありませんから!

自分と璃玖さんの友情は永遠っす!」











「もう、いいよ…、不自然だよ。何かあったんでしょ?

何考えてるのかちゃんと話してよ。

”私たちの間に嘘は無い”のでしょ?」











「別に何も無いっすよぉ…。」
















 小栗君は何も無いとトボケてシラをきろうとする。

それは、今日の”親友”モードへの変化に関してトボけようとしているだけでなく、

クリスマス以来の”恋人”モードへの変化のことも、

何も無かった事としてトボケようとしているのだった。





 つまりクリスマス以前から、今日まで、

何も私たちに変化は無かった、

ずっと親友だったし、

これからもずっと親友、

そう言ってシラをきろうとしていた小栗君。











 そりゃ、確かに、

クリスマス以来、昨日までラブラブモード全開だったとはいえ、

何か直接的な言葉を彼が口にしたわけではない。

「恋人として付合って下さい」と言われた事もないし、

「愛してる」と言われた事もない、

「これからは彼氏彼女」とも言われた事はない。









 明確な言葉は無かった、だけど、

あの日以来、急に彼は積極的に私を求めるようになり、

彼のほうから私に会いたがって呼び寄せたり、

”親友””友情”とは一切口にしなくなり、

”大好き””会いたい”を連呼するようになり、

それまでどんなにイチャついてても

SEXで自分から私の中に入ってこようとはしなかったハズなのに、

あの日以来、急に普通の恋人同士のSEXをするようになった。


 それなのに…






 どう考えたって、明らかに不自然な小栗君。











 このまま彼の言う通りに、トボケてあげて、

元のままってことにしてあげれば良いのかな?






 でもやっぱり、

彼の急変に次ぐ急変、

その理由なり、彼の考えている事なりを、

ちゃんと聞かないと元通りにも収まれない。

 












 元のままだと言いたいなら、

納得するように説明してよ…












 最近の恋人モードが、

私の勘違いだって言うのなら、

ちゃんとそう説明をしてよ…














 小栗君の態度にイチイチ振り回されてる私がいけないんだろうけど、

これで”嘘も隠し事もない親友”だなんて、

そんなのニセモノじゃん。





 クソまじめで、実直・誠実を絵に描いたような小栗君、

こんなウヤムヤなゴリ押しは貴男らしくないじゃない。















 そして、やっと彼が話してくれた内容は、

私の想像には全く及ばない出来事だった。
























「新年なので、璃玖さんとのことを、両親に話したんです。」










「私との事って?何を?」











「結婚を考えている女性がいると…」














「はあ??? け、け、けっこん?」








「はい。」









「ええええええ???? なにそれ!!!!!」









 当事者である私には、

”親友”モードから”恋人”モードへの切り替えの言葉すら

一度も明確に言ってくれてないのに、

両親に結婚だなんて言ったの???




 なんなのそれ???





 どゆこと?







 っていうか、

小栗君、私と結婚なんて考えてたの?



 あんなにずっと、”恋愛感情じゃない”って言い張ってたクセに…













 出会ってから、

”親友”という名の下に、ラブラブに付合ってきた。

そんな関係のまま一年が過ぎたクリスマスのあの日、

彼のスイッチが切り替わった事は事実だったようだ。

それは私の勘違いでは無かった。




 年上の女性に恋愛感情は持てないと言い張ってきたけど、

一年間”親友”という名目で付合ってきて、

結局それが恋愛感情であることを小栗君自身が実感した。

そして、こんな風に心から敬愛しあえる女性はいないと感じた。


 というのが、彼の言い分だった。












 そして、

なぜか、私にはその心の内は話してくれず、

接し方だけが思いきり”恋人”モードに急変。





 その後、迎えたお正月、

あたらたまった家族の席で、28歳の小栗君に御両親が、

「お前、そろそろ結婚をちゃんと考えないとな。」

などと話題にした際、

「実は結婚したい女性がいます。」

と私の事を話したらしい。








 当事者の私を完全にスっ飛ばして…













 どう考えても順序が違う気がするのだけど、

小栗君にとっては、

この順序が正しかったようだ。



 つまり、彼はキチンと両親の了解を得てから、

私にプロポーズしようとしていた。




 二人で先に話し合ってしまって、

後から反対されたりしてモメるのは良くないと。




 両親がまずはプロポーズすることを了解してくれないと

話は始まらないという理屈。













 まあ、それは、そうかも知れないけど、

でもやっぱ、順番が違う気がする…













 でも、それが小栗君だったのです。





 彼は、クソまじめで実直・誠実、好青年を絵に描いたような男。

そう育てたのは彼のご両親。

彼の家は今時珍しいくらいのキッチリした家庭なのです。



 消防官僚である御父様の後を継ぐ小栗家の長男として、

彼は御両親の期待を一身に受けて育てられた。


 御両親の期待どおりに消防に入り、

消防の花形と言われるレスキュー隊員になり、

キャリア組として着実に昇進試験をクリアして順調に階級を上げ、

まさに御両親の思い描いたとおりの若者になった。






 こういう話はよく実話でもドラマでも良く耳にしますよね。

でも、だいたいそういう話って、

本人は親がそう望むから仕方なく言う通りに歩んできた、

というような話だったりするじゃないですか。

本人は言いなりである事を心から望んでなどいないって。









 


 でも、小栗君は違った。

彼は、本当に御両親を喜ばせたくて、

いや、なんて言えばニュアンスが伝わるだろうか…

彼は本当に御両親が望むような自分になりたくて、

そうなる事が彼の喜びでもあり、そうやって生きてきた。



 御両親が望まない自分にはなりたくない。

そんな感じに生きている人なのでした。


 御両親の喜びが自分の喜び、

そうやって本当に家族を大切にし、

家族を基準にすべてを考えるような人だったのです。











 そんな彼にとって、

プロポーズの前に、両親に話すというのは、

正しい順番だったわけです。












「そんな事、御両親、反対するに決まってるじゃない。」












「はい…。まあ、結果としてそのような反応でした…」











「そんなの、当たり前じゃない!

どこの世の中に”バツ2で年上”の女性と結婚したいと言って、

両手挙げて喜ぶ親がいると思うの…。反対するのが普通だよ。」










「しかし、璃玖さんはとても素晴らしい方なので、

そこをしっかり理解してもらえばと…」







「そんなこと言ったって…」










「それに、自分にとってどれほど璃玖さんが特別な女性であるかを

しっかり伝えれば…」









「……。」










「実際、自分は璃玖さん以外に、この先、想いを高められる女性に

巡り会う事はないように感じていますので。

一生に一度の最高の女性であるという事は、何よりも重要だと…」






「そんな風に想ってくれてるなんて、

それは凄く光栄だけど…

そもそも、私、誰とも結婚する気は無いって言ってたでしょ?」











「はい。聞いています。でも、それは今後自分が璃玖さんの気持ちを

少しずつ溶かして行ければと考えていました。」










 彼は私との事を御両親にあれこれと説得したのだそうだ。

その場では結局答えは出ず、

「お父さんとお母さんでじっくり考えてみるから。」

と一旦夫婦の部屋に戻った御両親。

そしてその後…


 夜中になって再度話し合いのために御両親に呼ばれた彼は、

御両親が言う事に納得した、ということらしい。









 要するに、御両親の言い分は、

つまりは、こうだ。






 今はこの人しかいないと思っていても、

時が経てばまた必ず良い人に出会える、人生とはそういうものだ。



 その彼女の過去の離婚歴も、年上であるという事も、

今は気にならないと思っていても、

元々引っかかっていたのなら、時が経って冷静になったとき、

やっぱりシコりに感じてしまったら、

後になってお互いに苦しい気持ちになる。



 お父さんとお母さんは、基本的に賛成してやれない。

ただ本人がどうしてもと言うなら、それは認めてやろと思う。

でも、根本で賛成して貰えていない家に嫁に来て、

その女性が一番苦しい思いをする事になるのではないか。

私たちは本人達の気持ちを認めてやろうと努めるけれど、

結婚となれば、親戚縁者みなが黙ってはいない。

そんな中に嫁に来させて、彼女を苦しめるだけだろう。



 今、彼女と結婚出来ないことは苦しい事かも知れないけど、

彼女と結婚する事で後々に起きるだろう苦しみを考えれば、

引き返せるうちに引き返した方が良い。



 幸い、まだ結婚の意志を決意してから日が浅いのだし、

彼女にまだプロポーズもしていないのなら、

今のうちに元通りの”親友”でいるようにしたほうが、

お互いに苦しまずに良い関係であり続けられるのではないか。











 

 小栗君は、この御両親の言葉に納得し、

昨日の今日で、いきなり”親友”を連呼しだしたという訳だった。













 私は、ひと通り話を聞いて、

なんだか物凄く頭に来た。








 私はそもそも結婚する気はない。




 それなのに、

勝手に私の知らないところで、

結婚話をされ、

相応しいとか相応しくないとか、

勝手な値踏みをされ…





 



 そして、

”親友”だとか…





 なにそれ?




 なにが親友?












 私が言い様の無い憤りと空しさと、

何か自尊心をも傷付けられたような気持ちになったのは

おかしいだろうか?












 私は、小栗君になんと答えてあげたら良いか、

さっぱりわからなかった。











 物凄いスピードで急上昇したジェットコースターが、

勢い良く頂上に駆けのぼったかと思ったら、

テッペンの先は、いきなり線路が無くなって…


 ジェットコースターは墜落してしまう。





 墜落=恐怖=全身打撲の痛み=そして死亡。







 それをなんの抵抗も無く受け入れられる人なんていないでしょう。












 いきなり線路が途切れて無くなって

墜落なんて、

そんな…









 せめて、急降下する線路があってくれれば…










 でも、

ノブヒコさんを失ってボロボロだった私は、

その急降下の恐怖にさえ、耐えられませんでした。





 ノブヒコさんと別れる決意が出来たのも、

小栗君が居てくれたおかげだったし、

ノブヒコさんを失ったことで壊れそうになる私を、

支えて来れたのも小栗君とハシャイでこれたからだった。


 小栗君との恋愛ごっこに没頭することで、

私は押しつぶされずに何とか生きていられたのだもの。


 小栗君とのラブラブな日々を麻酔薬として、

私の痛みを誤魔化してきた一年だった。









 どんどんと増量されて10倍にもなってた麻酔薬の量、

ここにきて、

いきなり麻酔薬は10分の1に戻します!と言われても…











 



 小栗君は言った。

「今後、璃玖さん以上に想いを高められる女性には出会わない気がする」





 じゃあ、いったいどうするの??














 昨日の今日で急に「やっぱり親友です」だなんて、

それじゃ、私が今日、小栗君以外の男に抱かれても、

小栗君は親友だから別に構わないわけ???









「それは……。そりゃ嫌ですけど、

でも親友というスタンスでと決めた以上は、

自分に璃玖さんを止める権利は無いですし…」
















 急に接し方を変える事も出来ない、

急に気持ちを変える事も出来ない、

だけど、

このままではいられない。




 私たちは、結局、

当面は自然でいようということになった。






 これまでどおり、自然。








 でも、お互いが別の人に向かっていくための、

フェードアウトするための時間。











 そんな風に位置づけて、

とりあえずはフェードアウト前提で今までどおりに接する。



 救いようの無い、

その場しのぎ。












 それでも、

今直ぐ割り切る事など出来なかった。













 今ひとりぼっちになって、

マトモに立ってなんていられない…







 今すぐ他に好きな人がいる訳じゃないんだし、

私の事がそんなに大切で、そんなに大好きなのなら、

今はまだこのままでいてよ…



 だって、私以上に想える人とは巡り会わないと思うんでしょ?















 彼は結婚出来る好きな人がみつかるまでの間、私を利用し、

私はノブヒコさんの禁断症状から離脱するまで、彼を利用する。


 それがいつまでか、わからない。




「ほんとにこの先ずっと私以上の人が現れないのだとしたら、

それはそれでこのままでいいじゃん。」




「いや、でも、それは駄目です。いずれ結婚はしないと。

自分は小栗家の長男として、ちゃんと家庭を築かねば両親に申し訳が立ちません。」




「でも好きな人が現れないと思うんでしょ?」




「はい。おそらく。」




「じゃあどうするの。」





「結婚は、最悪、見合いでも出来ますから。

それは嫌だと思っていましたし、自分がみつけた好きな女性を選びたいと

これまで見合いは断ってきましたが、

出会えなければそれもやむを得ません。」






「そう。お見合いね…。

小栗君なら条件は最高だし、良い縁談がワンサカあるよね。

消防エリートで、消防官僚のご一家、

身長180cmのスポーツマンで容姿端麗、

典型的な好青年、絵に描いたような優良物件だよね。」





「ははは。しかし、璃玖さんはご存じのとおり、

自分は頑固で偏屈者なので、恋愛はなかなか出来ないわけで…」





「まあそれは、浮気をしない、

ってことで結婚相手としては更なるプラスポイントになるんじゃない?」






「しかし、やはり気持ちの無い相手とは…

って、そんな事言ってるのが甘いんですかね。」









 


 少しずつ、小栗君という麻酔薬から抜け出さなきゃならない。



 私が彼に依存している限り、彼も私を断ち切るのが辛くなるだろう。



 少しずつ、彼から離れてあげなきゃ。


 

 小栗君から抜け出さなきゃ。



 抜け出せるのかな?










 ひとりぼっちになる自信は、まだ全くない。


 でも、小栗君の手を離さなきゃ…












 


 仕事の忙しさに気を紛らわせながら、

空しい日々を過ごす。



 こんな時、仕事が暇だったら、

きっとまた、

遠距離構わずしょっちゅう小栗君に会いに行ってしまって、

どんどん惨じめになって行くのかもしれない。



 幸か不幸か、その頃の私は仕事が物凄く忙しかった。





 ドタバタと毎日が過ぎて行く。







 二月のある朝。

電話が鳴って起こされた。








第43話『32歳、春の嵐』へ続く


最新のお話はブログに掲載中・・・

http://ameblo.jp/liku-matsuo/

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