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第40話『ターニングポイント』

倫理に反する事も色々と出てきますが書きます。

おこがましいかもしれないけれど、反面教師として、

似たような境遇に今いる人に何か一助となれば…

と少し思ってます。

 31歳、1999年のクリスマス。



 ノブヒコさんと一緒に過ごせたクリスマスは29歳のあの時だけ。

去年のクリスマスも、その前後にデートしただけだったな。


 今年は”しばらく逢わない”と決めた冷却期間中。

逢えるハズもない。





 やっぱり寂しい。





「僕には松尾さんの誕生日のほうがずっと特別な日だからね。

だから寂しくはないよ。

クリスマスは誰でも皆が知ってる日だけど、

誕生日は僕と松尾さんだけの特別な日だから。」






 嬉しい。

でもやっぱり、

ちょっと寂しい。







 ”寂しい”を感じる度に、

紛らわせるためにチャットでお喋り。


 仲良したちと話して時間をやり過ごす。


 小栗君と話し込んでは気を紛らわす。











 そうやって年末がやってきて、

私はとうとう大好きだった会社を退職した。


 今は勤務地も部署も違うノブヒコさんとは

ずっと顔を合わせることも無いまま最後の日を終えた。

なのに彼の奥様とは最後の挨拶をして、

そして私は、会社を去った。





 彼の奥様がバイトに来なければ、

私は会社を辞めなかっただろう。

あの会社に骨を埋めるつもりだった…






 彼ではなく、

彼の奥様が、

私の人生を大きく変えたターニングポイントだった。


 












 お正月、

彼からの年賀状は、いつも宛名が奥様の手書き。

毎年決まって息子さんの写真の年賀状。

それを見るのに毎年ドキドキする。


(”新しい家族が増えました”になってるかも…)


 私しか抱けないと言っている彼が、

じつは奥様ともラブラブで、その証拠に新しい赤ちゃんが出来てたら…

その現実に突き落とされるのが恐い。





 祈るような気持ちで年賀状をめくる…








 



 今年も、セーフ。



 いつもどおり、息子さん一人の写真。






 赤ちゃんが増えたその時は、

きっと彼が年賀状のリストから私を外し、

私に年賀状が行かないようにするのかな。


 年賀状が来なくなったら、

それがそういうことなのかも知れないな…















 家庭のある人にとってはお正月は忙しい。

家族サービス、実家への訪問…



 お正月の時期は不倫相手に構ってはいられなくなる。



 家族とずっと一緒にいるのだから電話する隙は無い。







 1月5日だったか6日だったか、

会社が始まった日になって、

家にFAXが届いた。

会社から送られたFAX。






「あけましておめでとう!

フリーになった気分はどうですか?

年末から連絡がないと思っているだろうけど、

じつは年明けに自宅の市外局番が変わって、

そのせいで自宅のパソコンからメールが出来ない状況です。

電話かFAXにてまた連絡します。」


「P.S 

明日の送別会は会議が入っているので行けません。

ごめんね!

高田」









 ノブヒコさんだった。




 私の送別会…

前任の上司として彼にも誘いが掛かっていたわけだけど、

来られないらしい。



 この送別会でやっと逢えるかも?

当然期待していた私。


 



 でも、その淡い期待は簡単に打ち消された。









 もうすぐ丸二か月、顔も合わせていないことになる。












 毎日顔を合わせて一緒に仕事してた頃、

一日逢わない日があるだけで寂しかった。




 三日逢えないだけで、

その三日間の寂しさに耐える事が苦痛で仕方なかった。






 仕事が離れてからは、

一週間というとてつもなく長い孤独がたまらなかった。






 一週間が十日になったり二週間になったり、

指折り数えて待つ事すら出来ない、読めない予定に、

心のやり場がみつからず、

気が狂いそうに切ない時間を過ごした。





 明日は逢える?

三日後?

一週間待てば?












 一度逢ったら、

その寂しさ地獄に戻るのが辛過ぎて、

帰したくなくなる。


 楽しい幸せなひとときを過ごしたら、

その後は「じゃあまたね」と、

いつ逢えるかわからない別れがまたやってくる。





 逢えば必ず、離れる辛さが…






 その辛さは、もう限界を超えてる。

死ぬより辛いんじゃないかと思うほどだもの。












 二か月…

顔を見る事もなく二か月が過ぎた。


 逢えば、離れたくなくなるに決まってる。



 もちろん、逢えない今は凄く辛い。




 でも…





 逢った後、また離れる事の方がもっと辛い。


 また待つことのほうが辛い。












 逢えないのが辛い。



 逢ったら離れるのが辛い。















 もう頭がおかしくなりそう…














 こうやって辛い辛いと泣いている事が、

あの奥様と、お子さんを、傷付ける行為だなんて。


 私が幸せじゃないのに、

何のための悪行?








 三日が耐えられなかった私でも、

二か月逢わないで我慢してきたんだもの。


 このまま逢わなければ、

苦しみはやがて日常になり、薄れて行くかもしれない。





 逢えばむしろ、また生傷をエグるだけ。







 このまま逢わずに…














 でも逢いたい!!!













 でも、逢ったらもっと苦しくなる…












 そんなグチャグチャな私の心の葛藤を、

受け止めてくれていたのが年下の小栗君だった。

親友として。






 ”親友として”とは言いつつ、

お互いに心の隅っこでは、

少しは男として、女として、意識していたのだと思う。

















 完全に独りぼっちだったとしたら、

きっと私は前に進む勇気を持てなかった。


 




 別れる辛さよりも、

続ける辛さを選んでいたかも知れない。

だって、すべてを捨てても一生ノブヒコさんについて行くと決めてたんだもの。









 辛い時間を紛らわせる誰かがいた、

その命綱は大きかった。

















 


 ある日、チャット仲間たちとのお喋りの最中、

<禁煙>の話題になった。


 仲間の一人が禁煙を始めたのだという。



 その男性は私より10歳ほど年上で、

どちらかというと失礼ながら、かなりチャラ男なキャラ。




「禁煙?あははは!無理に決まってるじゃん。

せいぜい三日じゃない?」





「いやもう既に一週間吸ってないぜ〜」





「うそ!信じられない!

ってか、元々そんなにヘビーな中毒じゃなかったんでしょ。」






「毎日二〜三箱は空ける、筋金入りのヘビスモだったっつの。」






「げ、私とほぼ一緒じゃん。うそ〜。あんたみたいなチャラ男の気まぐれで

辞められるほどニコチン中毒の禁断症状は甘くないよ!」






「うん。たしかにめちゃ辛い。」





「でっしょ、私も昔、一回試みたけど、二〜三週間でギブアップしたもの。

意志の強さだけは自信があるのに。」





「意志の力じゃ無理なんだってよ。重度のニコ中は。

俺、禁煙外来に通院しててさ、医者がそう言ってた。」




「なにそれ。どゆこと?」




「だから、ヤク中みたいなもんなんだって。

血中のニコチン濃度が下がると禁断症状が起る。」




「そうなんだ。」





「だから、急激に血中のニコチン濃度が下がらないようにするのに、

24時間パッチ貼って皮膚からニコチン補給するの。タバコの代わりに。」






「で、どうなるの?」





「ニコチン切れの禁断症状は抑えられるから、

あとはタバコを吸う行為そのものの習慣を、我慢するだけ。

これは意志の力だけど。」





「ふう〜ん。そうなんだ。

ま、でも結局は意志の力も必要なんだ。

じゃ、あんたにはムリだね(笑)」





「俺の覚悟をナメんなよ〜!

じゃあさ、俺が禁煙成功したら、

俺とHしてくれる?」





「はあ?なんでよ!

っつか、絶対成功なんかしないってば。

あんたが禁煙成功するくらいなら、私にも出来る。」





「おお〜やってもらおうじゃん!

じゃ、璃玖ちゃんが出来なかったら俺とHね!」






「あんたに出来る事が、私に出来ないハズがないの!」










 話の勢いで禁煙に挑戦する事になってしまった。

出来るのか?ほんとに…



 小栗君はノリノリで応援モード。





「いいですねえ禁煙!自分はタバコが大嫌いなので、

いくらステキな女性でもタバコを吸う人とは断じてキス出来ません。」






「じゃあ、私がタバコ辞めたらキスする?(笑)」




「ご褒美のチュウですか?(笑)」







「会社も辞めたし、2000年だし、

なんかキリが良いっちゃ良いんだよね。

人生の大きな転機だし。」





「そうですね!前向きに変身されるには良い機会ですね!

いっそ、タバコも辞めて、

不倫も辞めて、

すっきり身の心も綺麗に生まれ変わるというのは如何ですか?」







 タバコも、不倫も?







 すべて綺麗に生まれ変わる、か…












 そんな事、出来るのかな。










「璃玖さんならきっと出来ますって!

自分は全力で応援しますから!

璃玖さんはそれが出来る人だと信じています!」























 禁煙外来を受診。

やはり私も重度のニコチン中毒症と診断を受ける。


 当時保険適応外だったニコチンパッチ、

血中ニコチン濃度の高い大きなパッチから、

小さいパッチまで三段階ほどサイズがあったと思うのだけど、

当然、一番大きなパッチを24時間貼り続けるように処方された。



 期間をへて、段々と小さいサイズのものにしていくのだそうだ。

そして最後には貼らず、つまりニコチンを補給せずに暮らす。













 一月十八日、夜十一時半を過ぎた頃、

私は様々な想い出に浸りながら、

たっぷりとタバコを楽しんだ。




 そして、日付けが一月十九日に変わる数分前…




 最後の一本に火をつけた。










 このタバコを消したら、すべて終わり。












 一月十九日、午前零時。




 

 私は最後のタバコをもみ消し、

そして、

メールの送信ボタンをクリックした。






 







 33歳のお誕生日おめでとう、ノブヒコさん。



 そして、さよなら、最愛のノブヒコさん…





第41話『封印』へ続く



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