第38話『惚れた弱味』
倫理に反する事も色々と出てきますが書きます。
おこがましいかもしれないけれど、反面教師として、
似たような境遇に今いる人に何か一助となれば…
と少し思ってます。
”別れよう”
”別れたく無い”
激しい葛藤…
ますます増えて行く逢えない時間の苦痛…
膨らむばかりの彼への愛情…
重くなるばかりの罪悪感…
壊れかけの心は、
どんどんデリケートになってく…
とてもトゲトゲしく。
人恋しさが募る秋、十一月のある日、
久しぶりに逢えるチャンスが訪れました。
社の小さな飲み会が家の近所であり、
ふとした事から彼もその飲み会に顔を出すことになったのでした。
私とノブヒコさんは嬉しいこのチャンスに喜び、
どのように二人で逢う時間を作ろうかと打ち合わせていました。
一緒に飲み会を抜け出すのは怪しいし…
私がちょっと早めの時間に
「ゴメンなさい、今日はちょっと早めに…」
と先に抜けて帰る。
その約1時間後に
「そろそろ電車が…」
と彼が抜け、そして私の家で落ち合う。
二人でそう計画して、約束しました。
電車が…と言いつつ、電車には乗らず、
奥様には飲み会で帰れなかったことにして、
私の家でお泊まりして始発で朝帰りという計画。
休日前なら夜中から落ち合ってもそのままゆっくり過ごせるけれど、
平日だったので二人とも翌日は仕事だし、
夜中からじゃ寝る時間もロクにない。
話も出来やしない。
だから私が22時に、
彼が23時までには飲み会を抜けようと、
そういう約束にしました。
それなら、家で一緒に少しゆっくり過ごし、
彼が始発で帰る時間まで一緒に眠ることも出来る。
社の飲み会とはいっても上司とかも居なくて、
仲良しな同僚で集まるだけの、ただの気楽な飲み会だから
義務で抜けられないなんて心配は無い。
22時頃、彼との約束どおり先に抜けて帰った私は、
滅多に無い彼との逢瀬に心ときめかせて
今か今かと彼が来るのを待っていました。
約束の時間は、約1時間後…
30分後、
「少しでも早く逢いたくて、すぐに抜け出してきちゃったよ!」
…なんて、彼が駆け付けてくれるんじゃないかと、
期待を膨らませてしまう。
1時間後、
「ギリギリまで抜けられなくて…、早く逢いたかったよ!」
…って、息を弾ませて駆け込んできて、
私を抱き締めてくれるかしら…
泣きながら眠ってしまっていた私が、
次に時計を見たのは夜中2時過ぎ。
絶望で真っ暗な独りぼっちの部屋でした…
結局彼が姿を現したのは、
夜中3時だか4時だかの頃。
哀しいやら切ないやら悔しいやら…
彼が部屋に入ってきたのはわかってたけど、
私は寝たフリをし続けるしか出来なかった。
ずーっと二週間以上も会えなくて、
やっと会える貴重なチャンスだったのに…
始発まであとたった一〜二時間しかない。
そんな短い時間しかないのにワザワザ会いに来てくれたのねと、
喜ぶべきなのだろうけれど…
仲良しな同僚と楽しく呑んでた。
私は優先してもらえなかった。
約束を、だまって裏切られた。
そのショックで彼に当たってしまいそうで、
寝たフリするしか出来なかった。
”不倫関係”である以上、
私は彼の最優先事項には絶対になり得ない。
それは充分過ぎるくらいに理解しているつもり。
”妻子と仕事”、どんなに頑張ってもその次にしかなり得ない。
常に後回しにされるのが”不倫関係”のサダメです。
でも、だからこそ、
”妻子と仕事”には絶対にかなわない分、
せめてその他の事柄の中でだけは、
何をおいても一番の最優先事項でありたいと願うのは
自然な欲求です。
でも、そんなささやかな願いすらも必ずしも叶わない、
”落胆”や”失望”が頻繁に襲ってくるのが不倫の運命なのでしょう。
そうやって涙せねばならないのは、
やはりこれが罪悪であるが故の罰なのかも。
何もかも思うがままに叶うような、
幸せな不倫なんてあってはならないのですから。
私は、”妻子と仕事”の次に一番でありたかった。
だから逆に、その二つにだけは嫉妬したことは無かった。
しかし、私よりも”その他の事柄”が優先されたことに対しては、
たまらない嫉妬を感じずには居られなかった。
同僚だとか、そういったものに激しい嫉妬を感じて苦しんでいる
そんなトゲトゲしい自分自身が嫌で嫌でたまらなかった。
人肌恋しい秋、
その種のショックな出来事が何度かあって、
ちょっとしたことで、すねているミジメな自分が嫌で、
それに、そんな様子を見せたら彼が嫌がると思って押し殺してみたり…
でも、そんな風に必死でいつも彼の顔色ばかりうかがって、
ビクビクしたり、ストレスを溜め込んでく自分もまた嫌で…
でも、やっぱり臆病で何も言えない。
ほんと切ない。
切ない!
切ない!
切ない!
”惚れた弱味”ってこのことなのかなあ…
悔しい!!!
とことん彼を愛してしまった自分が。
一人で苦しんで苦しんで、
バカみたい…
結局、恋愛ってのは惚れた方の負けなんだなあって、
そのことを痛烈に実感し、学んだ気がした。
自分のすべてを捨てても構わないと思える程に、
ひとりの人をとことん深く愛せることって、
一生の中でなかなか巡り合えない貴重な幸せなのだけれど、
愛が深くなり過ぎれば過ぎる程、
自分を苦しめることにもなる。
切なくて、苦しくて…ってのは、
本気の恋愛でなきゃ味わえない醍醐味でもあるけれど、
度が過ぎる切なさや苦しさは、不幸の塊だ。
彼の前では、いつもイイオンナでいたかった…
物解りが良くて、
スネたりしないで、
嫉妬なんかしない、
いつもイイ顔して…
苦しくても切なくても、
そうやって無理をして頑張ってきた。
でも、ずっとそれを続けていられる程には、
私は強く無かった。
めったに来ない彼からのEメール。
常に即レスしていた私が、
二〜三日無視してスネてみせた。
私の切ない気持の何十分の一でも、
彼に同じ切なさを味わって欲しかった。
そして私を求めて叫んで欲しかった。
私と同じように。
そんな風に一旦ボロを出し始めると、
必死で無理をしていた虚勢なんて、
ボロボロと崩壊していく…
二〜三日レスしないで我慢していたら、
彼から「忙しいのかな?どうしたの?」みたいな言葉の
Eメールが届いた。
よかった。これすら無かったら、
スネてみせた意味も全くないし…
そして私は、
一人で押さえ込んでた想いを、
メールしました。
From: リク
Date: 1999.11.18 10:29PM
To: ノブヒコさん
Subject: ノブヒコさんへ
この間から、私が勝手にすねていたのは、
きっとノブヒコさんには到底理解してもらえないようなことが原因なんですよ。
でも、それでいろいろ考えてて何だか馬鹿らしくなって、
また、今度こそノブヒコさんと別れようって、思ったりしてました。
こんな風に悩んでいることをノブヒコさんに話したら、
ノブヒコさんは機嫌が悪くなるんだろうな、って思ったら、
私は独りで悩んですねてるしか無いのだなぁって思って。
けど、そんな風にノブヒコさんの御機嫌をうかがってばかりで、
ビクビクしてるばかりの自分が可哀想っていうか、
馬鹿馬鹿しく思えたりもして、
なんでこんなに気持ちを振り回されて
泣いてばかりいなきゃならないんだろうって・・・
でもそれは惚れた弱味だからなんだけど。
きっとノブヒコさんは、
”そんな風に悩んでばかりいるのは嫌いだ”
とかって強気に私を批難するのでしょうね。
そうやっていつもつっぱねられてしまう。
そんなに嫌いなら、”別れてやる!”って、思ったの。
弱気になって良く無い事ばかり考えがちな私を
”そんなふうに考えちゃだめだよ”って教えてくれて、
救ってくれたのはノブヒコさんで、
お陰で随分成長したし感謝してるけれど、
時には真面目に悩むことだってあります。
そんな時こそ愛する人に悩みを聞いてほしいと思うし、
力になって欲しいと思うのに、それすら尽き放たれてしまうのなら、
一緒にいても辛いばかりですから。
それなら別れようと。
ノブヒコさんはいつも、
”妬きもちを妬かれるのは嫌いだ”
って言ってますよね。
私、前にも言ったことあるけど、
私は本来は妬きもちなんて妬く人間じゃないんですけど、
ノブヒコさんとの関係が普通じゃ無い以上、
この気持ちは止められないと思います。多分。
なんの障害もない普通の恋人どうしなら、なんとも思わないはずの事が、
全然違って感じるのです。
普段から何かと不自由で制限だらけで、
すべてに辛さ刹那さがつきまとう状態だから、
だから、どうしようもないこの境遇のこと以外での何かがあると、
腹が立ったりするんでしょうね。
多分この気持ちは止められないと思います。
できる限り、見せないようにはしているけど、自分のなかにそうやって
溜め込んでいっているだけで、何も感じていないんじゃない。
もしもそんな気持ちが無くなるとしたら、
それはノブヒコさんを好きじゃなくなった
ということでしょうね。
でも、ノブヒコさんは、
私がどんなに普段不自由な制限のなかで苦しんでいようとも、
そんなことは関係なく、
”妬きもちを妬かれるのは大嫌い!”なんでしょう?
だったら、私達は付き合っては行けない。これ以上。
ノブヒコさんには都合のいいことばかりで、
私はそれに振り回されて、
ノブヒコさんに気に入られようと我慢ばっかりして、
私にとって都合のいいことなんて何一つない。
境遇のことはどうしようも無いし、そういう相手を愛したのだから
仕方がないと納得できるけど、
そのぶんそれ以外のことでは辛い思いをしないようにと、
私を大切に大事にして貰えないと、私はダメみたい。
いろいろ考えたら、私達って、
合ってないですね。なんだか。
ノブヒコさんにはとても都合がよかったかも知れないけど、
それに私は必死に合わせて我慢してただけ。好きだから。
私、ノブヒコさんとは仲の良い友だちだった方が良かったのかもね。
そしたら他愛のない電話を気軽にしたり、
気兼ねなく本音で笑いあえて、月に数回は飲みにいって。
それで、別にへんな寂しさとか嫉妬とか、
そういう嫌な想いはしなくてすんだしね。
こうやって、一生懸命考えながら、時間を裂いて、
必死の想いでメールを書いたって、いつもノブヒコさん無視ですよね。
私の真剣な悩みや想い、全部はなであしらわれてる。
そんな事もひっくるめて、やっぱり”ダメだ”と想ったのです。
私、きっとノブヒコさんのこと愛し過ぎたんですね。
こんな本気にならなければ丁度釣り合いがとれたんでしょうね。
こんなメール読むの嫌でしょう?
ごめんなさい。
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文中にも書いていますが、
私がこれまで必死の想いを文章にしてノートに書いて手紙として
読んでもらったり、
メールで送ったりしたことが何度かあったのですが、
いつも彼は読んでくれるだけ、でした。
彼は、待ち合わせや会える日のことなど、
用件以外のメールは殆どなし。
口べたな彼は、愛を語ってくれることも、
殆どなし。
驚いたことに、
このメールに彼はとても親身に返事をくれました。
私が予想していなかった事でした。
前向きな私を誰よりも愛してくれていた彼は
暗い重い話には触れたがらないと思っていましたから。
ちゃんと返事をくれた事が、凄く嬉しかった。
そしてもうひとつ、私が予想していなかったのは…
彼がくれたその親身な返信メールの中に、
「しばらく逢わないほうがいいかも知れない」
という言葉があったことでした。
私たちは距離を置く事になってしまいました。
11月23日の祝日には久しぶりに遠出のドライブの予定だった。
ノブヒコさんも私も、
物凄く楽しみにしていた
久しぶりのデートのハズだったのに…
第39話『悪い事は悪い!』へ続く




