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第37話『別れる?別れられない!』

倫理に反する事も色々と出てきますが書きます。

おこがましいかもしれないけれど、反面教師として、

似たような境遇に今いる人に何か一助となれば…

と少し思ってます。

 私が母と決別して天涯孤独になった、

そんな九月…



 その頃にはノブヒコさんの仕事の多忙さも更に増して、

私に会う為だけに”わざわざ鎌倉へ”というのも

十日〜二週間に一度というのが関の山になってきていた。







 1999年、当時殆どの人が携帯電話を持つようになり、

いつでもどこでも簡単に電話で話せる時代になっていたのに、

(とはいえ、まだメールは一部機種のみという時代。)

彼は頑固に携帯電話を持とうとしなかった。


 今さら急に「携帯を使うことにしたよ」なんてことになったら、

不倫を疑われる要素になるに違いない。

いつでもどこでも連絡が取れることは、

何かと拘束されることにもつながる。

そんな諸々のリスクは避けなければ…



 会社から全員に義務で社用携帯が支給されるまで、

彼は携帯を拒み続けた。





 もともと電話嫌いなノブヒコさん。

逢えなくて寂しがる私の為に

少しは無理して掛けてくれたこともあったけれど、

ほんのたま〜に、せいぜい三分程度の短い電話。


 私の家から最終電車で帰るときの乗り換え駅で、

ホームの公衆電話からの数分の電話だけは、

いつも欠かさずしてくれたけど…

 


 もともと電話する習慣の無い人が

マメに電話することなど土台無理な話。




 会えなければそれはそのまま全くの音信不通と同じようなものでした。












 今じゃ考えられませんよね、そんなの。

逢えなくたって、

メールや電話でいつも繋がっていられる、

いつでも電子ツールで会話が出来る、

それなら、寂しくても頑張れるもの…



 それが私とノブヒコさんの場合、ほぼ、

<逢えない=音信不通>

いつもいつも側に居たい”究極の寂しがり屋”の私には、

毎日が堪らなく苦痛で、

夜が途方も無く長かった。




 本当に、毎日が長く、

毎夜が途方も無く長かった…











 どんなに寂しくても切なくても辛くても、

それより、ここまで人を真剣に愛してる自分自身を喜ぼうとか、

ここまで心底愛せる人に巡り合えたことを幸せに思おうとか、

どんなに辛くても、人生最愛の人を失うことに比べたら、

辛くなんか無いとか…

きっと真剣な不倫の恋をしている誰もが、

そんなふうに思って過ごしているのでしょうね。








(こんなに苦しくて切ないのは、それだけ愛してるって証拠。)



(もう今後、二度とこんなに人を愛せないだろう。)





 そんな風に勘違いしているだけなのカモ知れない。









 どんなに考えたって、

これは恐ろしい罪悪でしか無いのです。







 どんなに純粋な愛だとしても重罪なのです。







 世間を欺いて人のモノを盗む薄汚い嘘つき。










 人の不幸の上にあぐらをかく行為。












 幸せでも誰にもノロケられない、

苦しくても誰にも吐き出せない、

同僚も、

友達も、

兄弟姉妹にも、

親にも嘘をつき続け、

誰にも話を聞いてもらうことも出来ず、

誰にも祝福してもらえず…



 自分もこんなに辛くて苦しくて、

その上、誰かを傷つけて苦しめてる行為で、

自分と親しい誰かが知ったら、その誰かも悲しむ、

どこにも誰にもイイことなんか一つも無い…



 私は周りの全ての人を苦しめて傷付けて、

それでいて、自分まで苦しんでる。






 


 いったい何のために私は苦しんでるの?





 覚醒剤とか麻薬と同じか?

その幻覚のような一瞬の幸福感を手放せずに、

誰にも言えないまましがみついてる。



 死ぬ程辛い思いをしてでも彼と別れるべきなのか…






 一生忘れられないで苦しみ続ける事になったとしても、

どうせ一生愛人で苦しみ続けるんだから

どっちにしたって私が一生苦しみ続けるのは同じ。

だったら他人を苦しめずに罪悪を犯さずに、

自分一人で苦しむ道を選ぶほうが少しは救われるハズ。

一生私一人で苦しむのは勝手だけど、

一生誰かを苦しめる権利なんか

私には当然無いのだから…



 もうこんな苦しみには耐えられない。

きっとこのままじゃ、

私は彼の前でもどんどん暗くイヤな女になっていってしまう、

それも目に見える気がした。




 少なくとも私はもう限界だ。

そう思った。
















 去年のあの幸せだった夢のような30才の誕生日から、

”寂しい””辛い””苦しい”この一年…


 彼と出逢って恋に堕ちてから二年半。

その時、私は別れ話を考えていた。

31才の誕生日は目の前迄やってきていた。







 二週間以上会えなかった彼と、

半年近く振りに遠出のデートで会うことになった。













 久しぶりに会った彼は、

私のそんな別れ話なんて知る由もなく。




「本当に物凄く逢いたかったよ!」






 珍しく人目もはばからずに私を抱き寄せ、

普段では無かったような嬉しい言葉を沢山くれた。



 そんな風に彼から目一杯の愛を注がれると、

別れる決心なんて、あっという間に吹き飛んでしまう。






(やっぱりこの人と別れるなんて出来ない…!)



(やっぱりどうしても失いたくない!)






 その思いばかりが募りました。

女ってヤツはホント単純すぎて

どうしようも無い生き物ですね…














 その日の帰り道のドライブ中、

車の中で私は考えていた事の全てをノブヒコさんに話しました。





「私ね、今日、ほんとは別れる話をしようと思ってたの…」




 私が別れを考えていたことに、彼は物凄く動揺していました。

いつも冷静な彼が異常に動揺している姿を見ていると増々、

私の別れの決意は消し飛んでしまう。



「やっぱりダメ…、どうしても別れたくない!」



 

 私は涙が止まらなくなっていました。





「どんなに苦しくても貴方を失うなんて、やっぱり考えられない…」















 ノブヒコさんは、これまでの二年半の中で、

普段滅多に愛を語ることはしない人でした。


 その何も言ってくれない彼が、

この日この時、私が言葉を挟むことも出来ないくらいに

自分の想いを切々と私に語ってくれました。




 そんな貴重な言葉の一つ一つを、

私は必死に心に焼きつけ、

私はその日の自分の日記に大切に書きとどめました。


 その日の彼の言葉を一生忘れない宝物にしたくて…








 今でも読み返す度に、

必死に語ってくれてたあの時の彼の表情が浮かび、

その声が、まざまざと耳に蘇ってくる。

多分これから先何年も…














+ + +(※この日の日記より抜粋)+ + +






「絶対に松尾さんを独りにはしたくないんだ。」






「これから独立して新しい仕事始めてく大事な大変な時じゃない。

僕は松尾さんの仕事の才能にも凄く惹かれてる。

何も大したことは出来無いんだけど、

だけど、

それでも支えになりたい。」











「寂しくて、苦しめてるのかもしれないけど、

独りにはしたくない。

ずっと支えになっていたいから、

僕を好きでいてくれてる間は、

独りになるなんて言わないで欲しい…」









「悩んだ時とか、

病気の時とかさ、

頼ってくれてホント嬉しいし、

とにかくずっと支えてたいんだ。」










「松尾さんがそんなに苦しいのなら、

僕がウソを言って、

”わかった、別れよう”

なんて言ってあげた方がいいのかも知れないけど、

…出来ないよ。

そんな心にも無いこと言えないよ。」













「僕がクールで、何とも感じないと思ってた?

別れましょうとか、

好きな人が出来たなんて言われたら、

めちゃくちゃ傷付くね…」










「これからは、会う度に、

”他に好きな人が出来たから別れましょ”

とかって言われるんじゃないかと、

ドキドキしなきゃなんないのかな…」











「僕だって同じなんだよ。

松尾さんがいないのなんて考えられないよ。

どんなに会えなくなったって、

忘れられるわけないんだよ。」













「しばらく距離を置こうとか、

時間を置きたいなら、それでもいいよ。

でも…、これっきり赤の他人だなんて、

そんなのどうしてもやなんだ。」











「引き止めることが苦しめることなのかもしれないけど、

でも…、

”あ、そう”

とは言えないよ…。」














「松尾さんが40才になった時、

また一緒に横浜行こうって言ってたじゃない。

楽しみにしてるんだよ、本当に…。

40でも35でもいいけどさ、

今度は僕がホテルを探しておくよ。

忘れられない思い出なんだよ、ホントに。」














「たとえ月に一度とか、

何ヶ月に一度とかしか会えなくなったとしても、

僕の気持ちはずっと変わらないんだ。

僕だけかも知れないけど、

普通は会えないと気持ちが離れちゃうとか言うけどね、

僕は絶対に気持ちが離れたりしないんだよ。

ずっと変わらずに想っていられるんだ。」













「肉体関係だけが愛情じゃないんだから、

指一本触れないでって言うならそれでもいいんだ。

そんな事はどうでもいい。

それでも絶対に会っていたい。」















「罪悪だから恋人関係じゃなく友達関係で…って、

松尾さんが言うならそれは仕方ないかもしれないけど、

それでもずっと支えになっていたいんだ。」











「”他に好きな人ができた”とか

”もう好きじゃなくなった”とか言われたら

物凄く僕は傷付くだろうな…。

でもそれでも、

きっとそれでもやっぱり会いたいと思うんだ。

もう一生絶対に忘れられないんだ。」



+ + + + + + + + + + + + + + + +













 いままで、ちっとも気持を口にして喋る事をしなかった彼が、

こんなにも熱く話してくれたことが何よりの驚きでした。




 そして結局、いかにお互いが離れられない存在なのかを

確認しあったようなこの別れ話は当然水に流れ、

かえって絆を深めたようでもありました。








 この日の夜。

彼からパソコンにE-mailが届きました。

メールなんて、殆ど使わない彼なのに。









From: ノブヒコ

Date: 1999.9.12 00:22AM

To: リク

Subject: 璃玖さんへ

「今日はありがとう。

もう少しで人生最悪の日になりそうでした。

僕にとっての恐怖の大王は璃玖さんの一言かもしれませんね。

今はとても嬉しい気持ちです。

今日僕が話したことは、本心であり、

その気持ちは今後おそらく一生変わらないでしょう。」











 ”松尾さん”じゃなく、ほんとは名前で呼び捨てして欲しい、

って言ってた私の願いを少しだけ意識してくれたのか、

このメールには”璃玖さん”と名前で書いてくれていました。


 呼び捨てにはどうしても抵抗があると言ってたノブヒコさん、

”璃玖さん”だけでも、頑張ってくれたんだな〜って、

ほんと嬉しかった。









 私にとってもこの日は人生最悪の日になりそうな日でしたが、

逆に、ありったけの彼の気持を初めて聞く事が出来て、

その夜は幸福感でいっぱいでした。










 きっと真剣な不倫の恋愛をしているカップルの殆どが皆、

こんな”いったりきたり”のグダグダを繰り返しては、

別れられないで居るのでしょうね。


 つかの間の幸福感ですべてを誤魔化しながら、

その場その場の麻薬のような幸福感を繋ぎあわせて生きてるだけ。

本当は、勇気を出して断ち切れば、ちゃんと幸せに成れるのに。

まやかしの幸せではなく、一点の曇りも無い幸せに。






 でも、誰だって、まやかしでも”幸せ”なら、

それを自ら投げ捨てるなんてこと、したくはない。

でもやっぱり、それを投げ捨てる勇気を持たなければならない、

それを捨てる痛みで、もがき苦しまなければならない。



 それが罪を犯した酬いであり、

いわば犯罪者に課せられた義務なのだから。

第38話『惚れた弱味』へ続く



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