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第35話『不足感は、すなわち不幸感』

倫理に反する事も色々と出てきますが書きます。

おこがましいかもしれないけれど、反面教師として、

似たような境遇に今いる人に何か一助となれば…

と少し思ってます。

 不倫の関係を続けながら苦しまない方法って、

私はありえないと思うんです。


 いや…、

あってはならないのでしょうね。





 不倫は酷い罪悪なのだから、

苦しみはそれに対する罰なのでしょう。




 本当はその程度の罰では済まされない大罪なのでしょうけれど…















 私が倒れて緊急入院したことで、

お互いの愛情の深さを確信したノブヒコさんと私。



 彼の転勤辞令におびえ、

そのことで、

「彼の傍に居られるなら何もかも喜んで捨てられる」

という初めての気持ちを持ち、

長年最愛だった筒井君をも上回る愛なんだと確信した。






 ノブヒコさんと私は、

相変わらず週に数回は仕事帰りに私の家で逢い、

遠出のデートも、お泊まりも、

月に一〜二回は繰り返していた。


 遠くの県まで車を走らせて御花見にも出掛けたし…


 ちょっと近場の河原をのんびり散歩もしたし…


 急に夜中から車を走らせて、遠く砂丘のある海を見にも行ったな…



 あの初めてのドライブデートから一周年の時には、

同じ場所へドライブして一年前の想い出に二人で浸った。









「あのドライブに誘ってくれた時、

離婚直前でストレスの溜まった可哀想な部下への同情で

気晴らしに誘ってくれただけだと思ってた…」



「そこまで僕はお人好しじゃないよ。

でも…、こんな風になるとは思ってなかったし、

そんな下心で誘った訳ではないつもりなんだけどね、

なんかとても複雑な気持ちだったかな。」




「そうなんだ…。ねえ、じゃ、その前に《面接の続き》って

食事に連れて行ってくれたのは?」




「まあね、面接は…、もちろんしなきゃならないと思ってたけど、

でも殆どただの口実だったね。」



「ええ〜!口実だったの?

そんな口実使って女を誘ったりする人だったの?」




「バカな!そんな事したの初めてに決まってるじゃん。

僕はそんな事するタイプじゃないんだから。あの時だけ!」





「じゃ、どうして?いつから急に変わったの?」




「う〜〜〜ん…、飲み会のあと河原で二人っきりになった時、いや、

初めて会った時から気になっちゃってたかも。

というより、会う前から仕事ぶりとか評判では気になってたし…」



「会う前?」



「そう。良い仕事するな〜って。

で、担当替えになって実際に出逢ってみたら…」




「実物がイイ女でビックリした?はははは…」




「そうそう。はははは。

でもほんと、自分でも信じられない事だし、

いつから、なんで自分がこうなっちゃったのか、よく分からない。

いつの間にかもう夢中になってて…」














 私は20代の精算をし、

とてもイイ気分で20代の幕を閉じた。

その翌日、いよいよ30才の誕生日を迎えました。



 24〜5の頃から、ずっと30才に憧れ続けていた私にとって、

この30才の誕生日は何年来待ち焦がれた記念すべき日なのです。

私的には人生で一番喜ばしい誕生日って感じ…


 ノブヒコさんは、そんな私の<30才>への思い入れを充分知っていたから、

その記念すべき誕生日は絶対に二人で一緒に!

と言って都合をつけてくれました。





 とっても気持のイイ天気だった…




 二人で近県の海辺までドライブ、

夕飯は奥様の料理を食べなきゃならないから、

昼食で豪華に御祝しようって言ってくれて、

高級ホテルの高層展望レストランで豪華なコース料理を。



 何年も前からずっと楽しみにしていた30才の記念日…








「人生の大きな記念日を一緒に祝うことが出来て凄く嬉しいよ。

そんな大事な誕生日が僕とで良かったのかな?」




「もちろん!私のほうこそ、夢に見てた憧れの30才の誕生日、

いったいどんな風に過ごしてるんだろうって想像してたけど、

生涯で一番愛してる人と過ごせるなんて、なんて幸せなんだろ…」






 その誕生日の一週間後、

「形に残るプレゼントを」とノブヒコさんが言い、

バッグを買って貰いました。

私には何よりの宝物になった。











 出会ってから1年と半年近く…

まさにバラ色って感じだった。

この日までは。



 <不倫>という薄暗いよどんだ色など感じないような

鮮やかなバラ色の日々だった…


 普通の幸せな恋人同士となんら変わらないような

そんな錯覚さえ覚える程に。





 でも、不倫関係というのは、

所詮は普通の恋人同士とは違うのだということが

年月と共にあらわになってくるものです。


 最初は恋の勢いで燃え上がってはしゃいだ日々を過ごすけど、

だんだん現実が見えてくるもの。






 特別裕福でも無い限り、

普通の会社員の夫一人で家族を養ってる場合、

よそでしょっちゅうデートを繰り返してるような

経済的余裕はそんなに無いはず。




 しかも、多少遠出したところで

外で逢う度につきまとう<人目>というリスクは

逢う回数が増えれば増えるほど高くなる。


 そんな危険を犯してまで、

経済的にも負担になる行為を繰り返していては

身が持たないということに気付き始めるのでは無いでしょうか。



 ノブヒコさんがそんな風に言ったことは無かったですし、

そんな素振りを匂わせたことも無かったですが、

今になって思えば、<不倫>とはそういうモノなのだろうと思えるのです。











 そんな背景があったのか無かったのか、

私達は30才の誕生日のデートを境に、

外へ出かける事は殆ど無くなっていきました…





 しかし、この時はまだ逢う頻度が減った訳では無く、

仕事帰りに週に数回は逢い、月に一〜二回は泊まってくれたし、

休日も月に二回程度は朝から晩までずっと傍に居てくれた。



 でも…


 それらはすべて、

私の家の中から一歩も出ない状態の

まさに密室での密会でした。






>閉ざされたドアの中だけが

>私になれる場所

>ここであなたが見せる優しさに

>偽りはないけど



 竹内まりやさんの歌詞にこんなフレーズがあったけど、

バラ色の恋人同士だった空気は、

外で会わなくなったら見事に薄暗い<不倫色>のものになった。








 家の中に隠ってると当然、たいしてする事も無い。

休日でも、SEXしてテレビやビデオでも観ながらイチャついて

一日中半裸でゴロゴロしているくらいのもの…


 もちろん、最愛の人と一緒に居られるだけで、

なにもしなくても最高に幸せな時間だし、

嬉しくてたまらないのだけれど、

でもふと考えてしまう。

そんなんじゃ無いとはわかっていても、つい…


(なんだかコレじゃSEXしてるだけの関係みたいだわ)




 そんな考えが浮かび空しく哀しく切なくなってくる。





 普通の恋人同士のしている何気ないことが、

たまらなく羨ましく思える。

外でお茶したい!

映画観に行きたい!

散歩したい!



 家の中でくっついてるだけじゃなくて、

もっと色んな事を一緒にし、

一緒に色んなものを見て、

一緒に色んな場所に行って、

色んな空気を一緒に感じたい。

たとえそれが何でも無いようなことだったとしても…









 そんな風にバラ色が一変<不倫色>に染まった二ヶ月が過ぎ、

十一月が終わりになる頃、

残酷な悪夢がやってきたのでした…




 <万物は変化する>は社会生活にも当てはまるのです。



 時間ひとつとったって、

付き合い始めの頃のようなゆとりが、

ずっと保証されているとは限らないのです。

当たり前だけど…



 会社員であれば、転勤が無かったとしても

仕事の中身や部署の異動、担当変えなどに伴って、

生活時間、行動範囲の変更がある。


 そういうライフスタイルの移り変わり、

生活時間、行動範囲、経済的背景、などなどが

不自由な方に変化し始めると、

最初は盛んだったのに、あの頃の勢いはどこへやら…になるのは必然。


 家族は夫の生活の変化にも行動をともに出来る。

だから、どのような状況にも対処できるし、

多少仕事に変化があろうと、

いつだってしようと思えば遠出も、

ショッピングも子供の運動会の出席も、

なんだって出来る。


 勢いこそ無くても常に帰る場所である限り、

一緒に居られることに変わりが無いのが家族なのだから。






 仕事の変化の影響をダイレクトに被るのは、

隠されている恋人なのです。









 今回の辞令は、転勤では無く、

部署の異動、つまり担当替えでした。



 それは私達にとっては、

むしろ転勤よりも残酷な辞令だったのでした。






 彼が転勤になったら、

何もかも捨てて付いて行こうと覚悟していました。

付いて行って傍にさえいればずっと逢っていられたでしょう。

ところが、部署の異動は私達を強烈に遠ざけたのです。


 今迄一緒に仕事をしてきたパートナーだったから、

プライベートで会えない日も仕事では毎日逢っていられた。

それが一切無くなってしまう。






 プライベートで会える機会が無ければ、完全に会えない。









 



 私が担当していた現場エリアと、

ノブヒコさんが仕事する事になったエリアとは

例えるなら、

上野から鎌倉くらいの位置関係(電車で1時間強)にあって、

彼の自宅が品川あたりというイメージ。


 つまり、彼の仕事場から自宅へは20分ほどだけど、

私の家や私の現場エリアは自宅を通り過ぎて更に1時間掛けないと

行けない場所になってしまったという訳です。




 彼と私の行動範囲は仕事もプライベートもすべてが、

<上野と鎌倉>状態になってしまい、

彼が私に逢う為だけに、

わざわざ鎌倉に行く時間を作るしかなくなってしまったのです。









 普通の恋人同士なら容易いことでしょうけれど、

ただでさえ忙しい毎日。

体は二つ無いし、一日は48時間や30時間ある訳でも無い以上、

<わざわざ鎌倉>というのはとても無理。



 そうでなくともデートの隠れ蓑の、

残業、会議、付き合い、接待、ちょっと飲み会…

密会に必要な小道具も

使っては戻し使っては戻ししていくうちに

だんだんとくたびれるし、

良心の呵責にも苛まれる。


 そして心配も累積していく。

「バレないだろうか?」と。

それが生活範囲のついでならまだ何とかなろうものですが、

わざわざ大きな時間を作らねば会えないとなると、

簡単には会えなくなる。








 この距離は実に微妙です。

完全に遠距離なら滅多に会えないことを覚悟出来るのに、

逢おうと思えば逢える微妙な近距離であるせいで、

どうしても期待してしまう。

 

 でもその期待は大抵は叶えられずに苛立ち、

悲しみの元になる。






 かといって、辛いから<別れる>なんてことも

出来るはずがなかった。

14年間命がけで愛した筒井君以上に、

ノブヒコさんが私の生涯で最愛の人になっていたのだから。







〜〜〜〜〜〜〜〜〜

※第34話『20代の精算・卒業』より

〜〜〜〜〜〜〜〜〜

例えば毎日会ってたのが、

何らかの事情が変わって週に一回しか会えなくなるとか。

毎日電話してたのが、週に一度になったりとか。


 いつも身近に居たのに遠くに離れてしまったら、

当然、その分の”不足感”を感じることになり、

”不足感”はすなわち”不幸感”となってしまう。



 毎日食事を食べるのが当たり前だけど、

それを急に週に一回しか食事を食べられなくなったら?


 食事の有り難みを痛感するだろうけど、

それ以前に壊れちゃうよね。

会える喜びよりも会えないストレスが遥かに上回って

押しつぶされてしまう…

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜







 部署が変わってから仕事自体も増えて、

物凄く多忙になってしまった彼は、

それでも頑張って週に一度はなんとか!と頑張ってくれていた。



 時には一週間が十日にのびたり、

二週間にのびることもあったけれど…





 そんな貴重な密会のときには必ず、

(とことん満たされるまで一緒に居たい)

(できれば時間が止まってくれれば)

なんて、叶うはずも無いことをわかっていながらも

何度も願ってしまう。




 ノブヒコさんも「帰らなきゃ」となかなか言い出せなくて、

グズグズしているうちに終電に乗り遅れそうになって大慌て!

なんてこともしょっちゅうだった。


 お互いにわかっていたって、

別れの時間は「じゃ、また」で済む訳が無いのですから。







 部屋でもグズグズしてしまうし、

玄関では毎回泣きそうになる。

泣いたりもする。



「御願いだから笑顔をみせて…」



 玄関でそう言う彼に、応えたいけど、

笑って見送る事が出来ない。


 ”次は何時会える”っていう約束があれば、

「じゃあ○日まで楽しみにして頑張ろうね!」

って笑顔も作れるのかも知れない。


 会えない時間も、

その日を指折り数える楽しみな日々になるのかも知れないけれど…


 彼は次の約束をしてくれない。





 約束に変更が生じたときの「期待の裏切り」はとても辛い。

だから彼は次の約束を絶対に口にしませんでした。










 期待が外れてガッカリすることが多いのが不倫の恋なのです。

会えなかったり連絡が取れないことが多いのが不倫の恋なのです。


 会えない寂しさを考えればキリが無く辛いから、

会える喜びを考えて楽しみに思って暮らそうとするけれど、

そんなふうに楽天的になれるほど、私は強い女では無い。



 天下イッピンの寂しがり屋で、

四六時中一緒に居たいタチの私が、

いくらポジティブ思考を努力したって、

この状況で楽しく暮らすのはまあ無理だ。








 いつもいつも、思いっきり後ろ髪を引かれながら、

終電に駆け込み帰宅していたノブヒコさん。

途中の乗り換え駅のホームから、

公衆電話で必ず電話をくれるようになりました。


 けたたましいベルの音や電車到着のアナウンスが聞こえるまで

乗り継ぎ待ちの僅か数分、

その愛が痛いくらい嬉しかった…













 あの30歳の誕生日のデートから


バラ色の日々が一変して七ヶ月が過ぎた四月の終わり…


 本当に久しぶりに外へ遠出のドライブをしました。

私たちが出逢って二年を記念するデートでした。

本当に嬉しかった…




 真っ赤に染まった西の空、

湖に沈む夕陽の、感動的に美しい色の変化を

湖畔でずっと二人で眺めてたのが忘れられない。


 私を背中から抱き締め、愛おしそうに顔を寄せてくれるノブヒコさん。

本当に久しぶり、

ほんのつかの間の幸せ…








 ちょうどその頃でした。

なんと、

こともあろうにノブヒコさんの奥様が、

私の担当する職場にバイトにくることになったのです!

第36話『残酷な手紙』へ続く

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