第32話『禁じられた恋人達のクリスマス』
倫理に反する事も色々と出てきますが書きます。
おこがましいかもしれないけれど、反面教師として、
似たような境遇に今いる人に何か一助となれば…
と少し思ってます。
・:・:・:登:場:人:物:・:・:・:・
松尾リク(主人公)
高田さん(高田延彦さん風)
・:・:・:・:・:・:・:・:・:・:・
私のプライドやら何かそういうもののすべてが
グチャグチャに打ち崩されたような
あのゴタゴタがあってから、
私とノブヒコさんは、
初めてお互いの愛情の深さに気付かされたような
そんな風になってた。
「愛してるとか、淋しいとか、逢いたいとか、
松尾さんのようには僕は口にしていないけど、
好きな気持も、淋しい気持も、逢いたい気持も、
僕だって同じなんだよ。松尾さんだけが思ってるんじゃないよ。」
そう話してくれるノブヒコさんの気持が
本当の意味で初めて解ったように感じていた。
それから程なく、世の中はすっかりクリスマス一色になっていた。
クリスマスと言えば、プレゼント。
それに恋人達の甘いデート。
誰がいつから決めたんだかそういう日だよね。
そんなの馬鹿馬鹿しい、
なんて言う人も(特に男性には)いるのかも知れない。
まあ、そう言ってしまえばお終いなワケで…
私はこんな風に思ったりします。
別にクリスマスだろうが、体育の日だろうが、
いつだって構わないんだけど、
要するに、毎日毎日続く恋人達(や夫婦)の
ただの日常の平凡な日々の中に、
やっぱりどこかで時々は
特別な気分でロマンチックに二人の気持を
再燃させたりできる日が必要なんだろうな〜って…
だから、何かの日に便乗して、
そういうロマンチックな時間を持とうとしてるんだろうなって。
そうでもしなきゃ、ずっと平凡な日常だけが埋め尽くしてしまうから…
それが体育の日でも子供の日でも春分の日でもいいんだけど、
ロマンチックな関係にぴったりムードなのが
たまたまクリスマスなんだろうね。
だから、あながちクリスマスが馬鹿馬鹿しいってのも、
どうかと思うんですよね。
人間の一年の過ごし方だって、一生だって、
そうやって何らかの形で、節目節目に自分を盛り上げて生きてるものね。
ましてや他人どうしの男と女が寄り添って生きて行く日々の中に、
そういうメリハリ(?)みたいなのは大事なんじゃないかな?
それがたまたまクリスマスなだけで…
思えば、私はクリスマスを独りで過ごした経験が無かった。
子供の頃は何かと子供同士のクリスマス会とかあるし、
思春期になって以来、
めでたい事にクリスマスに彼氏が居ないってことは無かったし。
29年間、毎年毎年クリスマスは当たり前のように特別な日だった。
でもふと思えば、今の私の恋人は既婚者…
既婚男性がクリスマスに家に居ないなんて、
いかにも”外に女がいます”って言ってるようだものね。
普通はやっぱ、こういう時には逢えないのが不倫なのだろうなあと、
自分の恋が不倫であることの現実を思い知る。
私って人にプレゼントとかするの大好きなんです。
恋人だけじゃなくて、友達とかでも。
何を欲しがってるのかなとか、
どんなのが好みかなとか、
さり気なく必死でチェックして予想して、
喜んでくれそうなものを考える。
コレがイイかな、
あれが似合いそうとか、
一生懸命探したりして…
驚く顔とかが嬉しくて。
だけど、既婚者にプレゼントは…
どうなんだろうか?
自分が既婚者だった経験からも、
夫が何か貰って来たら不審に思うんじゃないかという察しもつく。
あ〜あ…
私達にはクリスマスは無いんだなあ…
産まれて初めて
クリスマスを平日として過ごさねばならないことを感じていた。
当然ダメだとはわかっているけど、
念のための確認。
「クリスマス頃って、やっぱ逢えないよねえ?」
ところが!
なんとノブヒコさんはクリスマスを一緒に過ごしてくれると…!
「毎年は無理だけど、今年くらいはね。僕も一緒に居たいし。」
「ええ!?…でも、それってマズくない?」
「っていうかたまたまね、大丈夫そうだからさ。」
「だってそんな日に居なかったら不自然だよ…」
「たまたま今年は嫁さんと子供は実家にお泊まりらしくてさ。
来年からは無理かもしれないから、せめて今年だけね。」
そう言って、お泊まりもOK!にしてくれたのです!
とはいえ、派手な行動は出来ないし、
プレゼント好きな私だけれど、それはやっぱマズいよね…
でも、とにかくクリスマスに一緒に居ようって
そう言ってくれたのが嬉しくて。
本当なら諦めなきゃイケナイのに…
私の家に居る時のパジャマとして、
彼が自分の家からTシャツを一枚持って来て置いていたんだけど、
さすがに半袖のTシャツじゃ寒くなって来たので、
私の家で着るパジャマならプレゼントしても問題ないだろうからと、
ブランド物の長そでシャツを買っておくことにした。
でもやっぱ家の中のそれだけじゃ寂しくて、
なにかプレゼントして怪しまれない物で、
喜んでくれそうなもの…と思い巡らせ、
彼が会社で使う筆記具の上等なのをプレゼントする事にした。
会社で使うものなら奥様の目に触れないし、
彼はいつも100円くらいのシャーペンとか使ってたのを見てたから。
デパートのCROSSの売場に行って
クラシッククロームのシャーペンとボールペンをセットで買った。
ラッピングして貰っている最中ふと思い立った…
「あ!ボールペンのほうをもう一本、それは別でお願いします。」
ささやかなペアグッズ。
私も仕事場で毎日ノブヒコさんと同じものを使おう♪
事前の十二月二十三日の祝日に、
二人で休みを取って、ドライブデート。
翌日クリスマスイブは平日だったので、
仕事の後、彼が家に来てくれた。
翌日も二人で休みをとって、そのまま二人でずっと一緒…
スパークリングワインを買って、
シャンパングラスを買って…
とはいっても、ディナーはケンタッキー。
なぜなら、私の家には自炊用具が一切ナシ!
この時はヤカンのひとつすらなかったからなのです。
ニ度目の離婚をしてここに引っ越して来た時、
せっかく自由になったんだから〜〜〜!!!
ということで、当分な〜〜〜んにもしないで暮らそうって思ったのです。
掃除や洗濯はしない訳にはいかないけど、
せめて料理だけでもサボろう!って…。
引っ越したついでに、調理器具の一切を買わなかった。
インスタントものどころかお湯すら沸せない、
”飲食”のすべてを外で済ませてました。
十二月のボーナスが出たら一気に調理器具を揃えて、
年明けから自炊しようと決めてました。
四か月間だけの料理休暇!って感じ。
たとえケンタッキーでも、
とびきりロマンチックで甘〜い二人でのクリスマス。
私とノブヒコさんとが一緒に過ごした唯一のクリスマスでした…
ちょうどその頃だったと思う…
ネットで親友っぽい男友達が出来たのが。
1997年、PCを始めてから一年未満だったけど、
少し以前からネットを通じて仲良くなった人が何人かいた。
もちろん私はノブヒコさんにどっぷりハマっていたから、
過去にネットを始めた当初(SEXフレンドじみた男を作っていた頃)
のような下心はこれっぽっちも一切無く、
友人達とのコミュニケーションを楽しんでいただけ。
そんな中で、特に気があって親しくしていた年下の男友達。
その彼とはネット上での会話はもちろん、
度々直接電話などでも延々と語り合ったりしてた。
直線距離にして500km程のかなり遠距離に住んでいたその彼が、
たまたま私の近郊に来る用事があり、
そのついでに会ったのが実際に顔を見た最初だった。
彼は聡明で温和な顔立ちをした背格好もカッコイイ感じ、
今で言えば瑛太さんをもうちょっとマジメにした風の青年だった。
もちろん、”会う”といっても、
なんらイヤラシイ意味は全く無い。
その瑛太さん似のA太君にはノブヒコさんという私の恋人のことで
話を聞いてもらったりすることも多かったから、
私がノブヒコさんにのぼせ上がってることも重々承知だったし、
私がどれほどノブヒコさん一筋で、
他の誰にも、気持はおろか指一本すら触れたくないと思っていることも、
そんな話をさんざんA太君とはしていたので、
まさに異性の親友以外の何者でも無かった。
本当に良い友達だと思っていた。
…はず、
だった……
ところが、初めて実際に会って以来、
急にA太君の態度に変化が。
A太君が私に対して恋愛感情としての好意を
口にし始めたのです。
私もA太君の事はとてもイイ青年だと思っていたし、
光栄なことではあったけれど、
私の心にはノブヒコさん以外の人など入り込む隙間は一切無い…
A太君は、
「それでもイイから」と、
遠距離をはるばる私に逢いに来る事も何度か…
「璃玖ちゃんがノブヒコさんを好きでも、好きで居させて欲しい。」
「いつか僕が入り込む隙間が出来たら、心のどこかに置いといて欲しい。」
そう言うA太君。
私はともかく今迄通りイイ友達でいよう!と、
距離を置いて接するしか無かった。
ある時、何かの話の拍子に、
A太君がトンデモないことを言い出した。
「ねえ、結婚しよう! 結婚して下さい!」
「なにバカな事言ってンの!」
マトモには聞かなかったけど、
それから事あるごと、A太君は<結婚>を口にするようになった。
A太君は御曹子。お見合いすれば引く手数多な好条件男だ。
私は29歳、ノブヒコさんが既婚者で、実らない恋愛だということで、
結婚をチラつかせれば私が傾くとでも、
A太君に幾らかの勝算があるとでも、
思われていたのかも知れない。
A太君は、ほんとうに良いヤツだったし、
大好きな友達だったけれど、
私のノブヒコさんへの気持ちは
そんな事で揺らぐことは微塵も無かった。
年が開けて、平成十年になっていた。
どうせゴールのない恋愛だからやめるというのなら、
どうせいつか死ぬのだから生きるのをやめるというのと同じだと、
不倫の恋愛を例える事ができると思った。
死なない為に生きる訳ではなく、
死ぬのは解ってても生きる意味は他にある。
ゴールを迎える為に愛するのではなく、
ゴールが無いのは解ってても愛する意味は他にあるのだ。
ただし、これは不倫の恋愛を正当化したいのではないので誤解の無いように。
あくまでも、不倫は字のごとく倫理に背く行為である。
どんなに純粋に愛しあっていたとしても、
いかなる理由があったにせよ、
してはイケナイ罪悪であることには違い無い。
ただ、良く「結ばれない恋愛を続けるなんて」
ということを言う人がいるので、
それに対する答のひとつ…
なんのゴールも無くたって、不倫のまま何十年連れ添ったカップルもいる。
ただ純粋に愛する人と連れ添っていたかっただけに違い無い。
目的があって愛するのでは無い、
愛する事が目的でしかない。
不倫じゃなくとも、
何らかの障害があって結婚するということが出来ない
そんなカップルだってこれと同じだと思う。
結婚出来ないから別れるんじゃ無いはず。
結婚出来ないから別れるカップルなら、そんなの愛じゃない。
それは”結婚”が目的なだけで、そんなの愛じゃない。
ただし、何度も言うけれどそれでも、不倫は所詮、不倫。
正当化することは絶対に出来ない
過ちであることには違いは無い。
それだけは決定的な違い。
一夫一婦制の社会に生きている以上、
不倫は絶対に罪悪でしかありません。
誰にとっても不幸でしかありません。
平成十年一月…。
ノブヒコさんの31回目の誕生日。
私にとっては初めてのノブヒコさんの誕生日。
もちろん、その当日は奥様と御子息が彼を祝う…
ましてやクリスマスに留守をしたばかりで、
誕生日に帰りが遅かったりしたら問題だもの。
「次の日になっちゃうけど、泊れるようにするから。」
そう言うノブヒコさん。
じゃあ、精いっぱいお祝いしなきゃね!
ということで、
年明けから解禁になった料理の腕を振るうことに。
「松尾さんの料理が食べられるなんて、
物凄く楽しみだし、何より嬉しいプレゼントだよ。」
そう言ってノブヒコさんも大喜びだった。
彼にブランドもののお財布をプレゼント。
持ち帰れないことは承知の上。
何か月先でも、ほとぼりが冷めた頃、
いつか自分で買ったことにして持って帰ってくれれば…
それ以来、彼がお泊まりしてくれる時の夕食や、
二人でとった休日のランチを私が料理をして、
一緒に食べる…という幸せな時間を持てるようになった。
彼は、奥様の料理よりも私の料理が美味しい、だなんていう
嘘っぽいことは言わなかった。
「嫁さんも決して料理は下手じゃないし、
美味しいんだけどさ、
松尾さんの料理、すごく僕は好きだなあ。
毎日こんなの食べさせて貰ってたなんて、
元旦那さんがうらやましいな。まじで美味しいよ。」
そんな風に言ってくれていた。
料理する予定じゃなかった時でも、たびたび彼が、
「悪いんだけど、作ってくんない?」と言ってくることがあった。
本当に私の料理を気に入ってくれてる証拠に思えて嬉しかった。
そんな束の間の幸せの絶頂と、
逢えない時間の孤独のどん底とが交互にやってくる。
いや、逢える時を待つ孤独の時間のほうが圧倒的に多いのは当たり前。
逢えない時間のいら立ちや刹那さとどう付き合って行くか、
それが既婚者との恋愛の定め…
ある日、いつものように仕事でドタバタしていたその時、
最近調子の悪かった私の胃は恐ろしい激痛に襲われたのです。
立っている事はおろか、呼吸もままならなくなり、
そのまま私は倒れ…
職場の人が救急車を呼び、
私は病院にかつぎこまれ、
そのまま緊急入院することになった。
バレンタインデーも過ぎ、二月も終わろうかという頃のことだった。
第33話『迫りくる春に怯えて』へ続く




