第31話『愛と絶望とに翻弄された秋』
倫理に反する事も色々と出てきますが書きます。
おこがましいかもしれないけれど、反面教師として、
似たような境遇に今いる人に何か一助となれば…
と少し思ってます。
・:・:・:登:場:人:物:・:・:・:・
松尾リク(主人公)
本木君(本木雅弘さん風)
高田さん(高田延彦さん風)
・:・:・:・:・:・:・:・:・:・:・
ノブヒコさんと出逢ってから半年…
私の29歳の誕生日を過ぎて十月を迎えていた。
ノブヒコさんの大学時代の友達の結婚式が東京であり、
彼は単身で東京入りすることとなった。
「合わせて連休とってさ、一緒に来ない?」
そうノブヒコさんに誘われて、
私達は社内にも怪しまれい様に
数日ずらして一週間づつの連休をとることにした。
彼が結婚式に出席した後、二人で落ち合い、
東京周辺で二〜三日休日を過ごして帰ろうということに。
ノブヒコさんの実家は千葉なので、
「久しぶりに実家や友人宅に泊まって何日かゆっくり遊んでくる。」
と奥様にはそう言って。
浮気前科のある人やなんかは
こんなの思いっきり疑われるでしょうが、
ノブヒコさんにはその心配は全く無かった。
十月の下旬、
新横浜の駅に到着した私を、
夕方迄結婚式に出席していたノブヒコさんが出迎えてくれた。
「来たね! 何処へでも、松尾さんの好きな所に予定立てていいよ。」
私は二人の休日に横浜を選んだ。
二泊の予定の二人の初めての旅行。
いつものデートでは決して裕福ではないノブヒコさんが
殆ど常に私に御馳走してくれてたから、
何か御返しにプレゼントしたくて、
宿泊先を私が選んで予約した際、
あらかじめ料金を振り込んで私が済ませておくことにした。
ノブヒコさんには何処に泊まるのかは内緒、到着してのお楽しみ。
私からのサプライズプレゼント。
彼の車に乗り込み早速一泊目のホテルに向う。
一泊目は格もごく普通のホテル。
チェックイン後、食事に出掛けた。
中華街のそばだったので、ラーメンかなんかを食べた。
二人で旅行ができるなんて、夢みたい!
禁じられた関係である限り、こういう事って無いと思ってた。
もう嬉しくて嬉しくて、たまらない。
翌朝もイチャイチャしながらゆっくりと目覚める。
大好きな人と抱き合いながら迎える朝のイチャイチャって、
最高に幸せですよね。
それが旅先だったら尚のコト。
この朝の戯れが私にはたまらない幸せを感じる瞬間…
それに彼とはそんな朝は滅多にやってこないのだから。
ぎりぎりにホテルをチェックアウトして、
ドライブ!
八景島シーパラダイスまで足を延ばし、
イルカたちのショーに感嘆。
夕暮れ時、まだ半分は建設中だったベイサイドマリーナを歩く。
人影もまばら、波の音だけがとっても優しく聴こえてて、
マリーナの船の明かり。うっとりするような雰囲気に二人で浸る…
ここでは誰も私たちの事を知らない。
部屋の中じゃなくても、
この街でなら堂々と寄り添って歩ける。
組んでいた(というよりしがみついてた?)私の腕を、
おもむろにノブヒコさんがほどく…
(え…?)
私の肩を抱き、私の頭をぎゅっと抱き寄せ、
愛おしそうに私の髪を撫でてくれた彼。
もう、うっとりトロけそうな私…
そして愛しいノブヒコさんの優しいキス…
人前でノブヒコさんがキスしてくれたのなんて初めてのこと!
予想外の彼の行動に驚き、
すごくドキドキ、嬉しくてトロけてしまう…
(人前でキスなんてした事無いって言ってなかったっけ?)
そして、桜木町〜みなとみらい方面に車を走らせ、
臨港パークへ。
すっかり夜の海…
広々とした港の公園は恋人達のパラダイス。
私達も、思いっきりくっついて歩く。
私達がこうやってくっついて歩けるのは、今だけだから。
いつもの街に帰れば、
人目を気にしながら隠れながら離れて歩くしか出来ない。
人が見てたって、どの恋人達とも同じように、
今だけは堂々と思いのまま寄り添っていられる。
海を眺めながら、
ノブヒコさんが私を抱きしめてくれる。
とっても真面目でシャイな彼が、人目もはばからずキスしてくれる。
何度も抱き締めてくれるその腕から、
何度も髪を、何度も顔を撫でるその手から、
何度もキスをくれるその唇から、
”愛おしくてたまらない”
という彼のコトバが聴こえてくるようだった…
だって、その時、ノブヒコさんの口から、
絞り出すような一瞬の囁きで一言、
こう言ってくれたのを
私の耳が確かにとらえたから。
「璃玖…」
(え?!名前、呼び捨てにしてくれた?!)
(呼べないって言ってたのに呼んでくれた?)
愛しいその声で、私の名前を口にしてくれて、
私の髪を顔を撫でるノブヒコさん。
いつもは家の中以外では、クールにも思える彼。
(本当はこんな風に望んでくれてたんだ。嬉しい!)
とてつも無く愛して止まないのは私だけじゃなくて、
彼も同じようにたまらなく愛してくれてるんだって、
そう思えて、本当に嬉しくてたまらなかった。
ランドマークタワーの下で食事。
夜景にそびえるタワー。
「せっかくだから、展望ラウンジ行こうね。」
「うん。せっかくだから登って夜景観たいよね。」
実は、ノブヒコさんへのサプライズプレゼントは
このランドマークタワーのホテルの宿泊。
一泊六万円ほどのリッチなお部屋。
特別なフロアの特別な角部屋です。
ノブヒコさんをびっくりさせたくて。
「こんな所取ってたの?ええ〜〜!すごいねえ!」
驚くノブヒコさんと二人で
ベルボーイに導かれてお部屋へ。
私も、何階だとか、
どういう部屋だとかは知らなかった。
なんとそこは、
展望ラウンジ等がある階にほど近い超高層フロア!
部屋に入ってまず、開いた口が塞がらない…
壁一面に巨大に取られた窓には、
日本一の高さからのパノラマ夜景が広がっている。
嘘みたいな光景。
「うわあああああああ!」
二人とも瞳孔と口が開きっぱなし!
ベルボーイの説明なんて聞こえてない。
全身鳥肌がたつ。
こんな素晴らしい夜景、見た事無いかも。
最高の夜景はNYで観た夜景だと思ってたけど良い勝負だわ…
しかも、それがお部屋の壁一面に広がってるんだもの!
おまけに、バスルームに入ってびっくり!
バスタブからも夜景が見える窓が♪
なんて贅沢な!!!
「部屋から出るの勿体無いね。」
「そうだよね。お部屋、満喫しなきゃね。」
「だって展望ラウンジって、すぐ上なだけでしょ、ここにいようよ。」
部屋に居る方がきっとゴージャスだもの、
朝迄そのお部屋を満喫…
翌朝。
ランドマークタワー下のドックヤードを散歩。
「すごいプレゼントだったよ。ありがとう。
いつかまた、そうだな、十年くらいしてさ、また来たいね。
その時はさ、今度は僕がプレゼントするよ。」
「ほんと?」
「十年後も僕のコト忘れてなければね。」
「それはこっちの台詞でしょ。私は絶対忘れないわ。」
みなとみらい周辺をうろついた後、山下公園へ。
そして中華街でランチ。
港の見える丘公園でひと休み。
敷地内のバラ園のベンチに座り、
彼は私の膝を枕にスヤスヤ…
彼の寝顔と美しいローズガーデンを眺めながら、
穏やかな午後が過ぎて行く。
展望台から港を眺める…
老いも若きも、沢山のカップルがそこから港を眺めてる。
優しい噴水の水音…
「あ〜、なんて幸せなんだろう。私、一生の想い出だわ。
十年くらいして、そう、私が40歳になったら、また来たいな。
もしノブヒコさんが私のコト忘れてても、
私、独りでここに来てノブヒコさんを想い出すから。」
「松尾さんが40歳かぁ…、その頃には僕の事なんて
すっかり忘れちゃってるんじゃない?
ここに来たことも忘れてたりして…ははは。
覚えててくれたら嬉しいけど。
…一緒にまた来たいね。」
ノブヒコさんは私の肩をギュっと抱きながら、
そう言って港を眺めてた。
それから、私が行きたかった横浜美術館に行き、
午後遅く帰路に向う。
その日帰宅するつもりで交代で運転し車を走らせてたのだけど、
結局疲れてダウンして、途中のラブホでもう一泊。
少しでも長く続けばいいと思った旅路の嬉しい延泊。
三泊四日。
もうこんなに長くずっと片時も離れず過ごせる機会は
最初で最後かも知れない…哀しいけれど。多分。
彼は人の夫だから。
彼はいつか転勤してしまう人だから。
彼は半年か一年か二年か先、
いつか必ず居なくなってしまう人なのだ。
我が社の男性社員は転勤族。
彼は入社後、すぐにこちらの地方に配属されたあと、
数年後、近県に転勤しそれが現在の私の支社。
次の転勤では”近県”はまず有り得ないのです。
転勤のサイクルは様々だけど、
短くて二〜三年、長くても六〜七年って所。
もういつ転勤の辞令が来てもおかしく無いのがノブヒコさん。
しかも遠くへの転勤になるのはほぼ間違いない。
分かってる。分かっているから、
短い恋の花火だと思っていた。
彼がここに居る間の。
どんなに真剣に好きになっても、
そういう運命なんだと、
所詮、短い花火なんだと、
心のどこかでは感じているつもりだった。
だけれど、彼が居なくなることに、
果たして私は耐えられるのだろうか?
こんなにも溺れきってしまっていたとしても…
「僕はここに居る間だけだなんて思ってないよ。
松尾さんが他の人のところへ行ってしまわない限り、
松尾さんが想ってくれてる限り、
僕の気持は一生変わらないよ。松尾さんが僕を忘れても、
僕はきっともう一生忘れることなんて出来ない。」
そう言ってくれるノブヒコさん…
一緒に居れば居る程、
お互いにますます逢いたくなっていくし、
お互いを知れば知る程、
ますます好きになっていく。
出逢って半年。
そういう盛り上がりの時期だからだろうか。
ほどなく十一月。
離婚してまだ二ヶ月余りの元夫、本木君から電話…
私達夫婦は二年という長い歳月を掛けて離婚したお陰で、
とても良い友達に戻っての仲良し離婚という感じになっていた。
私の仕事が強烈に忙しい時期に、ドタバタと引越しをしたので、
本木君はその辺りも考慮してくれて、
「取りあえず、必要なものだけ持って行って、残りはボチボチまた
少しづつ整理して取りに来れば良いんじゃないか。」
と言ってくれてた。
お言葉に甘えて、急がない荷物は彼の家にまだ置いたままにしていた。
離婚を決めたことを本木君の御両親に話しに行った時、
ご両親はあまりに突然の話に困惑してた。
それで話の最後には、私もお義父様も、お義母様も、涙、涙。
「一人で頑張り過ぎないように、とにかく身体には気を付けて…。
落ち着いたら、また一度食事にでも行きましょうね。連絡してね。」
ご両親が私にそんな言葉を掛けてくれたくらいの仲良し離婚だった。
私の唯一の心の支えだった息子(愛犬)。
私が引き取れる状態になるまで、
(借家でも借りられて、脱サラして時間的余裕も出来、
犬を飼える環境を手に入れられるまで)
という約束で、本木君にそのまま預かってもらっていました。
電話はその息子(愛犬)の事だった。
友達と一泊のゴルフ旅行に行く事になったから、
その留守の間、家に来て世話してやって欲しいと言う話だった。
私は久しぶりの息子(愛犬)とのひとときを楽しみに出掛けて行った。
早朝に出発だというので、前夜から、泊まり込むことに。
泊まると言っても、まさか一緒に寝るわけじゃ無い。
もともと離婚前の一〜二年は、一階と二階とに別れて寝ていたのですから。
私が家に到着して早々電話が入り、
本木君は「ちょっと呑みに行ってくる。」
と言って出掛けて行った。
明日からゴルフに行く友達と呑むらしい。
まあ、早朝六時には出掛けなきゃならないし、
きっと軽く呑んで早めに帰ってくるだろう。
ところが…
待てど暮らせど帰ってこない。
彼のゴルフ友達は私も良く良く知っているし、
私もしょっちゅう一緒に呑みに行ってたから、
深酒になることもしばしばだとは知ってるけど…
深夜一時、二時になっても帰ってこない。
早朝六時に出掛けるのに、大丈夫なのかしら…?
三時、四時になっても帰ってこない。
ええええ?
一体何やってるのかしら。
もう寝る時間なくなるわよ…
ケータイに電話してみるも、ずっと繋がらないまま。
「電波の届かない場所にあるか、電源が入っていないため…」
何かあったのでは…と、その辺りから急に不安になる。
盛り場での喧嘩とか、事故とか、
何か大変な事があったんじゃないかしら!
胸騒ぎで当然眠れない…。
五時を過ぎ…、間もなく六時になろうかという頃になって、
やっと帰って来た。
六時過ぎには皆で出掛けるのでしょう?
「ちょっと、帰ってこないからびっくりするじゃないの。
こんな時間まで、呑んでたの?もう出発する時間なのに。
こんなに遅くなるなら連絡してよ。心配して眠れなかったじゃない!」
黙々と、慌ててゴルフ旅行の準備をしている本木君。
さっきまで一緒に呑んでいたというゴルフ友達らが、
予定どおり六時過ぎに迎えに来た。
「おはようごさいますぅ。こんな時間まで徹夜で呑んでて、
運転大丈夫なんですかぁ?大変でしょう…
彼、今用意してますから、ちょっとだけ待ってやって下さいね。」
「えええ?アイツ昨日呑みに行ってたの?
…っつか、今帰って来たの?徹夜?
えええ〜〜!そうなんだあ。」
昨夜この人たちと呑みに行ったというのはウソだった。
(まただ。またウソだ。)
私は頭の奥に言い知れない鈍痛を感じた。
胃にギュゥっと力が入り、
何か焼けた濁流のような空気が沸き上がってくる気がした。
大きく深呼吸をして震えがちに熱された空気を吐く。
もう別れた夫だし、どうでも良いけど、
わざわざウソをつくってことは、また女でしょ…。
別れた妻を呼びつけて留守番させておいて、
いきなり女の所に泊まってくるなんて…
何か事故でもあったんじゃないか?
なんて胸騒ぎで眠れなかった私は馬鹿みたい。
とことん、この男は私をコケにしてくれるわ…
久しぶりに元夫への軽蔑感が心を埋め尽くす。
忘れかけていた苛立ち…。
その日の夕方。
今夜は息子(愛犬)と水入らず。
電話がなって出てみると、本木家のお義母様だった。
実の肉親とすべて縁を切っている私にとっては、
お義母様、お義父様や夫の親戚の方達は、
本当の両親のような存在だった…
「わあ、お義母様!御無沙汰しています!」
少し恐縮しつつも嬉しくて元気に挨拶をする…
離婚の時、「落ち着いたら一緒に食事でも」と言ってくれていた姑。
しかし、
姑の声色はどうも様子が違う。
「なんか、旅行中の留守番をアナタに頼んだらしいですね。
なんでアナタなんかに頼んだりしたんだか、あのコったら。」
「え…?」
私を<璃玖さん>と呼んでいた姑が、
声色冷たく、<アナタ>と呼ぶ。
そんな呼び方は初めてだ。
「アナタ、どう言うつもりか知りませんけど、
荷物もまだそこに置きっぱなしで、一体どうなってるんです?!
どうせそこに居るんだったら、
あのコが帰る迄に全部、片付けてって下さいね!」
「え…あ、でも、あのそれは…、」
ガチャン!!!
(え?!切られた!)
は???
一体なんなの???
なんで?
なんで私がそんなコト言われなきゃならないの?
なんで?
なんで手のひら返したように、あの態度?
あたしが何したって言うの???
突然の姑の変貌…
電話を持つ手がワナワナと震え、心臓がバクバクしてた。
情けなくって、腹が立って、涙がボロボロでた。
荷物は私と本木君の間で話し合って、
彼が当面置いておいて良いと言うから、
置いてるのよ…
留守番だって、この子(愛犬)の母親は私なんだから当然でしょ。
だいたい、なんで私がそんな酷い言い方されなきゃならない?
離婚の原因は夫にあるのに、それを一言も言わずに黙って、
もちろん慰謝料の一円も取らないであげたのに?
なんで?
あなたの息子に酷く傷つけられたのは私なのよ?
その事は一言も言わず、
一度も彼を責めることは言わずに穏便に離婚したというのに…
姑はいったい何を勘違いしているのだろう?
いったい何を吹き込まれたのだろう?
なんで私がこんな仕打ち受けなきゃならない訳?
悔しくて大泣きしながら、大急ぎで荷造りを始めた。
今夜じゅうに、絶対、綺麗さっぱり跡形も無く片付けてやる!
意地になってる自分もまた空しくて泣けた…
本木君が昨夜泊まった女って誰だろう?
ふと、ある女のコトが思い浮かんだ。
これはいわゆる、女の直感というやつでしょうか?
何故か、強烈に確信を感じた。
その女は、私も仲良くしていた女で、
家のすぐ近所に最近一人暮らしを始めた女だ。
今日、彼が一緒にゴルフ旅行に行っている男の妻だった女。
私達より数カ月早く、
つまりたった半年ほど前に離婚したばかり。
夫どうしは、中学以来の無類の親友で十五年以上も一番身近な親友。
その女とその彼は十二年の交際の末に結婚し、たった三年で離婚。
私達は互いに独身の頃から、四人でしょっちゅう遊んでた。
私と本木君が彼等より先に結婚し、一年後に彼等が結婚。
夫婦ぐるみでお互いの家で良く一緒に食事をし、呑み、
休みの度につるんでて、海外旅行にもこの四人で二回行った。
二組ともが離婚した後も、何度か四人で会ったことがある。
そのくらいの仲だというのに、
そんなこと、あっていいのだろうか???
ついさっき迄、親友の妻だった女とだなんて…
夕方、本木君達がゴルフ旅行から帰って来た。
案の定だ…
一緒に行った彼等の空気もなんだかおかしい。
そりゃそうだ。
私が察して、彼が察しないはずが無いもの。
きっとその女の元夫である彼もその事に気付いたのでしょう。
いつもなら、ゴルフ帰りには必ずみんなで食事に行き、
パーっと呑んでお開きのはずなのに、
家に着くなり彼らは「それじゃ」と帰って行ってしまった。
「晩飯まだだろう?喰いに行くか。」
ゴルフ仲間の親友達から
一人追い帰されたような形の本木君。
当然だ。彼等が怒るのも無理ない。
ダンボールの山を車に積んでもらって、
送ってもらうついでに、ご飯を食べに行った。
「で?一体いつからなの?大島さんとだなんて。」
「えええ!!!なんで知ってるんだ!?」
慌てふためく本木君。
やっぱり…。
直感は当たっていた。
「もうすぐ、ちゃんと話そうって思ってたんだ。本当だ。」
ちゃんと話したからって、許される事なのかしら?
つい先日迄、親友の妻だった女となんて…
この男の節操の無さも、とことんだけど、
その女の節操の無さも、たいしたモンだわ。
みんな近所に住んでいて、友達も共通の友達ばっかりなのに。
この事は、きっと賛否両論だろうと思う。
『そんなの誰と誰がどうなっても関係ないじゃん。
離婚してお互い独身なんだし。』
そう言う人もいるでしょうが、
私にはやはり、その神経が信じられないのです。
もう別れて何年も経ってるならまだしも…
彼女、夫婦どうしで仲良くしていた時から、
よくこう言っていた。
「ウチのダンナは稼ぎが不安定だからイライラするのよ。
本木はいいよなあ〜、会社絶対安定してるし、実家も、あの家継ぐんでしょ?
あの辺りに住むのアタシ憧れなのよね〜。」
嫁として入るなら友達の本木のほうがオトクだ、
そういう下世話な事ばかり言う下品な女。
私と本木君が二年間セックスレスだったのを知っていて、
すり寄って行ったんじゃないだろうか…
気持ち悪いけど想像がつく。
そして、私はなんだか、物凄く空しい気持に襲われました。
あんなに『別れたく無い』とついこの前まで頑張っていた本木君。
どうしても別れたくないほど私を愛してたんじゃなかったっけ?
ああいう下品な女はイヤだって言ってなかったっけ?
私達の足掛け六年って、一体なんだったの???
本木君に対しては何の未練も無いし、
軽蔑くらいしか残って無いけど、
六年間という長い間人生を一番そばで生きてきて、
その六年って一体なんだったんだろう?って…
おまけに、姑からは手の平を返したように冷たい仕打ち。
私は、この男を愛し、信頼し、裏切られて、
ひどくキズつけられたのだというのに。
友達だと思って親切にしてきたあの女も…
あまりに何もかも腹が立ってきて、涙がボロボロと出る…
延々泣き止まない私に、本木君はいたわるどころか、
なんと、逆ギレ。
「なんなんだよ、ったく、いい加減にしろよ!」
(いい加減にしろ!は、こっちの台詞だーー!!!)
円満な仲良し離婚?
何もかも、ぶち壊しだ…
恐ろしい苛立ちと、空しさ、くやしさ、
身の回りのすべてに裏切られたような、
どうしようもない孤独感。
馬鹿馬鹿しくて、
哀しくて、
辛くて、
苦しくて…
もうそれはワケの分からない濁流が私を飲み込み、
私の目からは滝のような涙が止まらない。
何もかも破壊したいような、
暴れてしまいたいような、
大声を上げて、
呼吸も苦しくなる程、号泣した。
一晩中、全身の毛穴が開いたような感覚…
もちろん一睡も出来ず、
引き取ってきた片付ける場所も無い段ボールの山に埋もれながら、
ひたすら泣きわめいた。
あんなに泣いたことは未だかつて無いかもしれない。
翌日…
当然ながら、私の顔は酷いもんだった。
出勤直前まで泣きわめいてて、
ぱんぱんに泣き腫らした顔に、かろうじてお化粧したけど、
もちろん化粧は上手くのらない。
通勤途中にまた涙がでてきてグチャグチャに崩れる始末。
いつもどんな時も、パリっとしているのが私だったから、
周りの人たちはみんな驚いてた。
「どうしたんですか?具合悪いんですか?大丈夫ですか?」
その日はノブヒコさんと夜落ち合って食事の約束をしてた。
朝から別の仕事で顔を合わさなかったので、
ノブヒコさんは私がこんな状態だとは知らない。
あんなにボロボロになった夜、
ノブヒコさんを想わなかったはずがない。
私は愛するノブヒコさんに逢いたくて、
泣きすがりたくて、抱き締められたくて…
でも、家庭の有る彼を呼び出す事など出来るはずも無く、
昨夜一晩中ひたすら心で彼の名前を叫んで泣いてた。
彼の声すら聞く事は出来ず、
孤独に押しつぶされるがままだった。
夕方、彼に逢う事になってたけれど、
私はこんな状態で彼に逢うのが恐かった。
私は、こんな時こそ彼に逢いたいし、すがって泣きたい。
ボロボロの私を彼に包んでもらいたいと思った。
けれど、彼はどう思うだろう?
それが凄く不安だった…
明るく元気で、バリバリやってる私を、彼は愛してくれている。
彼にとって私との時間は、非日常の世界で、
いつも楽しいものでなくてはならないんじゃないだろうか…
普通の恋人じゃない。それが不倫関係って事なのじゃないかって。
普通の恋人なら、私のすべてを受け止めてもらう。だけど、
彼は私以外に抱えているものがある。
彼には私が全てではない。
私のすべてを受け止めてもらおうとしてはいけない…
要するに、彼の前で私は悩んでいたり、
泣き崩れたり、ボロボロに弱くなったり、
彼にすがりついたりするのはタブーなんじゃないか…
それは家庭を抱えている彼にとっては迷惑で、重荷…
「せっかく逢ってるんだから、暗い顔しないでよ。
ウジウジしないでよ。」
なんて、昨夜の本木君の逆ギレ台詞のように、
ノブヒコさんにまでウザったがられたりしたら、
私はもう立ち直れない。
こんなにボロボロなのに、そんな目に遭ったら死にたくなる。
そう思ったら、逢うのが恐かった。
でも、逢いたくて逢いたくて、
逢いたい気持のほうが勝ってしまって…
迷った挙げ句、ボロ雑巾のような状態のままの私で彼に逢った。
私の泣き腫らした顔に驚いた彼。
出来事の一部始終、一晩中ノブヒコさんを呼び続けて泣いたこと、
そして、今夜逢うのがとても恐かったこと、
そんな全部を話した。
すると、なんと彼の方が、少し落ち込んでしまった。
「僕がそんな風にしか松尾さんのこと愛していないと…
そんな風に思われていたなんてショックだよ…。」
「……。」
「松尾さんがそんな風に一番辛い時に、
そばに居てあげられないのが辛いよ。
普段、どんなに一緒にいたって、
そんな時にそばに居てあげられなかったら、何にもならないよね…」
「ノブヒコさん……。」
「松尾さんが沈んでいると、僕が迷惑だって?
迷惑になんて思う訳が無いじゃない。
一番辛い時に、僕にすがって泣きたいと思ってくれたことが嬉しいよ。
ほんとに嬉しいよ…」
「だって、そんなの重荷だろうし…、それに、
そんなのノブヒコさんが愛してくれてる私じゃないでしょう?
だから、だから……」
「ねえ、いつも良い時ばかりじゃないんだから、
本当に好きだったら、良い時も、悪い時も、
いつも全部そばに居たいと思うのが当たり前だよ。」
「……」
「良い時にしか会いたくないとか、
グチャグチャな時には会いたくないとか、
松尾さんにそんな風に思われてたとしたらむしろショックだよ。」
本当に嬉しかった。
正直、そこまで、想ってくれているとは…
心身ともに、お互いハマりきっているとはいえ、
やっぱり心の何処かで自信が無かった。
そんなにまで真剣に全てを愛してくれていると初めて知って、
驚き、そしてたまらなく嬉しかった。
「孤独だ、なんて言わないでよ。それじゃあ俺は一体何?でしょ?
俺が居ても孤独だなんて言われたらショックだよ…。
そりゃあ、実質的にそばに居てあげられないことも多いから辛いけど…」
逆に彼がショックだと、そんな風にまで言ってくれた。
私は少し勘違いしていたみたいだっだ。
彼をドライな人なんじゃないかって…
「ほんとうに、飛んで行ってそばにいてあげたかった。
ごめんね。でも、こういう時に僕を想ってくれたのは、
本当に嬉しいよ。なんかすごく矛盾していて辛いけど…」
彼は私をちゃんと愛してくれている、ようだった…
不安や罪悪感や葛藤は、つきまとうけれど。
彼はとっても温かい愛を持った人だった。
その彼に私は心から愛されているのだった。
私が想像していたよりもずっと深く。
それを知ってしまって、
そして、どうなっていくのだろう…
第32話『禁じられた恋人達のクリスマス』へ続く




