第29話『29歳の誕生日』
倫理に反する事も色々と出てきますが書きます。
おこがましいかもしれないけれど、反面教師として、
似たような境遇に今いる人に何か一助となれば…
と少し思ってます。
・:・:・:登:場:人:物:・:・:・:・
松尾リク(主人公)
本木君(本木雅弘さん風)
高田さん(高田延彦さん風)
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平成九年、八月の終わり頃には私は正式に本木君と離婚。
晴れて独りになることが出来た。
29歳の誕生日を目前に四年と数カ月の結婚生活にピリオドをうち、
独身、松尾リクに戻ったのです。
まさかもう二度とあの憧れの独身生活には
戻れないと思ってたのに、夢の様!
…なんて言ったら、世の旦那様族に叱られそうですが、
きっと主婦のみなさんなら、この気持ち、少しは解るのでは?
とはいえ、主婦としての幸せな生き方と言うものもあるわけで、
家族、家庭を築いていく中でしか得られないかけがえの無い幸せもある。
ただ、どうも私はあまりにも独身生活に未練を残し過ぎてた。
本木君にプロポーズされたあの時、
そもそも私はまだ結婚したくなかったわけですから。
私にはまだ再婚は無理だったのでしょうね…
仕事や夢や…
独身でなければ出来そうにも無い事で
やりたいことが山程あるのだから、
やっぱり再婚しちゃいけなかった。
これは、あくまで私の勝手な意見ですが、
独身でなければ出来ない事柄はとてもとても多いけれど、
結婚してなければ出来ない事柄は一つしかない。
それは子供を持つ事だけ。
好きな人とずーっと一緒にいる事なら独身でも出来るけど、
子供を持つ事は結婚してなきゃ出来ない。
それ以外に<結婚>という形でなければならない必要性は
無いといっても過言ではない。
少々極論であることは承知の上だけれど、
これからの若い人達には
ちょっと参考にしてほしい…。
高田さんと私は、双方が既婚者であった関係から、
私が独身、彼が既婚という関係に変わった。
真剣な恋愛も、遊びの恋もさんざんしてきた私だったけど、
既婚者と真剣な恋愛に堕ちるなんてもちろん初めてのこと。
既婚者と遊びで付き合ったことは何度もあったけど…
私は真剣な不倫をしてる人に対して
その心理を理解できなかった。
なんで?
馬鹿じゃない?
全く理解不能だった。
自分がそうなるまでは。
既婚者は既婚者なんだから、
遊びで付き合うならまだしも、
真剣に好きになるなんて馬鹿げてると。
お互いに重荷になって苦しむだけなのは分かり切った事なのに、
何をわざわざ既婚者と真剣な恋愛なんてするのか?!
そのうえ、人を欺き、裏切り、傷つける残虐な行為。
…自業自得って、そんな程度にしか思って無かった。
彼との恋愛に堕ちるまでは。
本木君とは結局、
出逢ってからの六年という年月を一緒に過ごした。
事件が起る迄の四年間は本当に幸せだった。
あの四年間はあまりにも仲が良くて幸せだったので、
その頃の事を思い出すと今でもキツネにつままれたような気分だ。
(一体あれは何だったんだろう???)
その後の二年間「離婚しよう」と言い続けた私に対して、
本木君はずっと「別れたく無い」と頑張ってた。
最後の春、本木君が離婚に応じると言い始めた頃になって、
やっと本木君にも分かったみたい。
私たちが無理だってこと…
本木君は確かに私という女を愛し、手に入れたかったんだろう。
でも本木君が家に欲しい奥さんは、私では無かったんだと思う。
惚れまくった女が、
必ずしも、家族として生きて行く女だとは限らない。
むしろそれは一致しない場合が多い。
男女ともに言える事なのかも知れないけれど、
これはやはり特に男性諸氏に言いたい!
(プロポーズをするのは大半が男性でしょうから。)
プロポーズのその前に冷静に考えてみてはどうでしょう。
まあ、その冷静っていうのが最も難しいのだけど…
世の男性達は目の前にいる愛する女を愛し過ぎるがゆえに、
その愛する女が自分の理想の妻なのだと錯覚してしまうものです。
そして、目の前の愛する男からプロポーズされてしまえば、
たとえそれが錯覚でも、それを断れる女なんて滅多にいない。
そしたらそれって、不幸の始まり。
だって錯覚なんだもの。
私と本木君は、まさにそうだったのでしょうね。
でも私たちだけの特殊な例じゃない。
同じような話は溢れるほど見聞きします。
結婚は恋愛のゴールでは無い。
と私は思います。
恋愛はあくまでも恋愛です。
もちろん最初の夫、布施との結婚のように、
恋愛の無い結婚なんてもってのほかですが、
でも、恋愛のゴールが結婚ではない。
結婚したからってゴールに辿り着いた訳ではないだろうし、
結婚というゴールが永遠に存在しない恋愛だってあるはず。
お互い独身どうしで、永遠に添い遂げるカップルも
世界には沢山いる…
結婚というのは契約です。
婚姻届という紙切れは、重大な契約書です。
人の生き方や人生を左右し、拘束してしまう契約書。
たかだか20〜30年位しかまだ生きたことがないのに、
その相手と過ごした時間なんてさらに、たった数年だけなのに、
その先の長い長い50年もの人生を、
「絶対に…」と言切れるのか…
言切れない、でも、
それを努力で実現していくのが結婚なのでしょうね。
結婚は、その人以外の人とは一切恋愛してはいけませんという契約です。
(契約違反をするかどうかはともかく。)
たった数年、仲良く上手くやってきただけなのに、
その先50年何が起きても上手くやっていかねばならないという契約です。
子供を持っても良いという戸籍上の許可証であるとともに、
産まれた子供に対して自分の人生のすべてを犠牲にしてでも
その二人で尽くしていかなければならないという契約です。
(契約違反をするかどうかはともかく。)
こんな壮大な契約は、
もちろん、恋愛が無ければ成り立たないだろうけど、
でも恋愛の延長の甘い気持ちで確約出来るような容易いことではない。
結婚って、そういうシビアで現実的な契約なのだ。
少なくとも私のように、
自分の人生や生き方がまだまだ愛しくて
大事でしょうがない人間には、
自分のすべてを放棄するなんて
到底出来っこない芸当だと思う…
今、結婚を考えている若いあなたは、
慎重に冷静に考えて欲しい。
たとえば、目の前の愛する女がどういう女であるか
それを一切考えずに良く良く思い出してみるといい。
自分が思い描いていた、望んでいた結婚生活の形とはどういうものか。
本来どんな結婚に憧れてきたのか。
<その彼女との結婚を想像するのでは無く、>
自分が当たり前に思い浮かべてきた結婚の形は本来どういうものかを。
お見合いでも無い限り、
そういうふうに相手を”条件”で審議しようとなんてしないでしょう。
”恋愛”が前提になって相手を見てしまうから。
自分の理想形の結婚と、目の前の愛する彼女とに
多少のギャップが見つかったとしても、
そんなことはどうでも良い事のように思えてしまう。
恋は盲目だから。
愛する彼女の生き方が、その女の喜びが、自分の幸せだと錯覚する。
もちろんその気持ちも正しいのだけれど。その時は。
でも、そんな甘い気持ちで全う出来るような容易いことではない、
シビアで現実的な、50年という長い人生の契約。
ドキドキワクワクときめく恋愛進行中の今とは違う、
地味で、平凡で、退屈で、窮屈な毎日が、
どこまでも繰り返される50年。
(すみません、敢えて解りやすく強めの表現にしています)
その中に、幸せの形を見い出さねばならない。
それが見い出せればとても幸せな事だけど。
恋愛の熱い熱病は、当然一生続くものでは無い。
熱々の熱の有る時なら、どんなことでも相手が喜ぶ為ならばと
何かを犠牲にしたり、我慢したりすることは何の苦にもならないだろう。
誰だって恋にのぼせているときは、自然とそうなるはずだ。
でも、熱々の熱は次第に平温になり、大なり小なり落ち着いて行くもの。
もちろん熱が冷めてからも、ずっと穏やかに愛し合える恋愛もあるけど、
そうなって落ち着いた時に、
いかにお互いの利害が一致し、居心地がよい存在であるか、
お互いの望む形のズレがクローズアップされるのではないかなぁ。
熱が冷めてしまえば、犠牲や我慢は苦痛に感じ始めるもの。
男性も、女性も、”この人のためなら”とかって変な犠牲心を捨て、
お互い、自分自身の人生を大事に考え、自分の我がままを大事に考えて
その上で、一番思いどおりでいられて、思う形が一致するならば、
イイ結婚ができるんじゃないかな?
”結婚”に成功したことのない私が偉そうには言えないけれど、
イイ結婚を成功させている人生の先輩達をみているとそう思うのです。
そして、失敗のケースは自分も含め、良く分かるから。
長々と、結婚について、書き連ねてしまいました。
結婚って、タイミングで簡単にしちゃう人が多いけど、
これからの人たちには是非、安易に考えないで欲しい、本当に。
主婦族にも夫族にも当たり前のように不倫が氾濫してたり、
離婚なんてゴロゴロ転がってたり、
仮面夫婦もワンサカ当たり前のようにいる…
どれも自分がしてきてしまって傷だらけになってしまったから、
これからの人たちがそんな事に堕ちないように、
ぜひ素敵な結婚を成功させて欲しい。
私は、イイ結婚、素敵な結婚を成功させている人達に
本気で尊敬の念を抱いています。
これからの人たちには、皆がそうなって欲しい、
そんなイイ結婚が当たり前の世の中になるといいな。
…ということで、とにかく28才の夏、
いよいよ離婚の段取りが進み、
八月の初めには新居となるワンルームマンションを借りることができた。
嬉しくて、まだ電気すらつかないその部屋を
高田さんと二人で見に行った…
電気もない、カーテンも勿論ない、
ガラ〜ンとした真新しい空き部屋。
そう、そう言えば、
最初にこの部屋に泊まったのは私じゃなくて
高田さんだった…
奥様が実家にお泊まりの日。
まだベッドもな〜んにも無かったこの部屋の床で一人で寝た高田さん。
私はまだ離婚の数週間前で、外泊する訳にはいかなかったから。
引っ越しの前に、高田さんと二人で電化製品を買い揃えに行った。
あれがイイかな?こっちかな?
冷蔵庫、洗濯機、電子レンジetc…
なんだか結婚直前のカップルみたい。
高田さんとの新婚気分を疑似体験。
そして八月の終わり頃のある日、
私は本木君と二人で買った豪邸を出て
そのワンルームマンションに引っ越し。
引っ越しの翌日、区役所に離婚届を提出し、
私は正式に離婚した。
届けを出したその日、
引っ越しの片付けもそれなりに済み、
晴れて独身になった私の元に、高田さんはすぐに会いに来てくれたっけ。
それからの私達は、人目を気にせず一緒に居られるこの場所で、
いつもいつも一緒に過ごせるようになった。
私が居ない時も、彼がこの部屋を使えるように、
高田さんにも部屋のカギを。
私が晴れて独身になってからも、
まだ私達はSEXのないままの関係だった。
「ちゃんと本木さんが独身になるまでは、それだけは超えたく無い」
そう言っていた高田さんだったけど、
私が独身になったからといってすぐに、
待ってましたとばかりに態度を変えたりはしなかった。
そんな彼をまたさらに愛しく感じた。
離婚後すぐに九月になり、私の誕生日が近付いてきた。
私の誕生日を祝う事を
とても楽しみにしてくれていた高田さん。
「何が欲しい?たいした事は出来ないけど。」
「何にもいらないよ。一緒に居られればそれが何より一番。」
本当に心の底から欲しいのは一緒に居る時間。
ただそれだけだし、それ以上の嬉しいものは無いもの。
「そうだね、その日だけは絶対に一緒に居られるように、
泊れるようにするよ。」
「うん。誕生日にただ一つ欲しいものは”高田さん”だから♪」
「じゃあ、僕にリボンつけてプレゼントしようか?」
そんな冗談を交わしながら、
九月の数週間が過ぎて行った。
クリスマスや、バレンタインテーは世の中みんなの記念日。
それに彼の誕生日は、彼の家族にとっても記念日。
でも、私の誕生日だけは誰も知らない特別な日。
「その日は、他の人にとっては普通の日だけど、
僕ら二人にとってだけ特別な日でしょ。だから凄く大事に思うんだ…」
そして九月後半、私の誕生日。
二人とも仕事だったので、
早々に終わらせて部屋で落ち合い、
近くの小洒落た居酒屋へ食事に出掛けた。
二人で食事することは何度もあったけど、
今日は嬉しくてしょうがない。
なぜって、
今日は、彼が一緒に沢山食べてくれるから。
急に「メシ要らないから」「食べてきたから」なんてのが増えたら、
いかにも怪しい。だから、
彼は二人で食事に行っても必ず殆ど食べず、
家に帰ってからの奥様の料理を食べるためにお腹を空けておく。
すべてこれまで通りの生活パターンを変えないために。
でも今日は泊れるようにして来てくれたから、
二人でちゃんと食事が出来る。
立派な豪華な食事じゃなくても、
二人で一緒に食べられるそれだけで幸せ。
いつもなら殆ど呑まない私も、彼と一緒に少し微酔い。
なんて幸せな誕生日なんだろう。
こんなに嬉しい誕生日は何年ぶり?
ホロ酔い気分で二人で部屋に戻って、くつろぐ。
TVを見たりしてのんびりと過ごす。
いつもならそろそろ終電の時間が気になってしょうがなくて、
時間とともに切ない気持ちになっていくのに今日は違う。
「今日は帰らなくてもいいんだね。嬉しいね。」
お互いに時計と笑顔を見合わせて「嬉しいね」と言い合う…
夜もふけ、それぞれにお風呂に入る。
なんだかそのころから、
急に緊張してきてソワソワする。
出逢ってから約半年…、でも、一緒に眠るのは初めてのこと。
”泊まる”=”SEX”ってこと???
って意識しはじめて落ち着かなくなる…
SEX直前までの事は既に彼としてきてるのに妙に緊張が走る。
(でも彼はまだそんなつもりじゃ無いのかも知れないし…)
(どうなるのかしら?今夜の私達…)
そんな事考えだしたら、
ドギマギしちゃってソワソワしちゃって。
なんだかどんな顔していいやら…
そんな緊張は私だけじゃなく彼も同じ。
いや、恋愛に縁のないタイプの高田さんだもの、
私以上に緊張してたんだろうな…
なんだか二人とも、
まるで初めてSEXするティーンエイジャーみたいに緊張しちゃって、
初めはなんとなく上手くいかなかったけど、
それでも愛しい人と結ばれることの心地よさと幸福感って、
こんなに素晴らしいものだったんだなあ!って痛感。
今迄に感じた事のない表現出来ないような
心も身体も一つになることの幸せ。
「”このまま”で眠りたいね♪」って…
離婚から一か月後の、私の29歳の誕生日の出来事でした。
私もハッキリと口にしたことの無い言葉、
彼は私を強く抱きしめて初めてその言葉を囁いてくれました。
生涯そんな言葉は口にしない人のようだったので、
驚きと至福の悦びにつつまれてその夜は過ぎて行きました。
「好きだよ…」
第30話『心が溺れたあとの…』へ続く




