第26話『やるせない主婦の堕ちる果て』
倫理に反する事も色々と出てきますが書きます。
おこがましいかもしれないけれど、反面教師として、
似たような境遇に今いる人に何か一助となれば…
と少し思ってます。
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本木リク(主人公)
本木君(本木雅弘さん風)
筒井君(筒井道隆さん風)
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<大人という名のストレス>に押しつぶされそうになっていた。
27歳の夏、筒井君とまた離れて、
その秋28歳になった私。
あの夏からの半年は、
今振り返っても、まざまざと思い出せる程、
とてつもなく空しい半年間だった。
空虚で殺伐としていて、
だんだん自分がその底なしの空しさにのまれて行くのが分かった。
私の中のネジが幾つも幾つもポロポロと外れていって、
バラバラに壊れていく感じだった。
夫もすっかり疲れてしまっている様で、
あんなに熱心だったマラソンもジム通いも
いつの間にかすっかりやめてしまって、
無気力になってしまっていた。
出逢ったころの彼の輝きはもう、何一つそこには無かった。
態度を軟化させない私に苛立つ夫は、
私をなじる事も度々で、それも仕方ないのだけど、
この夫婦関係が限界にきていることを感じるばかりだった。
子は鎹…二人の会話や接点になって良いかもしれないと、
以前から私が欲しがっていた犬を飼うようになり、
犬を通じて会話はするようになった。
しかし、根本は何も変わらなかった。
変わらないどころか、育て方の相違で対立も絶えず…
同じだと言いうと語弊があるだろうけど、
子犬を育てるのと子供を育てるのとは少し似ている。
この人と子育てするとこんな風なのか…
”この人の子供は産むのは嫌だ”
確信めいた気持ちが湧いてきていた。
夫婦がやり直すきっかけになればと飼った犬が、
逆にこの夫婦の歩み寄れない溝の深さを明確にしてくれたようだった。
「どんなにリクが僕を嫌いになっても、
それでも僕はリクを愛しているから、
また好きになってくれる様に頑張るから…」
そう言って私の心を取り戻そうと笑いかけていた夫の顔からも
近頃はすっかり笑みが消えてしまい、
本当に殺伐とした夫婦二人と一匹での暮らし。
夫は、いつ頃からか、外で浮気をしているらしい。
それについて確信を得ても、もうどうこう追求する気すら起らなかった。
虚しさでバラバラにネジの外れた私には、
もう何もかもがどうでも良くなっていた。
どうせやっぱりそういう男なのだ、この夫は。
毎日、誰も私に笑顔をくれない。
恐ろしい程の空虚感と寂しさ、孤独感が私を襲う…
その頃の私はいつも、愛犬を連れて自宅近くの河原に座り、
ため息をつきながら、犬と会話してた。
「本当にあなただけだね。私に笑いかけてくれるのは。」
犬の笑顔を見ながら、河原で一人涙する…
この子だけは私の愛情を裏切らず、とことん私を愛してくれている。
私はこの世の中で、この子以外の誰にも愛されていない。
今の私に笑顔を向けてくれるのはこの子だけ。
この子以外の誰も、私をみて喜ばない。
この子以外の誰も、私を望んでくれる人はいない。
そして、私は今、この子以外の誰にも愛を注げないでいる。
<犬>だということで、笑われるかもしれないけれど、
これを子供に置き換えてみたらどうでしょう?
そういう主婦はとっても多いのではないでしょうか。
愛のない生活の中で、
唯一、子供に”あなただけだわ”と涙する主婦は多いはず。
ふと気がつけば、
歳をくってしまっていて、
ましてや主婦で、
誰にも見向きもされなくなっていて…
ときめく事もなく、
愛のあたたかさに触れる事も無く、
自分というものがくすみ切ってしまっていて…
女であることなんて感じられる瞬間なんて何一つ無くなっていて…
若い頃の愛に満ちた時代を夢のように思い出す。
そんな、とことんやるせない気持ちの主婦。
ましてや、私の側にいてくれる唯一の支えは、
わが子ではなく、犬でしかないのだ。
それが当時の私だった。
男は結婚しても、一生きっと男でありつづけられるのだろうけれど、
女は結婚すると、いつのまにか嫌でも女でなくなってしまう。
今や氾濫しきっている主婦の不倫。
それを肯定する気はサラサラ無いし、
不倫は薄汚い犯罪だと思う。
けれど、それに走ってしまう主婦の気持ちは、解り過ぎるくらいに解る。
女であることのときめき、という甘い蜜の誘惑に
つい翻弄されてしまうのだ。
女という生き物は本当に厄介な生き物なのです。
大人としての理性を身につけてしまった自分と、
それに着いて行けずに反発するモラトリアムな自分、
自分が二人いて、自分の中で分裂を起こしているのが
はっきりと分かるようになっていた私。
やたらめったらストレスが溜まりまくって、
ネジが落ちまくってバラバラになって、
そんな自分を支えていられなくなっている。
そのせいだったのだろうか…
こんなイイ歳になって成りゆきでのSEXをしてしまうなんて…
布施と結婚する前のハタチ頃以来だ…こんなこと。
イイ大人なんだからそんなバカな事しちゃダメだ!
…なんて頑張っている自分さえも、
なんだかもう馬鹿馬鹿しく思えてきて、
もうどうだっていいさ!と自棄になって。
ハタチの頃、失恋したあともこんな事してたな…
自分がボロボロだった時、
大人としての理性やモラルをぶち壊して、
どうでもいいやっっっ!!!
ってヤケくそになって成りゆきで男と寝たら、
あまりのバカさ加減に不思議とだんだん気が楽になったっけ…
でも28にもなってまたやるなんて…
バカみたい。
しかも主婦なのに…
本当にどうしようもない馬鹿野郎だ。
情けなくて泣けてくる。
相手にしてみれば、欲求不満の主婦との遊びだから、
お互い好都合。既婚者同士の割り切った遊び。
でもそれは、やるせない主婦にとっても美味しい甘い蜜。
遊びでもなんでも、自分が女であることのトキメキを味あわせてくれるのだから。
自分を落とそうとする男の見せるやさしさや、浴びせられる熱い視線は、
この手の主婦が一番飢えていることだから。
なんで今さらこの歳になってこんなことやってるんだろう。
しかも結婚しているのに。
心の奥で愛してる人もいるのに…
私は本当にバカなのか、変なんだわ。
バカな事だ、イケナイ事だと、解っていながら、
そういうイイ子な自分に蓋をするかのように、
バカな女、悪い女に甘んじて行くことで、
やるせない気持ちから逃れようとしていた。
既婚者同士なら、自分だけが悪者にならなくて済むし、
割り切って対等に恋愛ゲームが楽しめれば…なんて。
良く有る腐ったハナシだ。
腐りきってる。
1999年頃のドラマにこんなのがあった…
優等生で正しい事しか出来ない女が、
そんな自分自身への息苦しさから自分を解き放つために、
ひょんな事からホテトル嬢という裏の顔をもつようになるドラマ。
その気持ちは良く解る。
決して良い事だとは思わないけど。
私も子供の頃から、真面目で几帳面で、
正しい事しか出来ない人間だ。
今でもそれはちっとも変わっていない。
公の顔は、自他共に認める”クソ”がつくほどの真面目人間。
誰もが当たり前に、”このくらいのこといいじゃん”ってルーズに済ませる様な
些細なことでも、真面目にしか出来ないタイプの人間です。
自分が異常に真面目なだけだということは理解しているから、
他人のルーズさについてはどうこう思わないけど。
そういう自分の真面目さや正しさを誇りに思っているのも事実だけど、
そんな自分に息苦しさを感じているのもまた事実。
今までに何度か、自堕落な自棄をおこしていた時期があったけど、
私は心のどこかで、そんなバカな自分、悪い自分を誉めてやりたいような
そんな気持ちも密かに感じていた気がする。
私にも、私にだって、正しく無いことが出来るんだ!と…
とにかく、
そうやって、またしても私は堕ちて行った。
1997年になり、冬が終わる頃、
ワープロの調子が悪くなり、
初めてパソコンを購入することになった。
インターネットは、こんな欲求不満の主婦の風穴を埋めるには
この上ない便利で手軽なツールだ。
掲示板に一言書き込めば、
驚く程の熱いレスが三桁単位で殺到する。
若い頃、自分が女であった頃の感覚を蘇らせてくれる。
欲求不満主婦をチヤホヤする男が星の数程ここにはいるのだ。
ネットの普及が現在の主婦の不倫を普及させたのは
おそらく間違いないでしょう。
そういう乾いた主婦が咽から手が出る程欲しがっていたものが、
ネットの世界ではいとも簡単に手に入るのだから。
春が近付いた頃、
恥ずかしながら、私にはネットで知り合った
いわゆる割り切った関係の男が二人程いた。
こういうことをしている女の中には、
純粋にSEXが好きで、
それを目的に楽しんでいる人も中にはいるのだと思うけれど、
私の場合は違った。
私は基本的に、SEXそのものはどちらかというと好きな訳では無くて、
そういう事は好奇心のあるうちは良いのだけど、
数回もすればもうどうでも良くなってしまう。
逆に男がSEXに執着しだすと、
私は退いてしまいたくなる。
要するに、欲しいのはトキメキであって、
肉体の快楽が欲しいのではないという事…
かといって、こんなのは恋愛ではないと自分が一番良く解っていた。
ただの火遊びのトキメキに過ぎない。
どんなに気の合う男と知り合っても、その男に恋をすることは無かった。
恋をするということはそんな簡単なものではない。
恋とはそんな陳腐なものではないのだから。
そうこうしているうちに、すっかり春になり、
桜の咲く四月、社の人事異動があった。
私の直属の上司が部署変えとなり、
その人に替わる上司が引き継ぎと挨拶にやってきた。
忘れもしない、運命の四月一日。
私はその人と出逢ってしまった…
第27話『"その人"との出会い』 へ続く




