第25話『大人と言う名のストレス』
倫理に反する事も色々と出てきますが書きます。
おこがましいかもしれないけれど、反面教師として、
似たような境遇に今いる人に何か一助となれば…
と少し思ってます。
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本木リク(主人公)
本木君(本木雅弘さん風)
筒井君(筒井道隆さん風)
智子ちゃん(田畑智子さん風)
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リクさん、
19の貴女が、あの時、自分で彼を手放したんでしょ。
やり直す約束をして別れたつもりかも知れないけど、
あの時に彼の手を離したリクさんの負けなのよ。
私は絶対に手放さなかった。リクさんとは違うのよ。
どんなみじめな思いをしても、
私は絶対に筒井さんの手を離さなかったのよ。
……智子ちゃんが私をそう嘲笑っているように感じた。
28歳になった私は、
なんだか何もかもに疲れ切ってしまっていた。
筒井君という拠り所をまたしても失って、
私は暗い泥沼の中へ一人で放り出されたような感じだった。
何もかも全てのことに、
投げやりというか、
ヤケクソのような、
そんなひどい倦怠感につつまれて、
どうしようもなく、
やるせない気持ちだった。
とにかく、
何もかもにひどく疲れてしまっていた。
いろんな事に…
疲れる事が、あまりにも膨大にありすぎて、
自分がパンクしてしまった、
そんな感じだ。
いつのまにか大人になってしまって、
なりたくもないのに大人になってしまって、
まったく、「大人」をやり続ける事は、
なんと疲れる事なんだろう…
本当に疲れた……
仕事も、誰よりも必死にやっているけれど、
ここにきて空回りというか、
努力が報われないことが多くて、
毎日が苦悩の連続だった。
世の中、どんなに真面目に地道に必死でやってたって、
こんなにダメなのかと、
ここでもひどく疲れきっていた。
空しさが心を埋め尽くしていた……
家庭も相変わらず。
離婚を受け入れない夫と
空しい仮面夫婦生活が続いている。
表立っては、相変わらず仲の良い夫婦だと言われながら、
完全に破たんした夫婦生活。
夫が私の信頼を取り戻すための点数稼ぎにと
家事などをするようになって、
もうかれこれ1年半が経つ。
相変わらず、私の心には何も響いてはこない。
ただ雑用をこなすだけで、
精神的に何も反省のない夫に対して、
愛情はコレっぽっちも戻るはずがなかった。
点数稼ぎをしている夫を気の毒だとは感じるけれど、
それ以上には何も感じ無い。
それどころか、
夫もだんだん疲れてきた様子で、
"こんなに尽くしているのに!!!”という苛立ちを見せ始め、
私に当たる事も多くなってきていた。
私にしてみれば、気持ちが戻るどころか、
そんな風に苛立ち、私に当たる夫をみて、
ますます嫌悪感が高まる一方だった。
私達夫婦は、
何かとてつもなく大きな出来事とか、
とてつもなく永い時間とか、
何かそういうものでも無ければ、
もうきっとやり直す事は出来ない。
天地がひっくり返るような何かが無ければ、
もう二度と愛しあうことは無い…
もうこのままじゃ、時間の問題だろう。
というより、この今が、時間の無駄でしかない。
人間の体というのは恐ろしいもので、
私は夫に肩を触れられただけで、
本当に鳥肌が立つようになってしまっていたのだから。
もうお終いだ。
自分の腕に無数に現れた毛穴の突起を見て、
修復不能なことを痛感した。
夫婦がこんなことになってしまわなければ、
私はあのまま筒井君のことを心の奥に
鎮めておくことが出来たのだろうか?
それとも、そもそも心に嘘をついて人生を生きることなど
初めから無理だったのだろうか?
28歳、この歳になってやっと分かった気がしていた。
私の人生は結局、筒井君がすべてだったんだと。
これから先、
もしこのまま仮面夫婦が続いても、
いつか離婚が成立してまた誰かと出逢っても、
もう迷ってはいけないんだ…と思った。
恋をすれば、その炎で筒井君のことを消せるような気がしてしまう。
この十年いつもいつもそうだった。
でも結局必ず筒井君への想いを再確認する事になる。
私は彼無しではダメで、
彼で無ければダメで、
彼以外の誰でもダメで、
結局、彼がいなければ生きていけないのが私の人生だったのだ。
ならば、もう他の誰も巻き込んではいけない、そう思った。
いろんな人に出逢って、
別れて、
28になってやっと分かった気がした。
彼を好きになってから十二年経った今、やっと。
私は、本当にまた離婚するのだろうか?
本当に離婚して良いのだろうか?
そんな自問自答を繰り返していた。
一度目の離婚は論外として、
今回は一度でもあんなに愛してた夫と、
愛の有る幸せな結婚生活を送っていたのだから、
前の離婚のように単純に心の整理はしきれない。
幸せだった頃の記憶が、判断を複雑にする…
恋人同士が別れるのとは訳が違う、
<離婚>なのだから。
例えば、彼と離婚して別れたとして、
別れてみて初めて、その大切さに気付いて
落ち込むなんてことはないだろうか?
今はこんなに嫌いでも。
ただじゃれあっていただけの様な、
たった三年の夫婦だと思っているけれど、
別れてみて初めて、大きな何かに気付くとか?
出逢ってからの足掛け五年は決して短くない。
その間にしみついた色々な事が、
やっぱり捨てられない、
失いたくない大切なものだったんだと、
あとで悔やむなんてことも考えられるのだ。
なにしろ一時はあんなに愛しあっていたのだから。
夫と出逢ってからの幸せだった数年間のことを思い出すと、
一体何が正しくて、本当なのか、
良く分からなくて、気持ちは混乱するばかり。
だからこそ、
私は今回の離婚は焦って勢いではしたくないと、思っていた。
離婚に別居期間は必要だと思う。
まず別居して事実上別れて暮らしてみて、
時が経ってお互いに後悔が無い事が分かって、
別れたほうが良かったと心から本当に思えたら、
それから初めて正式に離婚すれば良いんだと思う。
でも、そんな考えを夫は理解してはくれなかった。
別居なんかして離れたら、
それこそ、やり直せるものもやり直せなくなる、
というのが彼の言い分だった。
いずれにせよ、
離婚が成立しようが、成立しまいが、
筒井君とは何も変わらない。
変わりようが無い。
彼はこれから結婚を控え、
人妻だったりバツ付きの私には、
もうどうする事も出来ないのだから…
それでも、
「離婚が成立しても俺には知らせないでくれ。」
という筒井君。
私は、結局、もうどうにもならないとしても、
それでも私には彼しか無いから、
他の誰かにまた恋をしても
また筒井君を心のどこかで求めてしまうのが分かっている以上、
どんな形であれ
彼だけを想って生きるしかないんだと考え始めていた。
一生、愛人でも良い、友達でもいい、ただの片思いでもいい、
そばにいられるならそれだけでいい。
そうやって筒井君だけを密かに想って生きていくしかもう無いのだと。
そんなふうに、
夫との事、
筒井君の事、
そしてうまく行かない仕事の事、
を考える…
誰にも愛されていない空虚感。
どれもこれも、先行き真っ暗なことばかり。
今の苦しみを乗り越えたところで、
その向こうに光りなんて見えない。
ずっとずっとこんな暗闇、泥沼なのかと思うと、
とにかく私は疲れきってしまっていた。
もう右を向いても左を見ても、八方ふさがりで
<ストレス>という文字に押しつぶされそうになっていた。
もうなんだか、
何もかもすべてが嫌で、
馬鹿らしくなって
やけくそな気分になってしまっていた。
大人って、なんて疲れるんだろう……
こんなにヤケな気分でも、
決して自暴自棄になったりしちゃいけなくて、
決してハメをはずしたりバカな事しちゃいけなくて、
もう28でイイ大人なんだから…と自分を戒めてなくちゃならなくて。
そんな大人になんて、
なりたくてなった訳でもないのに、
時が勝手に流れて、気がついたら28。
こうやって、我慢して我慢して、
大人を演じてなきゃならないんだろうか?
大人としての理性を身につけてしまった自分と、
それに着いて行けずに反発するモラトリアムな自分。
自分が二人いて、
自分の中で分裂を起こしているのが、
だんだんはっきりと分かるようになっていった…
第26話『やるせない主婦の堕ちる果て』へ続く




