第24話『女の弱さ』
倫理に反する事も色々と出てきますが書きます。
おこがましいかもしれないけれど、反面教師として、
似たような境遇に今いる人に何か一助となれば…
と少し思ってます。
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本木リク(主人公)
本木君(本木雅弘さん風)
筒井君(筒井道隆さん風)
智子ちゃん(田畑智子さん風)
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「もう、俺、全部めちゃくちゃにしてしまいそうな衝動、抑えきれない。
わかるだろ?俺の気持ち…、俺、自分が恐いよ…」
筒井君のその言葉は、
まるで私の気持ちの代弁のように聞こえた。
お互いの気持ちは同じ状態だった。
でも、
めちゃくちゃになってしまう事が
あまりに多過ぎる。
離婚への話合い中とはいえ結婚している私…
傷物の女なんか絶対に認めない筒井君の家…
婚約者同然の智子ちゃんとその家…
長年連れ添ってきた彼女を筒井君が責任もって幸せにすべし、
と彼の周りの友達も皆、そう願っている。
智子ちゃんを捨てて今さら私とやり直すなんて、
周りの全てを敵に回すような事。
誰も祝福なんてしてくれない。
せめて、
せめて私が智子ちゃんと同じに独身の綺麗な身だったら…
同じ土俵に近付くことが出来たのかも知れない。
「なんで私、結婚なんかしちゃってるんだろう…
せっかくまたこうして出会えたのに。」
間違ってるのは分かってる。
私の愛情を取り戻そうとして夫が一生懸命私に尽くしてくれてるのに…
でも、お門違いの点数稼ぎには同情以外の何も感じない。
結局、優しくされて嬉しいのは、
それが好きな男だからなんだって、つくづく思う。
結婚していてこんな状態になって、初めて分かった。
「私…、夫に尽くされれば尽くされるほど思ってしまうの。
どうして私は一番好きな人と結婚しなかったんだろうって…」
愚かで醜い自分に、嗚咽が止まらない…
「夫に尽くされているくせに、なんて酷い女なんだろうって、
ほんとに酷い女だって思う。分かってる、分かってるんだけど…
……一番好きな貴方と結婚すれば良かった。」
「……」
「筒井君を一番愛してるって、結婚決めたあの時にも、分かってたのに。」
止まらない涙と一緒に、
吐き出す言葉も止まらなくなっていた…
「夫のすべてが何も心に響かなくなってからこの一年半ずっと、
毎日毎日…どうして筒井君と結婚しなかったんだろうって、
毎日毎日、なんて酷い女なんだろうって…毎日…毎日……」
筒井君の胸で私の涙はどこまでも止まらない…
離婚を受け入れようとしない夫との奇妙な同居生活。
噛み合わない歯車の歪みに触れないようにしながら、
でも口を開けば衝突し、もめ事になってしまうのは必然。
何度目かのもめ事のあったある時、
もうどうしても家に帰るのが嫌で、私は家出をした。
それでそのままどうこう出来るとは思ってなかったけど、
とにかく数日でもいいからどうしても離れていたかっただけだ。
離婚にも別居にも応じてくれない夫へのささやかな抵抗。
通勤に支障のでないビジネスホテルに泊まって、
そこから仕事場へ通った。
普通なら「実家に帰ります」なんだろうけど、
私には帰る家などない。
ビジネスホテル暮らしなんて、そう長く続けられるはずもなく、
お金も掛かるしせいぜい一週間位が限界。
ちょうどその頃の私は仕事をしながら合間に勉強して
二つの資格の学校に通っていたので、
山ほどのテキストなども抱えて、ビジネスホテルに隠った。
深夜、仕事を終えた筒井君と部屋で会い、
一緒に夜食を食べる。
お互いの仕事の事や色んな事を語り合う。
そんなひとときが何よりの幸せだった。
わずかで、ささやかな時間だけど、
私には至福の時だった。
この部屋でしか二人の愛は存在し得ない事を、
私達二人には、どうあがいても未来は無いという事を、
お互い心の奥底で感じていた気がする。
極わずかな希望の糸口が、見えないどこかにあるかも知れない!
と、そう思いながらも、
そんな糸口は永遠にみつけられないものだと感じてもいた。
そんな風に月日が過ぎ、筒井君との再会から一年が過ぎた…
私はまた仕事で20日間程、出張があり、
家を離れ、必然的に筒井君からも離れることになった。
筒井君と私には、少し距離を置くいいきっかけだった。
どうしようもなく高ぶるばかりの衝動を整理するためには。
出張先から毎日、電話で語り合った。
私の出張中、なんと筒井君は彼女と決着をつけようとしていた。
とうとう別れ話を切り出していたのだ。
私の出張で会わない間に、何とかケリをつける。
もしそれが出来なかったら、このままもう会えない。
彼はそう覚悟して、智子ちゃんに別れの言葉を告げていた。
「気持ちが完全にリクにあるのに、
それを偽って、これ以上、智子と一緒には居られない。」
私とどうなるかは別として、
私とどうにもなれなかったとしても、
このままの気持ちじゃもうダメだと…
こんな気持ちのまま智子ちゃんを傷つけ続ける事は出来ない。
自分は結局、リクと終われない。
今度こそ本当に別れて、
もっとまともな男に幸せにしてもらってくれと、
そう彼女に話した筒井君…
彼女は17歳の時、
「リクとよりを戻すまでの繋ぎで良いなら」
と彼に言われて付き合い始め、
何度となく私に脅かされながらも、
26歳の今までずっと強かに彼を繋ぎ止めてきた…
そう、彼女は当然、彼を離そうとはしない。
五年前のあの時もそうだったように。
なりふりなんて構わない。
どんなに惨じめになろうとも、
彼女は彼にしがみついて離れない。
そうやって生きてきた、ある意味とてもとても強い女。
プライドなんて微塵も気にせず、
愛されてなくたって、何だって、
とにかく手放さない者が勝ちだって知ってる女。
どんなになっても彼無しでは生きられないのが彼女。
だから絶対に離れちゃいけないと自覚してるんだろう。
彼としか人生を歩いた事のない女、
自分の足で歩いた事のない女、
それが彼女だった。
彼が手を離したら、立ってすらいられない女なのだ…
五年前と何も変わってはいない。
それは私にも十分わかっていた…
私は、絶対に彼女にはかなわない。
彼女が自分で立つ事すら出来ない弱い女である限り、
私は永遠に彼女には勝てない。
「私だって、筒井君無しでは生きられないのよ…、
15の時から、筒井君がいたから生きてこられたの。
筒井君がいなかったら、とっくに生きていられなかった。
ずっとずっと、筒井君ばっかり頼って生きてきたじゃない。
私が、ちっとも強くなんかないってこと、良く知ってるでしょう?」
「知ってる、わかってる、痛いほど…。
リクがどうしようもなく弱い女だってこと。
そうは見えないから損する女だし、それも解ってる。
一人で生きられ無いって事わかってる。
だから俺はずっとリクのそばにいたい。
そういうリクだから俺は一生お前を愛していきたいんだ、誰よりも。」
だけど、私にも解る。
私の弱さと彼女の弱さが全く違った性質のものだということ…
彼女には何も無い。
彼女のすべてが彼で、
彼女は自分自身すら自分で持っていない。
それが決定的な違いなんだと思う。
そんな彼女が哀れにも思えるし、
また、心底羨ましくも思えた。
私もそんな風に生きられたら、筒井君のそばにずっといられたのだろうか。
出張の20日間、
会わない間にそんな攻防があり、
覚悟の行動を起こした筒井君だったけれど…
少しずつ、連絡が減っていった。お互いに。
お互いの皮肉な運命を噛み締めながら、
またそれぞれの胸の奥に想いを封じ込めていくしか無かった。
一体いつまで続くのだろうか、私達のこの繰り返しは…
ほどなく秋が訪れ、私は28歳になった。
どんなに大人になっても、
こらえられない涙もある…
第25話『大人と言う名のストレス』へ続く




