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第23話『十年愛』

倫理に反する事も色々と出てきますが書きます。

おこがましいかもしれないけれど、反面教師として、

似たような境遇に今いる人に何か一助となれば…

と少し思ってます。

・:・:・:登:場:人:物:・:・:・:・

本木リク(主人公)

本木君(本木雅弘さん風)

筒井君(筒井道隆さん風)

智子ちゃん(田畑智子さん風)

・:・:・:・:・:・:・:・:・:・:・






 19の頃、

「いつか必ず、またやり直そう。」

と誓って別れた…




 22の頃、

「四年後の、平成七年七月七日に結婚しよう。」

と言ってくれたプロポーズが、

紙一重のすれ違いと消えて…





 その<平成七年の七夕>が私達をまた引き寄せたのか、

私と筒井君は何度目かの再会。





 そして…


 雷雨に打たれながらキスをしている。

どちらからともなく。



 雨と涙で、すっかりお化粧も落ちて、高校生の頃の私のよう…



 高校生のあの頃の気持ちのまんま…






 長い長いキスのあと、

私達はずぶ濡れになりながら、

きつく抱きしめ合い、立ち尽していた。





 私達は、互いにくすぶったままの想いを心の中に封印して、

この想いにピリオドを打ったつもりでいた。


 想いを残したまま、でも、ちゃんと卒業したつもりでいた。

私と本木君の結婚式が、

私と筒井君の卒業式のはずだった…


 あの時、二人の永い愛は終わり、

新しい道をそれぞれに歩いていたはずだった…お互いに。








 言い様のない衝動に突き動かされて、

思考回路はパンク。


 どうしようもなく掻き乱れた頭の中を、

どう整理することも出来ずに、

二人とも一言も言葉を発する事が出来ず、

黙り込むしか出来なくて、

そのまま帰宅の途についた。





 胸のざわめきと、

頭の混乱はおさまる訳も無く…




 そして、そのまま数日が過ぎた…










 言葉も交わさず、顔を見る事も出来ないまま、

あの日の気まず過ぎる別れ方。

とにかく筒井君にもう一度会わなければ!と思う反面、

こんな状態で会ってはいけないとも思う。


 四年ぶりに触れあった唇の意味を、

どう整理すべきか迷っていた。




 あの日はお互い、どうかしてたんだ。

ただなんか交通事故みたいなものだと思って、

忘れるに越したことはない。


 そう、何事も無かったことにしよう!







 どうしてあんなキスをしたのか、

お互いにその理由を確かめたくて、

本当は混乱した心の整理がつかないままだったけれど、

何事も無かった元通りの親友として、

私と筒井君はたびたび会うようになっていった。


 

 といっても、

ただランチを一緒にしたり、

お茶を飲んで、話をしただけ。

でも、人生で一番の親友と言える彼との時間は、

夫に裏切られて心のよりどころを失っていた私には生き返る時間だった。

 




 どうしても彼に会って話がしたくて、

彼の自宅の傍で、約束もしていないのに、

ひたすら何時間も彼の帰りを待ち続けた事も何度もあった。

待つ時間の長さを歌を歌ってまぎらしていたっけ…


 


「今日は会社の人と飲みに行くから遅くなる」

筒井君に会うための夫への言い訳。


 夫の裏切りを知ったあの日から、

軽蔑と嫌悪の対象でしかなくなってしまった夫。

その夫と一緒に居る時間は苦痛以外の何物でもなかった。



 私は、仕事と筒井君とで時間を埋め尽くそうとしていた。










 一緒にランチしたり、お茶を飲みにいったり、

もともと高校時代の一番のマブダチでもある筒井君と私。

話は尽きる事がなく、お互いにあれこれと、

何時間でも語り合い続けてた。




 そうして会い続けるうちに、

お互いの心の奥の気持ちは通じ合うようになっていった。

あの雷雨の夜以来、指1本触れ合っていなくても…






 封印したはずの想いが風化していない、

そのことをお互いにひしひしと感じていた。















 筒井君は私と最初に別れた19のあの時、

「リクとやり直すまでの繋ぎで良いなら付き合ってやる」

と言って付き合いはじめた智子ちゃんと、かれこれ八年になる。


 四年前、私にプロポーズをしてくれた後、彼女のもとに戻った彼。

私が二度目の結婚をし筒井君にその花嫁姿を見送って貰ったその後、

すぐにでも後を追い、彼女と結婚してしまうのではないかと思ったのに、

それもまだないまま…



 とはいえ、付き合って八年、

彼は27で彼女は25。


「いいかげん結婚しなくちゃな。」

と筒井君…

互いの家族も結婚は時間の問題だと了解している風で、

そろそろ具体的にしなければ、という空気らしい。









 私は相変わらず家庭が崩壊している状態で、

仕事に身を投じて誤魔化して暮らしている。


 夫は私の<離婚したい>という意向を

どうしても受け入れようとはしないで、

別れない!

と頑張っている。

もう一度やり直せるはずだと。




 とにかく私は本木君という夫と一緒にいる生活が苦痛で仕方なかったから、

<せめて別居を>と申し出たのだけれど、

夫はそんな中途半端なことはしたくないと言って聞かない。



 一緒に生活している以上、

例えば、食事、掃除、洗濯、といった極日常の家事がついて回る。


 そうでなくても仕事でクタクタだというのに、

軽蔑し険悪で話もろくにしない夫の為に、

その男の食事の支度や、衣類の洗濯を、

疲れ切った私がどうして出来るものか。


 愛する人の為ならば、

疲れをおしても世話をしてあげたいと思うものであって、

こんな状態では生活そのものが成り立たないではないか!




 すると、本木君は自分のペナルティを挽回するためにと、

家事をするようになった。


「また愛情を取り戻してもらう為に頑張るよ。」


「また君の愛情を勝ち取る為に、努力するから。やっていこう。」



 そう言って離婚には一切応じない。

そんな彼の姿は、けなげで、同情を覚えた。

同情はあくまで同情でしか無かったけれど…



 それに、勿論、問題はそんなことではないのだ。





 私の為にと、あれこれ何でもしてくれる、

でも一番肝心のところで平気で裏切りを犯すのでは駄目なのだということを

彼は理解してくれない。




 普段何もしてくれなくたって、

<ここだけは>という一番大事な所で

信頼に応えてくれる人であればそれで良かったのに。







 彼は、そこを完全に勘違いしている。




 その証拠に、

裏切り行為の件に関しては、

「男なんだから、魔が刺すってこともあるんだ、それだけのことだろ。」

と、ただ当たり前の事を言って開き直るだけだったのだから。




 そんなありきたりな男の理屈は百も承知している。


 私はそんなこと言っているのじゃない。




 私が、なぜ、他の裏切りは許せても、

あの時の裏切りだけはどうしても許せないと思ったのか、

その気持ちを解ろうとはしてくれなかった。



 それだけ、特別なダメージを私に与えたのだという事を

彼は理解しようとはしなかった。

それが溝を更に深くし、修復不能なものにした。


 どれ程決定的な致命傷だったのかを考えようともせず、

「やり直そう」と家事で点数稼ぎをしようとする夫の姿は空しかった。





 急所である心臓がズタズタに破壊されて破裂して、

大出血して瀕死の重傷だっていうのに、

彼はそのズタズタの心臓には目もくれずに、

私の頭を撫でたり、

手足を撫でてみたり、

肩を揉んだりして、

「機嫌なおして笑ってよ」と言っている、まるでそんな感じだ。


 心臓が飛び出て、破裂してて死にかけの人間に、

いくら頭を撫でたって、

いくら手足を撫でて肩を揉んだって、

そんなの何も感じないし、笑える訳などない。

ズタズタの心臓を手当てしてくれなければ、死ぬだけなのだ。








 本木君との結婚生活を破たんしないで幸せにやっていたら、

そのまま徐々に筒井君のことは思い出にすることが出来ただろう。恐らく。

本木君と結婚してからの約二年間がそうであった様に。




 それとも…


 心に別の人への愛をもったまま結婚したのだから、

幸不幸は関係なく結局いずれは、

その人への想いにさいなまれる事になったのだろうか。

封印する事など、はじめから無理な話しだったのだろうか?










 同じ想いを感じながら、二人で会う時間が増える度に、

お互いを求める想いが高まって行くのは当たり前。



 口にはしないものの、

私は筒井君に抱かれたいと思ったし、

筒井君も同じ気持ちだった。



 けれど、


 卒業の証に結婚式に出席した以上、やはりそんな大罪は許されない。




 筒井君も私も、

何度も何度もくっついたり離れたりをくり返してきたけれど、

もう27歳になる…

それなりの大人になっていたし、

そうそう軽はずみな事はしない理性を身につけていたから、

気持ちのままに踏み出す事は無かった。

口にも出さなかった。



 そんな理性や分別がまだあやふやな若造の頃なら、

とっくに一線を越えてしまっていただろう。



 お互いに、

「27歳、もうイイ大人なんだから…」

と自分を律し、踏み止まっていた。








 どのくらい経った頃だろう…

内心は愛し合いながらも、

一言もそんな想いは匂わせる事無く、

頑として<親友>を保っていた私と筒井君。




 ある時、唐突に筒井君が言った。


「もうこれ以上二人で会うのはやめたほうが良いのかも知れないな。

このままじゃ、これ以上、もう俺は俺の気持ちを抑えきれなくなる。」





 抑えきれないというのは勿論、肉体的な衝動の話ではない。

そういうものもひっくるめた、愛情の話しだ。



 再会以来、<親友>を通してきた二人。

筒井君が口火を切った。





 離婚を承諾させようと奮闘している私が口を滑らすならまだしも、

これから彼女と結婚しようとしている筒井君の口から、

そんな言葉が出るなんて…






 彼の発したその言葉の衝撃は、大きかった。




 それでも、ガキじゃあるまいし、

本能の赴くままというわけにはいかない。





 でも…




 でも…




 二人とも、そんな自問自答を繰り返し、

さんざん悩んだ挙げ句、

結局そのまま離れることはもう出来なかった。



 筒井君と私は、四年ぶりに愛し合う関係に戻った。







 彼と心だけでなく身体を重ねたことで、

私の頭にふと、夫への復讐を果たしたような、

そんな気持ちがよぎった。




 もしかして、復讐出来ずにいたことが、

夫を許せずにいた理由だったのかもしれないと。




 もしかしたら、こうして夫を裏切ることで、

夫の裏切り行為を許す事が出来るのかも知れないなどと、

そんな気持ちが少しよぎっていた。



 けれど、それならば、単に、愛していないただの男と寝れば済む事だ。






 筒井君と私は、

初めてキスをしたあの時からの十年余りの間にお互いの中で育て続けた

巨大な愛に背く事が出来ずにいた。



 そう、あれからもう十年以上もの時が流れていた…




 いろんな事があったけれど、

やっぱりこうなるしかなかったんだ。

やっぱり筒井君じゃなきゃダメなんだ…





 でも、そんな気持ちをお互いに軽々しく口には出来なかった。

お互いに、別々の待つ人がいる身なのだから…







 どうすることも出来ない代わりに、

冗談めかして互いに本心を語った。


「一緒になりたい」

と…





 現実どうにもならない事だと解っているから、

本心を冗談として語り合っていた。

”一緒になったら、こうしてああして…”なんて。



 私には夫がいて、彼には婚約寸前の彼女がいる。



 私は離婚交渉中の身ではあったけれど、

離婚が成立したとしても、筒井君と一緒になどなれないのだ。

筒井君の家は、親戚中が非常に堅い家系。

離婚歴のある女など、言語道断。


 それに彼女の家への手前も…

もう筒井君はすっかり彼女の婚約者だったし、

今さら破棄になど出来ない。



 それに何より筒井君自身が、

長年ずっと付いてきた彼女をそんな目に合わせられるような

非道な人間では無い。









 どうすることも出来ないけれど、

お互いの心は誰にも止める事など出来ない程に核心的に結びつき、

十年分の愛を燃やしていた感じだ。



 お互いに、何か必死に自分を抑えるストッパーを探して、

小さなそれにしがみつきながら、

”どうしようもないんだ”

と自分に言い聞かせて、必死に情熱を押し殺していた。






「リク…、もしも離婚が成立しても、俺には知らせないでくれ。」




 離婚出来たって彼と一緒にはなれないはずなのに、

それでも筒井君は、

私が結婚している事を唯一のストッパーにして自分を抑えていた。












 そんな関係になって一年が過ぎようとする頃、

筒井君が言った。







「もう、俺、全部めちゃくちゃにしてしまいそうな衝動、抑えきれない。

わかるだろ?俺の気持ち…、俺、自分が恐いよ…」




第24話『女の弱さ』へ続く

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