表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/48

第16話『恐れていた言葉、それは…』

 

・:・:・:登:場:人:物:・:・:・:・

松尾リク(主人公)

松下先輩(松下由樹さん風)

本木君(本木雅弘さん風)

・:・:・:・:・:・:・:・:・:・:・






 今思えば、

出張だ、

旅行だと、

離れ離れになるたびに、

何かが起こる私と本木君だった…






 23歳の春、

例のコンテスト優勝者として、

私は20日間程の海外研修へ。


 一ヵ月間だけ住む場所がない状態だった本木君が、

私のマンションに留守番することとなり、

私はN.Yへ発った。




 エアメールは一週間程かかるので、

N.Yに着いてすぐに日本の本木君に葉書を出した。



 それから、筒井君にも。


 新しい恋をして、

新しい生活をして、

筒井君のことは心から消そうとしてはいたけれど、

決して忘れられるわけなどなかった。



 あの時、彼女の元に戻った筒井君…

それでも、

心のどこかで、

まだあの約束はつづいてるんだという思いが、

どうしても消えなかった。

今はまだその時期じゃなかっただけなんだと…






 本木君のことを本気で大切に思っていたことも事実。


 別に、間に合わせでとか、

本心は他に…だとか、

そんないい加減な気持ちではなかったつもりだし、

前向きに新しい人生を生きる気持ちだった。











 本木君の周囲はちょうど結婚ラッシュ…

兄弟や従兄弟、

友達らが次々と、立て続けの結婚式。

でも、本木君はとても冷静だった。


「僕には結婚なんて当分先の事だなあ。まだまだ結婚は考えられないな。」



 私にはそう言う本木君が凄く心地よかった。


 さんざん<結婚>に振り回されてきた私は、

当分そんなこと考えたくなかったし、

仕事も充実してきて、

新しい人生を着実に歩き始めたばかり。


 本木君のことは大好きだけど、

結婚とか考えずに自然に気楽に、

長く大事に付き合っていきたいと思っていたから。







 30代になってから、

結婚や子供のことを考えよう。

それまでは楽しく前向きにしっかりと仕事や、

やりたいことを思いっきりやって生きようと…


 そんな思いを本木君にも何度か話していた。


 彼に結婚願望が無かった事は、私にはとても都合が良かった。










 N.Yからボストン、

そしてフランスはパリ、

イタリアのミラノ、

ドイツに飛んでデュッセルドルフ、

イギリスに飛んでロンドンへ、

…飛び回る日々。


 睡眠もおぼつかないハードスケジュールの中で、

コロコロ変る日本との時差を計算し、

自分の深夜だろうと明け方だろうと、

必死で起きて日本の本木君に電話した。

殆ど毎日。


 逢いたくて、

寂しくて、

しょうがなかった。

彼と離れていることが

こんなに辛いと思うなんて、

自分でも意外だった。




 更に意外な事に本木君は、その何倍も同じ想いを感じていたのだった。



 考えてみれば自然なことなのか…?

私は外国でドタバタと暮らしていたけれど、

本木君は、

私の気配の残る部屋で、

毎日独りでただ待っていたのだから、

私以上に寂しさを感じるのも無理もない事かもしれない…








 私が帰国してからすぐだった、

本木君の様子がおかしいなと思ったのは。






 ある日、

友達と呑みに行った本木君が、

夜中に泥酔状態で私の家に…



「好きだよ〜!愛してる〜!」


 酔っ払うと大声でそんなことを言う人だった。





「はいはい。わかってるよ、私も愛してる。」




「ちょっと、ここにしゅわって…、僕が…、大事なこと言うかりゃ…」




酔いつぶれてロレツがまわってない本木君。







「ぼくとぉ…、けっこんして…くらさいっ」






(え!!!!!!なに?????)




「何言ってんの!はいはい、もう〜、酔ってんだから。早く寝な。」



 私は動揺を押さえて受け流す。




「なんだよ〜…はいはいって〜…どうせぼくとなんか。

もう…いい…Zzzzz……Zzzzz……」





 こんなことが何度も続いたのだった。



 まあ、泥酔して言ってることだから、

あまり気にしなくてもいいか…

とも思ったけれど、

松下先輩にそのことを話してみた。


「酔ってる時にしか本音が言えないってこともあるしね〜」

と言われ、少し困惑した。



 でも、酔ぱらって言ってるうちは、

その話しに触れないように聞き流す事にしようと思った。









 帰国してからそんな毎日が続き、

一週間か十日たった頃、

二人一緒の休日だった。




 私が高校卒業後すぐに乗り始めた250ccのバイクで、

一緒に遠出しようということに。

本木君は命を落としかけたバイク事故以来、

久しぶりにバイクに乗れると大喜びだった。



 海まで走って、

二人で西日に照らされる夕暮れの海を眺めた。

五月がすぐそこまで来てるこの時期の、

初夏の匂いのする風が

とっても心地良かったのを覚えてる。



 すっごく、すっごく、イイ雰囲気だった。



 とっさに私は、危機感を感じた。



(あ、もしかして、ヤバイかもしれない…)





 さっきから、

本木君は私の顔をやたらと見つめてる。



 何か言いかけては、

口ごもってる。





 <結婚>の話をされるのではないか。

そんな感じがして脅えていた。




 私は努めて、たわいもない話しを一生懸命した。



 ロマンチックな会話にならないようにと必死だった。











 その場は何事も起こらず、海から街へ戻り、

友達と合流してワイワイ楽しく食事。


(あ〜よかった。気のせいだったのかも。)



 私の取り越し苦労だったみたい。

ホッとした。




 あれほど「結婚はまだしない」って言ってた本木君だもんね、

やっぱり私の取り越し苦労だわ。

よかった。












 その日は本木君の新しいマンションへ。


 SEXの後、

ベッドの中で抱きあってると、

やっぱりなんだか本木君の様子がおかしい。


 やたらと私をマジマジと見つめ、

何か言いかける。

でも言わない。

そのうち、ゴチャゴチャ言い始め…



「んとね………、あの………」




「何?」




「…いや、なんでもない。」




「は?」









「あ!あのさ………、う………なんていうか…」




「はい?」




「なんていったらいいか…」





「なに?」





「いや、まあいい…。」












「んんんんんん………」




「???」




 ちょうどその時、

当時ちょっとヒットしていた『KAN』の新曲が

部屋の有線から流れて来てた。






「あのねえ、うんとねえ、って、

なんかさっきから本木君、この歌のまんまじゃん。ははは。」



 最初はそうやって茶化したり、

ゴチャゴチャ言いかけてるのもスルーしたりしてた。


 いい加減それも出来なくなってきて…



「一体どうしたの? なんなの? 何か言いたいなら言っていいよ。」




 そう言ってもまだ、あのね、んとね、のオンパレード。









「うん………、だから……その……」




 こんな調子で一体どのくらい時間が経っただろうか。

1時間?もっと?



 ベッドの中で本木君が私の顔を真っ直ぐに見つめて言った。




「僕と、…結婚してください。」



「………………!?」


「………………………………。」




 とても誠意に満ちた、

素敵なプロポーズだった。

けれど…


 私がここ数日恐れていたのは、

やはり気のせいではなかった。

やっぱり彼は<結婚>を口にしようとしていたのだ。



 彼は私が帰国して以来ずっと、

いつ言おう、いつ言おうと、

ドキドキしながら言い出す機会を探していたのだ。





 見つめあったままの一瞬の間。



 その一瞬の間に、

色んな事がよぎった。




 布施との地獄の結婚。



 筒井君の幻のようなプロポーズ。



 その直後の反町君のプロポーズ。




 そう、

反町君の時のあの反応がよぎった。





 即答なんて出来ない、

でも、

考えさせて、と言ったら終わってしまうかもしれない!


 考えないといけないような気持ちなら別れる、

そう言われてしまうかも知れない。

反町君がそう言ったあの時のように。






 本木君と今すぐ別れるのは嫌。

長く付き合っていきたい。

となると、

考えさせて、とは言えない…









「はい…。」




 そう言うしかなかった。












「ほんと?!いいの?!結婚してくれるの?!よかったあ〜〜!!!」






「あ、で、でも…あの…、すぐには……、」





「え、ああ。うん。大丈夫。

そんな急にとは言わないから。

仕事とか色々大変だもんね。

今年じゅう…いや、来年でいいよ、

春、それかもっと先がいいなら来年の秋ぐらいとかでも。」





(まだまだもっと、ずっと何年も先がいいの……)


 そう心でつぶやいたけど、

声には出せなかった。









「あの、でも、私……、色々、自信ないの。

結婚っていわれても自信ないの。

それでもいいの?

それに私、仕事これからってとこだし、

仕事の夢とか目標もあるし、

結婚生活より仕事が優先になっちゃうし、

きっと、なんにもしてあげられない。

それに…、それに…」





 いろんな不安や、

望み、

その他、

畳み掛けるようにあれこれと言った。

出来るだけ結婚が先延ばしになりそうな事を。




 今の自分は結婚には向いてないんじゃないかという事。


 だから30代位まで結婚する気は無かった事。


 だから結婚を意識せず付き合える本木君が嬉しかった事。







「僕は、そういう君が、そういう君だから好きなんだろ。」



「……。」



「自立して仕事の夢を追いかけてるそういう人のが良いんだ。

だから僕はもうすぐ会社を継ぐけど、

オフクロみたいに君には僕と一緒に働いてもらいたくないんだ。

今のまま、今のまんまのリクで良いと思ってくれたらいいよ。

今のままの生活なら大丈夫だろ?自信なんかなくたって…ね。」




「本木君…」




「だから、僕が幸せにする!今まで辛いこと多かった君のこと。きっと。」





 嬉しかった。

このままの自分を欲しいんだと、

そう言ってくれる本木君の言葉が。

本当に嬉しかった。

だから、思った。


 この人となら大丈夫かも…と。






 けれど…


 今なら分かる。


 男の人は大抵みんな、

適齢期だとか、

「結婚してみようか」と思うその時期に、

タイミングよく目の前に愛している女がいたら、

その女のことを、

自分の理想の嫁さん像なんだと思い込んでしまうものなのだ。


 これが俗に言う<結婚ってタイミング>ってやつなのだろう。



 結婚したい気分だったタイミングに、目の前にいる好きな女。




 自分が本当に求めている嫁さん像が

もともとは何だったかなんて忘れてしまう。

だって目の前の女の全てが大好きなんだもの。



 そして大抵、

いざ目の前の女と結婚したいと思ったら、

とにかく何だって言う。



 決して悪気はこれっぽっちもないのだが。




 余程のこと以外は、

簡単に口にしてしまう。


「そうだね、そういうのもいいよね」


「今のままの君が好きなんだから、今のままで居てくれれば良い」


「君が幸せでいられるように僕は頑張るから」


「こんなに愛し合ってるんだから、どんな事も歩み寄って乗り越えられるさ」



 …例えばそんな風に。






 結婚前にはあんなこといってたのに、騙された!

なんていう奥さんの話をよく耳にするけど、

要は、<騙す>つもりなんか無いんだと思う。

その時は。



 ただ目の前の女と結婚したくて、

その女を喜ばせたくて、

愛する女が喜ぶような男でいたいのでしょう。

喜ばせようというつもりで語ってしまうのだ。

彼女が喜ぶような未来を。


 彼女が喜ぶ未来がそのままイコール自分も喜べる未来のハズだと、

現実をスっ飛ばして思い込んでしまう。




 『恋は盲目』ってやつだ。



 恋愛の情熱で熱くなっているから男自身も分からないのだ。



 そして、

時が経つ。


 結婚は恋愛と違って、

リアルでシビアで単調な生活そのもの。


 冷静になる。

素に戻る。



 結婚前はこう思ってたけど、そうじゃないカモな…


 あんな事言った時もあったけど、そんなのやっぱ現実的じゃないな…


 あの時はこうだと思ったけど、本当はもっとこういうほうが都合がいいな…



 などなど、

素の自分がもともと持ってたライフスタイルや願望、

20〜30年生きて来た中で築かれたものは本当はそう簡単には変わらない。

もともとの素にどんどん戻っていく。


 …で、結果、

女側からすれば、騙された!

になる。




 けど、騙したわけじゃない。



 結婚前は熱があって、どうかしてた、

自分の本音に気付かなかった、

ただそれだけの事なのでしょうね。



 まったく、困ったもんです。恋って病は…。












 「考えさせて」と、その一言が言えなかったから、

その時別れたくはなかったから、

答えはイエスになり…


 私と本木君は婚約することになった。




 本木君が言った。

「来年の六月にしようよ。ジューンブライド!きっと幸せになるから。」



第17話『揺れる心』へ続く

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ