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第15話『お金の決着』

・:・:・:登:場:人:物:・:・:・:・

松尾リク(主人公)

松下先輩(松下由樹さん風)

本木君(本木雅弘さん風)

布施(布施博さん風)

・:・:・:・:・:・:・:・:・:・:・





 楽しい仲間たちにいつも囲まれている本木君。

そんな彼との付き合いが始まった。


 とにかく楽しかった。

本木君も、彼の仲間たちも。

二人っきりのデートは殆どなくて、

だいたいみんなと一緒に食事、呑みに、遊びにいった。



 本木君は、一見、顔の濃い二枚目なのに、

中味はまるでダサ男風で、

身なりには一切構わないというか、

洒落っけもセンスもゼロ。

とにかくドジな三枚目キャラで、

なんだか真面目で一生懸命。

だから、

私はそういう本木君を慕っていた。






 十一月の中旬、

私はいよいよコンテストの地区大会。


 プレッシャーと、緊張と、

いろんなものが押し寄せてきて、

私は押つぶされそうになってた。


 夜中、家でコンテストの事を考えると、

急に体が震えて涙がでてきて、

どうしようもなく不安で、逃げ出したくなって…


 そのとき私は、

とっさに本木君に電話してしまってた。





「急に声が聞きたくなったんです。夜中にゴメンナサイ…」





 私の中で、

彼の存在が随分大きなものになっていたのだった。









 地区大会の本番。

私はそこで、

なんと!

優勝してしまった!

大先輩らをおしのけて。


 部も支社も、大騒ぎだった。

もともと目立たないほうではなかったけれど、

一躍社内の超有名人になった。


 この大会での優勝者は、全国七つの地区大会の優勝者とともに、

来春の欧米研修のメンバーとなれる。





 入社時からの憧れ…



 憧れだった欧米研修に私が!






 私はまさに公私ともに絶頂といった感じだった。

怖いくらいに仕事も私生活も満たされていた。


 これほど何もかもうまくいってるなんて状況は、

まあ人生そうあるもんじゃない。

それまでの人生で間違いなく一番ツイてる時だった。





 本木君と知り合って、ひと月が過ぎ、

だんだんと親密に。

いつもたいてい友達と一緒だった私達。

本木君の家で珍しく二人っきりで過ごした日、

ごく自然にキス。

そして自然にSEX。


 それからの私たちは、

相変わらず仲間たちといることも多かったけれど、

お互い独り暮らしだったから、

お互いの家で二人で過ごすことも多くなっていった。






 本木君が私の家に出入りするようになって、

困ったことになった。


 誰だって、不自然に思わない訳が無い。


 なんでこんなに究極の貧乏をしているんだ?って…






 私は業界最大手の一部上場企業に勤めてて、

おまけに優等生社員。

ちゃんと給料もボーナスももらってて、

別に身の周りに特に贅沢もしてない。


 なのに、ボロアパートに家具ひとつすら無い空っぽな部屋の中。


 何も無さ過ぎて不自然に思わない訳がない。




 家に来てもコーヒーひとつ入れてあげられないし、

もちろん料理してあげられる訳もない。

私は相変わらず、一日八十円、

インスタントラーメンをのびるまで煮て

空腹をしのぐ生活をしていたのだから。





 布施との家を出て半年が経っていたけど、

借金はかけらほどしか減る訳もなく…

約束どおり毎月一回布施に会い、

慰謝料を払い続けていた。



 本木君と親密になっていくに従って、

この状況を隠してはおけなくなってきた。



 黙ってたって部屋をみれば、

本木君のなかで疑問は膨らむばかりだし、

何の説明もなしにこのまま過ごせるはずがなかった。





 まあ、別に浮気してるとか、

そういうやましい事がある訳じゃないんだから、

隠すことでもないし、

これが今の私なんだし、

私はこうやって傷をつくって生きてきたことを今さら恥じてないし。

ちゃんと全部説明しよう。




 ある時、家に来た本木君に私は話した。

今なんでこんなに貧乏なのか、

どんな事情があって、

どんな借金もってて…

布施に毎月慰謝料を払いに行っていることも、

それらを全て説明した。






 本木君はかなり驚いていた。

ちょっと呆然としていたようだった。




 私の事情に驚いていたのか、

そんな事を堂々と話した私に驚いていたのか、

…その両方だったのかな。





 呆然と聞いていた本木君。

そして、

突然こう言った。





「僕にその300万?、出させてくれないかな。」







「は?!冗談じゃない!なに言ってるの!」



「……」






「あのね、そんなつもりで話したわけじゃないし、

これは私の問題なんです。本木君には関係無い。

ただ、黙ってて変に思われると困るから話しただけですから。

馬鹿なこと言わないでください!」




 私は頭にきていた。

<御曹子>という嫌な言葉を思い出した。


 ちょっと金持ちだからってなによ!


 馬鹿にしないでよ!



 貧乏人育ちのコンプレックスが、

金持ちに対する偏見を生んでいる。











 それから数日後、本木君がやってきて…



「お願いだから、気を悪くしないで聞いて欲しい。

この前は軽率に聞こえたなら謝る。誤解だ。そうじゃないんだ。」




「……。」




「リク、君の性格も、意地みたいなのも、

僕は少しは分かってるつもりだし、そういう君が好きなんだ。」




「……。」



「だから、その……、ほんとにリクのこと好きになってしまったから、

だから、その、前の旦那さんとちゃんと別れてほしい。

僕は君がそうやって他の男と繋がっている事が耐えられないんだ。」




「それは…」




「だから、お願いだから、どうしても、

旦那さんに払いに行ってる慰謝料分、それだけは出させてくれ。

それで、今すぐに彼と完全に切れてほしい。」




 本木君の言う気持ちは分からなくはないけれど、

でも…






 誰にも一円たりとも世話にならない!

そう思って18歳で家を出たハズだったのに、

結局布施の金で暮らすことになって…

あの地獄の日々。


 自分に甲斐性さえあれば、

こんな男に虐げられなくても自由になれるのに…

そう心から思った。



 とにかくやっぱり、

自分ひとりで生きて行ける甲斐性をもって、

お金だけは、誰の世話にもならないで自立しなければ!

自分が自由に生きるために、

自分の甲斐性だけで生きることがどんなに重要か。

その想いだけは私の根本になっている。




「ごめんね、本木君の気持ちは分かるけど…、

お金を出してもらう訳にはいかない。」





「いやだ!君が他の男と切れていないのに、そんなの耐えられない。」




「でもね、…お金を払ってるだけだから…」




「僕が払うというのが嫌なら、借りたという事にして返してくれればいい。

とにかく今すぐ彼と切れてほしいんだ。」




「ええ?」




「いつか、返してくれるってことで貸すだけなら文句ないだろ?

金を払うのが彼にでなく僕に変っただけだと思えば。」





「それはそうかも知れないけど…でも…」







 そうやって本木君に押し切られ、

私は数日後、

布施の口座に残りの慰謝料の全額を振込み、

そして布施を呼び出して振込みの明細を差し出した。




 思った通りの嫌味をあびせられた。


「また性懲りも無く、貢いでくれるパパをみつけたって訳か!

おまえって女は…。

そんなことだと思った。

どこのジイさんと寝たんだ?」




 もう、何を言われようが何も言い返さなかった。




 これで終わりなんだ。

殺したいと思ったこの男と、やっと切れられるんだ。

そう思うと、

どんな厭味も罵声も聞こえなかった。








 本木君は、どうしてもちゃんと私にまともな暮らしを

たて直してもらいたいと言い、

「僕へのこの借金は当分、返さないこと!」

と私に約束させ、

銀行に残った借金150万ほどを

私が自力で払っていくことを残してくれた。


 給料から数万のローンならよくある話しで、

私はごく普通の貧乏な若者程度の暮らしが出来るようになった。








 私と本木君は周りも羨む仲の良さだった。

二人で毎日のように一緒にいたし、

友達たちとも一緒に週末ごとに遊んだ。


「お前ら、仲良過ぎて気持ち悪い…」


 仲間たちは良くそう言ってた。





 十二月になって、本木君はホノルルマラソンへ。

何度も好タイムで完走していて

現地ハワイの新聞にも載った事のある本木君。

日本で待つ私は、

怪我をしないか、体調崩さないかと心配で、

そして彼のいない日々が寂しくて、

何度も国際電話をしてた。


 皆でスキー旅行に行ったりして、正月が過ぎ、

二月、三月には二人だけでスキー旅行に出かけた。




 よく、仲の良いカップルが、

旅行に行くと喧嘩するなんて言うけど、

私たちはますます、

(気味が悪いくらい?)

仲が良かった。

喧嘩なんてどうやってするんだろうって感じだった。




 高校の頃まるで男の子だったこの私が、

クリスマスだ、

バレンタインだ、

誕生日だと

ことあるごとにケーキを手作りした。

そんなことは生まれて初めての事だった。





 そんな風にラブラブな時を過ごし、

そして春がきて、

私のボロアパートに契約更新の時が来た。


 布施が知っているこのアパートを早く去り、

布施とのつながりを断ち切りたかった。

本木君のお陰でボーナスを自由に使うことができたので、

本木君の勧めもあって、私は新しいマンションに引っ越しした。


 やっと本当に新しい生活。




 私が引っ越しを済ませた直後、

本木君の友達のアパートが立て替えの取壊しとなり、

引っ越し先の決まらぬうちに出て行かねばならなくなった。


 何故だか本木君が自分の住んでいた家をその友達に譲り、

本木君がよそに引っ越すことになった。


 ところが本木君の契約した新居マンションの工事が遅れて

入居開始が予定より一ヵ月先延ばしになり、

つまり、一ヶ月間、本木君の居場所がなくなってしまった。






 ちょうどその四月の初めから私は欧米研修。

月の殆どである二十日間ほどは日本に居ない。

本木君が私の家を留守番してくれれば私も助かる。

居場所のない一ヶ月間、彼は私の家に居ることになった。




 そして、いっつも一緒にいて通い同棲のようだった私たちは、

この私の海外出張で、

初めて一ヶ月近く離れ離れになった。

 


 


 思えば、このあとも、

離ればなれになる度に、

いつも、

私たちには事件が起きた…



 この出張が私たちの運命を……






第16話『恐れていた言葉、それは…』へ続く

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