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第14話『更なる激動への序章』



・:・:・:登:場:人:物:・:・:・:・

松尾リク(主人公)

松下先輩(松下由樹さん風)

本木君(本木雅弘さん風)

・:・:・:・:・:・:・:・:・:・:・







 23歳になった私。

16歳の時以来初めて彼氏のいないフリー状態になった。


 なんとなく、すっきりしていい気分だった。




 本当に色んなことが有り過ぎたけれど、

おかげで少し大人になれた。

色んなことを学んだし。




 仕事に力を注いだ。


 別に、それまで頑張ってなかった訳じゃない。

色んなドタバタ人生の中でも仕事だけは必死にやってきた。


 入社してからずっと苦労も多かったけれど

なんとか優等生できていたし、

もっともっと頑張ろうと思った。


 何度か支社内の表彰を受けたりすることもあった。

出世欲というのは特に無いけれど、

いい仕事をしたいし、

会社を良くしたい!

という気持ちは強くあって…




 誰からも認めてもらえるような、

支持してもらえるような仕事をして、

そういう人間になりたくて。






 入社丸四年になろうとしていた。


 我が社には年一回、

全社員参加の技術コンテストがあって、

優等生の私は一昨年・昨年と二年連続で

部内の最優秀賞者となって支社全体のコンテストに出場。

(ここでは三位入賞くらいだった。)


 今年もまたそのコンテストの時期となり、

なんと三年連続でまた私が部内最優秀賞に選ばれ、

支社全体のコンテストへ。



 そしてなんと、

入社四年の若僧の私が、

十年、二十年選手の大先輩方を差し置いて、

支社全体の大会でも最優秀賞に選ばれてしまった!


 我が部からの支社No.1は、

始まって以来の快挙との事もあり、

これはけっこう凄いことだった。





 浮かれる間もなく、

私は支社の代表として、

地域六都道府県の九支社が参加する地区大会に出なければならなかった。


 我が支社の大先輩方や、

先生方、

上司たちは、

<支社の名誉にかけて優勝すべし!>

と私に当然のごとく期待をかける。


 想像を絶するプレッシャーだった。










 そんな頃だった。

職場に掛かってきた一本の電話。


 たまたま私がとったその電話の主は

以前同じグループで一緒に仕事をしていた先輩だった。

すごく尊敬していた先輩。




「あら、松尾ちゃん久しぶりね。陽子は居るかしら?」



「松下先輩!ご無沙汰しています!

…陽子先輩は、今日はお休みなんですが…」



「そうなの。わかった。」



「はい、すみません。」



「あ、それはそうと、コンテスト頑張ってね。

プレッシャーで大変だけどね〜。

あ!そうだ、松尾ちゃん、貴女今日ヒマ?」



「はい!自慢じゃないですがヒマです。」



「そう!よかった。仕事終わったら、ご飯食べに行かない?」



「いいんですか?私で。連れて行って頂けるなんて光栄です!」





 尊敬していた先輩だったので

誘ってもらえてとても嬉しかった。




 仕事を終えて、待ち合わせ場所へむかった。

先輩の姿はまだ見当たらない…

キョロキョロ辺りを見回していると目の前に車が止まった。



 高級スポーツカー。

なんだか嫌な感じ…

ナンパか?





「松尾ちゃん、お待たせ!こっちこっち!」



 その車の後部座席の窓が開いて、

松下先輩が手招きしていた。




(え???)




 あわてて乗り込むと、

運転席と助手席に男の人が二人いた。



 この状況を想定していなかった私は、

松下先輩にヒソヒソ声で耳打ちした。


「あの〜、私、男の人が一緒だなんて思わなくて…」






 松下先輩の彼氏と、その友達らしい。



 三人で食事に行くことになってて、

たまたまその場のノリで、

「女の子もうひとり呼べよ〜」

という話になり、

陽子先輩を呼ぼうと職場に電話したら、私が出た。

陽子先輩は休みだったので私が誘われた。

そういう事だったらしい。




「コイツ、社長の御曹子だからさ、

旨いもの食べに連れてってもらうからね!」


 助手席にいた男性が、

運転している男性をさしてそう言った。

運転中のその人に対するイメージは最悪。

<御曹子>=<嫌な奴>



 いつからなのだろうか。

私は男前と、

金持ちと、

やたらお洒落な男、

に偏見をもっていた。

嫌な奴だと。



 男前は、

どんな女もみんな自分に気があると、

思い上がってるように見えて、嫌い。


 金持ちは、

特に若い金持ちっていうのは親のスネかじりで、

自分には何の甲斐性もないくせに勘違いしてイイ気になってる。

自分で苦労したことも無いような奴にはムシズが走る。


 やたらとお洒落な男は、

何となく男らしさを感じない。

男ならお洒落なんかより他に力入れる事があるだろ!

ってことで、女っぽくみえてしまい気持ち悪い。



 どれもかなり偏見だとは思うし、

極まれにそんな中にも、

イイ奴も存在するのでしょうが…






 車から降りてお店に入って、御対面。

松下先輩が彼等を紹介してくれた。



 見るからに私のタイプだ!

と思ったのは助手席にいた先輩の彼氏の方だった。




(だよね〜、世の中そんなもんだよね〜)





 もうひとりの彼はぜんぜんタイプじゃない。

むしろ苦手なタイプ。

顔は濃くて二枚目風だし、

スリムで…

そして社長の御曹子?

お洒落ではなかったのだけが救い。

彼らは三つ年上の26歳だった。



 四人で食事して呑みに行って、

いろいろ話していると、

まあ人間的には素朴だし、それほど嫌な奴ではないみたい。


 けど、

この容姿と、

御曹子というのは、

ヤダヤダ。






「この御曹子、変り者でね、

毎日走ってるんだよ。朝六時頃から。」



 ふ〜ん。確かにちょっと変ってるかな。

けどまあジョギングが趣味って人もいるしね。

ま、別に興味ないけど話題が出たから社交辞令で聞いてみた。



「へぇ、どのくらい走るんですか?毎日。」


「えっと、そうだな、毎日最低10kmから15kmくらいかな。普段はね。

でも時期によってはね、30kmとかの時も結構あるよ。」




 は???



 じゅ、じゅ、15km?


 さ、さ、さ、30km?


 マジで?なにそれ…






 この人、相当変ってるかも。

なんか、妙な人だなあ〜ってのが

その日の彼の印象だった。


 それが十月二週目の土曜日。





 その二〜三日後、

また松下先輩から電話があった。



「この前の彼がさ、松尾ちゃんにまた逢いたいらしいんだけどさ、

いきなり電話番号教えるのはどうかと思って…。あなた今彼氏は?」



「いいえ、今彼氏はいないんです…」



「いないの?そっか!

じゃ良かったらさ、会ってあげてよ。

仕事場に電話してもらうから。

あ、でも彼さ、

私たちの仲間うちで多分一番スレてない人だから、

もて遊ばないであげてよね。」




 一番スレてない人…、

ふぅうん…

そうなんだ。



 それから翌日、仕事場に私宛の電話があった。

良く考えると先日は彼の名前も聞いて無かった。


「本木と申しますが…」


「はい?どちらの本木様でしょうか?」


「あ、えっと、あの〜、松下たちとこの前の土曜に…」


「あ!あぁ!先日は…」




 そんな会話をして、

その週の土曜日に彼と食事に行くことになった。





 待ち合わせの場所に行くと、

そこには本木君の姿とちっちゃな一般大衆車。


(あれ?車が違うよね?)




 先週の高級スポーツカーは従兄弟の車だったそうで、

先週ちょうど従兄弟が新婚旅行中、

新しい車がどんなだか乗ってみようぜ!ってことになり、

借りていただけだったとのことだった。


(ふぅ〜ん。そうだったんだ。)


 この人に対する嫌な印象がちょっとだけ消えた。

我ながら変な偏見だ。

一般大衆車=イイ奴。

だなんて…







 貧乏な留学生なんかがよく集まる安いイタメシ屋さんに行って、

パスタを食べて、

そこでそのままお茶を飲んで、

11時近くまで話をした後、

彼は家まで送ってくれた。


 なんか、不思議な感じだった。

呑みに誘う訳でもなく、

早々スンナリと送り届けてくれて。


 ちょっと拍子ぬけしたようでもあり、

ま、気分は良かった。








 次の日、

休みだった私の家に、

夕方、松下先輩から電話があった。



「今、また本木君と三人一緒なんだけど、今日これから暇?

もし空いてるなら今から迎えに行くから。」



「え!あ、ハイ、松下先輩に誘って頂けるなら…」



「友達んちで鍋やろうって事になってんのよ。一緒に行こうよ!」




 先輩の声の後ろから、

先輩の彼氏の大声が聞こえた。



「本木がさ、どうしても、リクちゃんを呼んでほしいって言ってさ〜!」







 車で拾ってもらってその日は

お友達夫婦の家に四人で一緒に行くことになった。


 五組十人位それぞれカップルがいて、みんな仲良し。




「うっひゃ〜!本木が女の子を連れてくるなんて!」


「え!本木ってゲイじゃなかったの?」




 みんなが騒いで冷やかしてた。

すごく気さくで親しみやすい良い人ばかりで、

みんなとっても仲の良い中学以来の親友。

しょっちゅう集まっているとのことだった。


 友達をみていると、

その人物の人となりが伝わってくるものだ。

本木君は私が偏見をもつような嫌な奴ではなかったようだ。


 むしろ、かなり素朴で、ドジで、

気取りの無い、イイ奴だった。

松下先輩が最初に言った「一番スレてない奴だから」という言葉、

なるほどその通りだ。




 その日、本木君に送ってもらった帰り際。

停車した車の中で、

名刺を差出しながら恥ずかしそうに話す本木君。



「あの〜、また出来たら会いたいな…

あの〜、これ僕ん家の電話番号なんだけど…

あ、そーだ!け、け、携帯電話の番号も…

えっと…あの〜、

いつでもかけて…、っていうか、

あの〜、また誘ってもいいかな?

迷惑じゃなければ…、その〜……、」




「いいですよ。うちの電話番号、教えておきましょうか?」



「えっ!いいの?電話しても…」





 当時は携帯電話はまだ、十数万円もする高額品で、

ごく一部の人が使い始めていた程度。

まだまだ全然一般的じゃなかったけど、

そこは流石に御曹子だから?

彼はすでに携帯電話を持ってた。





 それから一〜二日おきに電話があって、

小一時間ほど話をして、

また次の週の日曜、

先輩たちと一緒に食事に行って呑みに行った。


 楽しい時間を過ごしたその日の帰り。

いつものように本木君が家のすぐそばまで送ってくれて、

車の中でしばらくそのまま話し込んでいた。




 彼は中学の頃いわゆるやんちゃ坊主で、不良少年。

暴走族をやっていて、さんざん悪さをして暴れ、

高校へは進学出来ずに、調理師専門学校に行ったのだとか。


 もともと料理が好きだった彼は調理師学校を卒業後、

料亭に住み込みで入り、見習いから修行を…。

調理師学校に通うかたわら15歳から料理人として仕事をするうち、

20歳を過ぎた頃になってふと急に、

「高校へ行こう!」

と思い立ち、通信課程の高校へ入学して勉強を始めたのだそうだ。


 ハタチ頃に遊び盛りの友達の誘いも断わりながら勉強。

友達と旅行に行っても、

夜は宿泊先で学校のレポートをしながら…



 料理が好きで、

将来は小さい自分の店をという夢をもちつつ、

料亭で懸命に働いた。

料理の仕事と勉強の両立で、

体重が15kgも減るほど体を壊したこともあったらしい。


 そうしてようやく料理人としても中堅になってきた頃、

彼の実家にトラブルが。



 長男である彼の兄が実家の会社を継ぐハズだったのに、

会社を辞めたいと言い出したのだ。

結局、お兄さんは実家の会社を辞めて一般サラリーマンとなってしまい、

夢なかばだった本木君が次男として会社を継がねばならなくなり、

料理の道を断念せざるをえなくなった。


 そして、25歳になってやっと四年間の通信制高校を卒業。

仕事と学校の両立で全く余裕がない生活だったのが、

ようやくこの一年、

ゆとりが出てきた…




 毎朝のランニングは、

高校在学中の単車事故から。


「残念ですが、ご家族は最悪の覚悟をなさってください。」

といわれる状態から奇蹟的に生き返った彼は、

その時の怪我のリハビリで足を鍛えるため

走らねばならなかった事をきっかけに、

高校の陸上部に入って、インターハイにも出場。


 それからずっと続けているこのランニング、

これを続けていることで、

自分が変ったのだという。

辛くてサボりたくても、

誰にも強制されてなくても、

ずっと続けてることで…



 それは、凄く良くわかる気がする。

誰に言われるでもなくそれを

続ける彼は凄いと、

私は心から尊敬の気持ちを感じた。




 年に何度か、

国内のマラソン大会、

海外のマラソン大会にと、

色んなマラソン大会に出場するのが彼の楽しみのひとつだった。



 長々と、車の中でそんなことを話し込んだ。






「僕はそういう男なわけで…。

だから、

僕は例えば女の子と付き合っても、その…、

色々他にやりたいことがいっぱいあるから、

そんなにマメに色々してあげたりとか、出来ないし、

…僕は女の子と付き合ったりしても、

なんていうか、

気の利いた付合いとか上手く出来なくて…」




 可笑しかった…。

<付合ってほしい>と言っているようにしか聞こえないのに、

必死で回りくどく言っている彼が。




「いいんじゃないですか?そういうの。

女の子のことしか頭に無いような人より、

ずっと良いと思いますし。

それに、私は本木君、素晴しいと思いますよ。

なんか私も頑張らなきゃって、尊敬みたいなの感じますよ。

私だったら…、

そんなふうに上手に付合ってもらわなくても良いと思うな。

そんな事より大事なものがあると思うもの。」





「ほんと?いいの?こんな奴だけど。

…付合ってくれるってこと?」





 その日から、本木君と私は付合い始めた。



 一週間ほどして、

また本木君の友達が十人程集まって、呑みに行った。


 次々に友達が駆けつけてきて、

<本木に彼女が出来たパーティ!>

になった。

みんなが口々に言ってた。


「ホントにこんな奴でいいの?」


「なんでこんな娘が本木なんだよ〜」


 そんなふうに茶化してた。



「二人で歌え〜〜!!!」



 ステージに上がらされて、

なぜか『赤いスイートピー』




 そう、

知りあったばかりで、

もちろん半年も経たないけど、

歌詞のとおり手も握らない本木君と私の始まりでした。






 陽子先輩に掛かってきた電話をたまたま私が取った。


 あの時、本木君と出会うのは陽子先輩のはずだった。


 ほんの偶然から私が彼と出会い、

そしてその後、

背負いきれないほどの重い重い

十字架を背負うことになるなんて……


 この時は想像も出来なかった。



第15話『お金の決着』へ続く

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