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日蔭空間  作者: 余野木 隆行
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 八月の終わり、私はYと一緒に金沢のカフェで話をしていた。Yは私の仕事の同僚で、Yから「一緒に食事でもしませんか」と話しかけて来たのである。

「珍しいな。君が僕を食事に誘うなんて」

「いや、前から誘おうと思ってたんですが、中々都合が合わかったんですよ。……実は、ちょっと不思議な話がありましてね。聞いてもらえますか?」

 Yはこちらの顔色を窺いながら言った。私は珈琲を啜りながら、

「へえ、不思議な話ねえ。君がそんな話が好きだったとは驚きだな。でもまあ、話してくれよ」

 と言うと、Yは陰鬱そうな顔をして話し始めた。


 私は先日「影」という題の映画を、小松の映画館で観たんです。その「影」という映画をご存じでしょうか? あまり広告がされていないので、知らないかもしれませんが、まあ一種のホラー映画です。ただホラーと言っても、お化けが出て来るとか、妖怪が出て来るとか、そういう類ではありませんでした。なんというか……、特に怖い演出があるというわけじゃなくて。

 田舎に住んでいる老夫婦が、夜目を覚ますと、向かいの家が火事になっている。大きな赤々とした焔が家を覆い尽くしている。周りの人達は慌てふためいて、早く消防車が来るのを今か今かと待っている状況です。老夫婦の夫が主人公らしく、その夫が火事を大変だと思いながら、しかしどうすることも出来ないので、ただ立ち尽くすばかりだった。しかしそこで老人は、火事で燃えている家の手前に若い女が二人、屈んでこちらを見ていることに気が付いた。女二人は這いつくばって、まるで猫のような動きでこちらを見ていて、赤々と燃える焔によって出来た女二人の影が、合わさって、猫の形そっくりになっている。……ここで映画はお終いです。どうですか?


 Yは暗い影を落とした。

「ちょっと待ってくれ。それのどこが不思議なんだ」

 私は怪訝な態度で訊いた。するとYは不安そうな掠れた声でこう言った。

「……だってね、その猫の影をした女っていうのは、私なんですよ」

 私がYの顔を見ると、Yの瞳は三日月のような鋭さを持った。


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