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日蔭空間  作者: 余野木 隆行
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白昼夢

特に意味は無いです。

 私は炎天下の、何処までも続く長い道を宛ても無く彷徨っている。街路樹の蝉噪が喚き散らして私の脳内を刺激するのは、鬱陶しい。汗がダラダラ流れて、それは瀑布と同じく止まる事を知らず。日蔭日向の区別は明確な境界、徘徊する足取りは酩酊のようにクラクラ。眼晦ましの日光が差し込み、暑さを嫌った私は出来るだけ暗がりに逃げ込んだ。

 普段は沢山の人で賑わっているが、今日に限って昼間だと云うのに全然閑散としている。あるのは木木から聞こえる蝉の音と川のせせらぎだ。

 その日蔭の道程、少しすると大きな架橋、その下には紅いカンザシを差した女がいる。芸者さながら鬢を結って、薄白いウナジが見えた。

 その女は私と眼が合うと、微笑して、そのあと軽く会釈をした。私もつられて会釈し返したが、私は以前にこの女と出合った記憶が無い。つまりは初対面であったが、女は誰とも知らない私に会釈をした。

「今日も暑いわネ。そうでしょう? ネェ」と女は言った。私が何も答えずにいると、少し不思議そうな顔をして、それから「川へ降りて涼みましょう」と言った。その女の微笑には、魔性が宿っていて、兎に角私は言われた通り、付いて行った。その間中も五月蠅い蝉噪。

 呑気に鼻歌交じり、今更ながら女というよりも少女と表現した方が適切である。だが、少女と言うのはその対象が子供のように思われるので使わない。美人不美人で言えばアナガチ不美人という訳ではないが、浮ついている性格、楽観主義的な性質は私の肌には合わず。()しんば誠実であったとしても、美人と言うには純粋に容貌(かたち)が、色気が足りない。

 川に着くと、女は二つの川が合流して出来た三角州に、飛び石を伝いながら渡って、「コッチに来て」と跳ねるような調子で言った。女は微笑、元気溌溂な言動は何故か私の体を動かせる。そうしてその三角州まで行った。そこは野原のように草が覆っていて「少しここで休みましょう」と言ったので、そうした。

 私は気持ち良くなって終いに眠ってしまった。

 しばらくして私が目を覚ますと目の前に女が、じっと私を見つめている。もう日が暮れかかっていて、空にはどんよりと紫がかった雲がある。街灯が無いから私は殆ど何も見えなかった。しかし、あちらこちらで何故か無数の火ノ粉が舞っている。

 女は「サァサ、準備が出来た。それじゃ始めましょう」といって、寝ている私の体に覆いかぶさってきた。本当に女かと疑われるほど、女の握力は強く、押さえつけられた私の手足はびくともしない。その時、女の顔はよく見ると、何処かで見たことがあるような気がした。そして、はッと息を呑んだ瞬間「思い出した? でももう遅いわ」と女は笑った。

 knifeを手にした女。

 莞爾(にっこり)笑った女。

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