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桜散る季節に

掲載日:2013/08/19

 ―――私立桜坂高校。

 

 それが俺の通っている高校の名だ。桜坂という名の通り、学校を囲むように緩やかな勾配の坂があり、その両脇には桜が植えられている。

 新入生の入学式のときに咲き、入学を祝えるようにと、校長が植えるように言ったらしいのだが、入学式の時ちょうどに咲くなどほとんどなく、だいたいが散ってしまっている。新入生は桜の花びらを踏みながら坂を上り、散った後の桜の木を見つめ、何ともやるせない気分になるに違いない。去年の入学式で経験した俺が言うのだ、間違いではないだろう。

今年の入学式も咲いていなかったしなぁ。三年の入学式のときも咲いていなかったらしいし、咲いていた時はあったのだろうか。

 そんな疑問を持ちながら、新緑に変わった桜の木を見ていると、おはようと後ろから声を掛けられた。振り向くと、


「ああ、お前か。おはよう」

「お前かとは、ずいぶんな言いようだな。幼馴染に対する言い方か?」

「幼馴染だからこそだよ。気の置けない仲だからこそ言えるのさ。そうだろ?」

「くくっ、違いない」

 

 俺の前で口元を右手で隠しながら笑っているこの男は、俺の幼馴染である東雲藤吾。見た目からは細く弱そうに見えるが、その実しっかりと鍛えられている。細く見えるのは引き締められているからだ。

 基本、俺と藤吾とあともう一人の幼馴染と一緒に行動している。登校時もそうだ。

 いつも坂の下で待ち合わせをしているんだけど、今日は遅いな……。

 制服のそでを捲り、着けている腕時計を確認する。時間的にはもう来てもいいぐらいだ……遅刻か?

 そう思った時、こちらに歩いてくる人影が見えた。走らないところがあいつらしい。


「いや~ごめんごめん。遅くなっちゃって」

 

 笑いながら謝るこの女性……というには少々サイズが小さい。少女と言ったところだろう。名を一之瀬凛。両親に凛とした娘に育ってほしいという願いから付けられた名だそうだが……両親の願いが叶うことはなさそうだ。ちなみに、俺の名前は望月京介。


「ふん。遅いぞ凛。京介が待っていたからいいものの」

「別にあんたまで待ってなくてもいいけどね~」

「ほう……」

「何か~?」

 

 こいつらはいつもこうだ。小学、中学、高校とずっと一緒にもかかわらず、ケンカと言うかじゃれあいと言うか、まあ、双方怪我はないからいいと思うが。

 ただね―――。


「何あれ?」

「何やってんだろあの人たち」

「あれ?あの三人、二年生じゃね?」

 

 一年生にみっともないところは見せない様にしてくれ……。

 

 ◆

 

 騒ぎをとっとと収め、桜の花びらを踏みながら坂を登る。そろそろ掃除しなくちゃいけないね、これは。

 この高校には一年生同士早期に仲良くなってもらうのと、花びらを片づけるのを一緒にやってしまうために、一つの行事、簡単に言ってしまうと一年生限定の親睦会の様なものと、坂の掃除が合わさったものがある。

 クラスごとに分かれ、決められた範囲の掃除を時間一杯までやる。その時範囲の中ならどう動いてもいいため、行動力のある奴ならどんどん友人を作っていくだろう。俺の時は藤吾も凛も同じクラスだったため、三人で集まり適度に喋りながらせっせと掃除をしていたけど。


「今日は通常授業だっけ?」

「ん?たしかそうだったと思うよ」

「さんきゅ~」

「ふっ。それすら覚えていないのか。オツムの弱いことだ、くくっ」

「へ~?そういうこと言っちゃう?あんた、あたしにテストの点勝ったこともないくせに~?」

 

 言っている通り、普段は全然やる気を見せずのらりくらりとした態度の凛も、一度やる気を見せるとすさまじい成績を残す。テストがその最たる例だ。授業中教師の話を聞かず、ただひたすらばれずに寝るにはどうすればいいか、を考えているこいつでも、テスト期間中は家で勉強しているらしい。それだけで全教科満点を取るとは恐ろしいやつだとは思うけど。


「言うようになったな凛……小学生のときには泣き虫だったのにな」

「ぐぅ……!」

「藤吾、そこら辺にしておけって」

 

 また始められても困るので呆れながら止めておく。ほんと、毎日毎日飽きないものだ。


「止められてやんの~」

「凛もだっての」

 

 藤吾だけでなく凛にも注意しておく。こんなことだから、俺達三人の事を兄妹みたいだとか言われるんだろうなぁ。

 そんなこんなで校門を抜け、下駄箱に着いた。何かの作用が働いたのか、二年に進級した俺達はまた同じクラスになった。

 素早く上履きに履きかけ、教室へと向かう。


 ◆


 教室に入ると、クラスメート達から声をかけられる。

「おはよー」

「おはよう。今日も仲良く三兄妹揃って登校か~、仲良いねー相変わらず」

 あいさつには挨拶で返し、茶化すような言葉は適当にいなし、席に着く。

 教室の中に入っても俺達に変わりはない。ゴールデンウィークが終わったあと、担任が好きなように席替えをしていい言ったので(といっても女子は奇数列、男子は偶数列という決まりはある)それならばと俺達は集まるようにして机を移動させた。結果、俺の隣が凛、後ろが藤吾となった。


「毎日毎日学校通うのって面倒だよね~。朝もっと寝てたいって」

「それには同意しよう。毎日が同じことの繰り返しの様に、登下校を繰り返しているからな。飽きが来ると言うものだ」

「それは確かにそうだけどね。義務教育じゃなくなったから絶対ってわけじゃないけど、来なくちゃ中卒だからなあ。就職も厳しいだろうさ」

 

 そんな他愛もない話をしていると、始業の鐘が鳴った。


「今日も長い一日が始まるのか~……はぁ」

 

 面倒くさいと言葉には出ていないが、顔を見れば分かる凛と、


「学生の本分は勉強だ。やらなくてはいけない事だ」

 

 正論をぶつける藤吾。

 対照的な二人だなと思って、思わず笑みがこぼれる。


「どうしたの?」

「どうした?いきなり笑ったりして」

 

 危ない危ない、二人に心配されてしまった。なんでもないよと返し担任が来るのを待つ。

 いつも通りの一日が始まろうとしていた。


 ◆


 学年は変われど、もう慣れてしまった授業風景に辟易する。

入学したばかりの頃など、いつでもどこでも緊張し、授業と授業の間の休憩時間でも気の抜けるときはなかったように思う。だが今となってはそんなことはなくなり、授業のときでも、休憩しているときでも、差はあれど気が抜けている気がする。俺に限った話ではないと思うけどね。


 俺の隣に居る凛なんて、教師からは寝ている様に見えない寝方をマスターし、二年になってからは起きている方が少ないかもしれない。

おもわず、先生俺の隣の人が寝ています、と言いたい衝動に駆られるが、言ったところで起きないだろうから放っておく。

 時計の針はなかなか進まない……時間が長く感じるなあ。


 ◆


 午前中の授業を終え昼休み。

 三人で向かい合うように机を整え、弁当を広げる。食堂もあるにはあるのだが、毎日人でごった返しているため、いつも弁当を持ってくるようにしている。二人も同じだ。


「ふぅ~疲れたー」

「お疲れ様、といってもずっと寝てたでしょ」

「くくっ、全くだ。後ろから見れば一目瞭然だ馬鹿め」

「はっ、先生に見つからなければいいんだよ。そのために色々考えてるんだから」

 

 藤吾の言葉を一笑に付す凛。本当に無駄な方に努力家だなぁ、凛は。真面目な藤吾としては気に入らないところなのかな。これまたいつも通り適当などうでもいい話をしながら、思い思いに食事をとった。


 ◆


 午後の授業も終わり、帰りのHRも担任からの連絡事項を聞き、解散となった。俺達三人とも部活には入っていない。そのため学校に残っている意味はない。


「今日はどうする?どこか寄っていくか?」

「ゲーセン行こうぜ~新しい筐体入ったんだって~」

 

 今日は確か……買い物に行かなくちゃいけなかったよな。朝起きて冷蔵庫の中見たら全然入ってなくて驚いたもんだ。そのせいで今日の弁当も手抜きになっちゃったし。


「悪い。今日は買い物行かなくちゃいけないんだよ。冷蔵庫の中何もなくってさ」

「む、そうなのか……なら私も付いていこう。暇だからな」

「あたしもあたしも~暇だかんね~」

「ありがとう。じゃあスーパーに行こうか」

 

 やはり幼馴染はいいなあ。気兼ねなく接してくれるし、接せられる。

 

 ちょうどいいので夕飯も一緒に食べようと言うことになり、俺の家の近くのスーパーに向かうことにした。

 

 ◆

 

 スーパーでの買い物を終え帰宅。夕飯にはちょうどいい時間だったので、早速取り掛かることにしよう。メニューは、買い物をする時に凛がカレーが食べたいと言ったので、そのまま決定となった。


「じゃあ作ろうか。二人も手伝ってね」

「任せたまえ」

「ま、あたしが食べたいっていったもんだしね~。手伝っちゃおうかな」

 

 仕事を三人で分担し取り組む。器具を用意したり、具材を切ったり、煮たり……できる頃には腹が減ってきていた。


「よっし……うん。もういいかな」

「完成か……」

「お腹空いたぁ~」

 

 皿にご飯を盛って、その上にカレーをかけて、と。あ、テーブルの上を片づけないと。


「藤吾、テーブルの上片づけてくるからさ、俺の分もおねがい」

「分かった」

 

 さてと、テーブルの上の荷物を下ろして、ふきんで拭いて……うん、大丈夫かな。二人も来たみたいだ。藤吾から皿を受け取る。


「ありがと」

「気にするな」

 

 じゃあ食べますか。


「「「いただきます」」」


 ◆

 

「「「ごちそうさま」」」

 

 うん、おいしかった。自分だけで作ったのとはまた違った美味さがあった。二人も表情から満足しているのが窺える。ちらっと、壁に掛けている時計に目を向ける。とうに八時を過ぎ九時近くになっていた。


「今日はどうする?もう帰る?」

  

 二人も先ほどの俺と同じように時計に目をやる。


「そうだな、もう遅い。帰ることにしよう」

「あたしもそうしよっかな~。あんまり遅いと親が心配するし」

「そっか。じゃあ今日はこれで解散かな」

「そうだな」

「うん」

 

 洗い物を台所に運び、そのまま玄関まで行く。


「凛は送っていかなくても大丈夫?外、もう暗いけど」

 

 藤吾と凛の家はこの家から近いが、反対方向にあるため、帰る時には必然的に一人になってしまう。


「別に大丈夫だよ。そんなに遠くないし」

「それにこんなちんちくりんな奴を襲う者も居ないだろう」

「あはは、ま、大丈夫ならいいんだ」

 

 家の前の道まで出て、また明日と言い二人と別れた。二人が見えなくなってから、家に入った。

 手早く洗い物を終わらせ、風呂を沸かす。そして歯を磨き、風呂が沸くまでに今日の勉強の復習を行う。その後、風呂に入り十分に今日の疲れを癒す。

 後は寝るだけだ。自分の部屋に行きベッドに寝転がる。今日も良い一日だった。

 

 ―――願わくば、この日々が続くことを。

 

 そんなことを思いつつ目を閉じていると、いつの間にか意識は深い闇に落ちて行った。

 

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