私は邪魔者なんですか?
「で?結局なんなの?」
「え?いや、その、」
「あんな引きをしたんですから、何か秘密のあることなんでしょうね?」
「…実は、」
「実は特に何もない!!!」
「っていうか、幸せなんて人それぞれでしょ?具体的に、これをしたら幸せ!ってことはないの!」
「え、じゃあ完全に行き当たりばったりなの?」
「うーん…まあ、そうなんだよね。だから私たちもそれなりに苦労してるんだよ?」
唖然とする尚樹に、しかし燐音はさも当然だというように言葉を返す。
「では、その人ごとに何をしたらいいかを考えるんですか?」
「まあ、そうなるかな。」
「それは、なんというか、非効率的と言いますか…。」
全能であるはずの神が作ったとは思えないシステムに、青年は唸った。
「あくまで娯楽だからね。効率なんて突き詰めていったら暇が出来ちゃうでしょ?」
「今更だけど酷い理由だよな…」
「わかってることをわざわざいう必要はありませんよ。ところで、あなたはどんなことをしているのです?」
「私?」
突然の指名に目をぱちくりさせている少女に、言葉を重ねる。
「ええ。曲がりなりにも神なのですから、何かしらしたことがあるのでしょう?」
そう聞くと、彼女はふん!と胸を張った。
「まあね!ちゃんと働いてるよ!」
「たとえばー?」
「ううんと、十円ガムあるよね?」
「あ、なんかわかんないけどしょうもないことだっていうのはわかった。」
「あれの当たりを2連続で出すとか!」
得意気に言った燐音への反応は冷たいものだった。
「思った以上にくだらないですね。」
「嬉しいでしょ?」
「まあ、嬉しいと言えば嬉しいけど」
「100円玉が道に落ちてたり。」
「この路線でずっといくわけ?」
「まったく些細な幸せで、ほんとに素晴らしいことですね。」
呆れる青年たちに、彼女も多少慌てたようだった。
「う…いや、こういうのだとやっぱ報酬も少ないから…。私としてももっと大きいことやりたいんだけど…。」
「今どき十円ガム買う人も少ないだろうしね~。」
「安くておいしいのに!」
「そこまでですよ、今十円ガムの有用性について語る必要はありません。」
それもそうかと尚樹は思い直し、そもそもなぜこんなに俺たちは話が脱線するのだろう…と、自分が一役買っているとは微塵も考えなかった。
「そのようなことは、いわゆる神通力等で起こしているんですか?」
「じんつー…?」
「…さっき私を無理矢理正座させたような、不思議な力で行っているんですか?」
「ああ!うん、基本的にはそうだよ!制限はあるんだけどね!」
「制限?」
聞き返す彼に、燐音は指を一本たてて楽しげに返した。
「それはヒミツー!」
「そうですか…。では、そろそろ本題に入りましょうか。誰のせいとは言いませんが、結果的に相当回りくどくなってしまいましたね。」
「ほんとだよねー、尚樹くん!」
「え、俺!?」
「ほらもういいでしょう」
もううんざりだというように顔をしかめた青年は、彼にとっておそらく最も重要なことを切り出す。
「私があなたにつけ回される原因というのは、神であるあなたの仕事に関係しているのでしょう。つまり、他人を幸せにするということに。」
「うんうんそうそう!」
「そして、あなたは最初にこう言いましたね。“私の存在が邪魔だから出ていってもらうとした”と」
「そうだね!」
「改めて考えると相当ひどいぞ」
「ということは、あなたが幸せにする必要のあるこの地区の人々にとって、私は害になる人物であると見なされているんですね。あなたは周囲の人間を不幸にしている私を、仕事の障害であるとして追い出そうとしている、ということであってますか?」
「おー!やっとわかったね!その通りだよ」
「なるほど」
「いや全然わかんない…」
尚樹が一人ぽつねんと呟くと、燐音はあからさまにバカにした顔をつくってそちらを見やった。
「ええー、このくらいも理解できないの?これだから人間は…」
は、全く困ったものだと首を振る少女を見ていやまてまてと彼はいきりたった。
「そういうんじゃなくて!…確かにこいつは高慢ちきで嫌みたらしくて口も悪いし性格はねじくれててまともとは言い難いけど」
「あなたは私を貶めたいんですか?」
「でも、そんな周りのやつら全員を不幸にしてるなんてあり得ないって。事実、俺はこいつといると楽しいし。それに、他人に興味ないこいつがわざわざ自分以外の奴に関わるわけ無いしな!」
「それってどうなの…?」
神にまで疑問を抱かせるような弁護をした尚樹だったが、燐音は単純に否定した。
「でも彼がするしないの問題じゃないんだよ。それは実際関係ないからね。」
「…?ではなんだというんですか?」
「私が困ってるのはね、ここの地区の人たちが、君のせいで、幸せに鈍くなってるからなんだよ。」
お久しぶりです




