この借りは必ず利子をつけてお返しします。
「さて、あなたは神をここまで愚弄してきたわけだけど!何か言い残すことはあるかな??」
「ありませんよこの●●●●●●●」
「ばりばり言い残してるじゃーん」
物事の始まりは、いつも突然である。
「いい加減にしてくださいね?」
「土下座するなら考えてあげるよ?」
「うわ、ゲスいな。」
何が起こっているのか説明すると、つまりは、若き命が散らされようとしているのだ。現在、放課後。無人の家庭科室である。
「死ぬとしたらこのド腐れどもですよ」
「おいおい、お口が悪すぎるぜ?」
「黙れ」
「はいすいません」
自らの側に立っているクラスメイトに苛立ちをそのままぶつけると、正面にいる心底恨めしい顔を睨み付けた。
「一体どんなイカサマをつかったんです?私の動きを封じるなど…。」
「ふふん、漸く神さま設定にふさわしい能力が出たってことだよ!」
青年は望んでないにも関わらず、彼女の前に正座させられていたのだった。
「設定とか言っちゃうから信じてもらえないんじゃないの?」
「えー、でも、今回ばかりは直接食らわせたんだから、信じるしかないよね!」
「んー、まあ確かに?俺も信じてなかったけど…実際あいつは動けないみたいだしね。」
ちらりと見遣ると、親友の恐ろしく歪んだ顔が目にはいる。そもそもプライドのくそ高い彼が疎んじているクラスメイトの前で正座などするわけが無いのだ。
「今日は、先生方は会議。生徒たちは完全下校。つまり、助けなんて来やしないよ…ふふふ、邪魔は入らないってことだ…」
燐音が舌なめずりをしながら青年ににじりよる。と、行く手を尚樹が阻んだ。
「…何、邪魔するの?」
シリアス全開な表情と声音で問う。
「いや、ノリノリすぎて突っ込みづらかったんだけどさ?収集つかなくなると、また同じ展開が続くしね…お話しするんだろ?」
「うえ?いや、始末するんだけど?」
沈黙が降りた。
「っえ?」
「え、」
尚樹が戸惑ったように燐音を見る。
「え、冗談だよ、ね?」
見つめる先の顔が余りに真顔だったせいで、聞き返す言葉がどもってしまう。
「いや、私だって穏便に済まそうと努力したよ?けどもうしょうがないよね、うん。私頑張った!」
「ままま待って待って待って!俺って今、犯罪加担させられそうなの?!?」
「そうじゃないでしょう…。」
殺すよ宣言をされた青年は呑気に呟いた。
「本気じゃないよね?違うよねえ!」
「本気と書いてマジと読む!」
「古い気がする!」
この後に及んで漫才を続ける二人に、彼はため息をついた。つかざるを得なかった。今彼に動かせるのは、口くらいなのだ。
「それで、何なんです?私を殺す気なんですか?」
「うん!」
「良い返事!じゃなくて!」
話の流れに不安を覚えた尚樹は慌てて割り込む。本来彼の目的は二人のなかを取り持つことだった。何しろ彼に断られても罵詈雑言を吐かれても近寄っていく人間など、自分以外にはいなかったのである。親友の友達を増やすチャンスを逃すわけにいかない。
「は、はは、面白い冗談、だね!場も和んだところで、どんなトリックを使ったのか教えてほしいんだけど!?いやぁ、こいつが動けないなんて相当な―」
「…だから、本気だってば!」
燐音の怒号が狭い教室に反響した。
途端、棚が一斉に開いて包丁が飛び出す。切っ先はすべて、青年を向いた。
「…!」
「っ!」
あまりに突然のことに一瞬固まった尚樹だが、すぐに包丁の狙う先へ、庇うように飛び出した。
「…っおい、悪ふざけにしてはやりすぎじゃないか?」
「悪ふざけじゃないって、何回言ったらわかってくれるの?私はずーっと本気だよ!!」
そう言って、苛立たしげに机を蹴った燐音を見て尚樹は戦慄した。依然、包丁は彼らを―正確には青年だけを―狙っている。種や仕掛けがあるにせよ、今は目の前にいる少女次第では、どうなってしまうかもわからないのだ。
どうにかして、説得しなければならない。そう、たとえ彼女が机を蹴った痛みに悶えて半泣きになっていても、油断してはならない―
「…大丈夫?」
「痛い!痛い痛い痛いいいい!尻子玉を抜かれたときより痛いよおおぉぉ!!」
「待って、抜かれたことあんの!?」
生憎と、彼らに真面目な展開は望めないらしい。
主人公空気。気づけば1ヶ月たっていましたははは、ごめんなさい




