無邪気でいいのは子供だけですよ。
「いだだだだ痛い痛い痛い痛い!!」
「往生際の悪い…早くその手を話してください」
何をしているかと問われれば、非常に答えにくい光景が広がっていた。扉に必死の形相でしがみつく少女に、それを全力で引き剥がそうとする青年。
…なんというか、なんとも言えない状況が出来上がっていた。
「いつまで粘るんですかしつこいですね。早く諦めて出てってください。」
「や、やだ!話はまだ終わってないよ!」
「あなたみたいな人と話し合いをしようと思った私が愚かでした。」
「なんで!?君が出てって皆もハッピー、私もハッピーな最高の計画でしょ!!」
「私以外はハッピーでしょうね」
「何が不満なのかわかんないよ!」
「強いて言えばあなたの存在が不満です。」
にべもなく言い放つと彼は少女を引っ張る力を強めた。
「やぁ、やめて、らめええぇぇ!!」
「変な声を出すなその喉潰されたくなければね。」
「ちょっと思ったけどさ、敬語はどこいったのかな!前回の最後あたりから見かけないんだけど!?」
「あなたのせいで傷心旅行中ですよ。あと前回とか言わないで下さい。」
「うん、わかった、わかったよ。もう出てけとか言わないよ。」
激しい攻防の末何故かリビングに落ち着いた二人は、テーブル上に紅茶を挟んで向かい合っていた。無論紅茶は青年の分のみである。
「当たり前でしょう。そもそもあなたには私に命令する権利は一切ありませんからね。」
「でもじゃあどうすれっていうのさ?」
不満そうに口を尖らせた彼女に、冷徹な声が投げかけられる。
「大体あなたの話には信憑性がありません。そんな荒唐無稽な話を信じてほしいと言うのなら、何か証拠を提示して下さい。」
「しょ、証拠…?」
青年の発言に燐音は目を瞬いた。
「そうです。当然のことでしょう?まあ到底できるとは思いませんが…」
「そんなんでいいの?そんなんでいいんだ!証拠だね!まかせて!」
急に元気よく立ち上がられ怪訝な顔をした彼だったが、燐音が取り出した"証拠"を見たとたん溜め息をはいた。
「ほら!免許証だよ!」
「…そうですね。よかったですね。」
「やめてその生温い目!本物だってば!」
「ええ、ええ、本物ですとも。あなたがそう信じてる限りは…。」
彼女が取り出したのは某なめ●この免許証よろしく手作り感溢れるシロモノだった。
「やめてってば!嘘じゃないもん!」
埒が明かないと感じたのか、青年は近くの棚に手を伸ばした。
「ちょっと!飴なんか出さないでよ!子供じゃないんだから、ちょ、やめてって!」
と言いつつ飴を受けとる燐音を見て、電話をとった。
「お家はどこです?電話をかけて差し上げますよ」
「いい加減にして!!!!!」
この二人の会話が進展するには、少なくともあと一週間はかかりそうである。
全然進まないですね、おかしいな。




