悔やんでも悔やみきれません。
騒ぐ彼女に耐えかねた青年はとうとうカーテンを開けた。窓の外ある顔は紛れもなく、撒いてきたはずの燐音のものである。
夢なら覚めてほしい。
数分睨みあったあと、根負けした彼は窓を閉めることを諦めて部屋に招き入れた。
「…いったいぜんたいどういうわけで二階の窓なんかに現れるんですか。」
「だって玄関鍵かかってたんだよ!それにチャイム押してもでないんだもん。」
「だからと言って二階の窓から入ろうとする人はいませんよ…。」
「ふふん、だって私は人じゃないからね!」
「そうですか、それはよかったですね。ではお引き取りください。」
「ちょ、帰るわけ無いでしょ!」
「一体なんなんですか…」
心底参ったというように頭を抱える青年をよそに、燐音は話しだした。
「さて、どこまで聞いてたの?うーんと、私が神様だってことは聞いたかな?」
「…不本意ですが。」
どうやら話を聞かないうちは彼女の追跡は止まらないらしい、と悟った青年は腹をくくった。いずまいを正し、燐音にも座布団を進めて向かいあう。
「ふふん、じゃあ続きを話すよ!」
やっと聞いてもらえる嬉しさに、満面の笑みを浮かべている。彼は気分が悪くなった。
「私は、まあ神様なんだけど、一口に神様って言っても色々あるんだよね。」
「それは、淤加美神や、岩長姫とかいうことですか?八百万の神…日本の神道的な考えということですね。生憎私は宗教に関してはそこまで深い知識は持ち合わせていないのですが。」
「は、え?あ、いや、そんな難しく考えなくてもいいよ!」
調べようとしてパソコンを立ちあげた青年を慌てて押し止める。ここまでこぎ着けるのには大変な苦労を伴ったのだ。また話がそれるなんてたまったものじゃない、と早口で捲し立てる。
「うん、そうだね、ほらほら、あの、その、とにかく私の知ってる範囲だと神様はいっぱいいるの!その中の一人なの!はい、この問題は終わり!もう気にしちゃダメ!」
「…まあ、現時点ではあなたの認識に合わせることにしましょう。あとで討論すればいい話です。」
それはしたくないな、とこっそり吐き出して、話を続けることにした。
「それで、えー…あ、私はね、幸せの神様なの!!!」
「…へーぇ…」
現在進行形で自分を不幸にしているのは一体だれだと思っているのかと詰問したくなる。
「って言ってもね、私は幸せの神様の中でも新人でね、あんまり広い範囲を受け持ってる訳じゃないんだけど…」
「規模で言うとどれくらいなんですか?」
「ここの地区だけだよ!」
「どんだけ狭いんですかそれもう町内会レベルじゃないですかそんな小規模管轄って神様何人必要なんですか八百万で足りないんじゃないですか」
「う、うるさいな!足りてるよ!ベテランの人はまるまるオーストラリアとか管理してるもん!」
「極端ですね!それで管理しきれるわけないでしょう!だからお役所仕事なんて言われるんですよ?!」
「ちゃ、ちゃんと仕事してるよ!」
「あなたのことをみてると到底そうは思えませんよ!」
「違うよ!これはあなたのせいだからね!!」
「散々好き勝手やって迷惑かけておいて責任転嫁ですか。やはり友好的態度をとったのは間違いだったようですね。」
「これで友好的なの?!これで限界?!精一杯?!!!もっと頑張って!!!」
「五月蝿いですよ!へらへら振り撒くような愛想はありません!」
「そーんなひん曲がった性格してるから私がわざわざ来る羽目になったんだよ!反省しろ!」
「何言ってるんですかあなたは?!」
「そうだった!君のせいだった!」
「は!?」
「君がこの地区の人たちを不幸にしてるから、私の管轄から追い出そうとしてたんだよっ!」
「帰れ。」
前回からあいてしまいました。少し進展しました。




