朝、起きたら時計が逆回転していた
その朝、世界の法則は終わりから始まりへと反転した。
時の針が狂い咲き、生命が自らの起源へと強制送還される怪異。これは、平穏な日常が異形のエコーへと塗り替えられていく、ある夏の記録である。
朝起きたら時計が逆回転していた
ジリジリと肌を焼く夏の湿気と蝉の喧騒で目を覚ますと、壁掛け時計の針が恐ろしい速さで逆回転していた。不気味なのは音だ。規則正しいネジの音ではなく、「カチ…カチ…」と刻むたびに、湿った肉を押し潰すようなグチャリという濡れた異音が耳腔を揺らす。
不審に思い起き上がろうとしたが、自分の体が急激に小さく、しわくちゃに縮んでいくことに気づく。窓の外では真夏の真っ赤な太陽が東の空へと高速で沈み込み、猛暑の空気は凍りつくような冷気へと逆流していた。
蝉たちの「ミーンミーン」という大合唱は、時間が巻き戻るにつれて不気味な逆再生の悲鳴へと変わり、やがてその音の発生源が窓の外ではなく、赤ちゃんへと戻りつつある自分の喉の奥から響いているのだと気づいて息が止まった。
ご一読いただきありがとうございます。
「もしも時間が逆流したら」というSF的な発想に、生理的な気持ち悪さと身体的な恐怖を掛け合わせて執筆した超掌編ホラーです。
時計の異音や反転する太陽といった外側の現象から、最終的に自分自身の肉体と声帯の変貌へと恐怖が着地する恐怖のグラデーションを意識しました。
喉の奥で鳴り響く蝉の悲鳴とともに、読後の冷や汗をお届けできたなら幸いです。




