第26話 第2回ダンフェス
20260722改稿
通知が来る前に、コアさんが言った。
《……もうすぐ、ダンフェスです》
「分かった」
コハクを抱えて、3層目に上がった。棚の近くに下ろすと、コハクが不満そうに鳴いた。
「ごめん。顔が、映るから」
コハクは、じっとこちらを見て、それから、しぶしぶ、丸くなった。
戻ると、管理画面が、切り替わり始めていた。
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《ライブリンク・フェスティバル・オブ・ダンジョン——2000期・後期を開催します》
あの、広い空間のような映像が広がった。無数の光の粒が、浮かんでいる。半年前は、この光が何なのかも、分からなかった。
「はいはい、お疲れさまー。2000期後期のダンフェス、始めるよー」
ニルムの声だった。半年ぶりでも、変わらず、軽い。
「今期の残りは、440名。前期から、13名減ったね。……まあ、色々あったんでしょ」
軽い声のまま、ニルムは、次へ進もうとしていた。
13名。
その数字が、頭から、離れなかった。
カルナは、その中の一人だ。ドーグも。残りの十一人のことを、私は、知らない。対戦で消えたのか。引き分けで、両方消えたのか。それとも——理由も残らない、あの消え方で、消えたのか。
——そのうちの二人を、消したのは、私だ。
453から、440へ。画面の上では、ただの、数字の動き。その中に、あの通信のログと、あの白い空間の「始めよう」が、入っている。
重さは、下ろさない。下ろさないまま、前を見る。そう決めたはずだ。
息を一つ吐いて、画面に、向き直った。
「じゃ、ランキングいこっかー」
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《第1位:エルラド》
前回と、同じだった。顔も、ダンジョン名も、出ない。名前だけが、他と違う色で、そこにある。
ニルムは、何も言わなかった。
順位が、流れていく。
知らない顔が、続く。それでも、目は、離せなかった。半年前は、ただ眺めていただけだった。今は、探している。どこかにいる、同期を。戦った誰かの、いない画面を。
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《第378位:シエル》
《ダンジョン名:白氷獄の宮》
銀髪。鋭い目つき。前回と、同じ顔だ。
「シエルちゃんは、相変わらずだねー」
白氷獄の宮。前回も見た、冷たい響きの名前。
でも今回は、その名前が、少しだけ、近く感じた。同じ期に始めて、同じ半年を、どこかで積んできた誰か。気のせいかも、しれないけれど。
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《第386位:ルナリア》
《ダンジョン名:精霊の遊庭》
「おー、精霊の遊庭。44位アップだね。あと、Eランク昇進、おめでとー」
自分の名前と、顔が出た。
Eランク。430位から、386位。
実感は、じわじわと来た。
カルナ戦があって、ドーグ戦があった。ブレイブが前に立ち続けて、エリンが光を放って、アルスが剣を振るった。クロとシロが走って、コハクが生まれて、コアさんと、たくさん話した。
それが、この数字に、なった。
「……ありがとう」
声が、出ていた。誰に言ったのかは、自分でも、分からなかった。たぶん、全員にだ。
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「最後にー、コアネットは引き続き使えるよー。掲示板はダンフェス期間中だけね。じゃ、みんな、良いダンジョン経営を」
ニルムの声が、消えた。
コアネットの掲示板を、開いた。
名無しの×××:精霊の遊庭、Eランク上がったな
名無しの×××:44位上がったのか
名無しの×××:すごくない?
名無しの×××:まぐれだろ
名無しの×××:対戦2回しかしてないのに44位は普通じゃない
名無しの×××:この勢いだと2000期トップになるんじゃ
名無しの×××:シエルがいるだろ
名無しの×××:シエルは378位だし
名無しの×××:どっちもどっちだな
名無しの×××:次どうなるかだな
名無しの×××:見とこ
名無しの×××:半年後には2001期も来るしな
名無しの×××:今年は当たりいるらしいぞ
名無しの×××:毎年聞く
名無しの×××:それな
名無しの×××:見とこ
画面を、閉じた。
見られている。その実感は、もう、数字だけの話じゃなかった。
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しばらく、動かなかった。
Eランク。見られる相手が、増える。挑んでくる相手も、強くなる。みんながまた、危険にさらされるかもしれない。
でも。
みんな、前より、強い。
「コアさん」
《……はい》
「次のダンフェスの時、どのくらいになってると思う?」
少し、間があった。いつもより、長い間。
《……分かりません。でも》
「でも?」
《……みんなが、いれば、上がると思います》
少しだけ、笑った。
「そうだね。みんなが、いれば」
3層目から、コハクの鳴き声が聞こえた。怒っている。
「はいはい、今行くよ」
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コハクをなだめてから、管理画面を、開き直した。
Eランクになった。相手も強くなる。それに、最近、手狭になってきていた。みんなが動く空間が、少し、窮屈だ。
「コアさん、今のDP残高は?」
《回答:約2100です》
スキルツリーから、階層追加を開く。
「2層目と3層目の間に、層を追加したい。鉱山系で」
《消費DP:500です》
「承認する」
《新階層を追加しました》
《3層目:鉱山回廊》
岩盤を削ったような通路に、鉄鉱石の鉱脈が壁を走る。素材が採れて、狭い通路の配置も、活かせる。ドーグの回廊で、体で覚えた地形だ。
続けて、召喚エリアの強化。ゴブリン用をホブゴブリン用に、ピクシー用をスプライト用に。合わせて、DP850。
残り、約750。使いすぎたかも、しれない。でも、後悔は、なかった。
ダンジョン全体を、見渡した。
アルスが、新しい階層に降りていく。壁の鉱脈を、確かめている。ラットシャドウが影を先行して、クロが後ろから走ってくる。その後ろを、コハクが、ちょこちょことついていく。
「……コハク、そこは遊ぶ場所じゃないってば」
言いながら、少し、笑ってしまった。
新しい層。新しい仲間。増えていく、守るもの。
半年で、ここまで来た。
次の半年も。誰も欠けないまま、みんなと、一緒に。
やることは、まだ、ある。




