仲間のこと
これは物語の途中の場面です。完成後、プロローグより順に投稿します。すみません。
「そういえば」
と竹山は歩きながら言った。
「編成って普通4人くらいで組むもんじゃないんですか。RPG…じゃなかった、俺のいた国だと……なんか、そういうのが基本みたいな感じで」
我ながら説明が下手だな、と思いながら言った。元の世界での話をするとき、いつもうまく言葉が出てこない。向こうの常識をこっちに当てはめようとすること自体、たぶんどこかずれているのだ。それでもずっと引っかかっていたのは本当だった。
「まあ、よくある編成ではあるな」
「じゃあなんでみんなは3人だったんですか。最初から?」
しばらく誰も答えなかった。
草を踏む音だけが続いた。風が木の葉を揺らした。鳥の声がどこか遠くでした。竹山は少し後悔しかけた。余計なことを聞いたかな、と。でも引っかかっていたのは本当だった。最初に会ったときから、この三人はどこか、欠けた形をしているように見えた。うまく言葉にできなかっただけで。三人の間に流れる空気が、時々ひどく静かになる瞬間があった。それが何なのか、竹山にはずっとわからなかった。
エリシアが前を向いたまま口を開いた。
「いたわよ。もう一人」
「え?」
「任務の途中で死んだ」
それだけだった。それ以上でも以下でもない、ただの事実として放り出されたような言葉だった。
竹山は何も言えなかった。すみません、とか、そうですか、とか、どんな言葉を返しても的外れな気がした。薄っぺらく聞こえる気がした。営業の仕事をしていたとき、言葉で乗り切れない場面というのが確かにあった。取引先が大切な人を亡くして、お悔やみを言いに行くとき、長年取引していた会社との契約が突然打ち切りになり、「お世話になりました」以外のうまい言葉なんてどこにもない。ただ黙って、受け取るしかない。今がそれだった。
ガルドが低い声で続けた。
「お前が来る、少し前のことだったかな。2年前ぐらいか」
「……そうだったんですか」
「ああ」
ミレナはずっと黙って歩いていた。いつもなら勇者さま、と何か話しかけてくるのに、今日は何も言わなかった。その横顔を見て、竹山はそっと前を向いた。ミレナが黙っているとき、彼女は大抵何かを抱えている。それくらいはもう、わかってきていた。
聞かなければよかった、とは思わなかった。でも、あんなに軽く聞いてしまったことをちょっと後悔した。
少し間を置いてから、竹山はもう一度口を開いた。
「……どんな人だったんですか」
エリシアが一瞬だけ歩みを止めた。ほんの一瞬だったが、竹山にはわかった。止まったのだ、と。
「魔法剣士よ。女の子。私より3つ下だった」
エリシアはまた歩き出した。
「うるさいくらいよく笑う子だったわ、最後まで」
その言葉の最後の三文字が、竹山の胸に引っかかった。最後まで、という言い方。セリアという人は、死ぬ瞬間まで笑顔だったのかもしれない。悲しませまいと思ったのか。それがどういうことなのか、竹山にはまだ想像することしかできなかった。
「強かったぞ」
とガルドが言った。
「俺より素早かった。俊敏さにかけては目を見張るものがあった。俺が受けて、あいつが切り開き、エリシアが撃つ。そして傷付いた仲間をミレナが癒す。それがうちのやり方だった」
「息が合ってたんですね」
「ああ。自然に呼吸が合い完成された流れだ」
竹山は黙って聞いていた。三人の戦い方、というより、四人の戦い方だったのだ、もともとは。今のフォーメーションはその残りで組み上げたものなのかもしれない、と竹山は思った。それでもこの三人が強いのは、長い時間をかけて積み上げたものがあるからだ。竹山はそこに後から放り込まれた。
「魔物の群れに囲まれてな」
ガルドは淡々と話した。
「俺の左が空いた。庇ってくれたんだ」
「……ガルドさん」
「助かったのは俺だ。情けない話だ」
ガルドはそれ以上何も言わなかった。言葉を選んでいるのではなく、もうそこには言葉がないのだ、と竹山は思った。三十六歳の男が、二年間その重さを抱えてきた。それだけのことだった。
誰も何も言わなかった。エリシアも、ミレナも。たぶん何度もした話ではないのだろう、と竹山は思った。それでもガルドが話したのは、竹山が聞いたからだ。聞いた自分が、少しだけ誇らしかった。少しだけ、だけど。
「……その後、新しい仲間を入れようとは思わなかったんですか」
少し躊躇ってから、竹山は聞いた。踏み込みすぎかと思ったが、ここまで来たら同じだった。
また沈黙が落ちた。今度は少し、重さが違った。
「……思ったわよ」
エリシアが言った。少し間があった。
「入れた方がいいって、心の中ではわかってた。みんなそうだったと思う。でも誰も言い出さなかった。言えなかった、が正しいかしら。口にした途端、本当にセリアの代わりを探しているみたいで……」
エリシアはそこで言葉を切った。続きは言わなかった。言わなくてもわかった。
「そのまま3人で来てしまってね」
ガルドが短く言った。
「俺、あなたたちのこと何も知らなかったですね」
「そうかもしれないわね」
エリシアが言った。声に棘があったが、いつものような鋭さではなかった。
「気づいてはいたけど、なんか……改めて」
「別にいいわよ」エリシアは言った。
「あんたはあんたで、いろいろあったでしょう。突然こっちに来て、わけもわからないまま魔王討伐とか言われて。それだけで十分しんどいわ」
それがエリシアなりの気遣いなのだと竹山にはわかった。素直じゃないな、と思ったが、口には出さなかった。こういうとき口に出さないくらいの分別は、さすがに二十七年で身についている。
ミレナがぽつりと言った。
「セリアさんも、きっと喜んでいると思います。勇者さまが来てくださって」
「セリア、か」と竹山は繰り返した。
「はい」
ミレナは微笑んだ。泣きそうな顔で笑うのが上手い子だな、と竹山は思った。こういう笑い方ができるのは、何かをちゃんと悼んだことがある人間だけだ。
「セリアさん、きっと勇者さまのことからかうんです。頼りないとか言いながら、でも、一番先に信じるんですよ、ああいう子は」
「そっか」
竹山は笑った。会ったことのない人間なのに、なぜか少しだけ想像できた。
しばらくまた黙って歩いた。草を踏む音が四つになっていた。最初に気づいたとき、竹山は少し変な感じがしたものだった。でも今は、ごく自然に聞こえた。
「ひとつ言っておくわ」
エリシアが不意に言った。
「な、なんですか」
「死なないでよ。あんたが死んだら夢見が悪くなるから」
竹山は思わず笑った。
「それ、心配してるってことですよね」
「違うわよ」即答だった。
「絶対そうじゃないですか」
「うるさい。黙って歩きなさい」
ガルドが小さく笑った音がした。ミレナがあわてて口元を押さえていた。
竹山はまた前を向いた。道はまだ長かった。空は高く、風は乾いていた。でも少し前よりも、自分がどこを歩いているのかわかった気がした。
この世界はゲームみたいに簡単にはいかない。こういう世界なんだと、竹山は思った。仲間が倒れても、残った者がその重さを抱えたまま歩き続ける。それでも歩き続ける。
四人分の草を踏む音が、続いた。




