第六話 これも性(さが)ってヤツ?
あの日からアカトシは俺と一緒に生活圏を作ることになった。俺が提案してヤツ呑んだという形。孤高を気取ったってこの世界じゃあ何も良いコト無いからだ。
コンビを組んでからの日々は順調だった。コイツが支配域を拡げて俺が城壁を構築。攻守それぞれの役割分担ってヤツだ。
菌類は蹴散らしても三日もすれば直ぐに元に戻る。ちょっと目を離せば、あっという間にキノコだの苔だのが、自分の支配域を侵蝕して来るのである。油断隙もあったモンじゃ無い。
だがこの頃は全然違う。ヤツの侵蝕は強力で不安は無く、そのお陰で俺は防御に専念出来る。やはり分業は効率が良い。
それに何と言っても、自分以外にフォローしてくれる相手が居るのは心強かった。
攻め寄せるカビや苔の複合体と夜を徹し、一人で四苦八苦して自分の勢力圏を守って居たのが嘘みたいな安定っぷりだった。
「やっぱり二人でやっていると全然違うな」
「城壁のお陰でオレも楽が出来る。水場の心配が無いってのは、やっぱイイぜ」
何故だか知らないが、最近ヤツは俺の中枢に入り浸って居ることが多い。別に邪魔って訳じゃないんだが、自分の中枢を放ってココに居座るのは大丈夫なのかと、心配になるのだ。
「大丈夫だって、サヨリは心配性だな。中枢からの枝はこうして許可もらってココまで届いているし、分身だって巡回に余念はない。支配域の向こう側から何か押し寄せても、城壁からの信号は直ぐさまアンタ経由でオレまで届くんだ。
むしろ一緒に居る方が都合が良くね?」
「そりゃそうかもだが」
「ソレよりもさ。その、なんだ。オレはコレからもアンタとコンビ組んでいきたいと思ってる」
おや、これは思わぬ台詞だ。そして随分と角が取れたものだなとも思った。
そしてそのまま続いて、つらつらと語り始めた言葉は止め処なかった。
そりゃあ、最初がアレだったから印象良くねぇだろうケドさ。
でも今じゃ負けて良かった、って思ってんだ。でなきゃオレは今でもズッと独りだった訳だし。カビだの苔だの相手にしてイキるダケの毎日だったろうし。
こうして話相手が居て、ノンビリなんて絶対出来なかっただろうし。
「サ、サヨリはどうだ。オレと一緒にやってるのは迷惑か?こうしてココに居るのは気分悪いか?」
「俺はアカトシが居てくれて助かると思ってる。最初のアレは確かに厄介ごとだったけれど、今は違うしな。これからもコンビ組んでいくってのは願ったりだよ」
「そ、そうか。は、はは、そうか。そりゃあ嬉しいぜ」
「急にどうしたよ。共存ってのはそんなに珍しい話か?」
「いや、全然。ただ不安になっちまって」
コイツは時々妙なコトを言い出す。自分に自信が無いのか、それとも自分が感じ取ったモノに自信が無いのか。あの時から少なからず同じ時間を過ごしたんだ。それとなく察していると思ったのに。
それとも、相手が判って居ると思い込んで居た俺の方が甘いのか。
「で、その、何というか、アレだ。イヤなら嫌だって言ってもらっていいんだけどな」
珍しい。コイツがコレだけ歯切れが悪いのは。
何かやらかしたのか。
「も、もし、良ければ、なんだが。オ、オレとタネ作らねぇ?」
「は?」
「ほ、ほら。オレ達って元がヒトでも今はキノコというかカビというか苔というか、ソッチに近くなっちまっただろ?だから子供を造るってソコまでナマナマしい訳でもないし、お互い両方付いてるわけだし……」
「……」
「予備というか、後釜というか、増えても悪くはないかなぁって。オマエとなら俊郎も許してくれるかなぁって。ど、どうだろ」
「……驚いた」
「あ、うん、まぁ、イキナリだなっていうのはよく分かってる。その、タダの提案だよ。あんまし深く考えないでくれ。嫌なら嫌でいいんだ。そりゃ驚くよな。ま、なんだ。悪かったよ、忘れてくれ」
「まぁ、別にいいぞ」
「そりゃあこんな話を急にされても困るダケ……えっ、なんだって。いま何つった?」
「オマエの提案、受けて良いつったんだ。確かに予備は必要だろうし。分身ばかりじゃ心許ないし。交配して増えるのは生き物の本分だしな」
「こ、交配って……」
「正直、ずっと独りでやっててこのままじゃあイカンよな、と思ってたんだ。枯れない、と思ってるのはタダの思い込みでその内寿命も来るだろうな、と思っているし。何よりヒトだった頃のアレも色々残って居るしな」
そう言って苦笑したら、ヤツはまた何とも言いがたい妙な表情になった。
「まぁ、こちとら朴念仁だから、ムードもへったくれも無くて申し訳ないけれど。俺もオマエなら良いかな、と思ってるんだ」
「そ、そうなんだ……」
結局その夜はそのまま姦しい夜になった。
お互いずっと独りでやって来たんだ。同族同士、こういう展開になるのはむしろ当然だろう?
円盤がやって来る以前だったら、公共の風紀委員とかがやって来そうだ。そして倫理道徳云々とほざくのかも。
まぁ、居たら居たで逆にビックリだけどな。むしろ「一席、講釈お願いします」と拍手でお出迎えしちゃうかも。
そして何より、こういうコトが出来るのも生き残って居ればこそだ。
そんな訳で、本日この瞬間は今まで忘れて居た某かが大爆発。
それぞれの分身たちもそれぞれに色々と試していた。
まったく、なんて正直な。
今この瞬間、支配内にカビやキノコの胞子が着床したら目も当てられないな、とチラリと思ったけれど悲しいかな、火の着いたリビドーの奔流ってヤツには逆らえなかった。




